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4 幸せの裏側
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「麻衣子…」
切なげにみつめる薄褐色の瞳。
さっきまでのような皮肉も冗談も怒りもない、焦れたような熱い視線が近づく。
「いいな…?」
最終確認のようにそう問われた私はコクリと頷いた。
その瞬間、目尻を下げるように優しく微笑んだ翔真さんの顔が一気に近づく。
食むように優しく唇を啄ばまれた。
何度も何度も優しく繰り返されるそれは、私の緊張を解そうとしているのが分かるように優しい動きだった。
…任せればいい。
そう言っていただけあって、私の警戒心すらも取っ払っていく翔真さん。
この熱に全てを任せたいと夢見心地になる。
だけど、抱き寄せられた翔真さんの胸元にさっきよりハッキリした香水の匂いを感じ取った私は戸惑った。
首に移動していた優しいキスを押しのけるようにして、小さい声で叫んだ。
「や、やっぱり、ダメです…」
その言葉で行為を止めた翔真さんは眉間に皺を寄せて私をみつめる。
「訂正は聞かないって言ったはずだ。」
「そ、そうですけど、やっぱり…」
「俺に身を任せるのは不満か…?」
そう聞かれて首を振る。
それに少し安堵したのか表情を緩めた翔真さんは言った。
「じゃあ、怖いのか…?できるだけ負担はかけないようには努力するから…」
そう言って焦ったそうに頭を撫でられる。
私は、眉間に皺を寄せて俯向き、首を横に振った。
「そ、そうじゃなくて…、これはいけない事なんじゃないかって、私、怖くなって…」
その瞬間空気が重くなった。
「怖い?…どういうことだよ?」
そう問われて、少し迷いながらも口にした。
「香水…。」
「……」
そう口にした瞬間、翔真さんは目を見開いて自分の身体を見下げて眉を寄せた。
「一月前も…、同じ香りがしてました」
少し動揺した顔の翔真さんと目が合った。
「翔真さん、お付き合いしてる人、いるんじゃないんですか?私、駄目なんじゃないんですか…?」
(こんな事はいけない事じゃないんですか?)
そう最後まで口にできず涙がポロリと溢れた。
「お前…」
思わぬ事を言われたのか、顔を歪めた。
でも、次の瞬間また私をギュッと抱きしめた。
大事なものを包み込むように。
「…案外、鋭いのなお前。そうだ。女と会ってきた。」
そう静かに告げられた。
「……」
胸の痛みに声がでない。
「…それで、別れてきた。」
その言葉に、今度は私が顔を歪めた。
「別れた…?」
(何故…。もしかして、私の為…?)
それを期待してしまう。
同時にそんな自分を受け入れられないほど醜いものに感じた。
(私、最低だ…)
誰かが居なくなる寂しさを誰よりも知っているはずなのに…。
「悪かった。…お前にそんな顔させるつもりも無かったし、今日くらいは、別れた女の痛みに思いを寄せて、一人で家で過ごすつもりだった」
その言葉に堪らなく切なくなった。
「わ、私のせいですか?私が無理なお願いなんてしたから彼女さん…」
「違う!」
そう厳しい声で否定された。
「別れたのは、俺と相手の問題だ。お前は何も関係ない。いつかこうなる。…そう分かっていながら、それを変えようとしなかった俺たちに当然訪れる結果だったんだ。」
その言葉に目を見開いた。
「相手も納得してる。引き止められる事も無かった。…泣かれたのは予想外で堪えたけどな」
「あ…」
それでこの香り。
胸が苦しくなった。
「泣き止むまで抱きしめてた。…それだけだ。それ以上の事はない。これからもお前に気を揉ませるような事は絶対にしない…」
切なくなった。
「悪かった。」
頭をポンポンと撫でられる。
涙が込み上げる。
「あぁ、ほんと初めから不甲斐ねぇけど、麻衣子。やっぱり俺は今、お前を抱きたい。」
突然そう言われた。
「なっ、なんで?」
この状況でそんな事を言われて涙で濡れた顔を上げる。
「…だって、そんな顔したお前、ちゃんと捕まえとかないと、逃げられちまったら、泣くに泣けないだろ、俺…」
そう言って、口付けられた。
「うわっ、涙の味、しょっぺ…」
そう言いながら、私の口に舌を割り入れ、背中をヨシヨシと撫でる翔真さん。
もう、私は怒っていいのか、泣いていいのか、喜んでいいのかすら分からなくなる。
糸を引きながら、唇が離れた。
(ほんとうにいいのだろうか…)
涙と鼻水でグズグズになったままの私はどうしていいかわからなくて、恨みがましく翔真さんをみつめた。
(この温もりを受け入れて私だけが欲しいものに手を伸ばすことが許されるのだろうか…)
翔真さんは情けなく涙を流す私の目尻の涙をそっと指で拭って、なんとも言えないような顔で微笑んだ。
「ほんと…お前、可愛いのな…」
そう言って再び口付ける。
「大事にしたいなって思うんだ。…今までの誰よりも…」
その言葉にまた涙腺が決壊した。
「もう泣くなよ…。俺が悪かったから。」
そう言ってギュッと抱きしめられた。
切なげにみつめる薄褐色の瞳。
さっきまでのような皮肉も冗談も怒りもない、焦れたような熱い視線が近づく。
「いいな…?」
最終確認のようにそう問われた私はコクリと頷いた。
その瞬間、目尻を下げるように優しく微笑んだ翔真さんの顔が一気に近づく。
食むように優しく唇を啄ばまれた。
何度も何度も優しく繰り返されるそれは、私の緊張を解そうとしているのが分かるように優しい動きだった。
…任せればいい。
そう言っていただけあって、私の警戒心すらも取っ払っていく翔真さん。
この熱に全てを任せたいと夢見心地になる。
だけど、抱き寄せられた翔真さんの胸元にさっきよりハッキリした香水の匂いを感じ取った私は戸惑った。
首に移動していた優しいキスを押しのけるようにして、小さい声で叫んだ。
「や、やっぱり、ダメです…」
その言葉で行為を止めた翔真さんは眉間に皺を寄せて私をみつめる。
「訂正は聞かないって言ったはずだ。」
「そ、そうですけど、やっぱり…」
「俺に身を任せるのは不満か…?」
そう聞かれて首を振る。
それに少し安堵したのか表情を緩めた翔真さんは言った。
「じゃあ、怖いのか…?できるだけ負担はかけないようには努力するから…」
そう言って焦ったそうに頭を撫でられる。
私は、眉間に皺を寄せて俯向き、首を横に振った。
「そ、そうじゃなくて…、これはいけない事なんじゃないかって、私、怖くなって…」
その瞬間空気が重くなった。
「怖い?…どういうことだよ?」
そう問われて、少し迷いながらも口にした。
「香水…。」
「……」
そう口にした瞬間、翔真さんは目を見開いて自分の身体を見下げて眉を寄せた。
「一月前も…、同じ香りがしてました」
少し動揺した顔の翔真さんと目が合った。
「翔真さん、お付き合いしてる人、いるんじゃないんですか?私、駄目なんじゃないんですか…?」
(こんな事はいけない事じゃないんですか?)
そう最後まで口にできず涙がポロリと溢れた。
「お前…」
思わぬ事を言われたのか、顔を歪めた。
でも、次の瞬間また私をギュッと抱きしめた。
大事なものを包み込むように。
「…案外、鋭いのなお前。そうだ。女と会ってきた。」
そう静かに告げられた。
「……」
胸の痛みに声がでない。
「…それで、別れてきた。」
その言葉に、今度は私が顔を歪めた。
「別れた…?」
(何故…。もしかして、私の為…?)
それを期待してしまう。
同時にそんな自分を受け入れられないほど醜いものに感じた。
(私、最低だ…)
誰かが居なくなる寂しさを誰よりも知っているはずなのに…。
「悪かった。…お前にそんな顔させるつもりも無かったし、今日くらいは、別れた女の痛みに思いを寄せて、一人で家で過ごすつもりだった」
その言葉に堪らなく切なくなった。
「わ、私のせいですか?私が無理なお願いなんてしたから彼女さん…」
「違う!」
そう厳しい声で否定された。
「別れたのは、俺と相手の問題だ。お前は何も関係ない。いつかこうなる。…そう分かっていながら、それを変えようとしなかった俺たちに当然訪れる結果だったんだ。」
その言葉に目を見開いた。
「相手も納得してる。引き止められる事も無かった。…泣かれたのは予想外で堪えたけどな」
「あ…」
それでこの香り。
胸が苦しくなった。
「泣き止むまで抱きしめてた。…それだけだ。それ以上の事はない。これからもお前に気を揉ませるような事は絶対にしない…」
切なくなった。
「悪かった。」
頭をポンポンと撫でられる。
涙が込み上げる。
「あぁ、ほんと初めから不甲斐ねぇけど、麻衣子。やっぱり俺は今、お前を抱きたい。」
突然そう言われた。
「なっ、なんで?」
この状況でそんな事を言われて涙で濡れた顔を上げる。
「…だって、そんな顔したお前、ちゃんと捕まえとかないと、逃げられちまったら、泣くに泣けないだろ、俺…」
そう言って、口付けられた。
「うわっ、涙の味、しょっぺ…」
そう言いながら、私の口に舌を割り入れ、背中をヨシヨシと撫でる翔真さん。
もう、私は怒っていいのか、泣いていいのか、喜んでいいのかすら分からなくなる。
糸を引きながら、唇が離れた。
(ほんとうにいいのだろうか…)
涙と鼻水でグズグズになったままの私はどうしていいかわからなくて、恨みがましく翔真さんをみつめた。
(この温もりを受け入れて私だけが欲しいものに手を伸ばすことが許されるのだろうか…)
翔真さんは情けなく涙を流す私の目尻の涙をそっと指で拭って、なんとも言えないような顔で微笑んだ。
「ほんと…お前、可愛いのな…」
そう言って再び口付ける。
「大事にしたいなって思うんだ。…今までの誰よりも…」
その言葉にまた涙腺が決壊した。
「もう泣くなよ…。俺が悪かったから。」
そう言ってギュッと抱きしめられた。
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