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後日談その3
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何が何だか分からないまま、それでも互いに抱く熱を激しく確かめ合った私たちは、すぐに勢いを取り戻した泰叶に求められるままに、二度目の欲を受け入れた。
更に、もう一度と、求められそうになったところで泰叶は、ようやく、私の体調が万全ではない事を思い至ったのだろう。私の身体を楽な姿勢で解放した。
「茜、ごめんっ、ムリさせて…」
そう言って、面目なさそうに謝る泰叶の首に手を回して、私はキスを強請る。
「泰叶、おかえり…」
「うん、ただいま、あかね…」
そう言って、長い長い口付けを交わした。
落ち着いた頃、泰叶は私の髪を優しく撫でながら、少しずつ今回の経緯を説明してくれた。
「ごめんね、茜、こんな面倒な事になるとは最初は思わなかったんだ。俺はただ、この撮影のオファーを受ければ、茜とずっと一緒にいられる環境が手に入ると言われたから、あの女の話に乗ったんだ」
思ってもいない出だしに私は目を瞬かせた。
「えっ?……私と、一緒にいられる環境??」
「うん、だって、茜、何度、結婚しようって言っても、まだ早いって受け流すばかりだし、このままだったら、また前みたいに茜の事を傷つける奴でも現れたらと思うと、俺、気が気じゃなくて…」
「う、うん…」
「いっそYouTuberにでもなろうかとか、海外に移住して作曲に専念しようかとか、悩んでは、事務所にも、圭吾にも止められて、困ってた時にあの女が近づいてきたんだ」
「そうか、…ん?」
なんか今、不穏な言葉が聞こえたよね?
「あの女…」
泰叶は凄く不機嫌な顔をして再度呟く。
「あの女って…」
「……烏丸揚羽だよ」
「……そっ、そう」
予想していた名前に私は、小さく頷いた。
昨日の今日の急展開の中、その名を聞くのは私にはまだ少しだけ辛かった。
「最初は、あの女の事務所から呼び出しを受けて、今回の映画のオファーを受けたんだ」
「うん……」
「だけど、俺、最初は、断ったんだ」
「…え?」
連日予告編が流されて超大作と言われる話題の映画だし、今回の作品はきっと泰叶の代表作にもなるだろうと思われた。
なにより、泰叶自身があれだけやる気で出かけて行ったのをこの目で見た私は、眉を寄せた。
あれだけのやる気があったのに、乗り気ではなかったとは、どういう事だろう。
「だって、そうでしょ?長い片想いが漸く報われて、人生初の幸せを享受しているこんな時に誰が好き好んで、遠方での缶詰撮影なんて行きたいと思うの?」
恨めしそうなその瞳に、私は、戸惑いながらも頷いた。
「え…、うん、それは、……まぁ、そうかもしれないね?」
でしょ?と泰叶は、納得したように頷いて、忌々し気に顔を歪めた。
「そうしたら、暫くしてから、またあの女が現れたんだ!」
私は眉を寄せて頷いて、泰叶の続きを待った。
「……最初は、ほとんど脅迫だよ?あの女、人を使って調べさせたのか、俺が茜の部屋に入る瞬間の写真や、ベランダから顔を出してる茜の写真を俺に突き付けたんだ!」
「へ……?」
その不穏な言葉に心臓が跳ねた。
「……じゃあ、もしかして、スクープされちゃうの?」
そう狼狽えた私に、泰叶は首を振った。
「大丈夫、…それは、きっと俺の普段の生活を調べる為と、俺に言う事をきかせる為にしか使われないはずだから、本当に食えない女だよ、あいつ」
吐き捨てるようにそう言う泰叶に私は、半信半疑で眉を寄せた。
泰叶の話はこうだった。
まず、最初に驚いたのが、今回の話題の映画
「斎藤道三と三つの秘宝」の原作者が、実は烏丸揚羽、その人であるというのだ。
「えぇぇっ、そ、そうなの!?烏丸揚羽が、あの稲葉胡蝶??」
驚きで目を見開く私に、泰叶は苦虫を嚙み潰したような顔で頷いた。
「あぁ、まだ、ここだけの話だけどね?」
原作者の稲葉胡蝶と言えば、ペンネーム以外は明かしていない、昨今注目の小説家だ。
プライベートが謎に包まれている事でも有名だ。
色んなジャンルを手掛けるが、特に時代物作品の時代背景や衣装、小物に至るまで博識で、描写は詳細で、心情表現が巧みな天才作家と言われている。
その知識は専門家も舌を巻くほど、言うが、なるほど、歌舞伎界の出身で、古典芸能や古典文学に通じているはずだし、多くの現場を経験してるんだもんね。
その揚羽さんの傑作とも言える作品。
それが今回の映画「斎藤道三と三つの秘宝」だった。
そして、実はこの作品は揚羽さんの個人的な人生設計を現実のものにする為に計画された特別な作品でもあるというのだ。
その話の全貌を聞いた時、私は揚羽さんと言う人の知略に、心底舌を巻いた。
「そんな……、それで、あの映画を作り上げたの?」
(世間は、何も知らずにあんなに盛り上がってるの?)
「なっ、ほんと食えねえ女だろ?しかも、あいつ途中で、俺の携帯壊しちまうし、わざとじゃないって言うけど、どうだか、まぁ、俺も一回茜に逢いたくて脱走企てたからな…」
また、不穏な言葉が聞こえたけど、それすらも気にならないほど私は驚愕していた。
それは、私のような一般人には到底、思いも至らない壮大なスケールだった。
烏丸揚羽は、歌舞伎界の名家の令嬢で、芸能界でも花形の女優である。
だけど、彼女は、一刻も早く家からも距離を置き、そして女優業からも退きたかったと言うのだ。
それには二つの理由があった。
彼女は女優業には未練は無く、作家として自由に生きる事を希望していること。そして、現在隠れてお付き合いしている人がいること。
彼女がお付き合いしている男性は、今のままの烏丸家では、結婚の許しの出ない一般の男性らしい。
そして、彼女には、家が、と言うより、兄が進める結婚の話が浮上していた。お相手は彼女の兄、玲一郎が特に信頼を置く流派の男性だと言う。
そこまでの話を理解したうえで、私は一つの疑問を持った。
「…でも、それは、家を出て、作家活動をして、好きな人と結婚するだけじゃダメなのかな?」
そう問いかけた私に、泰叶は凄く深い溜息を吐いた。
「そこが、今回の話の傍迷惑なところなんだ!」
泰叶の反応に首を傾げる私に、泰叶は心底嫌そうにに口を開いた。
「あの女が、家族を捨てられなかった一番の理由が、親子の不仲なんだとさ!笑わせてくれるよな、しかもそれを俺に言ってくるなよって話だよな」
「えっ、親子って事は、揚羽さんと、お父さんの恭二郎さん?」
そう瞳を曇らせて聞いた私に、泰叶は溜息を吐きながら首を振る。
「違う、長男の玲一郎と、父親の恭二郎だ」
あぁ、そっちかと、私は頷いた。
私の両親は長い別居の後、離婚をした。
まだ両親が家にいた頃の、小さな自分を思い出して私は察するものがあった。
不仲な両親は、直接話がしたくない、もしくは出来ないものだから、常に相手に伝える事は私を介していて、私は躊躇いながらも空気を読んでその役を担っていた時期があった。
あれは、間に入っている方も相当に神経をすり減らす。
玲一郎さんと揚羽さんのお母さまで恭二郎さんの奥様は数年前に亡くなられているらしい。歌舞伎の大家で、父と兄という不仲な成人した男性を仲介してバランスを保つ事に気遣うのが、日常だとしたら揚羽さんの心情は察するに余りあるように思えた。
だから、兄である玲一郎さんは妹としてだけではなく家の潤滑油とのなっていた揚羽さんを手放したくなかった。歌舞伎を離れた活動を徐々に広げていく揚羽さんを歌舞伎界に留める為に、玲一郎さんは自分に近い人間を揚羽さんと早急に結婚させようとする。
だけど、揚羽さんはそれに反発した。
そして、意固地になって拗れに拗れた二人の仲を普通の形で仲介する事はもう難しいと諦めた揚羽さんは、一つの物語に双方の思いを閉じ込めた。
そうして、仕上がった作品が「斎藤道三と三つの秘宝」だったと言う。
美濃の油売りの商人から、岐阜一国の大名に成りあがった斎藤道三役を父の恭二郎さんに、その長男である斎藤義龍役を兄である玲一郎さんに、そして自らはそれぞれを父と兄として持つ、帰蝶として配役を組んだ。帰蝶とは織田信長の正妻であり、織田家では濃姫と呼ばれた有名な女性である。
歴史上の彼女は美濃から織田信長に嫁いだとの記録のみに留まり、その後の彼女の生涯は明らかにされていない。最後まで生き残ったのではと言う人もいれば、存在価値が無くなったところで殺されたのではないかとも言われている。そして斎藤家の実態も謎に包まれた部分が多いという。だから、細かい内容は推測で物語を書こうと思えば書き放題なのだ。
だけど、史実だけを取り上げればこうだ。
岐阜の戦国大名である斎藤道三は、尾張のうつけとも言われる奇妙な恰好をした年若い織田信長に将来性を見出したのか、あるいは国盗りの駒にしようと思ったのかは不明だが娘の帰蝶を嫁がせる。
斎藤道三は息子の義龍と仲が悪く、死の間際に婿である織田信長に「国ゆずり状」を残す。
道三は自分の息子達より信長が有能であると思っていたとも言われている。
その後、斎藤道三は息子である斎藤義龍と長良川の戦いで激突して敗戦し、息子の有能さを見抜けなかったことを後悔しながら戦死したという。この時、織田信長は、援軍として駆けつけたが道三の最期には間に合わなかった。
義龍は、打ち取られた道三の首を見た時に「親殺し」を行った事を後悔して、「これは我が身の不徳から出た罪である」と自分を責めて数日間自室に引きこもり出家する。
その後、信長は道三の「国ゆずり状」を大義名分として、美濃(岐阜)を攻撃するも義龍存命中は城を落とす事は叶わなかった。
義龍は、親殺しの罪悪感が病状を重くしたのか、道三の死後、僅か五年後に病死している。
結局、信長は生涯、義龍に勝つ事は出来なかったのだ。
そして、義龍の死後、岐阜は信長の手に落ち、斎藤家の家臣を巻き込み、信長は時代に名乗りを挙げる事となる。
「なるほど……」
ここまで聞いた私は、ようやく少しだけ話が見えてきて息を吐いた。
それぞれの現在の立ち位置、不仲な事実さえも、かなり一致した状況の歴史上の出来事に現代の家族関係をシンクロさせて、双方の思いを形にして向き合う機会を作った?
そうだとしたら、揚羽さんは、やはり天才だ。
でも、ここまで聞いた私は再び眉を寄せた。
どうして、揚羽さんは、泰叶を脅してまで織田信長役をさせる事に拘ったのだろう?
「でも、……どうして、泰叶?」
その一言で全てを察したように、泰叶はため息を吐いた。
そして、今日一番の心底嫌そうな顔で、言い放った。
「……それは、俺が玲一郎に敵対視されていたからじゃないの?」
「へっ?」
その言葉に私は、目を瞬かせた。
泰叶はますます、言いたく無さそうに、口を開いた。
「……父親の愛人の息子、なんだって、俺が」
「は?」
そう絶句した私に、泰叶は困ったように苦笑する。
「……言おうか、正直迷ったけど、あの女の事で、これ以上、茜に変な誤解されるの嫌だから」
「…………」
「あの女は、俺の腹違いの【姉】らしい、まぁ、生物学上のだけどね」
私は、その時、驚きすぎて何の反応も出来なかった。
つまり、先ほどまでの話が、歴史上の話であり、今、泰叶が言った内容が、現在の烏丸家の蟠り問題であると言う。
歌舞伎界の名家に生まれた二人の子供が、長男の玲一郎と長女の揚羽。
父である恭二郎は、娘には甘いところもあったが、跡継ぎである玲一郎には、公私に渡り厳しく作法、芸事を叩き込んだと言う。
玲一郎も小さな頃から自分の立場を理解して、父や家の言う事に従った。
だけど、玲一郎も一人の若者だった。
日々の厳しくも苦しい稽古の唯一の息抜きとして、与えられていたギター。その才能が、高校になった頃、開花する。
学園祭で歌とギターを披露して思わぬ注目を浴びてしまった玲一郎は、音楽好きの学校の仲間からバンドを組まないかとの打診を受ける。
だが、稽古の必要性をしっかり認識していた玲一郎は、バンドの誘いを断る。だけど、諦めきれなくて何度も訪れる男に徐々に絆され、ついに断りきれなくなった玲一郎は月に数度、一緒に演奏するだけならばいいと回答する。
だけど、若い学生達の集まりの中で、家に帰る機会を逃すことは誰にでもある。
稽古に遅れる事が二度重なったところで、父である恭二郎がブチ切れるという事件が起こる。
父は、玲一郎に反省を促し、ギターを取り上げて、学校での授業以外の活動と放課後の人付き合いまですべて禁止して、己の立場を説いた。
芸事以外の唯一の楽しみを奪われた玲一郎は、甘んじてそれを受け入れたが、大きな悲しみと、父への反発の気持ちがその時、芽生えてしまった。
それから平穏に数年が経ったかにみえた。
大人になり、歌舞伎に生き、歌舞伎の為だけに日々稽古に励み、気を遣う人付き合いに追われ、跡継ぎとして、様々な事柄を処理する日々を送るなか、ある日、ふとテレビ越しに、惹きつけられる音色に耳を傾けた玲一郎。テレビを見やったその瞬間、玲一郎は目を見開いて固まった。
そこには、かつて、父に取り上げられた自分のギターを弾きながら、どこまでも自由に歌っている一人の男の姿があったと言うのだ。
「えっ、…まさか、それが泰叶?」
「そう……」
―――自分の弾いていたギター?それって、絶対ダメなやつじゃん??
「でっ、その後、玲一郎は俺の事を調べ上げて、俺が、恭二郎が外の女に産ませた子だって知ったらしい。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いなのか、過去の両親の不仲や、その後の闘病や、母親の他界まで、その頃の恭二郎の浮気のせいにして、今では立派な不仲って訳」
「そんな……」
自嘲する泰叶に眉を寄せた。
泰叶はそれをどんな気持ちで聞いたのだろうと思うと胸が痛かった。
「まぁ、結局はあの女の目論見通り、何やら、撮影の後半に入った頃から、周りが息を呑むような熱の入った演技をし始めて、最後には二人で目と目を合わせてウルウルしてたから、結果オーライと言う事でよかったんじゃないかな?」
「そ、そうなんだ……」
それでいいの?
一般人にはワカリマセンな感覚だ。
「……だから、あの質問を受けた時、本当は一瞬迷ったけど、無難だし、いいかな、と思って便乗したんだ、むしろ、勝手に誤解してくれた方が、茜は安全だし、当分邪魔されないと思ったから」
「……へ?」
「記者への回答の事だよ。正直あの時の記者の質問は、俺からしたら最初どっちに対しての言葉なのか、一瞬戸惑ったけどね…。恭二郎との親子関係を嗅ぎつけられたのか、揚羽とのデタラメ報道があるのも少しは聞いてたから、そっちの方なのか」
そう言われた私は、今ならその意味が分かって複雑な気持ちで眉を寄せた。
「あ~……」
今にして思えばそういう事なのだと目から鱗の思いだった。
泰叶からしたら、出演者三人の大物俳優・女優と血縁関係があったという事実の方が、誤解された恋愛報道よりインパクトが強かったのだろうと思う。
「だから『そうなるかも知れないし、そうはならないかも知れませんとだけお答えします。僕たちは、もう大人なので温かく見守っていただけたらと思います』って回答をした。」
「う、うん?」
「……だって、嘘にはならないだろう?それが例え、烏丸家との関係だとしても、生物学的に血は繋がってるのは、事実みたいだし。まぁ、もっとも俺自身は、今は家族とは思っていないけどね、俺の家族は茜と圭吾だけだと思って生きてきたから」
そう言って泰叶は漆黒の瞳を揺らめかせて、優しい表情で微笑んだ。
「…だから、茜、引っ越そう?」
「へ……?」
突然そう言われた私は、瞳を瞬かせた。
「こんな話してるより、交換条件で手に入れたものの方が、俺にとっては、はるかに大事だから」
「なにそれ??」
「行こう、茜!!行けば分かるから」
そう言って、泰叶は私の手を引いて起き上がらせた。
泰叶に押し込まれた車から降りた私は、タワーマンションを見上げた。
「ここって……」
「うん」
にこやかに頷く泰叶に私は戸惑った。
数か月前に引っ越した圭吾の住むマンションだったからだ。
泰叶は、一瞬だけ、人のいない事を確認してから、圭吾の部屋の前を通り過ぎて、一つ目の部屋を指し示した。そこには何やら、聞き慣れない会社名が書かれている。
「烏丸の事務所の会社名だよ」
そう言われた私は、首を傾げる。
そして、もう一つ向こうの角部屋の前に泰叶は立った。
そして、泰叶は携帯を手にした。
「圭吾?今、もう表にいるから…、うん…」
そう言って電話を切って、数秒後、カチャリと扉の開く音がした。
振り返ると、圭吾の部屋のドアが開かれて、そこには複雑な顔をした部屋着姿の圭吾が立っていた。
「あかね、入りなよ?」
そう言って、困ったように笑う圭吾に戸惑った私は、泰叶を見上げた。
泰叶はうん、と頷く。
訳が分からないながら、圭吾の部屋のドアに手をかけて泰叶を振り返るも泰叶は、一番奥の部屋の前に立ったままだ。
「泰叶は……?入らないの??」
そう聞く私に、泰叶はポケットから、一つのカードキーを取り出して、ひらひらと私に見せた。
「俺は、こっち」
そう言って、少年のように微笑む泰叶に私は、眉を寄せる。
「いいから、茜、そのまま圭吾の部屋に入って…」
そう言った泰叶は、奥の扉の中に半分身体を入り込ませて、顔だけ出してニッと笑って姿を消した。
「ちょ、泰叶……?」
「茜、どうぞ」
今度は、後ろから、圭吾の声がかかる。
「う、うん?」
言われるがままに、私は圭吾の背中を見つめながら、いつもの圭吾の部屋に入った。
(うん、相変わらず、いい部屋だ。やっぱり、芸能人だね?)
数か月前に、バラエティの部屋探し特集で「芸能人のお部屋探し」で圭吾が選んだ部屋だ。
破格の条件と言われていたけれど、それでも一般人の私には信じられない金額だった事を覚えている。もっとも家賃はほとんど、事務所持ちのようだけど。
三十畳を超すだろうリビングにはまだ慣れないけど、慣れないけど……
なにか、いつもとは違う違和感があるのは気のせいだろうか?
(この部屋……、ん?)
違和感の正体に気付かずに、戸惑ったままいる私に、圭吾は口元を上げて笑いをこらえているようだ。私はこの顔を知っている。いたずらをする時の顔だ。
「……何か、気付かない、あかね?」
そう問いかけられた、瞬間、私が立っていた、左後ろで突然音がして、私は身体を跳ねさせた。
(なにっ???)
その瞬間、カタリと音をたてて扉が開いた。
扉が開いて……
ちょっと待って、扉?
扉なんて、ここにあったっけ???
その瞬間、そこから泰叶の顔が現れた。
「ひゃっ!?」
「すごいっ、本当にちゃんと繋がってる!」
「へ…? へっ?へっ?へっ????」
そこから登場したのは、泰叶だった。
驚いて、目を見開いたまま、固まる私に、泰叶はクスリと笑った。
その後ろで、圭吾が爆笑している。
「なっ、なに?なに?なんなの??手品??」
そう驚く私に、圭吾の笑い声がますます大きくなる。
「茜、来て?」
そう言われて、扉の中に引っ張られるが私は戸惑う。
「ちょ、だって、そっち何にもないし…」
そう、行き止まりのはずなのだ。
行き止まりのはずに、違いないのに……
「へっ………?」
そこには、住空間とも思えない、40畳ほどの空間が広がっていた。
(なにこれ………?)
鳩が豆鉄砲を食ったように固まる私に、泰叶は顎に手を当てて、唇を吊り上げて笑いかけた。
「……茜、ここ、完全防音にしてもらったんだよ?」
「防音?」
「そう、台詞覚えたり、圭吾と合わせたり、作曲したり色んな用途に使えるから、いいかなって思ってるんだ、茜の為の愛の歌も作ってあげるね!」
そう言って笑う泰叶の瞳に色が滲むのを感じた私は、訳も分からず眉を寄せる。
「……この部屋を挟んだら、生活音は絶対に聞こえないよね?例え、どんなに声をあげても」
そう言われて、泰叶の長い指先が私の唇を辿る。
困惑した私は、目を見開いて泰叶を押しのけた。
後ろから、圭吾が入ってくる気配を感じたからだ。
「たくっ、本当に何を考えてるんだろうね?有名芸能人ってやつは?」
圭吾は心底呆れたように、そう呟いて、広い空間を見回している。
「マンション一室をこんな形にして、無駄遣いなんて、一般庶民には考えられないよ?」
「……マンション一室って、じゃあ!?」
さっき、入口で見た会社名のあった部屋を思い出す。
「……じゃあ、ここって、もしかして?」
「うん、茜、烏丸家の事務所の所有していた、個人稽古場だよ、だけど、実際は、烏丸揚羽じゃなくて、稲葉胡蝶としての執筆の場として使われていたようだけどね」
私は、その言葉に目を瞬かせた。
そんな私に、泰叶は悪戯な笑みを浮かべる。
「これが、今回の戦利品、揚羽との交換条件だよ、茜?」
そう言って、上機嫌に笑う泰叶と、呆れたように溜息を吐く圭吾。
「じゃ、圭吾は今日はここまで!茜はこっちだよ?」
そう言われて、更に手を引かれる。
そして、次なる扉に手をかける泰叶に悪い予感しかしない。
後ろから、呆れたように、再び溜息を吐く圭吾の様子が伝わってくる。
まさか……
まさかね……?
とある予想はこの時点で辛うじてできたものの、私の目の前に現れた空間は私の想像を遥かに上回るものだった。
「見て?あかね、まだ、インテリアの取り寄せが遅れていて、これから徐々に揃っていく予定なんだけど、茜の好きなテイストにしてみたんだ♡」
「うっ、嘘、でしょ………」
圭吾の部屋のリビングよりおそらく1.5倍くらいは広い空間に、明らかにデザイナー家具と分かる、高そうなインテリア、ダイニングテーブルにソファーに、出されたばかりのグラスや食器、丸まったままの絨毯などが無造作に置かれている。
正面には大きな窓、というか、もう既に壁一面が窓みたいなカーテンのない全開の窓に、大都会の夜景がこれでもかと見事に煌めいている。
「泰叶……、こ、ここ……」
驚きすぎて、言葉がでない。
「うん、茜、俺達の新居だよ?」
そう言って、にっこり微笑む泰叶。
「しっ、新居って、ここも、揚羽さんの?」
そう恐る恐る聞く私に、泰叶は首を振る。
「ううん、ここは、俺が買い取った。ちゃんと名義変更も済んでいるよ?」
あっさりと言う泰叶に、私の顔は盛大に引き攣った。
「こっ、こっ、こっ、こっ………こここ」
(ここ、いくらするの~????)
倒れそうになった私を支えた泰叶は、にっこりと微笑んだまま、艶やかな唇を突然私に近づけた。
「やっと、二人になれたね、茜……」
そう言って、黒い瞳を揺らめかせて凄く悪い顔で笑った。
「茜、リビングはまだ片付いてないんだ、だけど、俺、お気に入りの部屋だけは、ちゃんと完成させているから、試してみようか?」
「えっ……?」
「あぁ、楽しみだなぁ」
何やら不穏な空気を感じた私は、顔を引き攣らせた。
その瞬間、私の身体は泰叶の腕によって抱き上げられた。
「ちょっ、泰叶……」
広いリビングを歩き、扉を開けたところに出るとすぐに泰叶は横開きのドアに手をかけた。
その扉の向こうの既視感に私は、目を見開いた。
「こっ、ここ……?」
「うんっ、茜、どうしてもこの空間だけは名残惜しくて、出来るだけ忠実に再現したんだ」
「…………」
三畳程度の空間は換気扇だけの密室。
そして、私がアパートで眠っていたのと同じサイズの部屋一杯になりそうなセミダブルベッド。
私が使っていたものとほぼ同じ色のベッドカバーに掛け布団。
同じ形のドレッサーに、同じ香りのアロマオイル。
「……ちなみに、ここも一応、防音だから」
耳元で囁くようにそう言われて身震いする。
私をベッドに丁寧に降ろした泰叶は、そのまま私に跨って、強請るように唇を重ねた。
「あかね……」
「ちょっと、ちょ、ちょ、ちょっ、待って、待とう!泰叶……、色々、まだ整理出来てないから」
この状況をなし崩し的に受け入れてはいけない気がする。
だけど、泰叶は、途端に恨めし気な瞳を私に向けた。
「ダメ、茜、待てないよ、だって、俺、京都で、この部屋の手配しながら、ずっと、ずっと何度も、ここで茜とする事だけを想像してたんだ!何度も何度も何度もだよ?もう俺のチンコ、今ようやく、この状況が揃ったってだけで、限界だから、パンパンに張り詰めているんだよ?」
「そっ、そうなんだ?」
余りの勢いに、若干頷きそうになる。
「だから、お願い、あかね、『待て』なんて、酷な事を言わないで?ね??」
もはや、涙目でそう言われた私は、流されそうになりながらも思い留まる。
「ちょっ……、ダメだって!泰叶!!やっぱり、ちゃんと説明して!?」
そう突っぱねるも泰叶は引き下がらず、私の肩をベッドに押し付けて、頬をすり寄せる。
「うん、説明するよ?説明するから…、でも、先にこの部屋を、早くあの部屋みたいに、茜の匂いで一杯にしてからね?それからちゃんと説明するから」
そう言われながら、どんどんと乱されていく服を見やって、もう一つの事に気付き、首を振る。
「うぅ、ダメ、ダメだよ?泰叶、それに、隣には、圭吾が……」
弟の近くでこんな事、恥ずかしすぎる。
「大丈夫だよ?茜、圭吾は隣じゃない、隣の隣、遠くにいるんだよ……?それに今日くらいは気を利かせてくれるよ?」
言い聞かせるように泰叶が呟く。
「あかね、この部屋の壁、見てごらん、防音ルーム、二つも挟んでるし、絶対に聞こえないよ?念のため、鍵だって付けてるから」
そう言った泰叶は艶めく瞳で、私に言った。
「………」
「ねっ?誰にも邪魔されないよ、だから、茜、思う存分に声を出して?目一杯、俺だけを感じて?どれだけ乱れたって、喘いだって、叫んだって、俺しか見てないし、誰にも聞こえないから」
「…………」
この時、私は一抹の不安が過った。
それと同時に、おそらくこの考えは間違っていないだろう事も悟った。
「……泰叶、あんた、このために、防音?この為に、隣まで……」
信じられないと目を見開く私に、顕わにされた胸の先端を赤い舌でチロチロ舐めながら、泰叶が言った。
「うん、そうだね…、ここなら俺にだけに集中できるでしょ?あかね」
この時、圭吾の言葉が蘇った。
≪あかねは、姉さんは泰叶の事、好きって事でいいんだよね?≫
≪外堀を埋められてるようだから……≫
あの日の圭吾の突然の確認と、呆れたような憐みの瞳。あれは…
(圭吾、漸く、私にもよく分かったよ、うん、芸能人て、何考えてるのか、本当に訳が分からないね!)
きっとあの時には既に、圭吾の部屋のドアの工事を含め、ここには大掛かりなリフォームが入っていたのだろう。そしてそれは恐らく、圭吾が住む部屋を借りている泰叶と圭吾の事務所も同意済みなのだ。
その後、散々喘がされながら、三度致した後、四度目の行為に及ぼうとした泰叶は、私に完全拒否の拳骨を食らい、ようやく事の全容を話してくれた。
圭吾が住むこのマンションのフロアは、圭吾の部屋、泰叶の部屋、そうして真ん中の烏丸の事務所所有の部屋の三つから成っている。
そして、もともと分譲された当初から、このフロアの部屋は全て烏丸家がオーナーとして所有していたそうだ。揚羽さんが一室を稽古場という名の執筆用の書斎として使用し、もう一室は泊り部屋として利用する事もあった。だから、安全上、同フロアにはそこそこ安心の出来る人物が望ましかった。
そんな時、芸能人の部屋を探す企画に物件の情報を提供し、その結果、番組上で圭吾がその部屋を選び、圭吾の事務所を通して、圭吾に部屋を貸す事にしたというのだ。
ここまでは、本人達が、偶然だと言い張っているらしいので、そこはさすがに信じたいが、あまりに出来過ぎた話に、本当に偶然だろうかと疑いたくなる。
その後、揚羽さんが、稲葉胡蝶として手掛けた彼女の運命を分ける作品のオファーを泰叶があっさりと断ってしまった事で、揚羽さんの作戦が開始された。既に圭吾がいるこのマンションが、その後、揚羽さんの重要な駒となったのだ。
揚羽さんは、泰叶の身辺調査をして、私との関係を知り、そして、今の泰叶の悩みの種である≪住宅問題≫を容易に推測した。
そこは同じ芸能人。相手の欲するところや悩みを想像する事は造作もない事だったのだろう。
私の住んでいる、セキュリティーが無いに等しい物件では、泰叶との関係を続ける事はできない。それを逆手にとって、揚羽さんは泰叶と泰叶の事務所に、上から目線で交渉したという。
自分の手掛けた映画にでる代わりに、圭吾の住むフロアのマンション三部屋を泰叶に生前贈与するのだと申し出たというのだ。
泰叶は、密かに烏丸恭二郎に認知もされていたようで、元々相続権もある立場だったようだ。
烏丸家の財政事情にも聡く、あらゆる役割を取り仕切る揚羽さんからしたら、母親亡き今、烏丸家が複数所有する不動産の一部を、早めに泰叶の相続の一部に充てる事はやぶさかではなかった。
泰叶の心情としては、烏丸家をまだ家族と認識しておらず、その贈与を受ける事には抵抗があった。その為、交渉は難航するかに見えたが、揚羽さんから提案されたマンションの使用方法について説明を受けた泰叶はそれに大きく反応したと言う。
元々、私をあのアパートには置いては置けないと泰叶はかねてから思っていた。
かといって、自分のマンションに住まわせるのも外に出た時に危険を伴うと案じた泰叶は、揚羽さんに代替案として、こう提案したと言う。
今回提案の最奥の部屋を贈与ではなく、泰叶自身が買い取る事。
そして、今回の映画出演の見返りとして、揚羽さんが稽古場として使っていた部屋を、自分達が住むだろう数年間は、無償で間借りする事。
そして、三部屋は、自由にリフォームしても良い事
この三つを映画出演の条件にした。
結局、烏丸家は圭吾の部屋に関しては引き続き、事務所同志の賃貸契約にしたまま、一番奥の一室を泰叶に相応の額で販売して手放し、中央の稽古部屋はそのまま事務所名義として、中の荷物を撤去して無人で放置する事となったのだ。
その改修・購入を、烏丸家のお抱えのリフォーム業者やらインテリアショップやらを通じて、撮影外の時間で手配していたら、二人が恋愛関係であると報じられたと言う事だ。
だけど、既にゴシップ慣れした二人は、「それはそれでいいだろう」と同じ結論に達した。
揚羽さんは今回の映画撮影の後は、出来るだけ作家活動に専念するために、女優としての活動を少なくして、後には休止する事を考えていた。だから泰叶との恋愛報道は、結婚準備とマスコミを避ける為に、自然に姿をあまり見せなくなると言うよくあるパターンの絶好のチャンスであったし、既にお膳立てされている結婚話を断るよい口実にもなったのだ。
泰叶からしたら、世間が私に目を向けて、私に何か危害が加えられる事が一番不安だったので、揚羽さんとの交際を否定も肯定もしない事で、報道の対象が私には向かない状況になることが、むしろ都合が良かったのだ。
そもそも揚羽さんは、基本的にボディーガード(実はこの人が学生時代からの同級生で彼女の恋人)が四六時中ついているので危険はないらしい。
それに、執筆活動に専念するので、外にはあまり出ない予定でもあるし、近々地方でゆっくり暮らそうと考えてもいるそうだ。
だから、泰叶の隣の一室を『烏丸家所有の部屋』として意味深に置いておけば、泰叶と揚羽さんはそこで逢瀬を重ねていると世間は勝手に誤解するだろうと言うのだ。
この、姉弟が初めての連携で作り出した状況は『掛かってる金額、おかしいよね?』という事以外は、実に上手く出来ているとしか言いようが無かった。
そして、その数日後、これは本当にただの偶然なのだけれど、週刊誌に、もう一つのスクープ記事が上がり、それはワイドショーにも飛び火した。
題名は『相場圭吾、熱愛発覚!?』
思わず誰よりも、「おっ?ついに??」と目を輝かせたが、次の瞬間、私は落胆した。
そこに掲載されていた写真は、男女が仲良く買い物をしている写真だった。
その他、二人で、夕焼けの下、買い物袋を持って笑いながら歩いている写真、男物の洗濯物を取り込んでいる写真、そして、取り込まれていたTシャツを着た笑顔の男が翌日道路から手を振っている写真。
---なんて事はない、私と圭吾のあの日の写真だった。
(あ~…、いつかお姉さんは、君の本当のスクープ写真がみたいよ!がんばれ、圭吾ちゃん)
だけど、これにすごく慌てた事務所からの指示で、私達は、即座に兄妹と名乗り、「安全対策として二人で同居する事になっちゃいました」と発表する運びとなった。
これには会社の女性からも散々に羨ましがられたり、家に遊びにきたいとか言われているが、何とか日々笑顔ではぐらかしている。
でも、これによりひとつだけ助かった事もあったのも事実だ。
高杉君が、泰叶と遭遇した事についての言い訳が容易になったからだ。
あの日以降も、体調が思わしくなかった私は、弟の圭吾に連絡を取ったが、圭吾がどうしても抜けられない撮影に入っていた為に、圭吾から依頼を受けた昔馴染みの泰叶がやむを得ず、私の様子を見に来てくれた、という事になったからだ。
もちろん、あの烏丸揚羽と恋愛報道中の泰叶だ。
私など、相手にしているとは誰も思わなかったようだ。
それはそれで、女としては複雑ではあるのだが、揚羽さんが相手では仕方がない。
「あかね、好きだよ、大好き!!俺、今、最高に、滅茶苦茶、幸せ!!!」
だけど、泰叶がそう言ってくれるのが今の私の全てだと言う事が、あの経験で分かったから。
「うん、そうだね、泰叶、私も好きだよ、大好きだよ!!」
今日も懲りずに三回致して、今も私のお腹の辺りをスリスリする泰叶を見て、つくづく思う。
本当に長い時を経て、私達も、ようやく、人並みの幸せを手に入れたのかなと。
あれからの日々は本当に平和だ。
泰叶の留守に、圭吾の部屋に入り浸って、ついつい世話を焼く私に、時々泰叶がベイダーモードに突入するくらいで、本当に平和そのものだ。
いつか泰叶はここも出て、私ときちんと結婚して、堂々と二人で暮らしたいという。
私も、その時には泰叶の隣で堂々と笑っていられるような、そんな強い女性になっていたいと思うのだ。
そして、あれから、一つ思い出した事がある。
それは、ずっとずっと昔の記憶。
泰叶のあのギター、受け取ったのは、そう言えば、私だった。
中学に入ったくらいの時、学校の帰り道、とても奇麗な顔をした背の高い男性から声をかけられた。
公園で泰叶と圭吾がお遊びでよく歌ったり踊ったりしていた事があった。
それを聞かせてもらったのだという男性。
その男の人が、車から二つのギターを取り出してこう言ったのだ。
「あの子達のお姉さんだよね、確か、圭吾くんと、…泰叶くん」
その問いかけに頷いた私に、男性は小さく微笑んだ。
「僕は長く、芸能関係の仕事をしていてね、あの子たちは才能があるよ、だから、僕の要らなくなったギターを受け取って欲しいんだ、こっちは圭吾君に、こっちは泰叶くんに、これは少し古いけどきっと彼には新しいもの以上に上手く弾きこなせる日が来ると思うから」
そして「ありがとう、…喜怒哀楽がちゃんとある、すごくいい歌を聞かせてもらったよ」
顔は上手く思い出せない漆黒の瞳のその人は、何故か「ありがとう」とあの二人にではなく、私に伝えるようにジッと私を見つめてそう呟いた。
セミが遠くに鳴く、夏の終わりの日暮れの事だったと記憶している。
圭吾に渡して欲しいと頼まれたギターは、まるで買ったばかりの新品のようだった。
そして、泰叶に渡して欲しいというのは凄く使い込まれたギターだった。
きっと、恭二郎さんは、玲一郎さんを傷つける為に、あのギターを泰叶に渡したのではないのだと今なら思う。兄弟がいつか、それぞれの歩んできた道の険しさとその意味を知る為に、諸刃の剣のような『絆』を残しておきたかったのかも知れないと、今はそう思えてならないのだ。
了
更に、もう一度と、求められそうになったところで泰叶は、ようやく、私の体調が万全ではない事を思い至ったのだろう。私の身体を楽な姿勢で解放した。
「茜、ごめんっ、ムリさせて…」
そう言って、面目なさそうに謝る泰叶の首に手を回して、私はキスを強請る。
「泰叶、おかえり…」
「うん、ただいま、あかね…」
そう言って、長い長い口付けを交わした。
落ち着いた頃、泰叶は私の髪を優しく撫でながら、少しずつ今回の経緯を説明してくれた。
「ごめんね、茜、こんな面倒な事になるとは最初は思わなかったんだ。俺はただ、この撮影のオファーを受ければ、茜とずっと一緒にいられる環境が手に入ると言われたから、あの女の話に乗ったんだ」
思ってもいない出だしに私は目を瞬かせた。
「えっ?……私と、一緒にいられる環境??」
「うん、だって、茜、何度、結婚しようって言っても、まだ早いって受け流すばかりだし、このままだったら、また前みたいに茜の事を傷つける奴でも現れたらと思うと、俺、気が気じゃなくて…」
「う、うん…」
「いっそYouTuberにでもなろうかとか、海外に移住して作曲に専念しようかとか、悩んでは、事務所にも、圭吾にも止められて、困ってた時にあの女が近づいてきたんだ」
「そうか、…ん?」
なんか今、不穏な言葉が聞こえたよね?
「あの女…」
泰叶は凄く不機嫌な顔をして再度呟く。
「あの女って…」
「……烏丸揚羽だよ」
「……そっ、そう」
予想していた名前に私は、小さく頷いた。
昨日の今日の急展開の中、その名を聞くのは私にはまだ少しだけ辛かった。
「最初は、あの女の事務所から呼び出しを受けて、今回の映画のオファーを受けたんだ」
「うん……」
「だけど、俺、最初は、断ったんだ」
「…え?」
連日予告編が流されて超大作と言われる話題の映画だし、今回の作品はきっと泰叶の代表作にもなるだろうと思われた。
なにより、泰叶自身があれだけやる気で出かけて行ったのをこの目で見た私は、眉を寄せた。
あれだけのやる気があったのに、乗り気ではなかったとは、どういう事だろう。
「だって、そうでしょ?長い片想いが漸く報われて、人生初の幸せを享受しているこんな時に誰が好き好んで、遠方での缶詰撮影なんて行きたいと思うの?」
恨めしそうなその瞳に、私は、戸惑いながらも頷いた。
「え…、うん、それは、……まぁ、そうかもしれないね?」
でしょ?と泰叶は、納得したように頷いて、忌々し気に顔を歪めた。
「そうしたら、暫くしてから、またあの女が現れたんだ!」
私は眉を寄せて頷いて、泰叶の続きを待った。
「……最初は、ほとんど脅迫だよ?あの女、人を使って調べさせたのか、俺が茜の部屋に入る瞬間の写真や、ベランダから顔を出してる茜の写真を俺に突き付けたんだ!」
「へ……?」
その不穏な言葉に心臓が跳ねた。
「……じゃあ、もしかして、スクープされちゃうの?」
そう狼狽えた私に、泰叶は首を振った。
「大丈夫、…それは、きっと俺の普段の生活を調べる為と、俺に言う事をきかせる為にしか使われないはずだから、本当に食えない女だよ、あいつ」
吐き捨てるようにそう言う泰叶に私は、半信半疑で眉を寄せた。
泰叶の話はこうだった。
まず、最初に驚いたのが、今回の話題の映画
「斎藤道三と三つの秘宝」の原作者が、実は烏丸揚羽、その人であるというのだ。
「えぇぇっ、そ、そうなの!?烏丸揚羽が、あの稲葉胡蝶??」
驚きで目を見開く私に、泰叶は苦虫を嚙み潰したような顔で頷いた。
「あぁ、まだ、ここだけの話だけどね?」
原作者の稲葉胡蝶と言えば、ペンネーム以外は明かしていない、昨今注目の小説家だ。
プライベートが謎に包まれている事でも有名だ。
色んなジャンルを手掛けるが、特に時代物作品の時代背景や衣装、小物に至るまで博識で、描写は詳細で、心情表現が巧みな天才作家と言われている。
その知識は専門家も舌を巻くほど、言うが、なるほど、歌舞伎界の出身で、古典芸能や古典文学に通じているはずだし、多くの現場を経験してるんだもんね。
その揚羽さんの傑作とも言える作品。
それが今回の映画「斎藤道三と三つの秘宝」だった。
そして、実はこの作品は揚羽さんの個人的な人生設計を現実のものにする為に計画された特別な作品でもあるというのだ。
その話の全貌を聞いた時、私は揚羽さんと言う人の知略に、心底舌を巻いた。
「そんな……、それで、あの映画を作り上げたの?」
(世間は、何も知らずにあんなに盛り上がってるの?)
「なっ、ほんと食えねえ女だろ?しかも、あいつ途中で、俺の携帯壊しちまうし、わざとじゃないって言うけど、どうだか、まぁ、俺も一回茜に逢いたくて脱走企てたからな…」
また、不穏な言葉が聞こえたけど、それすらも気にならないほど私は驚愕していた。
それは、私のような一般人には到底、思いも至らない壮大なスケールだった。
烏丸揚羽は、歌舞伎界の名家の令嬢で、芸能界でも花形の女優である。
だけど、彼女は、一刻も早く家からも距離を置き、そして女優業からも退きたかったと言うのだ。
それには二つの理由があった。
彼女は女優業には未練は無く、作家として自由に生きる事を希望していること。そして、現在隠れてお付き合いしている人がいること。
彼女がお付き合いしている男性は、今のままの烏丸家では、結婚の許しの出ない一般の男性らしい。
そして、彼女には、家が、と言うより、兄が進める結婚の話が浮上していた。お相手は彼女の兄、玲一郎が特に信頼を置く流派の男性だと言う。
そこまでの話を理解したうえで、私は一つの疑問を持った。
「…でも、それは、家を出て、作家活動をして、好きな人と結婚するだけじゃダメなのかな?」
そう問いかけた私に、泰叶は凄く深い溜息を吐いた。
「そこが、今回の話の傍迷惑なところなんだ!」
泰叶の反応に首を傾げる私に、泰叶は心底嫌そうにに口を開いた。
「あの女が、家族を捨てられなかった一番の理由が、親子の不仲なんだとさ!笑わせてくれるよな、しかもそれを俺に言ってくるなよって話だよな」
「えっ、親子って事は、揚羽さんと、お父さんの恭二郎さん?」
そう瞳を曇らせて聞いた私に、泰叶は溜息を吐きながら首を振る。
「違う、長男の玲一郎と、父親の恭二郎だ」
あぁ、そっちかと、私は頷いた。
私の両親は長い別居の後、離婚をした。
まだ両親が家にいた頃の、小さな自分を思い出して私は察するものがあった。
不仲な両親は、直接話がしたくない、もしくは出来ないものだから、常に相手に伝える事は私を介していて、私は躊躇いながらも空気を読んでその役を担っていた時期があった。
あれは、間に入っている方も相当に神経をすり減らす。
玲一郎さんと揚羽さんのお母さまで恭二郎さんの奥様は数年前に亡くなられているらしい。歌舞伎の大家で、父と兄という不仲な成人した男性を仲介してバランスを保つ事に気遣うのが、日常だとしたら揚羽さんの心情は察するに余りあるように思えた。
だから、兄である玲一郎さんは妹としてだけではなく家の潤滑油とのなっていた揚羽さんを手放したくなかった。歌舞伎を離れた活動を徐々に広げていく揚羽さんを歌舞伎界に留める為に、玲一郎さんは自分に近い人間を揚羽さんと早急に結婚させようとする。
だけど、揚羽さんはそれに反発した。
そして、意固地になって拗れに拗れた二人の仲を普通の形で仲介する事はもう難しいと諦めた揚羽さんは、一つの物語に双方の思いを閉じ込めた。
そうして、仕上がった作品が「斎藤道三と三つの秘宝」だったと言う。
美濃の油売りの商人から、岐阜一国の大名に成りあがった斎藤道三役を父の恭二郎さんに、その長男である斎藤義龍役を兄である玲一郎さんに、そして自らはそれぞれを父と兄として持つ、帰蝶として配役を組んだ。帰蝶とは織田信長の正妻であり、織田家では濃姫と呼ばれた有名な女性である。
歴史上の彼女は美濃から織田信長に嫁いだとの記録のみに留まり、その後の彼女の生涯は明らかにされていない。最後まで生き残ったのではと言う人もいれば、存在価値が無くなったところで殺されたのではないかとも言われている。そして斎藤家の実態も謎に包まれた部分が多いという。だから、細かい内容は推測で物語を書こうと思えば書き放題なのだ。
だけど、史実だけを取り上げればこうだ。
岐阜の戦国大名である斎藤道三は、尾張のうつけとも言われる奇妙な恰好をした年若い織田信長に将来性を見出したのか、あるいは国盗りの駒にしようと思ったのかは不明だが娘の帰蝶を嫁がせる。
斎藤道三は息子の義龍と仲が悪く、死の間際に婿である織田信長に「国ゆずり状」を残す。
道三は自分の息子達より信長が有能であると思っていたとも言われている。
その後、斎藤道三は息子である斎藤義龍と長良川の戦いで激突して敗戦し、息子の有能さを見抜けなかったことを後悔しながら戦死したという。この時、織田信長は、援軍として駆けつけたが道三の最期には間に合わなかった。
義龍は、打ち取られた道三の首を見た時に「親殺し」を行った事を後悔して、「これは我が身の不徳から出た罪である」と自分を責めて数日間自室に引きこもり出家する。
その後、信長は道三の「国ゆずり状」を大義名分として、美濃(岐阜)を攻撃するも義龍存命中は城を落とす事は叶わなかった。
義龍は、親殺しの罪悪感が病状を重くしたのか、道三の死後、僅か五年後に病死している。
結局、信長は生涯、義龍に勝つ事は出来なかったのだ。
そして、義龍の死後、岐阜は信長の手に落ち、斎藤家の家臣を巻き込み、信長は時代に名乗りを挙げる事となる。
「なるほど……」
ここまで聞いた私は、ようやく少しだけ話が見えてきて息を吐いた。
それぞれの現在の立ち位置、不仲な事実さえも、かなり一致した状況の歴史上の出来事に現代の家族関係をシンクロさせて、双方の思いを形にして向き合う機会を作った?
そうだとしたら、揚羽さんは、やはり天才だ。
でも、ここまで聞いた私は再び眉を寄せた。
どうして、揚羽さんは、泰叶を脅してまで織田信長役をさせる事に拘ったのだろう?
「でも、……どうして、泰叶?」
その一言で全てを察したように、泰叶はため息を吐いた。
そして、今日一番の心底嫌そうな顔で、言い放った。
「……それは、俺が玲一郎に敵対視されていたからじゃないの?」
「へっ?」
その言葉に私は、目を瞬かせた。
泰叶はますます、言いたく無さそうに、口を開いた。
「……父親の愛人の息子、なんだって、俺が」
「は?」
そう絶句した私に、泰叶は困ったように苦笑する。
「……言おうか、正直迷ったけど、あの女の事で、これ以上、茜に変な誤解されるの嫌だから」
「…………」
「あの女は、俺の腹違いの【姉】らしい、まぁ、生物学上のだけどね」
私は、その時、驚きすぎて何の反応も出来なかった。
つまり、先ほどまでの話が、歴史上の話であり、今、泰叶が言った内容が、現在の烏丸家の蟠り問題であると言う。
歌舞伎界の名家に生まれた二人の子供が、長男の玲一郎と長女の揚羽。
父である恭二郎は、娘には甘いところもあったが、跡継ぎである玲一郎には、公私に渡り厳しく作法、芸事を叩き込んだと言う。
玲一郎も小さな頃から自分の立場を理解して、父や家の言う事に従った。
だけど、玲一郎も一人の若者だった。
日々の厳しくも苦しい稽古の唯一の息抜きとして、与えられていたギター。その才能が、高校になった頃、開花する。
学園祭で歌とギターを披露して思わぬ注目を浴びてしまった玲一郎は、音楽好きの学校の仲間からバンドを組まないかとの打診を受ける。
だが、稽古の必要性をしっかり認識していた玲一郎は、バンドの誘いを断る。だけど、諦めきれなくて何度も訪れる男に徐々に絆され、ついに断りきれなくなった玲一郎は月に数度、一緒に演奏するだけならばいいと回答する。
だけど、若い学生達の集まりの中で、家に帰る機会を逃すことは誰にでもある。
稽古に遅れる事が二度重なったところで、父である恭二郎がブチ切れるという事件が起こる。
父は、玲一郎に反省を促し、ギターを取り上げて、学校での授業以外の活動と放課後の人付き合いまですべて禁止して、己の立場を説いた。
芸事以外の唯一の楽しみを奪われた玲一郎は、甘んじてそれを受け入れたが、大きな悲しみと、父への反発の気持ちがその時、芽生えてしまった。
それから平穏に数年が経ったかにみえた。
大人になり、歌舞伎に生き、歌舞伎の為だけに日々稽古に励み、気を遣う人付き合いに追われ、跡継ぎとして、様々な事柄を処理する日々を送るなか、ある日、ふとテレビ越しに、惹きつけられる音色に耳を傾けた玲一郎。テレビを見やったその瞬間、玲一郎は目を見開いて固まった。
そこには、かつて、父に取り上げられた自分のギターを弾きながら、どこまでも自由に歌っている一人の男の姿があったと言うのだ。
「えっ、…まさか、それが泰叶?」
「そう……」
―――自分の弾いていたギター?それって、絶対ダメなやつじゃん??
「でっ、その後、玲一郎は俺の事を調べ上げて、俺が、恭二郎が外の女に産ませた子だって知ったらしい。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いなのか、過去の両親の不仲や、その後の闘病や、母親の他界まで、その頃の恭二郎の浮気のせいにして、今では立派な不仲って訳」
「そんな……」
自嘲する泰叶に眉を寄せた。
泰叶はそれをどんな気持ちで聞いたのだろうと思うと胸が痛かった。
「まぁ、結局はあの女の目論見通り、何やら、撮影の後半に入った頃から、周りが息を呑むような熱の入った演技をし始めて、最後には二人で目と目を合わせてウルウルしてたから、結果オーライと言う事でよかったんじゃないかな?」
「そ、そうなんだ……」
それでいいの?
一般人にはワカリマセンな感覚だ。
「……だから、あの質問を受けた時、本当は一瞬迷ったけど、無難だし、いいかな、と思って便乗したんだ、むしろ、勝手に誤解してくれた方が、茜は安全だし、当分邪魔されないと思ったから」
「……へ?」
「記者への回答の事だよ。正直あの時の記者の質問は、俺からしたら最初どっちに対しての言葉なのか、一瞬戸惑ったけどね…。恭二郎との親子関係を嗅ぎつけられたのか、揚羽とのデタラメ報道があるのも少しは聞いてたから、そっちの方なのか」
そう言われた私は、今ならその意味が分かって複雑な気持ちで眉を寄せた。
「あ~……」
今にして思えばそういう事なのだと目から鱗の思いだった。
泰叶からしたら、出演者三人の大物俳優・女優と血縁関係があったという事実の方が、誤解された恋愛報道よりインパクトが強かったのだろうと思う。
「だから『そうなるかも知れないし、そうはならないかも知れませんとだけお答えします。僕たちは、もう大人なので温かく見守っていただけたらと思います』って回答をした。」
「う、うん?」
「……だって、嘘にはならないだろう?それが例え、烏丸家との関係だとしても、生物学的に血は繋がってるのは、事実みたいだし。まぁ、もっとも俺自身は、今は家族とは思っていないけどね、俺の家族は茜と圭吾だけだと思って生きてきたから」
そう言って泰叶は漆黒の瞳を揺らめかせて、優しい表情で微笑んだ。
「…だから、茜、引っ越そう?」
「へ……?」
突然そう言われた私は、瞳を瞬かせた。
「こんな話してるより、交換条件で手に入れたものの方が、俺にとっては、はるかに大事だから」
「なにそれ??」
「行こう、茜!!行けば分かるから」
そう言って、泰叶は私の手を引いて起き上がらせた。
泰叶に押し込まれた車から降りた私は、タワーマンションを見上げた。
「ここって……」
「うん」
にこやかに頷く泰叶に私は戸惑った。
数か月前に引っ越した圭吾の住むマンションだったからだ。
泰叶は、一瞬だけ、人のいない事を確認してから、圭吾の部屋の前を通り過ぎて、一つ目の部屋を指し示した。そこには何やら、聞き慣れない会社名が書かれている。
「烏丸の事務所の会社名だよ」
そう言われた私は、首を傾げる。
そして、もう一つ向こうの角部屋の前に泰叶は立った。
そして、泰叶は携帯を手にした。
「圭吾?今、もう表にいるから…、うん…」
そう言って電話を切って、数秒後、カチャリと扉の開く音がした。
振り返ると、圭吾の部屋のドアが開かれて、そこには複雑な顔をした部屋着姿の圭吾が立っていた。
「あかね、入りなよ?」
そう言って、困ったように笑う圭吾に戸惑った私は、泰叶を見上げた。
泰叶はうん、と頷く。
訳が分からないながら、圭吾の部屋のドアに手をかけて泰叶を振り返るも泰叶は、一番奥の部屋の前に立ったままだ。
「泰叶は……?入らないの??」
そう聞く私に、泰叶はポケットから、一つのカードキーを取り出して、ひらひらと私に見せた。
「俺は、こっち」
そう言って、少年のように微笑む泰叶に私は、眉を寄せる。
「いいから、茜、そのまま圭吾の部屋に入って…」
そう言った泰叶は、奥の扉の中に半分身体を入り込ませて、顔だけ出してニッと笑って姿を消した。
「ちょ、泰叶……?」
「茜、どうぞ」
今度は、後ろから、圭吾の声がかかる。
「う、うん?」
言われるがままに、私は圭吾の背中を見つめながら、いつもの圭吾の部屋に入った。
(うん、相変わらず、いい部屋だ。やっぱり、芸能人だね?)
数か月前に、バラエティの部屋探し特集で「芸能人のお部屋探し」で圭吾が選んだ部屋だ。
破格の条件と言われていたけれど、それでも一般人の私には信じられない金額だった事を覚えている。もっとも家賃はほとんど、事務所持ちのようだけど。
三十畳を超すだろうリビングにはまだ慣れないけど、慣れないけど……
なにか、いつもとは違う違和感があるのは気のせいだろうか?
(この部屋……、ん?)
違和感の正体に気付かずに、戸惑ったままいる私に、圭吾は口元を上げて笑いをこらえているようだ。私はこの顔を知っている。いたずらをする時の顔だ。
「……何か、気付かない、あかね?」
そう問いかけられた、瞬間、私が立っていた、左後ろで突然音がして、私は身体を跳ねさせた。
(なにっ???)
その瞬間、カタリと音をたてて扉が開いた。
扉が開いて……
ちょっと待って、扉?
扉なんて、ここにあったっけ???
その瞬間、そこから泰叶の顔が現れた。
「ひゃっ!?」
「すごいっ、本当にちゃんと繋がってる!」
「へ…? へっ?へっ?へっ????」
そこから登場したのは、泰叶だった。
驚いて、目を見開いたまま、固まる私に、泰叶はクスリと笑った。
その後ろで、圭吾が爆笑している。
「なっ、なに?なに?なんなの??手品??」
そう驚く私に、圭吾の笑い声がますます大きくなる。
「茜、来て?」
そう言われて、扉の中に引っ張られるが私は戸惑う。
「ちょ、だって、そっち何にもないし…」
そう、行き止まりのはずなのだ。
行き止まりのはずに、違いないのに……
「へっ………?」
そこには、住空間とも思えない、40畳ほどの空間が広がっていた。
(なにこれ………?)
鳩が豆鉄砲を食ったように固まる私に、泰叶は顎に手を当てて、唇を吊り上げて笑いかけた。
「……茜、ここ、完全防音にしてもらったんだよ?」
「防音?」
「そう、台詞覚えたり、圭吾と合わせたり、作曲したり色んな用途に使えるから、いいかなって思ってるんだ、茜の為の愛の歌も作ってあげるね!」
そう言って笑う泰叶の瞳に色が滲むのを感じた私は、訳も分からず眉を寄せる。
「……この部屋を挟んだら、生活音は絶対に聞こえないよね?例え、どんなに声をあげても」
そう言われて、泰叶の長い指先が私の唇を辿る。
困惑した私は、目を見開いて泰叶を押しのけた。
後ろから、圭吾が入ってくる気配を感じたからだ。
「たくっ、本当に何を考えてるんだろうね?有名芸能人ってやつは?」
圭吾は心底呆れたように、そう呟いて、広い空間を見回している。
「マンション一室をこんな形にして、無駄遣いなんて、一般庶民には考えられないよ?」
「……マンション一室って、じゃあ!?」
さっき、入口で見た会社名のあった部屋を思い出す。
「……じゃあ、ここって、もしかして?」
「うん、茜、烏丸家の事務所の所有していた、個人稽古場だよ、だけど、実際は、烏丸揚羽じゃなくて、稲葉胡蝶としての執筆の場として使われていたようだけどね」
私は、その言葉に目を瞬かせた。
そんな私に、泰叶は悪戯な笑みを浮かべる。
「これが、今回の戦利品、揚羽との交換条件だよ、茜?」
そう言って、上機嫌に笑う泰叶と、呆れたように溜息を吐く圭吾。
「じゃ、圭吾は今日はここまで!茜はこっちだよ?」
そう言われて、更に手を引かれる。
そして、次なる扉に手をかける泰叶に悪い予感しかしない。
後ろから、呆れたように、再び溜息を吐く圭吾の様子が伝わってくる。
まさか……
まさかね……?
とある予想はこの時点で辛うじてできたものの、私の目の前に現れた空間は私の想像を遥かに上回るものだった。
「見て?あかね、まだ、インテリアの取り寄せが遅れていて、これから徐々に揃っていく予定なんだけど、茜の好きなテイストにしてみたんだ♡」
「うっ、嘘、でしょ………」
圭吾の部屋のリビングよりおそらく1.5倍くらいは広い空間に、明らかにデザイナー家具と分かる、高そうなインテリア、ダイニングテーブルにソファーに、出されたばかりのグラスや食器、丸まったままの絨毯などが無造作に置かれている。
正面には大きな窓、というか、もう既に壁一面が窓みたいなカーテンのない全開の窓に、大都会の夜景がこれでもかと見事に煌めいている。
「泰叶……、こ、ここ……」
驚きすぎて、言葉がでない。
「うん、茜、俺達の新居だよ?」
そう言って、にっこり微笑む泰叶。
「しっ、新居って、ここも、揚羽さんの?」
そう恐る恐る聞く私に、泰叶は首を振る。
「ううん、ここは、俺が買い取った。ちゃんと名義変更も済んでいるよ?」
あっさりと言う泰叶に、私の顔は盛大に引き攣った。
「こっ、こっ、こっ、こっ………こここ」
(ここ、いくらするの~????)
倒れそうになった私を支えた泰叶は、にっこりと微笑んだまま、艶やかな唇を突然私に近づけた。
「やっと、二人になれたね、茜……」
そう言って、黒い瞳を揺らめかせて凄く悪い顔で笑った。
「茜、リビングはまだ片付いてないんだ、だけど、俺、お気に入りの部屋だけは、ちゃんと完成させているから、試してみようか?」
「えっ……?」
「あぁ、楽しみだなぁ」
何やら不穏な空気を感じた私は、顔を引き攣らせた。
その瞬間、私の身体は泰叶の腕によって抱き上げられた。
「ちょっ、泰叶……」
広いリビングを歩き、扉を開けたところに出るとすぐに泰叶は横開きのドアに手をかけた。
その扉の向こうの既視感に私は、目を見開いた。
「こっ、ここ……?」
「うんっ、茜、どうしてもこの空間だけは名残惜しくて、出来るだけ忠実に再現したんだ」
「…………」
三畳程度の空間は換気扇だけの密室。
そして、私がアパートで眠っていたのと同じサイズの部屋一杯になりそうなセミダブルベッド。
私が使っていたものとほぼ同じ色のベッドカバーに掛け布団。
同じ形のドレッサーに、同じ香りのアロマオイル。
「……ちなみに、ここも一応、防音だから」
耳元で囁くようにそう言われて身震いする。
私をベッドに丁寧に降ろした泰叶は、そのまま私に跨って、強請るように唇を重ねた。
「あかね……」
「ちょっと、ちょ、ちょ、ちょっ、待って、待とう!泰叶……、色々、まだ整理出来てないから」
この状況をなし崩し的に受け入れてはいけない気がする。
だけど、泰叶は、途端に恨めし気な瞳を私に向けた。
「ダメ、茜、待てないよ、だって、俺、京都で、この部屋の手配しながら、ずっと、ずっと何度も、ここで茜とする事だけを想像してたんだ!何度も何度も何度もだよ?もう俺のチンコ、今ようやく、この状況が揃ったってだけで、限界だから、パンパンに張り詰めているんだよ?」
「そっ、そうなんだ?」
余りの勢いに、若干頷きそうになる。
「だから、お願い、あかね、『待て』なんて、酷な事を言わないで?ね??」
もはや、涙目でそう言われた私は、流されそうになりながらも思い留まる。
「ちょっ……、ダメだって!泰叶!!やっぱり、ちゃんと説明して!?」
そう突っぱねるも泰叶は引き下がらず、私の肩をベッドに押し付けて、頬をすり寄せる。
「うん、説明するよ?説明するから…、でも、先にこの部屋を、早くあの部屋みたいに、茜の匂いで一杯にしてからね?それからちゃんと説明するから」
そう言われながら、どんどんと乱されていく服を見やって、もう一つの事に気付き、首を振る。
「うぅ、ダメ、ダメだよ?泰叶、それに、隣には、圭吾が……」
弟の近くでこんな事、恥ずかしすぎる。
「大丈夫だよ?茜、圭吾は隣じゃない、隣の隣、遠くにいるんだよ……?それに今日くらいは気を利かせてくれるよ?」
言い聞かせるように泰叶が呟く。
「あかね、この部屋の壁、見てごらん、防音ルーム、二つも挟んでるし、絶対に聞こえないよ?念のため、鍵だって付けてるから」
そう言った泰叶は艶めく瞳で、私に言った。
「………」
「ねっ?誰にも邪魔されないよ、だから、茜、思う存分に声を出して?目一杯、俺だけを感じて?どれだけ乱れたって、喘いだって、叫んだって、俺しか見てないし、誰にも聞こえないから」
「…………」
この時、私は一抹の不安が過った。
それと同時に、おそらくこの考えは間違っていないだろう事も悟った。
「……泰叶、あんた、このために、防音?この為に、隣まで……」
信じられないと目を見開く私に、顕わにされた胸の先端を赤い舌でチロチロ舐めながら、泰叶が言った。
「うん、そうだね…、ここなら俺にだけに集中できるでしょ?あかね」
この時、圭吾の言葉が蘇った。
≪あかねは、姉さんは泰叶の事、好きって事でいいんだよね?≫
≪外堀を埋められてるようだから……≫
あの日の圭吾の突然の確認と、呆れたような憐みの瞳。あれは…
(圭吾、漸く、私にもよく分かったよ、うん、芸能人て、何考えてるのか、本当に訳が分からないね!)
きっとあの時には既に、圭吾の部屋のドアの工事を含め、ここには大掛かりなリフォームが入っていたのだろう。そしてそれは恐らく、圭吾が住む部屋を借りている泰叶と圭吾の事務所も同意済みなのだ。
その後、散々喘がされながら、三度致した後、四度目の行為に及ぼうとした泰叶は、私に完全拒否の拳骨を食らい、ようやく事の全容を話してくれた。
圭吾が住むこのマンションのフロアは、圭吾の部屋、泰叶の部屋、そうして真ん中の烏丸の事務所所有の部屋の三つから成っている。
そして、もともと分譲された当初から、このフロアの部屋は全て烏丸家がオーナーとして所有していたそうだ。揚羽さんが一室を稽古場という名の執筆用の書斎として使用し、もう一室は泊り部屋として利用する事もあった。だから、安全上、同フロアにはそこそこ安心の出来る人物が望ましかった。
そんな時、芸能人の部屋を探す企画に物件の情報を提供し、その結果、番組上で圭吾がその部屋を選び、圭吾の事務所を通して、圭吾に部屋を貸す事にしたというのだ。
ここまでは、本人達が、偶然だと言い張っているらしいので、そこはさすがに信じたいが、あまりに出来過ぎた話に、本当に偶然だろうかと疑いたくなる。
その後、揚羽さんが、稲葉胡蝶として手掛けた彼女の運命を分ける作品のオファーを泰叶があっさりと断ってしまった事で、揚羽さんの作戦が開始された。既に圭吾がいるこのマンションが、その後、揚羽さんの重要な駒となったのだ。
揚羽さんは、泰叶の身辺調査をして、私との関係を知り、そして、今の泰叶の悩みの種である≪住宅問題≫を容易に推測した。
そこは同じ芸能人。相手の欲するところや悩みを想像する事は造作もない事だったのだろう。
私の住んでいる、セキュリティーが無いに等しい物件では、泰叶との関係を続ける事はできない。それを逆手にとって、揚羽さんは泰叶と泰叶の事務所に、上から目線で交渉したという。
自分の手掛けた映画にでる代わりに、圭吾の住むフロアのマンション三部屋を泰叶に生前贈与するのだと申し出たというのだ。
泰叶は、密かに烏丸恭二郎に認知もされていたようで、元々相続権もある立場だったようだ。
烏丸家の財政事情にも聡く、あらゆる役割を取り仕切る揚羽さんからしたら、母親亡き今、烏丸家が複数所有する不動産の一部を、早めに泰叶の相続の一部に充てる事はやぶさかではなかった。
泰叶の心情としては、烏丸家をまだ家族と認識しておらず、その贈与を受ける事には抵抗があった。その為、交渉は難航するかに見えたが、揚羽さんから提案されたマンションの使用方法について説明を受けた泰叶はそれに大きく反応したと言う。
元々、私をあのアパートには置いては置けないと泰叶はかねてから思っていた。
かといって、自分のマンションに住まわせるのも外に出た時に危険を伴うと案じた泰叶は、揚羽さんに代替案として、こう提案したと言う。
今回提案の最奥の部屋を贈与ではなく、泰叶自身が買い取る事。
そして、今回の映画出演の見返りとして、揚羽さんが稽古場として使っていた部屋を、自分達が住むだろう数年間は、無償で間借りする事。
そして、三部屋は、自由にリフォームしても良い事
この三つを映画出演の条件にした。
結局、烏丸家は圭吾の部屋に関しては引き続き、事務所同志の賃貸契約にしたまま、一番奥の一室を泰叶に相応の額で販売して手放し、中央の稽古部屋はそのまま事務所名義として、中の荷物を撤去して無人で放置する事となったのだ。
その改修・購入を、烏丸家のお抱えのリフォーム業者やらインテリアショップやらを通じて、撮影外の時間で手配していたら、二人が恋愛関係であると報じられたと言う事だ。
だけど、既にゴシップ慣れした二人は、「それはそれでいいだろう」と同じ結論に達した。
揚羽さんは今回の映画撮影の後は、出来るだけ作家活動に専念するために、女優としての活動を少なくして、後には休止する事を考えていた。だから泰叶との恋愛報道は、結婚準備とマスコミを避ける為に、自然に姿をあまり見せなくなると言うよくあるパターンの絶好のチャンスであったし、既にお膳立てされている結婚話を断るよい口実にもなったのだ。
泰叶からしたら、世間が私に目を向けて、私に何か危害が加えられる事が一番不安だったので、揚羽さんとの交際を否定も肯定もしない事で、報道の対象が私には向かない状況になることが、むしろ都合が良かったのだ。
そもそも揚羽さんは、基本的にボディーガード(実はこの人が学生時代からの同級生で彼女の恋人)が四六時中ついているので危険はないらしい。
それに、執筆活動に専念するので、外にはあまり出ない予定でもあるし、近々地方でゆっくり暮らそうと考えてもいるそうだ。
だから、泰叶の隣の一室を『烏丸家所有の部屋』として意味深に置いておけば、泰叶と揚羽さんはそこで逢瀬を重ねていると世間は勝手に誤解するだろうと言うのだ。
この、姉弟が初めての連携で作り出した状況は『掛かってる金額、おかしいよね?』という事以外は、実に上手く出来ているとしか言いようが無かった。
そして、その数日後、これは本当にただの偶然なのだけれど、週刊誌に、もう一つのスクープ記事が上がり、それはワイドショーにも飛び火した。
題名は『相場圭吾、熱愛発覚!?』
思わず誰よりも、「おっ?ついに??」と目を輝かせたが、次の瞬間、私は落胆した。
そこに掲載されていた写真は、男女が仲良く買い物をしている写真だった。
その他、二人で、夕焼けの下、買い物袋を持って笑いながら歩いている写真、男物の洗濯物を取り込んでいる写真、そして、取り込まれていたTシャツを着た笑顔の男が翌日道路から手を振っている写真。
---なんて事はない、私と圭吾のあの日の写真だった。
(あ~…、いつかお姉さんは、君の本当のスクープ写真がみたいよ!がんばれ、圭吾ちゃん)
だけど、これにすごく慌てた事務所からの指示で、私達は、即座に兄妹と名乗り、「安全対策として二人で同居する事になっちゃいました」と発表する運びとなった。
これには会社の女性からも散々に羨ましがられたり、家に遊びにきたいとか言われているが、何とか日々笑顔ではぐらかしている。
でも、これによりひとつだけ助かった事もあったのも事実だ。
高杉君が、泰叶と遭遇した事についての言い訳が容易になったからだ。
あの日以降も、体調が思わしくなかった私は、弟の圭吾に連絡を取ったが、圭吾がどうしても抜けられない撮影に入っていた為に、圭吾から依頼を受けた昔馴染みの泰叶がやむを得ず、私の様子を見に来てくれた、という事になったからだ。
もちろん、あの烏丸揚羽と恋愛報道中の泰叶だ。
私など、相手にしているとは誰も思わなかったようだ。
それはそれで、女としては複雑ではあるのだが、揚羽さんが相手では仕方がない。
「あかね、好きだよ、大好き!!俺、今、最高に、滅茶苦茶、幸せ!!!」
だけど、泰叶がそう言ってくれるのが今の私の全てだと言う事が、あの経験で分かったから。
「うん、そうだね、泰叶、私も好きだよ、大好きだよ!!」
今日も懲りずに三回致して、今も私のお腹の辺りをスリスリする泰叶を見て、つくづく思う。
本当に長い時を経て、私達も、ようやく、人並みの幸せを手に入れたのかなと。
あれからの日々は本当に平和だ。
泰叶の留守に、圭吾の部屋に入り浸って、ついつい世話を焼く私に、時々泰叶がベイダーモードに突入するくらいで、本当に平和そのものだ。
いつか泰叶はここも出て、私ときちんと結婚して、堂々と二人で暮らしたいという。
私も、その時には泰叶の隣で堂々と笑っていられるような、そんな強い女性になっていたいと思うのだ。
そして、あれから、一つ思い出した事がある。
それは、ずっとずっと昔の記憶。
泰叶のあのギター、受け取ったのは、そう言えば、私だった。
中学に入ったくらいの時、学校の帰り道、とても奇麗な顔をした背の高い男性から声をかけられた。
公園で泰叶と圭吾がお遊びでよく歌ったり踊ったりしていた事があった。
それを聞かせてもらったのだという男性。
その男の人が、車から二つのギターを取り出してこう言ったのだ。
「あの子達のお姉さんだよね、確か、圭吾くんと、…泰叶くん」
その問いかけに頷いた私に、男性は小さく微笑んだ。
「僕は長く、芸能関係の仕事をしていてね、あの子たちは才能があるよ、だから、僕の要らなくなったギターを受け取って欲しいんだ、こっちは圭吾君に、こっちは泰叶くんに、これは少し古いけどきっと彼には新しいもの以上に上手く弾きこなせる日が来ると思うから」
そして「ありがとう、…喜怒哀楽がちゃんとある、すごくいい歌を聞かせてもらったよ」
顔は上手く思い出せない漆黒の瞳のその人は、何故か「ありがとう」とあの二人にではなく、私に伝えるようにジッと私を見つめてそう呟いた。
セミが遠くに鳴く、夏の終わりの日暮れの事だったと記憶している。
圭吾に渡して欲しいと頼まれたギターは、まるで買ったばかりの新品のようだった。
そして、泰叶に渡して欲しいというのは凄く使い込まれたギターだった。
きっと、恭二郎さんは、玲一郎さんを傷つける為に、あのギターを泰叶に渡したのではないのだと今なら思う。兄弟がいつか、それぞれの歩んできた道の険しさとその意味を知る為に、諸刃の剣のような『絆』を残しておきたかったのかも知れないと、今はそう思えてならないのだ。
了
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