抱かれたい男の闇の深さは二人だけの秘密です!

たまりん

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後日談その2

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泰叶の恋愛報道から10日を過ぎていた。
あの日以降も、泰叶とは連絡がつかないままだった。

泰叶の事は信じたい。
いや、信じている。

――私たちの絆はそう簡単に他人が断ち切れるような薄っぺらなものではない

この間、不安に負けまいと、何度もそう自分に言い聞かせた。
だけど、そうやって踏ん張ってみても、私の心はまるで泥沼に落ち込んだようで、上手く足掻く事すらもできず、気持ちは下へ下へと沈んでいくばかりだった。


そして昨日、ついに映画がクランクアップしたとの情報を、泰叶からではなくテレビで知った。

華やかな衣装を身に纏ったまま、にこやかに、取材を受ける豪華出演者達。
その中央に立つ、泰叶と烏丸揚羽さんは、本当にお似合いだった。

二人ともサラサラの黒髪に、華のある日本人顔。
それが対に作られたであろう同じ時代の衣装をまとって微笑を浮かべる姿に、別世界の風景を眺めているようで、体が沈むような感覚に陥る。

(あぁ、本当にお似合いだな……)

自嘲しようにも、もはや笑みさえ浮かばない。
泰叶の恋愛報道直後に驚きのインタビューを受けていた街の若い女の子達からの反応の声が蘇る。

「ショックですよ!そりゃ、すごいショックです、でも烏丸揚羽ですよね?正直、あの二人なら納得かなって、だって凄いお似合いですよね!!」

「だって、揚羽でしょ?もう、なにを言ったって、揚羽なら仕方ないって感じしゃないですか?正直、TAIGAロスです!泰叶~」

泰叶の恋愛報道に驚きながら、悲痛な叫びをあげるファンも多かったが、その多くは相手に対しての、納得はしている。泰叶の隣に並ぶのが揚羽さんならば仕方ないという肯定的な声が多かった。

歌舞伎界に絶世の美女として生を受けた彼女。
才色兼備の名を欲しいままにして、舞台を主に、映画、朝ドラに登場して幅広い役をこなす彼女が容姿だけの女優でない事は周知の事実だ。
腰までの長い黒髪、意思を感じさせる長い睫に縁どられた涼し気な瞳。
すっと通った鼻筋、色気のある少し厚めの唇は艶やかで、抗いがたい魅力を持つ。
本物の芸を持つ女優で纏うオーラも気高く、そして美しい。

まさに歌舞伎界に咲いた大輪と呼ぶにふさわしい。
そして、そんな彼女の隣で微笑む泰叶も、彼女に負けることなく洗練されたスタイルが美しい。

そして、その会見が終わって席を立とうとしたところで、記者がルール違反を承知で質問をした。

「お二人は、映画の外でもご家族になるのではという報道がありましたが、それは事実でしょうか?泰叶さん、コメントをお願いします!」

泰叶は、その記者の言葉に一瞬足を止めて、揚羽さんと瞳を見合わせた。
そして、少しの間を置いて、唇を少しだけ吊り上げて、静かに答えた。

「……そうなるかも知れないし、そうはならないかもしれないとだけ、お答えしておきます、静かに見守ってください、僕達はもう大人なので」

そうほのめかすように答えた泰叶は、その秀麗な顔で、揚羽さんの父である、烏丸恭二郎を振り返った。
その瞬間、会場がざわついた。

その後も、記者から我も我もと質問が飛び交っていたが、その後の質問に答えるものは誰も無く、俳優陣は奇麗な笑みを浮かべたまま会場を後にした。


それを見つめていた私はもはや立っていられなかった。
体中の力という力が抜け落ちて、ペタンと座り込んで、息をする事にだけ集中した。
心に穴が空いたような、虚無感に襲われる。
それなのに、自分の中で消化ができない鉛のような重さが苦しくなる。

(なんで………?)

―――泰叶は、否定をしなかった





「相場さん?…顔色、悪くないですか?大丈夫ですか?」

翌日、パソコンの手を止めてしまっていた私は、営業部の男性社員から声をかけられて我に返った。

「あっ、…ごめんなさい、大丈夫、何か用だった?」

手を付けていた資料の作成の手を止めてどれくらいの時間が経っていただろう。
理由がはっきりし過ぎていて、こんなのは自分らしくなかったと、内心顔を歪めた。

「疲れてるんじゃないですか?」

そう眉を寄せて問いかけられて、曖昧な笑みを浮かべる私に、確か二つか三つ年下のその彼は心配そうに言葉を続ける。
昨夜は一睡も出来なかった。
でも不調の原因は寝ていないからだけではないだろう。
心が悲しみでいっぱいになり、耐えられない寂しさに襲われていた。

(泰叶は、……もう、私のところには帰ってこない?)

そう思うだけで、魂が慟哭するかのような激しい不安に襲われるのだ。

「…沖田部長に、もし相場さんに余裕があれば、この資料の修正をお願いしてくるように言われたんですが、……でも、やっぱり、いいです!今日は僕がしますから」

「えっ、でも、高杉君も他に何かやることがあったんじゃない?」

そう聞く私に、高杉君は首を横に振る。

「いいんです、僕が今やってる仕事は、実を言うと一週間以内に片付けてしまえば大丈夫なものなので、それよりも相場さん、もうすぐ定時ですよ?たまには早く帰って休まれてはいかがですか?僕で引き継げる仕事だったら、喜んで引き受けますよ?相場さんはいつも営業部の救世主ですから」

「そして、実は僕の憧れの人でもあるんですけどね」って、ちょっと照れたように笑う高杉君に私は力なく微笑みかけた。

「ははっ、私なんて、大した役には立ってないよ?大丈夫、今してる仕事はちゃんとできるから、でも、ごめんね、それがそんなに急ぎじゃないんなら、また、明日にでも私、するからそこに置いておいてくれたらいいよ?」

そう言って、立ち上がって、机の一角を指し示した瞬間、私の視界はまるで渦を巻くように歪んだ。

(えっ、なにこれ……嘘でしょ……泰叶……)

病状は、何てこともない、物語上ではよく聞くあれだ。

――過労と心労

そして、そのどちらが重症かなんて考えるまでもなかった。
きっと極度のストレスと睡眠が圧倒的に足りていなかった事が原因だ。

「ごめんね、二人とも、忙しいのにこんなことで迷惑かけちゃって…」

不甲斐なく、眉をハの字にした私に、後輩二人はとんでもない、と首を横に振る。

「そんな、気にしないでください相場先輩!」

「そうですよ!今は、安静にして早くよくなってください」

そう言って、ベッドに横たわった私を上から涙目で覗き込む男女二人の後輩。

(いや、私、不治の病とかじゃないよね?)

大袈裟な心配に、いらぬ不安が少しだけ頭を過った時、後輩の女の子、奈津子ちゃんが言った。

「やっぱり、ご家族には連絡しておいた方がいいですよね?先輩、確か弟さんが都内に住んでるって言われてましたよね?私、電話するんで、連絡先教えてください!あっ、職場の電話番号でもいいですよ?」

そう言われた私は固まった。

(いる、いるね… 弟、でも、言う訳にはいかない。流石に迷惑をかけてしまうから…)

「あ~、ありがとう、で、でもね、大丈夫だよ?特に病気って訳でも無いみたいだし、しっかり寝て、しっかりと休んだら、きっとすぐに良くなると思うから…」

「でも、…ご飯だって、やっぱり栄養つくもの食べてほしいですし…」

そう言って、心配してくれる奈津子ちゃん。

(ありがとう、でもね、話がややこしくなるから…、圭吾はダメ…)

もし、連絡があって、私が倒れたと知れば圭吾はすぐに駆けつけてくれそうで逆に怖い。
変に律儀なところもあるから、最悪、現場に穴を空けてしまうのではないかと思うとひやりとした。

そして、もしも、ここで後輩のこの子達と、ご対面という事にでもなったら、後の話が厄介過ぎるだろう。

そんな奈津子ちゃんに、高杉君が言った。

「取り敢えず、僕達で、数日間の食糧だけは確保してから失礼しようか?僕、女性の好みはよく分からないから、君が何か日持ちのする食糧で出来るだけ栄養のあるもの見繕って買って来てくれるかな?」

高杉君のその言葉に素直に奈津子ちゃんは頷いた。
そして、「行ってきます」と言って、部屋を後にした。
取り敢えず、圭吾に連絡という話が立ち消えて私はホッと息を吐いた。

「……先輩、大丈夫ですか?」

そう言って、私のおでこに手をあてた高杉君は、少し表情を曇らせた。

「熱がでてきているかもしれませんね」

そう言って、一度寝室を出ていった高杉君は氷の入ったボウルとハンドタオルを持って帰ってきた。

そして、冷たく浸して絞ったタオルを私の額に乗せてくれた。
その献身的な仕草に思わず苦笑する。

「ありがとう、高杉君は随分気が利くんだね?」

そう言われた高杉君は、少しだけ恥ずかしそうに笑った。

「昔、僕、体が弱くて、姉によく看病してもらった事があって…、それで…」

そう言って頭を掻く高杉君の昔を想像すると、まだ小さかった泰叶や圭吾の昔に重なって私は、笑みを漏らした。そう言えば、年の頃も同じくらいだなって思う。

「そうか、お姉さん、可愛かったんだね、高杉君の事…」

そう言って、笑う私に、高杉君は恥ずかしそうに笑った。
他愛もない話をしていたら、買い物に行ってくれていた奈津子ちゃんが戻ってきた。
それを二人で取り出して、収納場所やら食べる順番やらを示された私は苦笑した。

「あはっ、分かったから、…ありがとう、もう、大丈夫だから、本当に私ったら不甲斐ない先輩だね、今日はありがとう、もういいよ?大丈夫だから、遅くならない内に帰らなきゃ?」

そう言って、私は笑顔を見せて彼らの帰りを促した。
レトルトおかゆを食べさせてくれた奈津子ちゃんが食器を洗ってくれている間、荷物を片付けていた高杉くんが、私の顔をジッと見つめて言った。

「……また、来ても、いえ、また来させてもらいます。…先輩の容態がよくなるまでは」

(えっ?)

「いやっ、ちょ、高杉くん?」

意味が分からなくて、問いかけようとする私から、脱兎のごとく部屋をでる高杉君。
一度姿を消したと思ったら、ドアの前で顔だけ出して、言い残した。

「早く、良くなってください、その時は、ちゃんと断ってくれてもいいですから」

「……えっ?それって」

(どう、とらえたらいいのかな?高杉君…)

熱と、もう一つの大きな心労でもはや私の精神は飽和状態だった。
これ以上、多くのことは考えられそうにもないから考えるのはやめた。

そしてようやく一人になった私は、フッと息を吐いた。

(泰叶………)

心の中で、その名を呼ぶと、悲しみが胸を振るわせる。

(泰叶、泰叶、泰叶………)

それでも、その名を心で繰り返す。
しんしんと沸く悲しみを抱くように、自らの身体を抱きしめて、その日は一人の夜を懸命に耐えた。
涙がポツリポツリと流れ落ちて枕を濡らす。

翌朝になっても、起き上がる気がしなかった。
頭が酷く重い、熱のせいだけではないだろう。
気持ちが沈み過ぎて、もはや体が動かなかった。

昨日の時点で今日は休みを言い渡されていて、そのまま土日の休みに入る。
迷惑をかけてしまったけど、タイミング的には有難かったのかもしれない。
こうして、暫くゆっくりすれば、またいつものように過ごせるようになるだろうか?

泰叶のいない毎日を……
きっと、私はもう、泰叶の姉にも戻れそうにないけれど。

「あっ……」

時間を確かめようとして、携帯を手に取ると携帯はいつの間にか電源が落ちていた。
充電しようかと迷ったけれど、私は敢えてそれをそのままにした。
泰叶からの連絡を待つ日々に疲れていた。
電源が入っていたら、待ってしまうから、このままでいいのかもしれない。
いつか、きちんとケジメをつけなければならないのだろうけど。

泰叶と最後に会ってから、一月以上が経過していた。
その間に、泰叶はついに私から卒業したのかもしれない。

泰叶の姉にはもう戻れない。
だけど、最後だけは、姉の顔をして笑ってあげる事ができるだろうか。
それだけの、強さだけは自分にも残っていて欲しい。

―――だけど、やっぱり今は寝よう

起きているのが苦しいのだ。
意識がある事そのものが自分を苦しくするのだ。
私は、涙で濡れた睫を合わせて自らの身体を必死に抱きしめた。
そうして、暫くすると意識が遠のいた。





「茜、茜?……あ・か・ね!」

「………ん?」

泰叶の声が聞こえた気がした。
目の前には、いつぞやのベイダーモードの泰叶がいる。
明らかに薄暗く怒りを秘めた瞳、今にも私を射殺しそうな、少し引き攣った物騒な顔。

―――あぁ、これは夢だな

そう思って、苦笑する。
いい思い出なら沢山あるのに、思い出すのがこんな怒りの色を表した面影だという自分に呆れる。なんだかんだと執着されていた頃が嬉しかったのかなと、自嘲するしかない。

「………茜、あの男だれ?」

―――あぁ、あの時と同じこと言ってる

私は、答えずに、目を自分の腕で覆った。
だけど、その手は払いのけられて、手首をギュッと掴まれた。

(えっ………?)

私は、その感触にリアルなものを感じて、目を見開いた。
そこには怒りを隠そうともしない薄暗い黒曜石の瞳があった。

「………あの男、誰?」

「……たいがっ、なんで?」

「答えてよ、茜!あいつ、こんなもの置いて行こうとしてた!!」

「えっ??」

そう言って泰叶が、デパ地下の食材の入っているらしい袋をひっくり返して、そこから数点の食品が音をたてて落ちる。
そして、添えられたメッセージカードを突き付けられる。
中々合わない視点を懸命に合わせるとようやく何やら文字が文字として見えてきた。

≪相場先輩へ
調子はいかがですか?
少しですが、食材を置いておきます。
頼りない僕ですが、よかったらいつでも頼ってください。
プライベートの携帯番号です。 高杉≫


「……ぅん?たかすぎ、くん?」

その言葉に、不機嫌に顔を歪めた泰叶はもう一度問いただした。

「……だれ?」

「…………後輩だね、会社の、っていうか」

―――この状況なに??

次の瞬間、両肩を押されて、ベッドに仰向けに倒されていた。
剣呑な瞳をした泰叶が私の両肩を押し付けるように、私の上に跨っている。

「なっ……な、な、な」

―――なにっ???

「全く油断も隙もないね……」

「へっ?」

「………俺が、一体、どんな気持ちでこの一カ月を耐えたのか、茜は全然分かってないね?」

「ふぇ??」

そうして、ギュッと抱きしめられた。

「……あの男、誰?誰であっても、俺、絶対に茜の事、離さないから!!」

「……泰叶?」

(離さないって、言った?今、離さないって……)

私は戸惑うばかりだった。
泰叶から伝わってくる、怒りと熱量は旅立ったあの日と変わらない。
いや、むしろ怒っている分、執着度が増し増しに思えたからだ。

「………どうして?」

「なにが?」

「どうして泰叶が私のところにいるの?……戻ってきたの?揚羽さんは?」

「……………」

半信半疑のパニック状態から抜けられない私がそうポツリと口にした瞬間、泰叶は目を見開いて固まった。漆黒の瞳で信じられない、とばかりに私を凝視する泰叶に、私も疑問に顔を歪めたまま固まっていた。

どれだけ見つめ合っていただろう。
信じられないとばかりに固まっていた泰叶の顔が激しく歪んだ。
その瞬間、肩を掴んでいた指先にギュッと力を込められた。

怯えた目をして固まる私を氷のように冷たい眼差しで見下ろす泰叶。
表情のない顔で泰叶は私に問いかけた。

「………あかね、もしかして、とは思うけど、あの馬鹿げた報道、真実だって思ったの?」

「えっ………、だって、泰叶、否定してなかったよね?」

「……………」

泰叶は、絶句していた。
まるで裏切られたと言わんばかりの顔で私を見つめる。

「………あかねは、俺の気持ち、やっぱり全然分かってくれてなかったんだね?」

「…え」

泰叶は、私の肩をギュッと掴んだまま俯いた。
その腕がプルプルと震えている。

(こ、怖いよ?泰叶……)

「えっ、…だって、違うの?」

「それで、あんな男の入り込む隙を与えたの?」

「はっ?」

「………この部屋、茜の匂いだけじゃ、なくなってる」

「え………」

私はギョッとして周囲を見回した。
身に覚えがあるとしたら、圭吾と、昨日の………

「あっ、それ、きっと、圭吾と、後輩達だよ、さっきいたって言う、きっと心配してきてくれたんじゃないかな?昨日、会社でちょっと調子崩して迷惑かけちゃって、その後、送ってくれたから」

「この部屋に?」

「う、うん、そうだけど、って、何もないよ?女の子の後輩だって一緒だったし!?」

「……………」

その言葉を聞いても泰叶はまだ剣呑な瞳で私をみつめている。
あの男って言う事は、きっと私が寝ている間に、訪れた泰叶と高杉君が玄関で鉢合わせしたって事だろうか?

―――それって、まずくない?

「……高杉君、来てくれてたんだ?泰叶、会って話したの?」

その問いかけに、怒りの籠った顔が、もう一段階薄暗くなる。

「ベルを鳴らそうか、置いて行こうか挙動不審な態度してたから声をかけた。そしたら、滅茶苦茶びっくりした顔をして、これを置いて逃げていったけどね」

―――絶対ダメなやつじゃん!?それ……

私は気が遠くなりそうだった。

「…………という事で、もう、この部屋にはあかねを置いてはおけないね」

「えっ……?」

「………今すぐ連れて帰りたいけど、俺ももう我慢の限界だから、今日だけはここで許してあげる」

「えっ、ちょ、ちょっと待ちなよ?泰叶???」

突然頬を舐められて、耳に熱い息をかけられる。
左手は不埒に服の上から私の胸を揉みしだく。

「や、やだよっ!泰叶!?ちゃんと説明して!?」

そう強請る私の頬に長い指を絡ませて、私の顔をジッと見る泰叶は既に余裕など全くない男の顔になっていた。

「やだ、……待てない、俺もう、重症のあかね欠乏症患者だから、ムリ」

そう言って唇を塞がれる。

「んっ、や、だぁ……泰叶」

一度、離れた唇は角度を変えて再び合わされ、抗議の悲鳴をあげた瞬間、舌が割り入る。
クチュクチュと舌を絡められながら、頭を撫でられる。

「んっ、ん、ん……」

私の顎の角度を自由に変えながら、泰叶の舌は私の口内を蹂躙する。
私を抱きしめる腕にギュッと力が入り、太ももに張り詰めた固く大きな熱をもったものがあたる。

「たい、…がぁ…」

「茜、茜、………逢いたかった」

「うん………」

もはや、意味が分からないが、一つだけ分かる事がある。
泰叶の私に対する熱は、少しも冷めてはいないこと。

「うん、……泰叶、私も、逢いたかったよ?」

「ほんと?…ほんとに」

「うん、……泰叶、私、寂しかった、寂しかったんだよ?」

涙目でそういうと、その瞬間泰叶は大きく目を見開いた。
そして、複雑な顔を歪めてギュッと私を抱きしめてくれた。

「あぁぁ、こんな茜、一人にしてたなんて、俺は馬鹿だ!!これで茜を他の男に盗られてたら、あの女、絶対、殺してた!」

そんな意味の分からない黒い呟きが聞こえた気がしたけど、感無量の様子の泰叶は、私の部屋着の上を脱がせて、ブラのホックを手早く外して、私の胸に顔を埋めた。

「はぁ、茜だ、茜の匂いだ、茜の柔らかさだ……」

そう言って、ふんふんと匂いを嗅ぎながら、私の胸を舐めたり吸ったりする泰叶の姿はまるでマーキングをしている犬のようだ。

「あんっ、泰叶、……くすぐったいよ」

そう言って、非難すると、再び唇を塞がれる。
そして、不埒な手は性急に、私の蜜口を探し当てる。

「あっ、たいが…」

その動きに期待して、火照った体の下肢がびくびくと身悶える。
私の身体は確かに泰叶を覚えてる。
匂いも、熱も、息遣いも、その指の優しさも……
淫液を溢れさせたそこは、容易く泰叶の指をチュプンと受け入れる。

「あかねっ、しっかり濡れてるね、気持ちよさそう…」

そう言って、出し入れされる指を感じながら、ひくつく女陰。
同時に充血した花芽を親指で強く押されて、淫靡な声が溢れ出す。

「あっ、…っ…ああっ!」

今、私の内部は、泰叶の指に触れられて悦びに打ち震えている。
止めどなく溢れてくる淫液を掻きまわしながら、二本に増やされた指が私のお腹側の一点を容赦なくぐりぐりと攻め始めて、我慢が限界を超えそうになる。
同時に、泰叶の唇に胸の頂を口に含まれて、舌先で立ち上がった乳首をくるくると攻められる。

「あっ、たいが、ダメっ、い…ちゃう……」

その瞬間、視界が明滅して、体が痙攣する。
そんな私をギュッと抱きしめて、泰叶は体を離して、焦れたように下半身を寛げた。
時を惜しむように、避妊具をつけて、私に覆いかぶさる泰叶。
その漆黒の瞳は欲で揺らめいている。
その色を含んだ美貌に改めて息を呑む。

「……あかねっ、ごめん、もっとゆっくり愛してあげたいけど、余裕がないから、取り敢えず一回出させて?」

そう言って、押し当てられたはちきれんばかりの熱にぶるっと身悶えた私は、それを受け止める。

「あっ、たいが……」

懐かしい熱が体を満たすように隘路を進み、物足りなかった場所を満たし、同時に心を満たす。

「はぁ、あかね……」

繋がった泰叶は苦し気に顔を歪ませながら、私の唇を貪った。

「あかね、あかね、あかね……、やっと戻れた」

そう繰り返しながら私を穿つ大きな熱の塊。
それをとめどなく溢れる蜜で歓迎する私の身体は、すでに泰叶の為に存在するかのように淫らに作り変えられているようだ。
泰叶の動きに合わせて、切なげに収縮を繰り返す。

「あかねっ…」

深すぎる快感に慄く私の奥をぐるりと輪を描くように腰を回し責め立てる泰叶。

「あっ、たいがっ、たいがっ、気持ち、いいのぉ!」

「うんっ、あ、かねっ、俺も、凄い気持ちいいよっ、あかねのが凄く絡みついてくる」

「あぁぁぁ、泰叶、何か、きちゃう、でも、もっと……」

「うんっ…」

「もっと、ほしいのぉ!」

「うんっ、あかね、もっと、もっとあげるね?」

そう言って泣き濡れながら強請る私の腰をギュッと掴んだ泰叶の太くてみっしりとした熱の塊がより一層重量感を増した。汗の雫が宙を舞う。

「はっ、あぁ、おっき……」

「あかねっ、いくよ?」

精悍な眉を寄せた泰叶は、立て続けに腰を打ち込む。

「…っ…ああっ!…たいがっ、もう、限界っ…」

「いい?いいの、あかねっ…?」

「たっ、いがぁ~」

「あかね、俺もイクね…っ…」

ひくつくように打ち震える私の中で、泰叶の熱が弾けて、私の子宮は肉茎に絡んで泰叶の子種を搾り取ろうと蠢く。

私達は抱き合ったまま、お互いの激しい息遣いを感じながら抱きしめ合った。
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