抱かれたい男の闇の深さは二人だけの秘密です!

たまりん

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抱かれたい男の闇の深さは二人だけの秘密です!前編

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 未だ煩く蝉の鳴き続ける、残暑の残る夕暮れ。
西日を受けながら、カタカタとキーボードを叩く私は焦れた声に手を止める。
「相場さん?まだしばらくかかりそうかな?さっきお願いした修正案、クライアントからせっつかれててね…」
低姿勢にこちらの機嫌を伺うような、本当に困った様子の上司の声に、再び手を動かしながら、画面を睨みつけた私は声だけで応える。

「もう少し、もう少しでできますから!そうですね、入力にあと5分、念の為、見直しと修正にもう10分だけいただけますか?」

私のその言葉に、上司の声が途端に明るくなった。

「そうか?助かるよ、それでは先方にあと30分ほどでメール送信できる予定だと報告しておくよ!頼んだよ!?」

「了解しました!!」

その後、急に頼まれた先ほどの修正資料を完成させて、なんだかんだと、他の案件の処理も頼まれつつ、後回しになっていた自分の通常業務も終えた私は、19時を過ぎたのを確認して、帰りの支度を始めた。

「いやぁー、相場くん、いつも突然で悪いね。あれから、先方とオンラインで打ち合わせしたら、そのまま修正案が通過して、今日付けで本契約OKをもらえたよ」

「そうなんですね、良かったです!」

ホッとした様子の上司にニコリと微笑み返して、鞄を持ち上げた。

「あぁ、本当にありがとうね、君の資料はいつも細かいところに気が利いていて、分かりやすいってクライアントからも評判なんだよ。良かったら、お礼に夕飯でもご馳走するけど、一緒にどうだい?」

 部長の後ろには、営業部の男性社員たちがニコニコとして頷いている。どうやら今から、皆で契約成立を祝うという名目で恒例の飲みに出かけるらしい。
私は、小さく笑って、部長に謝った。

「すいません、部長、お気持ちは嬉しいのですが、今日は予定があるのでお先に失礼します」

「あ~、そうかい?それは残念だね、今度はぜひ付き合ってね?」

「はい、ぜひ」

その瞬間、部長はじめ、後ろにいた営業部の面々も少し残念な顔をした。それに若干の罪悪感を持ったものの、私は、一礼して事務所を後にした。

 地下鉄に乗り込み、時計を見つめる。
 電車の中では高校生達が今日のドラマの話をして盛り上がっている。

「あっ、テレビ欄チェックしてる?TAIGAのドラマでしょ?うちも見てる見てる!」

「めっちゃ、恰好いいよね?あのストーリーも最高だし、主題歌も配役も全部最高、もう神!!」

「なに、綾香、あんた前までKEIGO派って言ってたじゃん!」

「うん、KEIGOは今でも本命で、TAIGAは王子様、だって不落の王子って言われてるじゃん?」

「なんだよそれ?」

「だから、KEIGOはリアルな理想で、TAIGAは異世界的な?」

年若いお仲間達の会話に、内心でくすっと笑いながら、二駅目で降りた私は、小走りに家路を急いだ。

 別に、誰かと約束があるわけではない。目的は彼女達と一緒、家に帰って、テレビにかじりつく為だ。
 
最寄りのコンビニの前を通り、もう一度時計を見る。

「うん、間に合う!」

そう判断した私は、手早く、ビールに弁当、お菓子を数種類、そして一冊の雑誌を手にしてレジに向かう。

 そうして、家に辿り着いた私は郵便受けに入った運送店の不在表を手に取る。宛先は私の名前、相葉茜で、依頼主は相場圭吾。弟からのいつもの土産だと認識して「相変わらずまめな奴だな」と小さく笑う。圭吾は今週、九州でロケだと言っていたからそこから恒例のご当地グルメを送ってくれたのだろう。
『後で、運送店に再配達の依頼しなきゃな』と思いながら、鍵を開けて我が家に入る。
 
 部屋に入り、買ったもの全てをテレビの前のローテーブルに広げ、テレビの電源を入れて目的のチャンネルに合わせた後、手早くスーツを脱ぎながら、浴室に向かった。そして、女性にはあるまじき速さでシャワーを浴びて、大き目のTシャツと短パンに着替えた私はテレビの前の人をダメにするクッションに背中を預けて、プシュッとビールの蓋を開けた。

「はぁぁ~、間に合った、よかったよぉ♡」

現在、時刻は20時だ。
19時過ぎまで仕事をしていた事を考えると、今、この状況でここでお風呂も済ませて寛いでいる行動の速さは、会社にいる時以上ではないかと思う。

(よくやったよ、私!今日も一日よく頑張ったよ!!)

それもこれも、愛の成せる技なのだ!

私は、頭の中に、昨日から叩き込んでいる本日のテレビ番組一覧表を思い浮かべた。
20:00からは、今から始まる泰叶たいがのドラマ
21:00からは、圭吾《けいご》の司会を務めるバラエティ番組
22:00からは、二人が同時に出演するはずの料理番組

 バラエティ番組と料理番組が地味に30分ほど重なるのが実に悩ましいところだ。苦肉の策で、圭吾のバラエティ番組の途中からは、一旦打ち切って後で、録画で見る事にする。

 TAIGAこと夏目泰叶と、KEIGOこと相場圭吾は、5年前に路上やライブでの歌唱力と人気を評価され、スカウトによりデビューした現在23歳の同級生ユニットだ。

 誰もが知るところとなったのは、3年ほど前からで、その人気ぶりは今や本当に凄まじく、現在では泰叶は「不落の王子」などと呼ばれて、多くのドラマや、CM、国民的時代劇でも主役級の役で活躍している。

 そして演技は少し残念な圭吾はその愛嬌と軽快なトークで親しみ易さを最大限に活用してバラエティ番組に引っ張りだこなのだ。

 まだシャワーの熱の残る体を、2、3口ゴクリと飲み込んだビールで潤したところに、先週の場面からドラマが始まった。

(待ってましたよぉ♡)

私は前のめりになるくらい画面にくぎ付けになって先週からの展開を見守る。

 泰叶が演じるのは、本当は純粋で少し悪ぶっている翔真役。そして相手役の菜々美を演じるのは今を時めく若手人気ナンバーワン女優の泉真矢だ。小動物系のウルウルした目が可愛くて庇護欲をそそるのに、どこか真の強さを感じる演技が大変に好評なのだ。

 ドラマが始まり、私の世界は完全に別世界に移行する。

「…そうじゃないの」
真剣に見上げる黒くて大きな瞳。
(うん、ナナちゃん今日も可愛いね。)
「あ……?」
冷たく見下ろす、傷ついたような泰叶の瞳。
(く~、そうなのよね、君ってば、最近ではそんな顔もできちゃうのよね!)
「だから、そうじゃないの!」
必死に縋るように声をあげるナナちゃんの声に僅かに変わる泰叶の瞳の色。
「だから、何、……お前、一体なんなの?本当に苛々すんだよ、もうここには来るな」
そう言って、背を向けた長身の翔真。その白いシャツの腰の部分に必死にしがみつくナナちゃん。
「いかないで、お願いだから、私、ずっと……」
「離せよ……」
「ずっと、我慢してた、……翔真は好きになっちゃいけない人だから!」
「……?」
前を向いたまま訝し気に眉を寄せる翔真。
「私は、きっと恋なんてしちゃいけない人間だから!!でもっ、それでも、それでもやっぱり、私…」
どういう事だと、困惑の表情で彼女を振り返る翔真。
それに対して苦渋の表情で口を開くナナちゃん。
「すごい、我儘でごめんね、わたし」
「……」
「……例え、来年の桜が一緒に見れなくても、それでも私、やっぱり、どうしたって翔真が好きだよ。私の事……忘れないでほしい、忘れてなんて欲しくない」
一杯に見開いた瞳で翔真を見つめる瞳からは大粒の涙がポロポロと零れている。
その姿に困惑したように立ち尽くす翔真。
ついにヒロインは≪不治の病≫であるとの真相を告げたのだ。
その純粋で、痛々しくて、不毛な状況に私はツンとなる鼻をすすった。
(やばい…、これやばいよ…)
「おまっ、それ、どういう意味だよ?」
そう戸惑う翔真に、泣きながら微笑むナナちゃんはポツリと言った。
「……キス」
「は……」
「…してくれたら、話す」
その言葉に目を見開く翔真。
「話すから、お願い翔真……、行かないで」
雨に濡れながら、目を閉じて待つヒロインの僅かな震えに気付く翔真。
動揺を隠せないまま、静かに屈み、華奢な肩に手を伸ばす翔真。

(行け、翔真、ここでやらなきゃ男じゃないよ!)

ルルルルル…

その時、携帯が着信を告げた。
私は、眉を寄せて、目の前にある携帯を見つめる。
画面に映し出された、泰叶の文字

(…………今?)

見て見ぬふりをしようとして、そのままテレビ画面を見ようとするも鳴りやまない着信音。

(どうしても、……今?)

翔真の後頭部側から映し出した、唇と唇を重ねているだろう影を映しだしたテレビ映像。
きっと、この場面と、次に続く場面がこのドラマ最大の山場のはずだ。

(だけど……)

ルルルルル…ルルルルル…
鳴りやまない、着信音にちっと舌打ちをしながら、私は仕方なくその携帯を取った。

「もうっ、なにぃ??」
「でるのおそっ!!」

開口一番そう言い合った私は、不機嫌に言い放った。

「ちょっと、泰叶?あんた空気読みなさいよ!!今、いいところなんだから!後じゃ駄目?」

「駄目、どうせ、俺の出てるドラマに釘付けになって、馬鹿みたいに涎垂らしてたんだろうが?」

「そうそう、そうでございます!そういう事だから!あとでね、じゃあね!?」

「馬鹿、だから、ダメだって言ってんだろう?切るなよ!!」

「は!?なんでよ??用があるなら、また後でかけてきなよ、私、今日は一時頃までなら、起きてると思うから!」

「待て、俺は、それまでずっ~と仕事なの!今、海外でロケ入ってるから!!」

「…えっ、そうだっけ?」

「そうだよ!ちゃんと行く前言っただろ!?」

そう言われた私は、仕方なく、テレビ画面を見つめながら、話を続ける。その間、向こうの天気はどうだの、撮影に何時間もかかっただの、土産は何がいいかだのと今はどうでもいい話を続けてくるのを内心恨めしく思いながら、全然感情移入できないドラマの画面を見つめると、ずぶ濡れになった二人が薄暗い部屋のベッドに横たわって何やらいい雰囲気になっている画像が流れる。

(もう、本当に勘弁して欲しい、折角いいところなのにぃ!)

そう思ったところで、ハッとした私は、顔に意地悪い笑みを浮かべた。
そして揶揄うように口を開いた。

「なに?泰叶、あんたさぁ、もしかして、私に見られるのが恥ずかしかったから態々このタイミングで電話かけてきたの??」

私のその言葉に、受話器越しにうっと、気まずそうな絶句が届いた。その反応に、おやおや、まぁまぁ、これはこれはと、私はニヤニヤしながら、更に追い打ちをかける。

「まぁねぇ、分からなくもないけどね…」

「え……?」

「だってさ、家族みたいなもんだもんね、私達」

「は…?」

「俳優の気持ちって私よく分からないんだけどさ、家族にラブシーンみられるってやっぱ照れちゃうもん?大丈夫だよ~?おねえさんは、ちゃんとそれが泰叶ちゃんの大切なお仕事だって分かって、こうやって毎回しっかり応援してるんだから♡」

「ば、馬鹿にしてんじゃねえよ!?」

電話越しに、揶揄われて不愉快に声をあげる泰叶。
その初心な反応にふっふっふっと嗜虐心を擽られる。

こんな馬鹿話をしていると、少しだけ昔に帰ったみたいで懐かしい気持ちになる。

「してないよぉ!だって、泰叶ちゃんは、今では押しも押されぬイケメン俳優様だもんね?今年の抱かれたい男ランキング上位入り間違い無しって言われてるもんね?きっと綺麗な女優さん達だって、もしかしたら男性俳優さん達だって、入れ食い状態だもんね?」

「は…?するかよ、しかも男って、変なイメージで、下品な事言ってんじゃねえよ!信じらんねぇ!!」

「下品な独身女でごめんあそばせ?それでは私、引き続き視聴予定がございますので、この辺で」

「あっ、待て!待てって!!」

「もうっ、だから、何??」

「…してねえから」

「はい?」

「だから、その、……ドラマでのさ」

「ん?」

「……キス、とか、その触ったり?とか、いや、そりゃ、そういう体勢保つ関係でちょっとは触ったけど、けど、全然、そんなんじゃないから!!」

「……へ?」

その思わぬ可愛らしい言葉に思いっきり毒気を抜かれた私は、その後込み上げた笑いを隠せなかった。

「ふっ、ぷぷぷっ、たくぅ、何を焦ってるのかと思えば、はいはいはい!」

お腹が痛い、腹筋が苦しい。

「もうっ、ほんと、泰叶ちゃん!あんた、今年いくつになったと思ってるのよ?
もうお姉様から不純異性交遊で怒られたりする歳じゃないでしょ?あははっ、やだ、可笑しい!今のは最高、正直、久々にウケたわ!!ほんと止めて、くくくっ、お腹、痛いから」

「は?不純異性交遊って…」

「ふふふっ、もうダメ…」

 そういえば、そんな事もあったなと昔を思い出す。
まだ、中学を卒業したくらいの子供の名残が残る泰叶が、弟の部屋に女の子を連れ込んで、事に及ぼうとしていた事があった。多分、未遂だったのだと、思う。

 当時私は、それを見て真っ青になって激昂した。

 だって、私の感覚では、流石にまだ早いだろうと思ったし、避妊の知識すらあったのかなかったのか怪しいほど泰叶はまだ幼かった。そして父親や男兄弟がいる訳でもない泰叶には、性に対する正しい知識を教えてくれる人も周りにはいなかったはずだ。

 だから取り敢えず女の子を返した後に、私は当時の私で思いつく限りの説教をした。
そんな事も今となっては懐かしく感じる。
あの頃の泰叶は突然訪れた反抗期みたいに頑なになっていて、凄く生意気だったなと、苦い笑いが込み上げる。

 泰叶は弟の圭吾と同級生の幼馴染で、私達は、団地で家族のように一緒に育った。

 我が家は父と母が別居していて、母は仕事を持っていた為、あまり家にはいなかった。
でも、我が家はまだましだった。
泰叶はいわゆる欠食児童だった。
いや、最低限、食べるもののお金だけは置かれた状態で、唯一の家族である母親はほどんど帰って来ない家でいつも一人きりだった。

 私達の出会いは、私が小学4年で、泰叶と弟の圭吾が小学校に入ったばかりの頃だった。

 まだ幼い圭吾の喜ぶ顔が見たくて、パンにハムやキュウリをマヨネーズと一緒に挟んだりと少しずつ、料理とも言えない料理を覚え始めていた頃、弟の手を引いてスーパーからの帰り道、いつも団地の前で一人膝を抱える男の子がいた。
それが泰叶だった。

「あの子、またいる、もう暗くなるのに」
「……あれ?泰叶くんだ、同じクラスなの。おーい、泰叶くーん!!」

 その年、偶然圭吾と同じクラスに入学していた泰叶は、私達と同じ団地の二つ隣の部屋に引っ越してきたばかりだった。シングルマザーの母親の事情でついてきた泰叶は、知り合いも、母親もいない寂しい部屋で一人残されていた。

 私は、まだ幼くて寂しそうに佇む泰叶を見ていられなかった。泰叶に「307号室にいます」と言う、書置きを玄関の前に置くように言って、まだ幼い泰叶を昼夜関係なく頻繁に家に連れて帰るようになった。
そして、その書置きはいつの間にか常時利用される事になった。

 その頃から、まるで二人姉弟から三人姉弟になったような生活が始まった。

「おぉ~、すっげぇ♡」
「うっまそぉ♡」

合計4つの無垢な瞳に見守られながら、得意顔で作られた私の料理は、今にして思えば、本当に大したものではなかった。

無造作にちぎったレタスにおにぎり用の塩昆布をかけて卵かけご飯のおかずにしたり…
トーストにハムとマヨネーズを塗ってトースターで焼いたり…
買ってきた焼きそばをホットプレートで塩コショウで炒めて食べたり…
なにせ、危ないとの理由でトースターとホットプレートを使う事しか許可されていなかった頃だから、作れるものも限りがあった。でも、我が家の小さな男の子達はそれをご馳走を食べるように笑顔で食べてくれたから、今もその頃の思い出は私の中で、辛いものではなく、むしろ楽しくて幸せだったものとして心に残っている。

 そして、そんな日々は、当時私が思っていたよりもずっとずっと長く続いてきたのだ。

 それでも、時というのは留まる事を知らない。
変化は必ず訪れる。可愛い弟達との別離は私が高校を卒業してから意図しない形で訪れた。

 高校の頃、私は初めての恋をした。
それはずいぶんと遅い初恋だった。

 それはきっと今にして思えば、芸能人や手の届かない人に憧れる感じのふわふわした感じの恋だった。

 高校二年になってから、バスケ部の同級生に好意を持った私は、時間があれば体育館に行って、その姿を見つめていた。バスケ部は強豪で注目を集めていたし、その人も長身で整った顔をしていて、学校中から人気のある人だったから、特に目立つこともなくそのファンの輪に入り、豪快にパスやゴールを決める姿を憧れの目で追っていた。

 そして、三年になり、図らずも彼と私は同じクラスになった。時々話すようになり、知り合い以上、友達未満みたいな感じになった私はそれだけで浮かれていた。学校で話した、たった一言、二言の会話を家に帰ってから何度もリピート再生するように思い出して、ニヤついてしまうくらいには、私は初めての恋に浮ついていた。

 でも、受験勉強に時間をとられていたし、何よりも、自分に自信のなかった私はその思いを告げようとは思わなかった。少し自意識過剰ぎみに天秤にかけてみたとしても、彼と私が不釣り合いなのは誰が見ても一目瞭然だった。

 だけど、卒業式の日に、最期の思い出が欲しかった私は、恐る恐る彼に声をかけた。
沢山の人と書いて交換した寄せ書きに、友達としてでもいい、一言だけでも何か言葉を貰いたかった。
始めての恋の記録を残したかった。
ただそれだけのはずだった。

 だけど、事態は思わぬ展開になった。
ありがとう、そう彼にお礼を言って踵を返した私に後ろから声がかかった。

「あのさ、相場さぁ、もしかして、俺の事好き?」

そう問いかけられた私は固まった。

「え……、なんで?」

「いや、薄々だけど、そうなのかなって、思う事があって、違ったらごめん、俺、なんか滅茶苦茶恥ずかしい奴…」

「……い、いいよ、違わない、けど、言うつもりなかっただけで」

「何で?」

そう不思議そうに問いかけられた私は固まった。

(釣り合わないと思ったから)

だけど、それはあまりに卑屈な言葉なので、私は口に出しては言えなかった。

「お前さ、大学は都内決まったけど、家から通いって言ってたよな?」

「う、うん、弟達がいるから……」

「そっか、ならさ、全く問題なくない?俺も自宅から県内進学だし」

「え……?」

「だから、付き合っても」

「うそ……」

「ははっ、嘘ってなんだよ?変な奴だな」

そう言って、憧れの人から頭を撫でられて、今までよりも近い距離で、等身大の笑顔で微笑まれたらもうダメだった。

 そうして高校を卒業して、春休みを迎え、私達は度々待ち合わせ、デートを重ね、体の関係になるまでの時間はそうはかからなかった。
求められるままに、一度、二度、三度、四度……
両の掌が必要なくらいになった時には、彼に溺れている自分に気付いていた。

 だけど、ある日、家に帰り、女の子の靴が玄関にある事に気付いた私は、何やら声のする部屋に向かった。弟の圭吾の部屋の前で足を止めた私は、一声かけて、その扉を開いた。
そこにいたのは圭吾では無くて、泰叶で、泰叶が制服姿のまだ幼さが残る女の子を組み敷いている姿を見て私は驚愕した。

 私は直ぐに女の子を家に返して、泰叶を叱りつけた。年齢や、避妊の事。女の子を傷つける事になったら良くないと、私なりに必死に必要な倫理観を説いたつもりだった。だけど、あの時、泰叶は私を睨みつけてこう言い放った。

「は!?女の子を傷つけたらいけないんだったら、お前の男はなんだよ?お前、しっかり二股かけられてんじゃねぇかよ、目悪いんじゃね~の?男ぐらいちゃんと選べよ!!」

あの時、泰叶は刃のように鋭い目つきでそう言った。

「何……言ってるの?」

私はその言葉に驚きすぎてなんの反応もできなかった。

 恋人が出来た事は、家族には敢えて言ってはいなかった。もちろん泰叶にも。
あの時、泰叶はまるで憎いものを見るかのように憎悪で顔を歪ませていた。
そして、私の彼が、別の女の人と仲良く腕を組んで歩いているのを見たと言った。
見たのは一度だけではないのだとも。

「女を傷つける男は悪いんだろ、だったらさっさと別れろよ!!」

そう言われた私は身体から力が抜けて立っていられないほどの衝撃を受けた。

 結局、問い詰めたところで、その同級生からは土下座する勢いで謝られた。
彼の言い分はこうだった。
彼は元々バスケ部のマネージャーと付き合っていたらしくて、進路の事などでその彼女と揉めて卒業間近に喧嘩別れしていたところに、私からの寄せられている好意に気付いた。絶対好きになれると確信があったから付き合った。そうして、体の関係を持った後で、元の彼女からよりを戻したいと言う話があった。
だけど既に私と付き合っていた彼は、その申し出に迷い、彼女への返事を曖昧にしたまま、その迷いを振り切るように私との関係をズルズル重ねてしまったが、どうしても幼馴染で付き合いの長い彼女を見捨てる事は出来なかったと言うのだ。

「なにそれ……」

乾いた言葉しか出なかった。
私の初めての恋は、そうして悲惨な形で幕を閉じた。
心に大きな傷を残して。

私は、急遽、家を出る事にした。
卒業後、地元に残る友人達にも、その同級生と付き合い始めた事を隠してはいなかった。
私の中ではちゃんとした付き合いだと思っていたから。
その彼が、高校卒業からたった数か月で元の彼女を連れて歩いている。
短期間で遊ばれて、そして捨てられた事は直ぐに噂になるだろう。
軽率で馬鹿な女だと思われるだろうか。
それとも可哀そうな女だと。
小さなプライドだと言えばそうかもしれない。
だけど、私はその事実に耐えられなかった。

「ふざけんな!あんな男のせいで、俺を捨てんのかよ!?」

 家を出ると告げた時の、憎悪に満ちたあの時の泰叶の顔を私は未だに忘れる事が出来ない。

 私の軽率な行動のせいで、おそらく一番傷つけてしまったのが泰叶だった。
私はいつの間にか、泰叶の唯一頼れる家族の一人になってしまっていた。
それなのに、私は結局弟達を置いて、地元から逃げるように東京に出た。

馬鹿で浅はかな自分が誰よりも許せなかった。

 大学に入学してからも、数人、恋人が出来た事はあるけれど、いずれも長く続かなかった。
恋人と言うよりは、距離が縮まる前に別れたと言う感じで、それはおそらく、その人達に問題があったのではなくて、私の心の問題だったのだろう。

 それくらいあれからの私は恋愛に関しては不信感を持つようになってしまったのだろう。

 だからと言って、恋に憧れを抱かなくなったかといえば、そうでもなかった。

美しい話は今でも美しいと思う。

小説も好きだし、アニメも好きだし、ドラマもゲームも大好物なのだ。

 そうして、あれから数年を経て、そんな美しい世界を、今では、可愛い弟達が、歌で、ドラマで、時には声優として作り出してくれている。
きっと今が至福の時なのかもしれない。

圭吾のバラエティ番組を笑いながら見て、料理番組に切り替えて、もう一度バラエティ番組の続きを見て私は布団に入った。
ウトウトしてきたころ、メッセージの着信があった。

≪おやすみ、土産、楽しみにしてろよ!あと、来週の時代ものは必ず見てほしい≫

眠かった私は、そのメッセージに≪待ってますニャー≫と、猫スタンプで返信して意識を手放した。

律儀な奴の事だから、しっかりとお土産を買って来てくれるのだろう。
それを受け取る為に、また、圭吾の家に集まらなければならない。

それが、実弟の圭吾が決めた私達の会う時のルールなのだ。


 私と泰叶は数年前から決して二人では会わない約束になっている。会う時は必ず三人。

私は弟の家に…
泰叶は相方の家に…

そうして集まる三人には他人から見て不自然な点はないから。
だから、泰叶と二人で会話をするのは、今ではメールか電話、そして最近普及し始めたオンライン。ちなみに泰叶はオンラインを強請るが、私は深夜に顔がUPされるオンラインは極力避けている。
今年で27歳、化粧とったらお疲れ顔だし、あんなのと顔を突き合わせると、元からの顔面偏差値の違いに落ち込ませられるのも勘弁して欲しいからだ。

弟の圭吾もたいてい過保護だとは思う。
だけど、私達がそういう付き合いをするようになったのには理由がある。

 それは、2年少し前に、私が泰叶の恋人ではないかと勘違いされてマスコミに着け狙われていた頃、見知らぬ誰かから歩道橋の階段で押されて怪我をしたことがあったからだ。

 その頃、泰叶の事務所にはストーカーぎみのファンレターが届いていた事で秘密裏に被害届を出したが、事務所が懸命に事実を隠して大事には至らなかったし、幸いにも私の怪我も足の捻挫と数か所の打ち身程度ですんだのだ。

 当時、二人は激昂して、犯人を捕まえようとしていたけれど、私はそれを止めた。
軽傷で済んだ事もあるけれど、むしろようやく脚光を浴び始めた泰叶の経歴に傷をつける事にならなくて安堵した気持ちの方が大きかったからだ。
私の存在が勘違いされて二人をトラブルに巻き込む可能性がある事に気付いた瞬間だった。

 それ以来、私は、極力二人との関係を周囲に悟られないように生きている。

圭吾はまだいい。
実の弟だから。

でも泰叶との噂は他人には説明が難しい。
説明する事で、生い立ちに至る不要な詮索が始まるかもしれない。

それが泰叶や泰叶の家族を苦しめる可能性だって十分にあるから。

 日々、輝きを増しながら、夢に突き進む弟達の飛躍は本当に眩しいのだ。だから、私は、それに大きな力を貰えている。私にできる形でそれを守りたい。


 それから数日後、私は、今日も必死の形相でパソコンを叩いていた。今日の夜のテレビスケジュールに間に合わせる為だ。

 だけど、そんな時、ふいに男性の声がかかった。

「あの、相場さん、ちょっといいかな?」

 そう言われた私は、顔を上げた。
そこにいたのは、私よりも確か4~5歳程年上の白川先輩だった。

「個人的な事で凄く申し訳ないんだけど、君にお願いがあって…」

普段物静かで目立つことはあまりない、それでもとても優しい先輩だ。新人の時、ミスをしてさりげなくフォローしてもらった事も度々あった。

「はい、何でしょう?私に出来る事でしたら喜んで」

 その答えに、先輩は天使を見る様な目で私を見つめた。

「ありがとう!本当にありがとう!!他に頼める人がいなくって!!!」

 先輩からの話を聞いた私は、胸に拳を押し当てて、快諾した。少しだけ、今日見るはずだったテレビの事が気掛かりではあったものの、大丈夫、こんなこともあろうかと全て録画済みなのだ。
以前にいただいた恩はこのような時にこそ、お返ししなければ!

「白川先輩、少しだけ待っててくださいね!今やってる仕事、マッハで片付けて、それ以外の仕事は他の人に押し付けてきちゃいますから!!」

そう言って、有言実行で私は、仕事を終わらせて、今持っている仕事を周囲に割り振った。
普段の行いが良いせいだろう。
皆、それぞれに予定がありそうなのに、スケジュールを調整しつつ快諾してくれた。

 そして私たちは何と、定時から15分後に会社を後にする事が出来たのだ。

「先輩、私、こんなに会社帰りの空、明るいの久しぶりです!」

「そうだね、こんなに早いのは俺も本当に久しぶりだよ!」

そう言って、二人でまだ明るい街を歩き始めた。

「先輩、どこに行きます?」

「う~ん、正直、どこに行っていいかも分からなくて、君のいいところで」

「そうですか、う~ん、じゃ、デパートが多いからあっち方面にしましょうか?」

そう言って、私は、別方向に向かっていた先輩の腕をちょいと引いて、デパート街へ誘導した。

それを帰国したばかりの泰叶に見られているとは誰が思うだろうか。

 そうして私たちは、デパートの婦人衣料品売り場や、日用品売り場で買い物をした。

「これなんかどうですか?」

そう言って、少し大きめの前を開くタイプのパジャマを見せた。

「あぁ、良さそうだね、色味もきっと似合うと思う」

「じゃあ、籠に入れますね、あと、歯ブラシや、化粧品のセットも必要ですね」

「そうだね、それも適当に見繕ってくれるかい?正直女性の化粧品なんて言われても…」

「はははっ、お気持ち分かります!」

「あとは、…下着ですね」

「……あそこだけは、どうも、ちょっとね、君に全面的にお任せしてもいいだろうか?」

「で・す・よ・ねぇ~、大丈夫ですよ!じゃあ、ちょっと聞いてきますね!!」

そう言って、大きな下着売り場に入った私は、産前産後用の下着の有無を確認して、少しならあると言う売り場に案内してもらって無事数点の購入に至った。

 白石先輩の頼み事は突然破水して入院した奥様の入院セットを購入する事だった。
先輩の奥さんは現在第一子を妊娠中で、安全を見て早めの里帰り出産をする予定だったらしいのだが、入院予定までまだ二週間あるという今の段階で破水をしてしまって急遽こちらの病院に緊急入院をしてこのまま出産の日を迎える事になるようなのだ。

「すまないね、明日にも実家に帰る予定だったから、買ってた子供のものやら、入院前後に使用するはずだったものは全部実家に送ってしまった後だったようで、子供のものは家内の両親が出産前には持って駆け付ける事になっているのだけど、忽ちの準備がすぐには出来なくてね、本当に助かったよ」

そう言って、陽も暮れたイタリアンレストランで不甲斐なさそうに頭を掻く白石先輩に微笑みかける。

「いえ、私こそ、お役に立てて良かったです。すみません、ご馳走してもらって、先輩早く奥様のところに駆けつけないといけないのに」

「いやぁ、それが今日はこの後、受付に荷物だけ渡しに行くことになっていて、どの道面会は難しそうなんだ、最近は感染防止の為に、面会も制限している病院が多いから、妻からも君にくれぐれもよろしくと言われていてね、本当にすまなかったね」

「なるほどですね。でも、出産時に立ち合いは出来るんですよね?」

「うん、今のところその予定なんだけどね、その出産がいつになるかがまだ分からないようで、破水はしているけれど、陣痛はきてないし、まだお腹の上の方に子供がいるから数日先になるだろうって。陣痛がなかなか来なかったら帝王切開の可能性もあるみたいで…。部長には事情を説明しているから、そうなったら病院に駆けつけてもいいという許可はもらってるんだけどね」

「そうなんですね、私に変われるお仕事だったら、どんどん振ってくださいね」

「はははっ、ありがとう、相場さんは本当に優しい子だね、君も結婚は近いの?今日はデートは無かったのかい?俺のせいで君の恋人にも申し訳ない事をしたかな」

「恋人ですか?いませんけど…」

「え?そうなのかい、皆、君には、さぞかし格好のいい恋人がいるんだろうねって、話してたようだけど、毎日急いで会いに行っているみたいだし」

「あ~、テレビ見たくて帰ってるだけなので、残念ながら」

そう言って、にっこり笑う私に、先輩はきょとんとした顔をする。

「え、テレビ?そうだったの?はははっ、テレビか、それもいいけど、会社の若い奴も相場さんともっと仲良くなりたいって奴は多いよ?君は優しいし、昔から人気者だから」

「そんな事ないですよ、昔から大してモテませんしね」

「はははっ、それ、謙遜じゃないとしたら、案外鈍いだけなのかもね?よし、そろそろ行こうか、駅まで送らせてくれ」

「はい、じゃあ、お言葉に甘えて」

駅の裏手が奥様が入院している病院と聞いていたので、私はその言葉に甘えて、駅の改札まで送ってもらい、先輩と別れた。

帰りがけに呼び止められた私は、先輩から今日のお礼にと長方形の包みを受け取った。
「つまらないものだけど…」
そう言って手渡されたのは、最近美味しいと評判になっているクッキーだった。

「わぁ、こんな、いいのに、本当にいいんですか?ありがとうございます!!」

そう言って、私は笑顔でそれを受け取った。

「本当にありがとうね、また会社で!」

そう言う先輩に私は笑顔で答えた。

「はい、先輩、(赤ちゃん)楽しみですね!!」

「あぁ」

そう言って、手を振る先輩はとても幸せそうな顔をしていて「結婚ていいな」なんて久しぶりに考えたりしながら私は帰路についた。

 先輩家族の幸せを垣間見たせいなのか、それともイタリアンレストランで一杯だけ飲んだ、グラスワインの効果なのか、私の足取りはふわりふわりと軽かった。
小さな鼻歌が出てくるほどには、ご機嫌になっている自分がいた。

(赤ちゃん、無事に生まれてくるといいな♡)

 そうして、アパートについた私は外階段をトントンと軽快に上り切り、自分の部屋に向き直った瞬間、ギクリと体を強張らせた。

「ひっ!」

 私の部屋の前に、扉を背にするように大きな男がしゃがみ込んでいるのだ。
思わず、叫びそうになる声を寸でのところで押し込めた。その姿に既視感があったからだ。

夏なのに深く帽子をかぶって、長袖の薄手のパーカーをきて、サングラスをかけた男。

「た、泰叶?」

 恐る恐る、声をかけたけど、男から返事はない。
その姿に既視感を覚えるのは、未だ動かず膝を抱えて、恨めしそうにこちらを見ているからだろう。子供の頃の泰叶がよくそうしていたように。

「なっ、なんであんたがここにいるのよ? いつ帰ってたの??」

「……今日」

私は、戦々恐々としながら、周囲を回した。
幸い人のいる気配はないようだ。

「と、とにかく、ここは、いやここも?良くないから、う~ん、は、入りなよ?」

そう言って私はいそいで、ドアの鍵を開けて、部屋の中に泰叶を押し込んだ。
マスコミにでも見られていたら今度こそ洒落にはならない。
以前の時とは違う。
泰叶は今や時の人となっているのだから。

「なんなの?一体どうしたの??何かあったの?」
そんな私の質問にもダンマリを決め込んでいる泰叶。

「なに?一体何?その負のオーラ、怖いから止めてよ?」

「………」

「ちょっと待って、何か見えたとか?そんなんじゃないよね?」

「……見えたよ、一番、見たくなかったもの」

「へ……、何?ちょっと、何それ??」

「……どうしても、許せないこと」

「な、なに?ほんとなに?……あんた、今日、怖いよ?」

「俺が、……どんな気持ちで毎日我慢してるのか、茜は考えた事もないよね」

「なに…?どういうこと??」

その後、泰叶は無言のまま、テレビを付けた。
時刻は22時を少しを回っていた。

「……今日は、どうして見てくれなかったの?俺の事」

「え……?」

「終わっちゃてるね、前に言ってた俺のドラマ…」

その言葉に私は心当たりがあって顔を歪めた。

「茜の好きな 烏丸恭二郎との共演だって、ずっと前から楽しみにしていてくれたじゃないか、俺、これだけは茜に見て欲しくて、絶対見て欲しくて、あの男にだけは見劣りしたくなくて、ずっと稽古に励んで頑張ってきたのに」

烏丸恭二郎とは、有名な舞台俳優で歌舞伎の名家の当主でもある。
昔から、少し渋い趣味を持っていた私の最も好きな俳優でもあった。

「……そ、そうだったんだ!ご、ごめんね?けど、どうしても優先しなきゃいけない約束しちゃって」

「俺より大事な約束?」

ポツリと呟いた言葉だけど、感情を殺した能面のような表情が怖いよ?泰叶。

「そ、そういうんじゃないけど、ほら、社会に出たら、色々あるっていうか、ほら、もう機嫌直して、ちゃんと録画はしてるから一緒に見よう?」

そう言って、膝をついて、俯いたままの泰叶の顔を覗き込もうとしたとき、ふいにギュッと抱きしめられた。

「ちょ、…泰叶、何やってんの、あんた」

私の肩に額を乗せた泰叶。
黒くてサラサラした髪とコロンの匂いに私は何が起きているのか咄嗟に理解できないで何の反応も出来なかった。

「…………あの男、誰?」

いつもの泰叶の唇から零れ出たとは到底思えない低く暗い声に私は眉を寄せた。
こんな泰叶の声は、映画でもドラマでも聞いた事が無かった。
まるで呪うような薄暗い声音に私は固まる。

「……また、俺のこと、置いていくの?」

その時漸く泰叶と目が合った。
その瞳の暗さに私は泰叶の闇を見た気がした。
それは、私の事を憎んでいる瞳に違いなかった。

「……泰叶?」

私は困惑して泰叶の漆黒に揺れる瞳を見つめた。

「行かせないよ」

刺すような瞳で見つめられた私は、まるで呪縛にかかったようにその場から動けなかった。

「絶対、行かせない……」

そう言われた私は、辛うじて声を絞り出した

「泰叶、私達……」

そう言った私の言葉を遮るように泰叶は皮肉に笑った。
何かを捨てて、覚悟を決めたようなそんな顔。
その笑顔は私にはとても痛くて悲しそうに見えた。

「姉弟って言いたいんでしょ?」

その言葉に私は、顔を歪めて泰叶を見つめた。
私達の歴史には、他人を寄せ付けない確かな絆があった。
きっと、私にも、泰叶にも……
私はそれをまだ、信じていたかった。

―――私達は、もはや他人ではない。

それが、私達を永遠に繋いでくれる確かな鎖だと信じていたかったから。

だけど、目の前の泰叶はそれを雄弁に否定した。

「俺は、確かに、俺を圭吾と同様に大切にしてくれる茜の意思を否定しなかった」

泰叶はそう言って一つ、大きなため息を吐いた後に、漆黒の瞳で私を捉えた。

「だけどね、茜。俺はどんなに自分の気持ちを偽ろうとしても、茜を姉だと思う事は出来なかった。成長と共にその気持ちを受け入れるしかなかった」

「泰叶……」

「圭吾は昔から変わらない。いつだって、茜が大事で、茜が大好きで、茜を自慢したくて、茜を大切にして欲しくて、茜の気持ちを尊重して、茜に誰より幸せになって欲しいと願ってる」

「………」

「……だけど、俺はそうじゃなかった」
泰叶は冷気すら漂う口調で続けた。

「茜を誰にも見せたくなくて、茜の存在を意識されるのすら苦痛で、茜を誰にも触らせたくなくて、茜が他の誰かに笑顔を向けるのも嫌で、茜が他の誰かと幸せになると思ったらそれだけで気が狂いそうで、何がなんでも邪魔したくなる、俺はずっとそんな奴だった」

「……泰叶」

「……茜の事、傷つける奴はもちろん、褒める奴だって、俺にとっては敵でしかなかった、それが男でも女でも」

「………」

「もう、分かった?……これが、茜の言う姉弟の持つ感情?違うよね」

「泰叶…、じゃあ、何で…」

(私たちの今までの生活は何だったの?あの絆は幻だったの?)

私はこの突然の告白をどうとらえていいのか分からなかった。
余りの衝撃に、何で今、このタイミングに、この告白を受けているのかの状況すら分からない。

私にとっても泰叶は大切な存在だった。
間違いなく、家族同様のかけがいのない存在なのだ。
無邪気にじゃれ合う数多の過去が蘇る。
こうしている今だって、泰叶が可愛い。
泰叶が好き。
それは変わらない。
でも、それが、泰叶が今口にしている感情と同じかと言えば、私はそうではない。

「わ、私は……、私にとって泰叶は……」

私は、泰叶が凄く大切で、愛おしくて…

いつも幸せであって欲しくて
その成功が自分の事のように喜ばしくて
寂しい顔なんてさせたくなくて
泣いてる顔なんて絶対みたくなくて
泰叶が泰叶らしくいて欲しくて
邪魔だけはしたくなくて
でも思い出は大切にしたくてアルバム作りには余念がなくて…

「えっ、ちょっと待って、これって、オカンだよ?私……」

そう言った瞬間、私の心の声は、実は全部零れてしまっていたのか、脱力したように私を見つめる優しい瞳がそこにあった。

「泰叶……、ごめん、やっぱり一緒じゃないや」

そう言う私に、泰叶はちょっと困ったように笑った。

「それは、いい……、分かってるから。分かってたから、だから、どうしようもなく、ずっと好きでいられたから」

そう言って、泰叶は面目なく項垂れる私の肩をそっと上向かせた。
そこには漆黒の瞳が複雑な色を宿して揺れていた。

「ずっと、ありがとう茜。俺の家族でいてくれて」

「……泰叶」

「でもね、贅沢でごめん、もう、それだけじゃ足りないから」

「一方的にもらってる愛情だけじゃ、どうしようもなく足りなくなってるから…」

「だからね、もう、茜は何もしなくていいよ?俺が全部してあげる。茜をしっかりと俺に縛り付けて、俺と同じくらい、茜も俺無しじゃ生きていけなくなるくらい完全な形で俺のものにしてあげるから」

「えっ?」

「安心して、今日の、あいつの事だって、明日にはもう思い出せなくしてあげるから…」

意味不明の宣言をされた瞬間、唇を温かいもので塞がれていた。

「ん?」

それが唇でキスをされていると気付いたものの、強い力で抱きしめられた姿勢からはそれを押し返すことも出来ない。唇は角度を変えながら何度も何度も柔らかく重なる。
その執拗な動きに堪り兼ねた私は、呼吸をしようと唇を開けるとその瞬間、ヌメリとした舌の侵入を許し体が跳ねた。

「茜、鼻で息して……、大丈夫だよ、優しくするから」

鼻で息をしての言い回しは兎も角として、その響きは、今まで何度も映画やドラマで聞いてきた言葉よりも甘く耳に響く。

「愛してる、茜……、本当、どうしようもないくらい好き」

そうドラマでしか聞いた事のない甘い言葉を漏らした唇はまた、私の唇を貪るように塞ぐ。
熱い舌の侵入を再び容易く許してしまった私は、舌をからめとられ口内を蹂躙され、為すがままに翻弄される。あまりに長く執拗なキスにぽつぽつと火照っていく熱を認めたくなくて、吐息に紛れた拒否をするも、宥めるように唇をやわらかく吸われ隠避な痺れが体に走る。

「だ、め、泰叶……」

唇を翻弄されたまま、泰叶の大きく育った手が不埒な熱を持って、私の頬から首筋、そして、胸にかけて移動する、そして服の上から乳房をゆるりと持ち上げて、ふにふにと揉みしだく。

「泰叶、止めて、これ以上は……」
「……今までの関係が壊れちゃう?」

その言葉に私は涙目で頷いた。

「そんな事はね、俺はずっとずっと考えてきたよ?だから、ずっとずっと、我慢してきた」

愛おしそうに、それだけに恨みがましいともとれる漆黒の瞳が私の瞳を捉えている。
頬に添えられた大きな手に若干の力がこもるのを感じる。

「でもね、もう、脱いじゃったから…」

「………」

「茜の大事にしてくれた、可愛い弟の着ぐるみ」

「泰叶…」

「だから、…もう後がないから、絶対俺は引かない」

「だから、茜も逃げないで?」

再び私の唇を貪りながら、乳房を揉む手に力を加える泰叶。

「あぁ、柔らかいね、温かい、茜の匂いがする」

自らの手の内にある私の胸に、鼻を擦りつけるようにして匂いを嗅ぐ泰叶。

「ずっと、こうしたかった、茜の胸が少しずつ形を変えて丸みを帯びてきたあの頃からずっと、茜、なのに……」

その言葉に、眉を寄せる。
いつから、泰叶は弟では無くなっていたのだろう。
私はその境界線を知らない。
言葉を区切った泰叶がジッと私を見つめている。
その冷めたような瞳は急速に変化した天気のように、とても薄暗いものになったように感じ、背中に悪寒すら感じる。

「………どうして、あんな奴に身体を許したの?」

そう言われた瞬間、ドクンと心臓が跳ねた。

「何、言ってるの?」

そう恐る恐る尋ねた。
だけど泰叶の薄暗い瞳は絶望を宿したようにただ静かに私を見下ろしている。

「俺、見たんだよ。中学を卒業した年の春休みの夕暮れ。茜が部屋であの男に組み敷かれて、苦痛に顔を歪めて涙を流して耐えてるところ…」

「た、泰叶?」

私は、夢から覚めたように目を見開いて顔を歪めた。

「ねぇ、知ってる?それなのに、あの男、薄っすらと、笑ってた…」

その言葉に私は、目を閉じた。

「……シーツの血と、薄っすらと血が滴る結合部を見て、笑ってたんだ」

「止めて!!」

あの日の光景が目に浮かびそうになり私は、叫ぶように泰叶の言葉を遮った。
身体がカタカタと震えた。

「茜……、ごめんね。でも、茜が悪いんだよ?あんな奴に騙されるから。それだけじゃない。あんな弄ばれ方をしたのに、あんな奴の言ってる事、信じようとしてるから…」

その言葉に私は顔を歪めた。

「どういうこと?」

「ねぇ、茜、あの男に何回抱かれた?」

「っ、……、そんな事…」

「少なくても、8回以上…」

そのリアルな言葉に私は凍り付いた。

「なんで……?」

その問に、目の前の男は平然と答えた。

「だって、見てたから……」

「見てたって、泰叶……」

背中に冷たいものを感じ、顔が引き攣る。

「一回目は偶然だった。だけど、二度目以降は、クローゼットの隙間から…」

「っ……」

あまりの衝撃に言葉が出ない。
だけど、泰叶はまるでなにかにとりつかれたように雄弁に話し出した。

「茜は信じられないくらい、奇麗で、可愛くて、いやらしくて、素直で、従順で、あいつは信じられないくらい汚らわしくて、乱暴で、独りよがりで、本気で、殺意を覚えた…」

信じられない言葉に唇がワナワナと震えた。
あの痴態をまだ高校入学前の泰叶に見られていたとは。

「ねぇ、知ってる?俺、あの時、初めて、茜が憎いと思った……」

「泰叶、あんた…」

「茜なんて、いなくなればいいと思った、だけど本当にいなくなると思えば怖くて、怖くて、どうすればいいのか分からなくなった」

「泰叶……」

「…だから、あいつが、他の女と歩いてるのを見た時、これだと思った」

「……」

「最初に見かけたのは偶然だった、だけど、その後はそうじゃない、だけど泳がせた」

「泰叶…」

「そして徹底的に調べ上げた。復讐は後でもできるから、確実に信じてもらえるように、茜の目を覚ませるように、茜があれ以上あの男に抱かれるのが辛くて苦しくて仕方ないのに、完全に二股だって、同時進行してたあの男はクズ野郎なんだって、信じさせたくて、耐えたのに、茜はあの男の都合のいい言い訳を信じた」

「………」

「苦しくて迷ってた?そんなの嘘に決まってるだろ?茜は人が良過ぎるんだ。あの男は、元の女が結局は自分のところに帰ってくるのだってちゃんと分かってて、野放しにされた期間をこれ幸いと楽しんでたんだよ?ただ、それだけだ。茜を愛していた訳じゃない!!」

そう顔を間近に突き付けられて、薄暗い瞳に囚われる。

「止めて、もう止めて!!」

次の瞬間、私は、泰叶の頬を力強くはたいていた。

「……止めて」

忘れたはずの記憶が、忘れようと封印してきたはずの気持ちがポロポロと涙となって零れていた。

そんな私の涙を泰叶は、ごめん、とキスをするように舐めとった。

「ごめん、茜、ごめん、ごめんね……、だけど、あの時、ちゃんと本当の事突き付けてやれなかったから、俺は自分の思いばかりで、茜の事、慰めてあげられなかったから、そのまま茜、家を出ていったから」
私は成す術もなく、涙を拭う泰叶の指と唇を受け入れるしかなかった。

「だけど、それが茜にしこりとして残ってるのなら、俺、独占欲がどうしようもないくらい強いから、あいつの事、完全に悪く思えないままの茜はもう消してしまいたい。だから、意地の悪い事言った、ごめん…」

私は、小さく首を振った。

泰叶が突き付けた事実は時が経った今でも、私にはとても辛いものだった。
だけど、今なら思う、私は、きっとあの時、自分よりも大きなトラウマを泰叶の心に刻み込んだのだ。

「ごめん……、ごめん、茜……」

子供みたいにポロポロと涙を流し始めた泰叶を見て、私も泣きながら微笑んだ。
この涙には本当に昔から敵わない。
いつだって、私を確実に落としてしまう魅惑の涙だ。

私は、泰叶の首にグッと手を回して、自分の胸に泰叶の涙で濡れた顔を抱き込んだ。

ドクンドクンドクンとお互いの鼓動を聞くのは何年振りの事だろうか。
なぜだか、とても懐かしい気持ちになるのに、その一方でソワソワと落ち着かない何かが体の内から込み上げる。

泰叶の黒くてサラサラの髪にそっと指を差し入れて、ヨシヨシと撫でる。
その動きに泰叶の身体がピクリと跳ね、私の腕を掴む泰叶の手に力が入る。
その時、太ももに何か固いものがあたっている事に気付いた私はそれが何かを察した。
そして、それが不快ではない、むしろその反応が可愛いとすら感じてしまう。
そんな自分自身をもう、認めて、許してあげてもいいのかも知れない。
結局、私は、泰叶が何者であっても、どんな酷い事を言われても、泰叶が可愛い事には変わりがないようだ。
そしてじわじわと体温が上がるのだ。

「泰叶……」

「うん……」

「……続き、してくれないの?」

そっと耳元に息を吹きかけるように問いかけて見上げた瞬間、泰叶はガバッと顔を上げて、漆黒の瞳を驚きで見開いた。
私は、先手必勝とばかりに、揶揄うように微笑んだ。
私のその言葉に黒曜石のような大きな目が開かれたと思ったら、みるみるうちにその表情が緩みなんともいえない悦びの色を宿す。
そして次の瞬間、ギュッと抱きしめられた。
「茜、ちゃんと意味分かって言ってるの?」
腕にしっかりと込められた力は、今更離すつもりはないと物語っているのに、高揚感が抑えられていない瞳は私の次の言葉を期待して、今、少年のように目をキラキラさせている。
その既視感のあり過ぎる表情を見て、実は、泰叶の内面は昔から何も変わっていないのだと思い知る。寂しがり屋で、独占欲が強くて、それなのに、与えられる愛情にはこうして、未だに幼子のような澄み切った表情で悦びを滲ませる。

「分かってるから、……私を、泰叶に縛り付けてくれるんでしょ?」

そう言って恍惚とした気持ちで、泰叶の瞳を見上げた。
泰叶は赤くなった顔でごくりと唾を飲み込んだ。

「うん」

そう頷くのが精一杯の様子の泰叶に、私は強請るように目を細めて理性の止めを刺した。

「…じゃあ、して」

こうなった事を泰叶のせいだけにしてはいけない、して良い訳はないのだから。

今、私達は確かに、何かを失くし、そして新しい何かを二人で得ようとしているのだから。



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