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執着は手段をも選ばない ⭐︎ルシアン視点
11 俺達の望んだ今
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ーーー知らなかった知識が幾重にも流れ込んでくる
シェガードのいうようにもう一つの世界の俺は異常なまでに勤勉だったようだ。
ーーー執着と罪悪感
「罪滅ぼし、なのだろうな……」
ーーーたとえ自分が戻れなくても
三十歳を迎えた自分への思わぬもう一人の自分からのプレゼントを、無駄にしないようにこれからもっと国と民を幸福にする為の礎に変えてゆかねばと気を引き締めていると、コンコンコンと扉が音を鳴らして、そこに侍女長が現れた。
かつて「兄妹のように仲がよろしくて微笑ましいですわ」と言っていた頃よりか随分貫禄がついた侍女長。
その女がかつてを思わせるふんわりした口調で一礼して口を開いた。
「陛下、王妃様の体調不良の原因が医師より知らされました」
「なに? それで王妃はどうだったのだ? まだ苦しくしているのか??」
俺の問いに彼女はにっこり笑って祝いの言葉を口にした。
「陛下、六人目のお子様のご懐妊です! おめでとうございます!!」
「おぉ、そうであったか!!」
その言葉を聞き思わず喜びで立ち上がった俺に、彼女に続いていた侍女たちも口を開く。
「「「おめでとうございます!!!」」」
「あぁ、そうか、いつもありがとう、王妃もこれから高齢に入ってくるだろうから、これからもよく仕えてやってくれると有難い」
そうと言うと、侍女達は実に嬉しそうにお辞儀した。
ーーークラリス
「王妃は寝所か? 早速、見舞おう」
居ても立っても居られなくなってそう言うと侍女達は皆嬉しそうに破顔した。
「はい、きっと王妃様も喜ばれますわ、今は体調も安定されておいでです」
「そ、そうか」
こうして俺は今日もこの世界で唯一人の最愛の妻と、我らを両親に選んでくれたまだ見ぬ新しい命の元に向かう。
この十二年で俺達は俺達の絆を育み、ここで生きてきた。
それは今更もうひとつの俺の存在があったところで変わらぬ事実だ。
ーーー俺はクラリスを愛している
この世でただ一人、ずっと俺にはお前だけだった。
例えお前がその数奇な運命の葛藤のなかで、別の誰かを思う瞬間があったとしても、俺の想いが唯一無二であることは今更変わらない。
「クラリス、入るぞ」
「陛下」
最愛の妻が今日も俺を見つめて微笑んでいる。
繊細な銀の髪、光を通した若葉のような優しい瞳、心を包み込むような穏やかな笑顔。
―――今日もここにいる、いてくれる
「あぁ、愛しているよ、クラリス……」
「陛下……」
「ありがとう、ありがとう、また負担をかけてしまうな、辛いところはないか?」
「ふふっ、大丈夫ですよ? 病気ではありませんから」
ーーー俺も、もうひとりの俺も、ここにいるお前だけを愛して生きてきた、きっとこれから先もずっと
だけど、いつもの光景が決して当たり前でないことを俺は今、図らずももう一人の自分の記憶から知っている。
ーーーお前はきっと忘れられたくなかった、そうだろう?
そうもう一人の自分に問いかける。
本人ですら気付いていたかは分からない。だけど敢えて術の対象にクラリスを選んだその理由を俺はそう考えている。
ーーーお前は離れていても自分と繋がっていると信じたクラリスを選んだ
きっとそういう事なのだろう。
そして、この俺も結果的に長い時のなかで痛みと葛藤を抱え続けたクラリスを愛してきた。
ーーー要はそういうことなのだ
だから、俺は今日も明日も明後日も、永遠にこの幸せが続くように、既に何千回、何万回口にしたかも分からない「愛している」をこれからは二人分にして伝えていく。
――― 愛と優しさを込めて
我が唯一の妻を二度とこの俺から離れられなくするために。
FIN
シェガードのいうようにもう一つの世界の俺は異常なまでに勤勉だったようだ。
ーーー執着と罪悪感
「罪滅ぼし、なのだろうな……」
ーーーたとえ自分が戻れなくても
三十歳を迎えた自分への思わぬもう一人の自分からのプレゼントを、無駄にしないようにこれからもっと国と民を幸福にする為の礎に変えてゆかねばと気を引き締めていると、コンコンコンと扉が音を鳴らして、そこに侍女長が現れた。
かつて「兄妹のように仲がよろしくて微笑ましいですわ」と言っていた頃よりか随分貫禄がついた侍女長。
その女がかつてを思わせるふんわりした口調で一礼して口を開いた。
「陛下、王妃様の体調不良の原因が医師より知らされました」
「なに? それで王妃はどうだったのだ? まだ苦しくしているのか??」
俺の問いに彼女はにっこり笑って祝いの言葉を口にした。
「陛下、六人目のお子様のご懐妊です! おめでとうございます!!」
「おぉ、そうであったか!!」
その言葉を聞き思わず喜びで立ち上がった俺に、彼女に続いていた侍女たちも口を開く。
「「「おめでとうございます!!!」」」
「あぁ、そうか、いつもありがとう、王妃もこれから高齢に入ってくるだろうから、これからもよく仕えてやってくれると有難い」
そうと言うと、侍女達は実に嬉しそうにお辞儀した。
ーーークラリス
「王妃は寝所か? 早速、見舞おう」
居ても立っても居られなくなってそう言うと侍女達は皆嬉しそうに破顔した。
「はい、きっと王妃様も喜ばれますわ、今は体調も安定されておいでです」
「そ、そうか」
こうして俺は今日もこの世界で唯一人の最愛の妻と、我らを両親に選んでくれたまだ見ぬ新しい命の元に向かう。
この十二年で俺達は俺達の絆を育み、ここで生きてきた。
それは今更もうひとつの俺の存在があったところで変わらぬ事実だ。
ーーー俺はクラリスを愛している
この世でただ一人、ずっと俺にはお前だけだった。
例えお前がその数奇な運命の葛藤のなかで、別の誰かを思う瞬間があったとしても、俺の想いが唯一無二であることは今更変わらない。
「クラリス、入るぞ」
「陛下」
最愛の妻が今日も俺を見つめて微笑んでいる。
繊細な銀の髪、光を通した若葉のような優しい瞳、心を包み込むような穏やかな笑顔。
―――今日もここにいる、いてくれる
「あぁ、愛しているよ、クラリス……」
「陛下……」
「ありがとう、ありがとう、また負担をかけてしまうな、辛いところはないか?」
「ふふっ、大丈夫ですよ? 病気ではありませんから」
ーーー俺も、もうひとりの俺も、ここにいるお前だけを愛して生きてきた、きっとこれから先もずっと
だけど、いつもの光景が決して当たり前でないことを俺は今、図らずももう一人の自分の記憶から知っている。
ーーーお前はきっと忘れられたくなかった、そうだろう?
そうもう一人の自分に問いかける。
本人ですら気付いていたかは分からない。だけど敢えて術の対象にクラリスを選んだその理由を俺はそう考えている。
ーーーお前は離れていても自分と繋がっていると信じたクラリスを選んだ
きっとそういう事なのだろう。
そして、この俺も結果的に長い時のなかで痛みと葛藤を抱え続けたクラリスを愛してきた。
ーーー要はそういうことなのだ
だから、俺は今日も明日も明後日も、永遠にこの幸せが続くように、既に何千回、何万回口にしたかも分からない「愛している」をこれからは二人分にして伝えていく。
――― 愛と優しさを込めて
我が唯一の妻を二度とこの俺から離れられなくするために。
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