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タイミングは時に運命を上回るようです!!⭐︎私とルシアン様編
3 終わらない悪夢
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だけど次の瞬間、一人の女性の悲鳴が「きゃっ」と聞こえたと共に周囲が騒がしくなった。
「で、で、で、殿下、いったいどうなさったのですか!? ご婚約前のご令嬢にそんな無体を、さすがにそれはいけませんわ」
「ばっ、違う!!」
「お、おおお、王族と言え、いえ、王族だからこそちゃんと我慢をしていただかなければ!! 待て、が出来ない男はクズだと両陛下があれほど口を酸っぱくされて……」
「だから!違うと!!」
「―――って、え? く、クラリス様?? お、お顔が真っ青ではありませんか、いやだ、だ、誰か、誰か!!!」
「ど、どうなさいました!?」
「ク、クラリス様が体調を崩されたようで、は、早くお医者を……」
「まぁ、承知しました、今すぐに……」
「殿下、私が代わります、クラリス様をこちらに……」
「ああ!?」
「ひっ、し、失礼しました! ど、どうかお許しを……」
「……余計な気をまわすな、俺が運ぶ、下がっていろ」
「はっ……」
そんな侍女と近衛兵と思われる男性とのピリピリとしたやり取りを聞きながら私は意識を失った。
そして吸い込まれるような朦朧とする状況のなかで漠然と安堵していたのだ。
―――あぁ、きっとこれで戻れる、私がようやく辿り着いたあの世界へ
夢から覚めたと思ったら、また別の夢を見ていた、そんな経験は今までにもあったけど、こんなにもリアルで不安を掻き立てられたことが今までにあっただろうか。
私が目を覚ましたのは最上級のベッドで、豪華な天井、覗き込んだのはあまりにもよく見知った顔。それは私の両親だった。
外はすっかり暗くなっているようだ。
「あぁ、クラリス、心配したのよ?」
「大丈夫か? クラリス」
「ここは……」
「あなたルシアン様のお顔をみたいとスキップする勢いで王宮に出かけていったのに、まさかそこで倒れたっていうのだもの、本当に驚いたけど、お医者様のお話では熱さによる貧血ではないかということだし、大したことにならなくて良かったわ、落ち着いたら戻りましょう」
「も、戻る………、どこに?」
「どこにって、あなた、邸に帰るに決まっているでしょ? 殿下のお傍に居たい気持ちは分かるけど、さすがに、ね? 殿下はいつまで滞在しても構わないと仰って下さってはいるけど……」
「殿下……?」
その言葉に私は額を曇らせた。
―――終わってない、そして、これは
視界情報から背中に冷たいものが駆け上がる。
ここにきて「やはり」と確信せずにはいられないことがある。
―――若すぎる
最期に見た両親には年相応の白髪や皺が点在していたのを覚えている。
だけど今私の目の前にいる両親は、どう見てもまだ共に王都で私と暮らしていた時と変わらないくらいの年齢にしか見えないのだ。
なによりも母のお腹がふっくらとしていてその腹に命を宿していることが一目瞭然なのだ。
―――う、嘘
「起き上がれそうなら、身支度を整えましょうか?」
そう言った母に支えられながら身を起こした私に王宮の侍女の一人が心得たように手鏡をそっと差し出して、母がそれをありがとう、と受け取った。
私はごくりと喉をならして、恐る恐る私の前に掲げられたそれを覗き込んだままひくりと息を呑んで固まった。
―――あぁ、これは夢? 夢でないのならばこれは呪いかもしれない
「殿下に一言ご挨拶して帰った方がよいかしらね、あなた?」
「あぁ、そうだね……」
「君、ルシアン殿下にお目通りは叶うだろうか?」
そう声をかけられた侍女はドアの外に待機していた老齢の男性を伺うように振り返った。すると男性が恐縮するように一歩前に進み出た。
「生憎ではございますが、ルシアン殿下は本日の件を大変ご心配された国王陛下と王妃殿下に状況報告をしておられるようでして……」
「まぁ、それは殿下にも娘のことでご迷惑をおかけしてしまって心苦しいですわ」
「そうだね、それではまた日を改めて挨拶に伺うとしようか」
「そうね、殿下にくれぐれもよろしくお伝えください」
「はい、心得ました、どうかご自愛くださいませ」
「ありがとう」
それから馬車に乗る為に少しだけ冷たくなった夏の夜風を頬に受けながら歩き、父に手を引かれて馬車に乗り込み、車窓から移りゆく街並みを呆然としながら見つめていた私は遂に長年住み慣れた自宅の前に降り立ち、そこにいる多くの懐かしい使用人達に案じられながら出迎えられた。
「で、で、で、殿下、いったいどうなさったのですか!? ご婚約前のご令嬢にそんな無体を、さすがにそれはいけませんわ」
「ばっ、違う!!」
「お、おおお、王族と言え、いえ、王族だからこそちゃんと我慢をしていただかなければ!! 待て、が出来ない男はクズだと両陛下があれほど口を酸っぱくされて……」
「だから!違うと!!」
「―――って、え? く、クラリス様?? お、お顔が真っ青ではありませんか、いやだ、だ、誰か、誰か!!!」
「ど、どうなさいました!?」
「ク、クラリス様が体調を崩されたようで、は、早くお医者を……」
「まぁ、承知しました、今すぐに……」
「殿下、私が代わります、クラリス様をこちらに……」
「ああ!?」
「ひっ、し、失礼しました! ど、どうかお許しを……」
「……余計な気をまわすな、俺が運ぶ、下がっていろ」
「はっ……」
そんな侍女と近衛兵と思われる男性とのピリピリとしたやり取りを聞きながら私は意識を失った。
そして吸い込まれるような朦朧とする状況のなかで漠然と安堵していたのだ。
―――あぁ、きっとこれで戻れる、私がようやく辿り着いたあの世界へ
夢から覚めたと思ったら、また別の夢を見ていた、そんな経験は今までにもあったけど、こんなにもリアルで不安を掻き立てられたことが今までにあっただろうか。
私が目を覚ましたのは最上級のベッドで、豪華な天井、覗き込んだのはあまりにもよく見知った顔。それは私の両親だった。
外はすっかり暗くなっているようだ。
「あぁ、クラリス、心配したのよ?」
「大丈夫か? クラリス」
「ここは……」
「あなたルシアン様のお顔をみたいとスキップする勢いで王宮に出かけていったのに、まさかそこで倒れたっていうのだもの、本当に驚いたけど、お医者様のお話では熱さによる貧血ではないかということだし、大したことにならなくて良かったわ、落ち着いたら戻りましょう」
「も、戻る………、どこに?」
「どこにって、あなた、邸に帰るに決まっているでしょ? 殿下のお傍に居たい気持ちは分かるけど、さすがに、ね? 殿下はいつまで滞在しても構わないと仰って下さってはいるけど……」
「殿下……?」
その言葉に私は額を曇らせた。
―――終わってない、そして、これは
視界情報から背中に冷たいものが駆け上がる。
ここにきて「やはり」と確信せずにはいられないことがある。
―――若すぎる
最期に見た両親には年相応の白髪や皺が点在していたのを覚えている。
だけど今私の目の前にいる両親は、どう見てもまだ共に王都で私と暮らしていた時と変わらないくらいの年齢にしか見えないのだ。
なによりも母のお腹がふっくらとしていてその腹に命を宿していることが一目瞭然なのだ。
―――う、嘘
「起き上がれそうなら、身支度を整えましょうか?」
そう言った母に支えられながら身を起こした私に王宮の侍女の一人が心得たように手鏡をそっと差し出して、母がそれをありがとう、と受け取った。
私はごくりと喉をならして、恐る恐る私の前に掲げられたそれを覗き込んだままひくりと息を呑んで固まった。
―――あぁ、これは夢? 夢でないのならばこれは呪いかもしれない
「殿下に一言ご挨拶して帰った方がよいかしらね、あなた?」
「あぁ、そうだね……」
「君、ルシアン殿下にお目通りは叶うだろうか?」
そう声をかけられた侍女はドアの外に待機していた老齢の男性を伺うように振り返った。すると男性が恐縮するように一歩前に進み出た。
「生憎ではございますが、ルシアン殿下は本日の件を大変ご心配された国王陛下と王妃殿下に状況報告をしておられるようでして……」
「まぁ、それは殿下にも娘のことでご迷惑をおかけしてしまって心苦しいですわ」
「そうだね、それではまた日を改めて挨拶に伺うとしようか」
「そうね、殿下にくれぐれもよろしくお伝えください」
「はい、心得ました、どうかご自愛くださいませ」
「ありがとう」
それから馬車に乗る為に少しだけ冷たくなった夏の夜風を頬に受けながら歩き、父に手を引かれて馬車に乗り込み、車窓から移りゆく街並みを呆然としながら見つめていた私は遂に長年住み慣れた自宅の前に降り立ち、そこにいる多くの懐かしい使用人達に案じられながら出迎えられた。
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