天使の隣

鉄紺忍者

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【6区 6.4km 小泉 柚希(2年)】

⑥ 第三の女

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「はい。現在3位を走りますのは、二年連続での6区起用となりましたローズ大学の五十嵐唯、二年生です。先ほど3キロの通過が9分25秒。前の二人より速いペースでジリジリと追い上げてきていました。この1キロで前のアイリス小泉の背中が急に大きくなってきました。もしかすると、中継所までに、2位と3位が入れ替わるかもしれません!」

【2号車、ありがとうございました。鱒川さんがスタート前に挙げていた二校、ジャスミン大学とローズ大学のアンカー対決ということも、これ、可能性が出てきましたかね?】

「やはりこの二校の強さが光りますね。ジャスミン大学は、次のアンカー7区が二年生の又吉さんなんですよね」

【宮沢に続き、また初出場の選手ですよね?】

「えぇ、そうなんです。ローズ大学は、アンカーに坂本さんという経験豊富な4年生を置いています。だからジャスミン大学としては、アンカー対決に持ち込まれないよう、宮沢さんが必死に引き離そうとしていますよね」

【なるほど。次の区間のことまで考えなければならないのが、駅伝の奥深いところです。6区終盤に差し掛かり、優勝争いはまたわからなくなってきました。それではここで、ひとつ前の5区の結果が出揃ったようです。整理していきましょう】

★5区終了時点 順位

順位_合計タイム_トップとの差_タスキの色

1位 2時間16分19秒 +0:00 (緑/ジャスミン大)
2位 2時間16分25秒 +0:06 (藍/アイリス女学大)
3位 2時間17分16秒 +0:57 (赤/ローズ大)
4位 2時間18分45秒 +2:26 (黄/デイジー大)
5位 2時間19分56秒 +3:37 (青/デルフィ大)

【ジャスミン大学の神宮寺エリカが、前の中継所で1分10秒あった差を逆転し、首位に立っています。続く2位は、初出場ながらここまで大健闘、アイリス女学院大学。そして3位は、ここから巻き返しなるでしょうか、前回女王ローズ大学】

「ローズ大学の鬼塚監督としては、5区の松永さんのところで追いついておきたかったでしょうね」

【例年であれば、5区終了時点ではもう当然のごとくローズ大学が大量リードを作っていたわけですが、今年はまた少し違った展開になっています。続いて区間順位です】

★5区12.9km 区間順位

1位 39分40秒 神宮寺 エリカ (ジャスミン3年)【区間新】
2位 40分48秒 松永  悠未  (ローズ4年)【区間新】
3位 40分56秒 二神  蓮李  (アイリス4年)【区間新】
4位 41分21秒 アリッサ ダンカン     (スズラン3年)
5位 41分23秒 三浦  琴美  (デイジー4年)

【神宮寺エリカが39分40秒で、史上初めて40分を切る快挙。区間2位とは実に1分8秒の大差をつける圧巻の走りで、三年前、今日ゲスト解説の福山莉子さんが二年生の時にマークした40分57秒の区間記録を、なんと1分17秒も更新しました。福山さん、改めていかがでしたか】

「いやぁ、はい。なんというか、正直肩の荷が降りました。ここまで抜かれると、もうお役御免ということで、逆に清々しいですね」

【えぇ、そうですか! そして鱒川さん。ちょうど上位3チームのエースが見事にトップ3に入りましたね】

「本当ですね。最近のみなと駅伝は、7人の選手層はもちろんですが、エース力が試されますね。41分半切った三浦琴美さんですら区間5位ですか。特に今年はハイレベルな5区でしたね」

【そして区間2位の松永、区間3位の二神蓮李までが、従来の区間記録を上回っています。まさに史上最高峰の争いを見せてくれました、今回のエース区間5区の対決でした。それではインタビュー、準備ができたようです】

——根岸中継所、見事トップで通過しました、ジャスミン大学の神宮寺エリカ選手です。おめでとうございます。

「ありがとうございます」

——まず、トップと1分10秒差でタスキを貰いました。どんな心境でしたか?

「そうですね。監督からも、このタイム差なら逆転できると言われていたので、落ち着いてスタートしました」
 
——区間新記録をマークしました。狙っていたのでしょうか?
 
「いえ、もう、自分の記録がどうとかよりも、前の四人——月澤・藤井・洋見なだみ・松本が良い位置で持ってきてくれたので、みんなの頑張りを無駄にしたくない一心で走りました」

——そしてトップを逆転しました。そのシーン、ご自身で振り返ってみて、いかがですか? 
 
「追いつくまでは良かったのですが、最後キツくなってしまって、思ったほど後ろと差がつけられなかったので、力不足を感じました」
 
——そうでしたか。チームとしての戦い、まだまだ続いていきます。後続のランナーにメッセージを。

「はい。後ろにも調子の良い選手が揃っているので、信じて待ちたいと思います」

——見事区間賞、区間新記録をマークしました神宮寺選手でした。ありがとうございました。
 
「ありがとうございました」

【終始冷静沈着な、神宮寺選手のインタビューをお聞きいただきましたが。鱒川さん、こう何か、自分が凄いことを成し遂げたというのはいったん傍に置いて、とにかくチームが、という受け答えが印象的ですね】

「そうですねぇ。一年生の頃からキャプテンを任されて、周りの選手が育ってきて、今年こそという思いがあるんでしょうね」



【おっと? 2号車、これはどういう状況ですか?】

「市原さん! 2位のアイリスの小泉に、3位のローズの五十嵐が迫ってきました。五十嵐は、中間点の時点でデルフィ大学の中川と並んで区間賞争いをしています。その差がもう10秒切ってきています!」

立花は無意識に拳を握りしめていた。必要以上にアップにされた柚希の表情は、今や苦痛に歪んでいた。画面越しでも、彼女が限界ギリギリの中で走り続けているのが伝わってくる。中継の実況が耳に届くたび、こっちまで締め付けられるように苦しくなった。

(ここまでなのか……!)

気づけば、もうすぐラスト1キロ。声掛けポイントの目印となる看板が目の前に迫っていた。

選手の力になりたい。背中を押してやりたい。立花はマイクを手に取った。これが最後のチャンスだ。

「さあ、ラスト1キロ切ったぞ、柚希——」



【画面、先頭に戻りました。午後1時5分にスタートした、このみなと駅伝ですが、選手たちはいよいよスタート地点のみなとみらいへと帰ってきました。四年間、青春をかけてきた、自らを成長させてくれた夢の舞台に、別れを告げる時が近づいてきました。沿道から物凄い数の拍手と声援が、この宮沢に向けられています】

そこに、鱒川さんが小話を挟む。

「みなと駅伝の創設者の方が仰っていましたけど、選手が一番輝ける、気持ちよく走れるようなコースを選んだそうですね。もちろんレース中は景色を楽しむ余裕などないでしょうけど、いつか再びこの道を訪れた時、海風や草木の香りとともに走った記憶を思い出して、横浜を第二の故郷と思ってもらえるような、そんなコースにしたかった、とお話されていましたね」

【あぁ、そうでしたか。そして宮沢が最後の上り坂に入って、さすがに表情が苦しくなりました。今、懸命に腕を振って、最後の難所に挑んでいます】

「宮沢さん、顔はキツそうですけど、まだまだ動いていますね。後ろとの差もだいぶ広げましたから、もう前だけを見据えて、このまま走り抜けてほしいですね」
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