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【第5話 練習試合のビックリオーダー】2037.08
④ エースの条件
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今日は、1キロ3分30秒ペースを刻む朝陽先輩についていき、10キロを35分でフィニッシュする。
寮母の咲月さんが運転する車に、マネージャーのラギちゃんも乗り込み、後ろから追走してもらいながらアスファルトの公道を走る。
やはり朝陽先輩はこういう練習に滅法強いみたいだ。一定のリズム、一定の動きで軽々とこなしていく。後ろから見ていて、途中で現れる細かいアップダウンもまるで苦にしていない様子だった。
1キロ3分30秒は、もちろんスピード練習のペースよりは遅い。
けれども、ジョグと比べたらうんと速い。
楓からしたら、リラックスしながら無理をする感覚だ。高地の低酸素の中で決して余裕のあるペースではない。
5区を走るなら、本番ではこれよりさらに速い1キロ3分20秒を切るペースで走らなければならない。遅れないよう食らいついていく。
腕時計の自動ラップが振動した。すごい、3分30秒ピッタリ。
楓は一人だと未だに一定ペースで走るというのがちゃんとできない。自分でペースを気にする労力を使わなくて済むのは非常に助かった。
さらにもっと凄かったのは、「この1キロは少し登ったから3分32くらいで行くね」と言ったら本当に時計が3分32秒を示し、次の1キロは少し速めにして、3分28秒。見事に帳尻を合わせてしまった。
「ハイ、朝陽先輩~、35分ジャスト~」
最後だけ先回りした車から降りて、ラギちゃんが首から下げたストップウォッチを読み上げているのが聞こえる。
「バンビ~、35分22~。ラスト1キロ3分45ー。泣かないの、頑張った、頑張った。途中まで行けてたよ。ハイハイ、歩きながら息整えるよー。倒れ込む癖つけない、って監督から言われてるでしょ」
(ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……)
悔しい。楓は8キロ途中でペースダウンしてしまい、朝陽先輩と一緒に終えることができなかった。
酸素が薄く、いくら吸ってもなかなか心拍数が戻らない。口と鼻から必死に取り込もうとする空気の中に冷たさが混ざっていて、頭の中がキーンとした。
勝負の記録会は、九月。あと二ヶ月足らずだ。
残された短い期間で、蓮李先輩を超えないといけない。
この摩天楼に、楓の逃げ場は無い。
◇
一方、蓮李の心境は、楓の想像とは全く別のところで揺れていた。
エース区間の5区を、本当は誰が走るべきなのか——。とうにわかっているつもりでいた。
「蓮李、調子はどうだ?」
トラックの片隅で、立花監督が蓮李に声をかけた。
「ぼちぼちです。でも、ちょっと気になることがあって」
ペース走組の二人が駐車場に戻ってきたみたいだ。朝陽はタオルで軽く汗をぬぐっているが、バンビはどうやらヘロヘロになって肩を落としている。でも、最後までやりきったみたいだ。
立花監督が、蓮李の視線の先を見た。
「ああ、楓のことか。俺はやっぱり、今の楓にみなと駅伝の5区は早すぎると思っているよ」
しかし蓮李には、そうは見えていなかった。
「監督、私は本当にエースとしてふさわしいんですかね」
「えっ、なにを言って……」
「最近、バンビがどんどん成長しているのがわかります。もしかしたら、本当に彼女が5区を走るべきなのかもしれないなと」
「おいおい。俺は現状、5区を走れるのは蓮李しかいないと思っているぞ。だが、競争は必要だ。楓のチャレンジ精神が、チームに上手い具合に火をつけてくれればいい」
そう。立花監督だって、それをわかった上でバンビと自分を競わせるような言い方をしたはずだ。今、「二神蓮李」に期待されている役割とは、無邪気に立ち向かってくる1年生を、危なげなく払いのけることなのだ。
それなのに。バンビが5区を走りたいと言ったあの時。
(あ、それなら、どうぞ……)
これで5区のプレッシャーから降りられる。一瞬でもそう思ってしまった自分に、驚くと同時に腹が立った。
(これじゃ、あの頃と何も変わっていない……!)
ごめんなさい。エースの自分が、こんなにふがいなくて。せっかく7人そろって、こんな自分についてきてくれたのに。
こんな気持ちで、チームのエースなんて務まるはずがない。自分はエースにふさわしい人間じゃない。エース失格だ。
◇
合宿地での毎日はあっという間に過ぎていき、デルフィ大学との練習試合の日が、いよいよ明日に迫ってきた。
夕食後のミーティングで、立花監督から練習試合についての説明があるようだ。
「明日なんだが、あちらさんに故障者が結構出ているみたいで、今回は5区間だけにしてほしいと申し出があった」
えっ。なんだ、全員が走れるわけじゃないんだ。駅伝部にいながらまだチームとして正式に駅伝の大会に出た経験がない楓は、ついにやってきたチャンスにドキドキしていたのに。
「こっちも、故障明けでこの合宿から合流したばかりの茉莉と、昨日の練習中に痛みが出たヘレナは、今回はサポートに回ってもらう。今は無理をする時じゃないからな。二人とも、九月の記録会に出られるように調子を合わせていってほしい」
お留守番組となった二人は残念そう。でも、一番大事なのは十月のみなと駅伝だもんね。
(あれっ。七人のうち二人出られないってことは?)
コースは、デルフィ大学の使っている白樺湖グラウンドと、アイリスが宿泊している女神湖付近とをちょうど往復するような形になるのだそうだ。
1・3・5区の奇数区間が、女神湖から白樺湖への下り坂。逆に、折り返しの2・4区の偶数区間が、白樺湖から女神湖への上り坂。
正確に測ったわけじゃないらしいけど、片道は大体5キロいかないくらいの距離だという。
「それじゃ。オーダーを発表するぞ」
1区、下り、小泉柚希(2年)。
2区、上り、二神蓮李(4年)。
3区、下り、二神心枝(2年)。
4区、上り、池田朝陽(2年)。
5区、下り、栗原楓 (1年)。
二人が出場しないとなると、楓は自動的にメンバー入りが決定したわけだが、待てども待てども名前は呼ばれず。まさかのアンカーだなんて。
「あ、あの、私がアンカーで大丈夫なんでしょうか。こういうのって普通一番速い人が務めるんじゃ……」
「いや。駅伝の場合はそうとも限らない。それに、楓がアンカーにいたほうが、先頭でタスキ渡してやろうと思って、みんな気合いが入るだろう?」
「えーっ。本当にそんな決め方でいいんですか……」
すると、蓮李先輩が口を開いた。
「うん、良い作戦かもしれないよ。みんなで頑張って、バンビに先頭を走る楽しさを知ってもらおう」
ドキッとした。そのとき久しぶりに、蓮李先輩と目が合ったのだ。
立花監督もさらに熱が入る。
「四月に入部してからこれまで、未経験者ながら、楓は本当によくここまでついてきてくれた。それどころか、他のメンバーもウカウカしていられないほどに力をつけている」
そこへ心枝先輩も優しい言葉をかけてくれた。
「うんうん、チームの雰囲気も明るくなったよね」
ヘレナちゃんも。
「バンビが入ってくれなかったら、みなと駅伝予選の人数も足りなかったし、ワタシせっかくフランスから来たのにどうしていいかわかりませんデシタ」
自分一人のレースじゃないことに、実感がわいてきた。練習試合だから関係ないけど、「5区」という響きにもなんだか嬉しくなってきた。
「うん。バンビは、まだ寄せ集めだったアイリスの駅伝部を、チームにしてくれたんだ。今度はバンビのためにチームが頑張る番だよ!」
蓮李先輩の声かけで、心の準備ができた。
先輩たちからタスキの掛け方を教えてもらった後、早めに就寝した。
寮母の咲月さんが運転する車に、マネージャーのラギちゃんも乗り込み、後ろから追走してもらいながらアスファルトの公道を走る。
やはり朝陽先輩はこういう練習に滅法強いみたいだ。一定のリズム、一定の動きで軽々とこなしていく。後ろから見ていて、途中で現れる細かいアップダウンもまるで苦にしていない様子だった。
1キロ3分30秒は、もちろんスピード練習のペースよりは遅い。
けれども、ジョグと比べたらうんと速い。
楓からしたら、リラックスしながら無理をする感覚だ。高地の低酸素の中で決して余裕のあるペースではない。
5区を走るなら、本番ではこれよりさらに速い1キロ3分20秒を切るペースで走らなければならない。遅れないよう食らいついていく。
腕時計の自動ラップが振動した。すごい、3分30秒ピッタリ。
楓は一人だと未だに一定ペースで走るというのがちゃんとできない。自分でペースを気にする労力を使わなくて済むのは非常に助かった。
さらにもっと凄かったのは、「この1キロは少し登ったから3分32くらいで行くね」と言ったら本当に時計が3分32秒を示し、次の1キロは少し速めにして、3分28秒。見事に帳尻を合わせてしまった。
「ハイ、朝陽先輩~、35分ジャスト~」
最後だけ先回りした車から降りて、ラギちゃんが首から下げたストップウォッチを読み上げているのが聞こえる。
「バンビ~、35分22~。ラスト1キロ3分45ー。泣かないの、頑張った、頑張った。途中まで行けてたよ。ハイハイ、歩きながら息整えるよー。倒れ込む癖つけない、って監督から言われてるでしょ」
(ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……)
悔しい。楓は8キロ途中でペースダウンしてしまい、朝陽先輩と一緒に終えることができなかった。
酸素が薄く、いくら吸ってもなかなか心拍数が戻らない。口と鼻から必死に取り込もうとする空気の中に冷たさが混ざっていて、頭の中がキーンとした。
勝負の記録会は、九月。あと二ヶ月足らずだ。
残された短い期間で、蓮李先輩を超えないといけない。
この摩天楼に、楓の逃げ場は無い。
◇
一方、蓮李の心境は、楓の想像とは全く別のところで揺れていた。
エース区間の5区を、本当は誰が走るべきなのか——。とうにわかっているつもりでいた。
「蓮李、調子はどうだ?」
トラックの片隅で、立花監督が蓮李に声をかけた。
「ぼちぼちです。でも、ちょっと気になることがあって」
ペース走組の二人が駐車場に戻ってきたみたいだ。朝陽はタオルで軽く汗をぬぐっているが、バンビはどうやらヘロヘロになって肩を落としている。でも、最後までやりきったみたいだ。
立花監督が、蓮李の視線の先を見た。
「ああ、楓のことか。俺はやっぱり、今の楓にみなと駅伝の5区は早すぎると思っているよ」
しかし蓮李には、そうは見えていなかった。
「監督、私は本当にエースとしてふさわしいんですかね」
「えっ、なにを言って……」
「最近、バンビがどんどん成長しているのがわかります。もしかしたら、本当に彼女が5区を走るべきなのかもしれないなと」
「おいおい。俺は現状、5区を走れるのは蓮李しかいないと思っているぞ。だが、競争は必要だ。楓のチャレンジ精神が、チームに上手い具合に火をつけてくれればいい」
そう。立花監督だって、それをわかった上でバンビと自分を競わせるような言い方をしたはずだ。今、「二神蓮李」に期待されている役割とは、無邪気に立ち向かってくる1年生を、危なげなく払いのけることなのだ。
それなのに。バンビが5区を走りたいと言ったあの時。
(あ、それなら、どうぞ……)
これで5区のプレッシャーから降りられる。一瞬でもそう思ってしまった自分に、驚くと同時に腹が立った。
(これじゃ、あの頃と何も変わっていない……!)
ごめんなさい。エースの自分が、こんなにふがいなくて。せっかく7人そろって、こんな自分についてきてくれたのに。
こんな気持ちで、チームのエースなんて務まるはずがない。自分はエースにふさわしい人間じゃない。エース失格だ。
◇
合宿地での毎日はあっという間に過ぎていき、デルフィ大学との練習試合の日が、いよいよ明日に迫ってきた。
夕食後のミーティングで、立花監督から練習試合についての説明があるようだ。
「明日なんだが、あちらさんに故障者が結構出ているみたいで、今回は5区間だけにしてほしいと申し出があった」
えっ。なんだ、全員が走れるわけじゃないんだ。駅伝部にいながらまだチームとして正式に駅伝の大会に出た経験がない楓は、ついにやってきたチャンスにドキドキしていたのに。
「こっちも、故障明けでこの合宿から合流したばかりの茉莉と、昨日の練習中に痛みが出たヘレナは、今回はサポートに回ってもらう。今は無理をする時じゃないからな。二人とも、九月の記録会に出られるように調子を合わせていってほしい」
お留守番組となった二人は残念そう。でも、一番大事なのは十月のみなと駅伝だもんね。
(あれっ。七人のうち二人出られないってことは?)
コースは、デルフィ大学の使っている白樺湖グラウンドと、アイリスが宿泊している女神湖付近とをちょうど往復するような形になるのだそうだ。
1・3・5区の奇数区間が、女神湖から白樺湖への下り坂。逆に、折り返しの2・4区の偶数区間が、白樺湖から女神湖への上り坂。
正確に測ったわけじゃないらしいけど、片道は大体5キロいかないくらいの距離だという。
「それじゃ。オーダーを発表するぞ」
1区、下り、小泉柚希(2年)。
2区、上り、二神蓮李(4年)。
3区、下り、二神心枝(2年)。
4区、上り、池田朝陽(2年)。
5区、下り、栗原楓 (1年)。
二人が出場しないとなると、楓は自動的にメンバー入りが決定したわけだが、待てども待てども名前は呼ばれず。まさかのアンカーだなんて。
「あ、あの、私がアンカーで大丈夫なんでしょうか。こういうのって普通一番速い人が務めるんじゃ……」
「いや。駅伝の場合はそうとも限らない。それに、楓がアンカーにいたほうが、先頭でタスキ渡してやろうと思って、みんな気合いが入るだろう?」
「えーっ。本当にそんな決め方でいいんですか……」
すると、蓮李先輩が口を開いた。
「うん、良い作戦かもしれないよ。みんなで頑張って、バンビに先頭を走る楽しさを知ってもらおう」
ドキッとした。そのとき久しぶりに、蓮李先輩と目が合ったのだ。
立花監督もさらに熱が入る。
「四月に入部してからこれまで、未経験者ながら、楓は本当によくここまでついてきてくれた。それどころか、他のメンバーもウカウカしていられないほどに力をつけている」
そこへ心枝先輩も優しい言葉をかけてくれた。
「うんうん、チームの雰囲気も明るくなったよね」
ヘレナちゃんも。
「バンビが入ってくれなかったら、みなと駅伝予選の人数も足りなかったし、ワタシせっかくフランスから来たのにどうしていいかわかりませんデシタ」
自分一人のレースじゃないことに、実感がわいてきた。練習試合だから関係ないけど、「5区」という響きにもなんだか嬉しくなってきた。
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