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【3区 8.0km 安藤 ヘレナ(1年)】
③ この地平の先に
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『さて、ここで2区終了時点でのタイム差を整理します』
1位・53分01秒 +0:00 (青/デルフィ大)
2位・53分03秒 +0:02 (藍/アイリス女学大)
3位・53分19秒 +0:18 (緑/ジャスミン大)
4位・53分30秒 +0:29 (赤/ローズ大)
5位・53分34秒 +0:33 (黄/デイジー大)
【1区に続き、2区でもデルフィ大学が首位をキープ。しかし上位5チームが33秒差にひしめき合う大混戦。どこが主導権を握ってもおかしくない状況になってきました。続いて、個人の区間順位です】
★2区 7.3km 区間順位
1位・22分40秒 姫路 薫 (4年/赤/ローズ大)
2位・22分54秒 二神 心枝 (2年/藍/アイリス女学大)
3位・23分22秒 藤井 実咲 (3年/緑/ジャスミン大)
4位・23分29秒 藤原 茜 (2年/白/リリー大)
5位・23分45秒 西出 玲奈 (1年/青/デルフィ大)
【区間賞はやはり、ローズ大学の姫路薫が獲得しました。これで姫路は三年連続の区間賞。本日ゲスト解説の福山さんが持つ区間記録、22分30秒には10秒届きませんでしたが、それでも区間歴代3位の好タイムです。そして鱒川さん。区間2位にアイリスの二神心枝が入りました】
「はい、よく頑張りましたね。心枝さんまだ2年生ですから、今日の結果を自信にしてこれからどんな活躍を見せてくれるか、非常に楽しみな選手が出てきましたね」
【その他にはデルフィ大学の西出、ずっと先頭を走っていた選手ですけども】
「区間5位は立派ですね。上位5人の中では唯一持ちタイムが16分台でしたから、大健闘と言っていいんじゃないでしょうか」
【さあ、それではインタビューの準備、できましたでしょうか。お願いします】
——はい。こちら2区区間賞を獲得しました、ローズ大学・姫路薫選手です。おめでとうございます。
「ありがとうございます」
——まず、トップから1分34秒という厳しい状況でタスキを受け取りました。どんな心境でしたか?
「はい。やはり本来なら私が1区を走らなければいけないところを、間に合わせられずチームに迷惑をかけてしまったので、自分がなんとかしないとという気持ちだけでした」
——その中で、見事10人抜きの快走で、区間賞。ご自身で走りを振り返ってみていかがですか。
「そうですね。区間賞は最低限と思っていたので、そこの嬉しさはありません。とにかく自分の区間で先頭に立つことができなかったのが、まだまだ力不足だと感じました」
——残りの区間の選手にむけてメッセージをお願いします。
「はい。強い先輩方が卒業してローズが弱くなったと言われないよう、この1年間やってきましたので、必ず逆転できると信じて、ゴールで待っていたいと思います」
——以上、姫路選手のインタビューでした。どうもありがとうございました。
「ありがとうございました」
【姫路選手~】
「はい?」
【今ですね、放送席の福山莉子先輩と、中継が繋がっています】
「カオル、区間賞おめでとう」
「あっ、はい、ありがとうございます」
「今回初めて追い上げる展開で、凄く良い経験になったと思うので、また今後に活かして頑張ってください」
「はい、ありがとうございました」
【区間賞の姫路のインタビュー、ご覧いただきました】
「姫路さん、終始険しい表情での受け答えでしたけど、福山さんと話したら少し表情柔らかくなりましたね」
【そうですねぇ。さて、国道357号線、上空からの映像をご覧いただいていますが。選手達は進路を一路、南にとりまして、八景島へと続くこの長い長い、湾岸ストレートをひた走っていきます。福山さんはこの3区、3年生の時に一度経験がありますが、その時の思い出などはありますか』
「はい。やはりこの長い直線が印象的で。だんだん自分でも進んでいる感覚がなくなって、ボーッとしてくるんですけど、ちょうど良いところに両親が応援に来てくれていたので、そこで気持ちを切り替えることができました」
そこに解説の鱒川さんが投げかける。
「でも福山さんの時は、先頭でタスキ貰って、もう余裕の一人旅かと思ったんだけど?」
「いえ、そういうわけでもなくてですね。直線なので後ろのほぼ全員からよく見えて、標的にされているので。少しでもペース落ちたら一気にやられるなっていうプレッシャーはありました」
【なるほど、直線だとそういう駆け引きもあるわけですね。さあ、後ろからのプレッシャーという話が出ましたが、2号車から先頭はどう見えているでしょうか】
「はい。ジャスミン大学の洋見が、物凄い追い上げを見せています。3キロ通過が9分13秒という、素晴らしいペースでここまで来ました。先ほど2キロから3キロの間に、デルフィ大学の磯村を抜き去りまして、単独2位に浮上しています。この長い直線コースに入ってから、先頭を行きます安藤との差をはっきりと測ることができるようになりました。もうその差が11秒です!」
【去年、このコースで区間記録を作ったローズ大学の松永が、3キロ9分30秒でしたから。その時より17秒も速い通過ということになります】
テレビ中継では、ヘレナと洋見のルーキー対決に注目が集まっている。藍色のアイリスと、緑のジャスミンの一騎打ちだ。
5キロの定点カメラ前のチェックポイントを通過する。テレビのテロップ表示によれば、先頭のヘレナの5キロのタイムが15分43秒。すると、後ろの洋見さんのタイムは15分38秒。二人の激しいデッドヒートが続く。
本来逃げる側としては、前半はリードを使って余裕をもって入り、後半でペースアップするというのが王道パターンなのだが、ヘレナにはそれをさせなかった。
ウチはとにかく4区終了時点までが勝負。5区で控えているのは、ジャスミン大学の神宮寺エリカ、ローズ大学の松永悠未ら、大学駅伝界のトップを常に走ってきた大エースたちだ。さすがの蓮李でも、彼女たちを相手に逆転するのは厳しい。蓮李を少しでもリラックスして走らせるために、3区と4区の二人で、なんとか60秒のリードを作っておきたい。
ヘレナにとって、ある意味この局面は一番合っているように思う。彼女はライバルがいるほうが燃えるタイプ。相手が同じ一年生なら、なおのこと負けられないと思うだろう。
ランナーというのは、余裕がなくなってくるとどうしても後ろを気にしてしまうもの。しかしそれを見た後ろの選手は、逆に元気になってしまう。
ヘレナも3キロまでは洋見さんと全く同じ9分13秒という素晴らしいペースで走っていたが、最近のラップは、3分17秒、3分13秒、3分16秒と、苦しんでいる。ガクンとペースが落ちたのは、自分の時計でも確認しているはず。後ろへの声援が次第に大きく聞こえるようになってきて、洋見からの圧も感じていることだろう。
しかし、弱気になろうと思えばいつでもなれる今日一番の踏ん張りどころで、相手に隙を見せない。これだけ接近されても、決して後ろを振り返ろうとしない。
(ホント、このメンタルは大したものだよ)
ヘレナに、淡々とイーブンペースで刻んでいくようなコースは合わない。彼女の走りは、前半から突っ込んでいく走り。序盤で貯金を作って、それを崩さないように粘る走りなんだ。
(そうだ、ヘレナ。前を向け。腕を振れ)
せっかくトップに立てたんだ。ここで流れを渡してたまるか。
1位・53分01秒 +0:00 (青/デルフィ大)
2位・53分03秒 +0:02 (藍/アイリス女学大)
3位・53分19秒 +0:18 (緑/ジャスミン大)
4位・53分30秒 +0:29 (赤/ローズ大)
5位・53分34秒 +0:33 (黄/デイジー大)
【1区に続き、2区でもデルフィ大学が首位をキープ。しかし上位5チームが33秒差にひしめき合う大混戦。どこが主導権を握ってもおかしくない状況になってきました。続いて、個人の区間順位です】
★2区 7.3km 区間順位
1位・22分40秒 姫路 薫 (4年/赤/ローズ大)
2位・22分54秒 二神 心枝 (2年/藍/アイリス女学大)
3位・23分22秒 藤井 実咲 (3年/緑/ジャスミン大)
4位・23分29秒 藤原 茜 (2年/白/リリー大)
5位・23分45秒 西出 玲奈 (1年/青/デルフィ大)
【区間賞はやはり、ローズ大学の姫路薫が獲得しました。これで姫路は三年連続の区間賞。本日ゲスト解説の福山さんが持つ区間記録、22分30秒には10秒届きませんでしたが、それでも区間歴代3位の好タイムです。そして鱒川さん。区間2位にアイリスの二神心枝が入りました】
「はい、よく頑張りましたね。心枝さんまだ2年生ですから、今日の結果を自信にしてこれからどんな活躍を見せてくれるか、非常に楽しみな選手が出てきましたね」
【その他にはデルフィ大学の西出、ずっと先頭を走っていた選手ですけども】
「区間5位は立派ですね。上位5人の中では唯一持ちタイムが16分台でしたから、大健闘と言っていいんじゃないでしょうか」
【さあ、それではインタビューの準備、できましたでしょうか。お願いします】
——はい。こちら2区区間賞を獲得しました、ローズ大学・姫路薫選手です。おめでとうございます。
「ありがとうございます」
——まず、トップから1分34秒という厳しい状況でタスキを受け取りました。どんな心境でしたか?
「はい。やはり本来なら私が1区を走らなければいけないところを、間に合わせられずチームに迷惑をかけてしまったので、自分がなんとかしないとという気持ちだけでした」
——その中で、見事10人抜きの快走で、区間賞。ご自身で走りを振り返ってみていかがですか。
「そうですね。区間賞は最低限と思っていたので、そこの嬉しさはありません。とにかく自分の区間で先頭に立つことができなかったのが、まだまだ力不足だと感じました」
——残りの区間の選手にむけてメッセージをお願いします。
「はい。強い先輩方が卒業してローズが弱くなったと言われないよう、この1年間やってきましたので、必ず逆転できると信じて、ゴールで待っていたいと思います」
——以上、姫路選手のインタビューでした。どうもありがとうございました。
「ありがとうございました」
【姫路選手~】
「はい?」
【今ですね、放送席の福山莉子先輩と、中継が繋がっています】
「カオル、区間賞おめでとう」
「あっ、はい、ありがとうございます」
「今回初めて追い上げる展開で、凄く良い経験になったと思うので、また今後に活かして頑張ってください」
「はい、ありがとうございました」
【区間賞の姫路のインタビュー、ご覧いただきました】
「姫路さん、終始険しい表情での受け答えでしたけど、福山さんと話したら少し表情柔らかくなりましたね」
【そうですねぇ。さて、国道357号線、上空からの映像をご覧いただいていますが。選手達は進路を一路、南にとりまして、八景島へと続くこの長い長い、湾岸ストレートをひた走っていきます。福山さんはこの3区、3年生の時に一度経験がありますが、その時の思い出などはありますか』
「はい。やはりこの長い直線が印象的で。だんだん自分でも進んでいる感覚がなくなって、ボーッとしてくるんですけど、ちょうど良いところに両親が応援に来てくれていたので、そこで気持ちを切り替えることができました」
そこに解説の鱒川さんが投げかける。
「でも福山さんの時は、先頭でタスキ貰って、もう余裕の一人旅かと思ったんだけど?」
「いえ、そういうわけでもなくてですね。直線なので後ろのほぼ全員からよく見えて、標的にされているので。少しでもペース落ちたら一気にやられるなっていうプレッシャーはありました」
【なるほど、直線だとそういう駆け引きもあるわけですね。さあ、後ろからのプレッシャーという話が出ましたが、2号車から先頭はどう見えているでしょうか】
「はい。ジャスミン大学の洋見が、物凄い追い上げを見せています。3キロ通過が9分13秒という、素晴らしいペースでここまで来ました。先ほど2キロから3キロの間に、デルフィ大学の磯村を抜き去りまして、単独2位に浮上しています。この長い直線コースに入ってから、先頭を行きます安藤との差をはっきりと測ることができるようになりました。もうその差が11秒です!」
【去年、このコースで区間記録を作ったローズ大学の松永が、3キロ9分30秒でしたから。その時より17秒も速い通過ということになります】
テレビ中継では、ヘレナと洋見のルーキー対決に注目が集まっている。藍色のアイリスと、緑のジャスミンの一騎打ちだ。
5キロの定点カメラ前のチェックポイントを通過する。テレビのテロップ表示によれば、先頭のヘレナの5キロのタイムが15分43秒。すると、後ろの洋見さんのタイムは15分38秒。二人の激しいデッドヒートが続く。
本来逃げる側としては、前半はリードを使って余裕をもって入り、後半でペースアップするというのが王道パターンなのだが、ヘレナにはそれをさせなかった。
ウチはとにかく4区終了時点までが勝負。5区で控えているのは、ジャスミン大学の神宮寺エリカ、ローズ大学の松永悠未ら、大学駅伝界のトップを常に走ってきた大エースたちだ。さすがの蓮李でも、彼女たちを相手に逆転するのは厳しい。蓮李を少しでもリラックスして走らせるために、3区と4区の二人で、なんとか60秒のリードを作っておきたい。
ヘレナにとって、ある意味この局面は一番合っているように思う。彼女はライバルがいるほうが燃えるタイプ。相手が同じ一年生なら、なおのこと負けられないと思うだろう。
ランナーというのは、余裕がなくなってくるとどうしても後ろを気にしてしまうもの。しかしそれを見た後ろの選手は、逆に元気になってしまう。
ヘレナも3キロまでは洋見さんと全く同じ9分13秒という素晴らしいペースで走っていたが、最近のラップは、3分17秒、3分13秒、3分16秒と、苦しんでいる。ガクンとペースが落ちたのは、自分の時計でも確認しているはず。後ろへの声援が次第に大きく聞こえるようになってきて、洋見からの圧も感じていることだろう。
しかし、弱気になろうと思えばいつでもなれる今日一番の踏ん張りどころで、相手に隙を見せない。これだけ接近されても、決して後ろを振り返ろうとしない。
(ホント、このメンタルは大したものだよ)
ヘレナに、淡々とイーブンペースで刻んでいくようなコースは合わない。彼女の走りは、前半から突っ込んでいく走り。序盤で貯金を作って、それを崩さないように粘る走りなんだ。
(そうだ、ヘレナ。前を向け。腕を振れ)
せっかくトップに立てたんだ。ここで流れを渡してたまるか。
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