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親子
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二人と別れ一人展示ブースを歩いていると一つの絵の前で止まっている一人の六十代ぐらいのグレーの半袖ニットを着た男性を見かけ近づいてみると男性の視線の先には牡丹の着物を着た赤毛の綺麗な女性の絵があった。
「その絵の女性…綺麗ですね」
ふと漏れた言葉に隣に立つ男性は視線を絵から外さないまま言葉を返した。
「ありがとう…妻も喜ぶよ」
「へ?妻?」
「これは私の妻がモデルとなった絵なんだ」
「え!?奥さんがモデルって…凄いですね!きっと本物の奥さんも綺麗なんだろうなぁ…」
「ははっ…怒ると怖いがね」
男性は星那の言葉に苦笑いをしながらも嬉しそうな顔をしていた。
「にしてもモデルの奥さんも凄いけど、この絵を含めてこの展示ブースの絵を描いた道天さんって本当に凄いですよね…!」
「そうかな…?」
「はい!自然を最大限に描いた上で絵から本物の自然が浮き出るみたいに丁寧で繊細で自然が大好きな気持ちが表れてて…きっと道天さんはこの世界の美しい自然が大好きなんだろうなって思います!」
「君の目にはそう映るのだね…」
「え?」
「絵はね、人それぞれ見方も感じ方も違うんだよ…だがどう感じろうとそれはその人の自由。私はそんな自由な目でこの世界の自由な美しい自然を見て欲しかったんだ」
「えっと…私?」
男性の言葉に隣に立つ男性の顔を見上げると、男性は口元を上げ小さく笑った。
「私の絵をそんな美しい心で見てくれてありがとう…」
「え…もしかして…道天!?」
驚いた声で問いかけるとその通りと言わんばかりに小さく笑いながら頷いた。
「…改めて高坂 道天と申します」
「あ、えっと…私は美嶋 星那と申しますっ!」
深々とお辞儀をし自己紹介をすると改めて道天の顔を見上げ目元や鼻の辺りが椿や蓮と似ている事に気づいた。
そういえば、さっきの笑顔も椿さんや蓮さんと瓜二つだったなぁ…
「君が美嶋さんだったのか…!?」
道天は驚いた声をあげマジマジと星那を一瞥した。
「な、何でしょうか…?」
「すまん、男性だと聞いていたんだが女性だったのだね…」
「あ、いえ!違います!正真正銘男です!これには色々と事情がありまして…」
「なんと!?男性で間違いないのだね…いやはやどう見ても女性にしか見えなんだ」
何かこのやり取りデジャブ感じるんだけど…やっぱり親子なんだなぁ…
先程の椿や菫とのやり取りを思い出しひしひしと親子である事を感じていると、道天は急に暗い顔で口を開いた。
「…蓮は元気にしているのかね?」
「え?」
「話は既に聞いていると思うが、ここ五年ほど蓮とは疎遠でね…それも私が悪いのは分かっているんだが、それでも私は蓮にはデザイナーとして生きてほしいんだ」
「あの…ずっと気になってたんですが、何故道天さんは蓮さんをそんなにデザイナーにしたいんですか?」
「蓮には私の才能が他の2人より濃く受け継いでいてね…それはこの絵と対になる蓮の絵を見て尚更思ったんだ…蓮にはデザイナーとして素晴らしい才能があると」
「対になる蓮さんの絵…?」
それってまさか書斎で見た…
「モデルはこの妻なんだが蓮のは向日葵を題材とした絵でね…その絵を見た私は、私と違い蓮にはまるでその絵の中で生きているような…その絵の感情を表に出す事が出来るんだよ。それはまるでデザイナーになるべくして生まれた才能でもあると私は自負している」
「だから、蓮さんの絵を表に出そうと…?」
「ああ…だが蓮本人はそれをしてしまったらデザイナーになるしかない事を悟り拒否し続けている」
だから、わざわざ椿さんが書斎まで来て絵を取りに来てたんだ…
合点がいったとばかりに納得しつつもやはり納得がいかないとばかりに再度口を開いた。
「あの…一庶民で関係もない俺が言うのも何なんですが、それじゃ蓮さんの気持ちは一切含まれてないですよね?そんなんで勝手に道を決めて蓮さんの気持ちを切り捨てて親として駄目なんじゃないんですか?」
こんなの蓮さんが可哀想…
「蓮の気持ちを尊重せず私の身勝手な考えで無理矢理デザイナーにさせようとしてる事は私としても親として最低な事をしていると思っている…だが、蓮はデザイナーとして誰もが欲しがる才能を持っている、それを活かしてあげないことはデザイナー業界として宝を失うと同じなのだよ!私はいちデザイナーとしてみすみすその宝を失わせるような真似はしたくはない」
親としてじゃなくデザイナーとしてって事…?
あまりにも理不尽すぎる理由に星那は絶句した。
「だから、どんな手を使っても私は蓮をデザイナーに戻してみせる…!そのためにはまず美嶋さん…君の協力が必要なんだが…」
「お断りしますっ!私は蓮さん本人の気持ちも考えずそんな理不尽すぎる理由で絶対協力なんてしません!絶対…蓮さんをデザイナーなんかにさせません!」
「一般人の君には分からないと思うがこれはデザイナー業界にて一つの宝を無くすのと同じな…」
「失礼しますっ!」
道天の言葉を遮り慌てて踵を返しその場から遠ざかるように走って出口へと向かった。
バタンッ!
「お客様!いかがなされ…」
受付の女性の声を無視し真っ直ぐに出口へ出ると一キロ先にあるバス停まで走った。
最悪な父親!あんな人に絶対蓮さんの自由を奪わせない!
そんな強い気持ちがぐるぐると心の中を掻き乱しドームから立ち去ろうと一心不乱に走ったのだった。
「その絵の女性…綺麗ですね」
ふと漏れた言葉に隣に立つ男性は視線を絵から外さないまま言葉を返した。
「ありがとう…妻も喜ぶよ」
「へ?妻?」
「これは私の妻がモデルとなった絵なんだ」
「え!?奥さんがモデルって…凄いですね!きっと本物の奥さんも綺麗なんだろうなぁ…」
「ははっ…怒ると怖いがね」
男性は星那の言葉に苦笑いをしながらも嬉しそうな顔をしていた。
「にしてもモデルの奥さんも凄いけど、この絵を含めてこの展示ブースの絵を描いた道天さんって本当に凄いですよね…!」
「そうかな…?」
「はい!自然を最大限に描いた上で絵から本物の自然が浮き出るみたいに丁寧で繊細で自然が大好きな気持ちが表れてて…きっと道天さんはこの世界の美しい自然が大好きなんだろうなって思います!」
「君の目にはそう映るのだね…」
「え?」
「絵はね、人それぞれ見方も感じ方も違うんだよ…だがどう感じろうとそれはその人の自由。私はそんな自由な目でこの世界の自由な美しい自然を見て欲しかったんだ」
「えっと…私?」
男性の言葉に隣に立つ男性の顔を見上げると、男性は口元を上げ小さく笑った。
「私の絵をそんな美しい心で見てくれてありがとう…」
「え…もしかして…道天!?」
驚いた声で問いかけるとその通りと言わんばかりに小さく笑いながら頷いた。
「…改めて高坂 道天と申します」
「あ、えっと…私は美嶋 星那と申しますっ!」
深々とお辞儀をし自己紹介をすると改めて道天の顔を見上げ目元や鼻の辺りが椿や蓮と似ている事に気づいた。
そういえば、さっきの笑顔も椿さんや蓮さんと瓜二つだったなぁ…
「君が美嶋さんだったのか…!?」
道天は驚いた声をあげマジマジと星那を一瞥した。
「な、何でしょうか…?」
「すまん、男性だと聞いていたんだが女性だったのだね…」
「あ、いえ!違います!正真正銘男です!これには色々と事情がありまして…」
「なんと!?男性で間違いないのだね…いやはやどう見ても女性にしか見えなんだ」
何かこのやり取りデジャブ感じるんだけど…やっぱり親子なんだなぁ…
先程の椿や菫とのやり取りを思い出しひしひしと親子である事を感じていると、道天は急に暗い顔で口を開いた。
「…蓮は元気にしているのかね?」
「え?」
「話は既に聞いていると思うが、ここ五年ほど蓮とは疎遠でね…それも私が悪いのは分かっているんだが、それでも私は蓮にはデザイナーとして生きてほしいんだ」
「あの…ずっと気になってたんですが、何故道天さんは蓮さんをそんなにデザイナーにしたいんですか?」
「蓮には私の才能が他の2人より濃く受け継いでいてね…それはこの絵と対になる蓮の絵を見て尚更思ったんだ…蓮にはデザイナーとして素晴らしい才能があると」
「対になる蓮さんの絵…?」
それってまさか書斎で見た…
「モデルはこの妻なんだが蓮のは向日葵を題材とした絵でね…その絵を見た私は、私と違い蓮にはまるでその絵の中で生きているような…その絵の感情を表に出す事が出来るんだよ。それはまるでデザイナーになるべくして生まれた才能でもあると私は自負している」
「だから、蓮さんの絵を表に出そうと…?」
「ああ…だが蓮本人はそれをしてしまったらデザイナーになるしかない事を悟り拒否し続けている」
だから、わざわざ椿さんが書斎まで来て絵を取りに来てたんだ…
合点がいったとばかりに納得しつつもやはり納得がいかないとばかりに再度口を開いた。
「あの…一庶民で関係もない俺が言うのも何なんですが、それじゃ蓮さんの気持ちは一切含まれてないですよね?そんなんで勝手に道を決めて蓮さんの気持ちを切り捨てて親として駄目なんじゃないんですか?」
こんなの蓮さんが可哀想…
「蓮の気持ちを尊重せず私の身勝手な考えで無理矢理デザイナーにさせようとしてる事は私としても親として最低な事をしていると思っている…だが、蓮はデザイナーとして誰もが欲しがる才能を持っている、それを活かしてあげないことはデザイナー業界として宝を失うと同じなのだよ!私はいちデザイナーとしてみすみすその宝を失わせるような真似はしたくはない」
親としてじゃなくデザイナーとしてって事…?
あまりにも理不尽すぎる理由に星那は絶句した。
「だから、どんな手を使っても私は蓮をデザイナーに戻してみせる…!そのためにはまず美嶋さん…君の協力が必要なんだが…」
「お断りしますっ!私は蓮さん本人の気持ちも考えずそんな理不尽すぎる理由で絶対協力なんてしません!絶対…蓮さんをデザイナーなんかにさせません!」
「一般人の君には分からないと思うがこれはデザイナー業界にて一つの宝を無くすのと同じな…」
「失礼しますっ!」
道天の言葉を遮り慌てて踵を返しその場から遠ざかるように走って出口へと向かった。
バタンッ!
「お客様!いかがなされ…」
受付の女性の声を無視し真っ直ぐに出口へ出ると一キロ先にあるバス停まで走った。
最悪な父親!あんな人に絶対蓮さんの自由を奪わせない!
そんな強い気持ちがぐるぐると心の中を掻き乱しドームから立ち去ろうと一心不乱に走ったのだった。
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