男装ホストは未来を見る

Shell

文字の大きさ
上 下
75 / 108

女の涙は戦いの合図

しおりを挟む
星那は、豹がいないのを遠回しに蓮と隆二と分かれて見つからないように店内を歩き探していた。

はぁ…結局一人で動く事になるし、豹の奴何処に行ったのよ

内心、豹に対する愚痴ばかりが募りながらもキッチンと思われる場所に辿り着くとタイミングよく料理を作るホストは誰一人おらず部屋内を物色する。

「ここに井川さんがいるとは考えにくいけど…」

可能性は低い場所に軽く物色する形で歩き見ていると木板で出来た床が軋む音がした。

ズシッ…

「え…?」

踏んだ足元を見ると床が沈む感触がししゃがんで確かめると木板がその部分だけ外れる形となっており外してみると下には小さな取っ手付きの鉄の床があった。

「もしかしてこれって…」

取っ手に手をかけ思い鉄板をあげると中に部屋らしき空洞があった。

「…助けてっ…!誰か…!」

「井川さん!?」

中から井川の声が聞こえ慌てて叫ぶ。

「その声は…美嶋さん?」

「えっと…」

今の姿はどう見ても男だし…正直答えちゃまずいよね…?

少し間をあけ考えた末、正直に名乗るのをやめ誤魔化すことにした。

「その…俺は星那の双子の兄なんだ」

「お兄さん…?」

「そう、妹から頼まれて井川さんを助けに来たんだけど…あ!ちょっと待ってて!」

辺りを見渡し紐的な何かを探しみると近くに長いロープを見つけ慌ててそのロープを近くの柱に巻き付け下におろす先を自分の体に巻き付ける。

「俺が一旦おりるから穴の中心にいて!」

「は、はい!」

何処まであるか分からない地下の空洞に息を呑むが意を決して穴に入る。

ドンッ!

「いっ…」

下に降りると床は鉄床らしく降りた反動で音が響き渡る。

「大丈夫ですか!?」

尻もちをつく星那の様子に慌てて井川が顔を出し近寄る。

「俺は大丈夫だからそれより井川さんは…」

途上の光に照らされ見えた井川の姿に未来のビジョンが重なり言葉を飲み込む。

ボロボロの黒いドレスに両手両足にかけられた手錠…このまま助けられなければ今頃井川さんは…

最悪な事態を想像し内心一気に青ざめる。

「あの…お兄さん?」

星那の様子に不思議に思った井川が疑問の声をかけ、その声にすぐに我に返り意識を井川の顔に向き直る。

「井川さん何処も怪我してない?」

「抵抗したので少しかすり傷はありますが大した怪我ではないので大丈夫です」

「そう…とにかく今はここから出て捕まらないように脱出しないと」

「まさかこんな事になるなんて…私はただカナトが好きで…カナトのためにって…うぅ…」

その場に崩れ落ち涙を流す井川にしゃがみ込み顔を覆う手に触れる。

「今の井川さんにホストの俺が何言っても信用ならないと思うけど、星那の言葉だと思って聞いて欲しい…」

星那の言葉に無言で頷くと真剣な顔で再度口を開く。

「…井川さんの好きは間違ってる。好きな人のためにって自分を犠牲にして恋する事はないんだよ?」

「でも私にはカナトしかいない…カナトがいなくなったらまた一人…」

「井川さんが気づかないだけで井川さんの傍には心配する人も見てくれる人もいるよ」

「え…」

「俺の妹の星那もそして幼馴染の太田くんも…井川さんを心配してる。太田くんなんてずっと井川さんを見てきた一人だ」

「龍也は私を心配…?」

「太田くんは、ずっと気にして心配してたって星那から聞いた…俺は自分を無くしてまで追いかける人より自分を心配してくれる人に恋をする方が幸せだと思う」

「っ…」

星那の言葉を聞いた瞬間、井川の目から涙が溢れ出し井川の体をそっと引き寄せ抱き締める。

「うっ…うわぁぁぁんっ!…ひっくっ…」

きっとずっと苦しくて辛い気持ちを溜め込んで苦しかったのだろう…胸の中で泣き続ける井川さんの背中を泣き止むまで摩った。

 *

「…よし、そろそろ出なきゃね。井川さんもう大丈夫…?」

「はいっ…すみません衣服濡らしてしまって」

胸の中で泣き続けた井川の涙で胸元は濡れてしまい申し訳なさそうに言う井川に笑顔で応える。

「気にしなくても大丈夫だよ!女性の涙を拭うのもホストの役目だからね」

「クスッ…美嶋さんのお兄さんはいいホストですね」

「そう言ってもらえるとホストとして働きがいがあるよ…ふふっ」

互いに小さく笑い合いひと段落ついた所で井川さんを抱き締め落ちないようにしっかりと体にしがみついてもらうと上に向かって吊るされたロープで登る。

早くここから出なきゃ…!

上に向かってロープで登り終え出るとキッチンの側でガムテープで体や両手両足を固定され口を塞がれたエプロン姿の男がいた。

「もしかしてあんたここの料理担当の奴?」

男は星那の顔を見ながら必死な目で何度も頷く。

「いったい誰が…ん?」

男の胸の上に小さなメモ紙を見つけ開くとそこには豹の字で書かれたメッセージが書かれてあった。


” 出るなら早くしろ!追伸、蓮さんと隆二さんは既に中で仕掛けてるはずだから計画通りに”

「豹こそ今まで何処にいたんだっつーの!」

今まで姿を消していた豹に怒りを覚えながらも出てくる間に料理担当のホストを捕まえてくれてた事に感謝した。

「お兄さん…?早く脱出しないとまずいんじゃ…」

「あ、そうだね!」

振り返り井川に返答すると再度目の前でガムテープで固定されている男に向き直る。

「君には一切恨みはないけど、これも女性のためだからホストとして見過ごせないんだ…だから一時我慢してね?」

笑顔で言い放ちガムテープを取ることなくその場を後にした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5人の旦那様と365日の蜜日【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる! そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。 ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。 対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。 ※♡が付く話はHシーンです

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】

高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。 全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。 断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。

前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる

KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。 城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。

【R18】幼馴染な陛下は、わたくしのおっぱいお好きですか?💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に告白したら、両思いだと分かったので、甘々な毎日になりました。  でも陛下、本当にわたくしに御不満はございませんか?

【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」 「え、じゃあ結婚します!」 メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。 というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。 そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。 彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。 しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。 そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。 そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。 男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。 二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。 ◆hotランキング 10位ありがとうございます……! ―― ◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ

処理中です...