男装ホストは未来を見る

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縁側

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無事に買い物を済ませ理沙達に別れを告げ買い物袋の上に布生地を被せて衣類を隠すと公衆トイレで着替えを済ませメイクを落とし男装するとバイト先である『Start』に向かった。

カラン…

「お!せな、ショッピング終わったのか?」

店に入るとフルーツ盛りを手に偶然入口前にいた隆二の姿があった。

「は、はい…」

思わぬ人の姿に先程のショッピングセンターでの光景が過ぎりぎこちなく返事をすると不審に思ったのかフルーツ盛りを手にしたまま顔をのぞき込まれ思わず一歩後ずさる。

「どうかしたのか?」

これさっきの事聞いてもいいのかな…?

迷った末に意を決して口を開く。

「あ、あの!さっきショッピングセンターで…」

「隆二さ~ん!フルーツ盛りまだすか~?」

話を切り出そうとした瞬間、突然タイミング悪く明の声が聞こえ言葉を飲み込む。

「今行く~!…星那悪い!また後でな?」

そう言うと隆二さんは踵を返しお客様の元へ戻って行った。

「はぁ…結局聞けなかった」

 *

それからというものチャンスがあれば隆二さんに聞こうとしたが尽くチャンスを逃し聞けずじまいに終わった。
バイト時間も終わり仕方なく帰り支度をして店を出ると入口付近に不審な影が見えた。

なんだろう…?まさか泥棒?ストーカー?

不審に思い影が見えた路地裏へ行くとそこには誰もおらず不審な人など何処にもいなかった。

「おっかしいなぁ…確かに誰かいた気がしたんだけどなぁ…」

首を傾げ誰もいない路地裏を見渡し呟く。

「まぁ、居ないならそれでいいけど…」

気を取り直し足を家に向け帰宅する事に思考を変えた。

 *

何事もなく無事に帰宅し、その後帰って来た隆二さんと蓮さんと豹と四人で夕飯を食べ先にお風呂に入り自室に戻ると色々悩んだ末にカツラとショッピングで買ったサラシ代わりのコルセットを身につけ隆二さんが居るであろうダイニングに向かった。

ガチャ…

「…ん?せな、どうかしたか?」

ダイニングには蓮の姿しかなく隆二や豹の姿はなかった。

「あの…隆二さんは?」

「隆二なら自室に戻ってるぞ」

「そうですか…」

蓮の言葉を聞き踵を返し隆二のいる部屋に足を向ける。

「あ!晩酌のツマミでも…」

ドアを閉める際に蓮の言葉が聞こえた気がしたがスルーしつつ真っ直ぐに隆二の部屋に向かった。

 *

コンコン…

隆二さんの部屋の前で足を止めドアを叩くと隆二さんの声が聞こえた。

「は~い!」

「あ、えっと…星那です」

その言葉にドアが開くと隆二さんの姿が飛び込んできた。

「せなが部屋に来るなんて珍しいな…どうした?何かあったのか?」

「え、いやあの…聞きたい事がありまして」

おずおずと口を開き言うと、隆二さんは一瞬悩んだ顔を見せるがすぐに笑顔に戻り口を開く。

「話なら中で話すか?ちょうど縁側で晩酌してたんだがしながらでもいいなら…」

「全然構いません!ただちょっと聞きたい事があっただけなので…」

「そうか、なら中で話すか…」

部屋に通され中に入るとシンプルな白と青を基調とした一般男性の部屋に半ば緊張しつつすすむつ薄ら開いた窓が見え縁側らしき場所に焼酎瓶と一緒に氷入りのガラスコップと小皿に乗せられた煮干しがあった。

ガラッ

「風が気持ちぃ…」

窓を開けると冷たい夜風が頬を擽り焼酎ビンの隣に腰掛ける。

「あんまり涼しいからって夜風に当たりすぎると風邪引くから気をつけろよ?」

「分かってま~す」

苦笑いを浮かべる隆二を他所に夜風を満喫しつつ本題であるずっと聞きたかった話を切り出す。

「あの…今日ショッピングセンターで隆二さんと女性の人の姿を見かけたんですが…失礼と承知で聞きますが!どんなご関係で…?」

恐る恐る質問すると最初は驚いた顔をしつつすぐに困った顔で重々しく口を開く。

「んー……元カノ」

「え!?」

えっ…じゃあ、あのショッピングセンターでの出来事って修羅場だったんじゃ…

思わぬ真相に驚きを隠せないでいると隆二さんは苦笑いを浮かべながらおもむろに口を開く。

「…真希とはもう終わったんだ」

「真希さんって言うんですか?元カノさん」

「ああ…真希は昔店に来ていたお得意様でその接客についていた縁で1ヶ月だけ付き合う事になったんだが…」

「1ヶ月だけ?」

「真希は家柄がいいお嬢様で1ヶ月後には親が決めた相手とお見合いする事になってたんだがそれまで自由な恋愛をするためにその相手として付き合う事になって…だが、最初はホストの仕事だけの関係だったんだがいつの間にか本気になってしまって気づいたら引き返せないでいた。それでも1ヶ月限定なのは変わらずに1ヶ月になった日に真希は俺の前から姿を消した」

「お見合いからは逃げられなかったって事ですか?」

「相手は親同士の仕事関係のための金持ちでそのお見合いから逃げ出すのは不可能に近かった。だが、真希が姿を消して一週間後に街中で真希と見合い相手だと思われる男の姿を見て俺の中で別れるケジメがついた。真希の顔は幸せそうでもう俺が入る余地などないと思ったんだ…」

「隆二さんはもう真希さんを愛してはいないんですか…?」

「今でも愛してないと言えば嘘になるしだからと言って愛してるといえばそれも違う気がする…正直、昨日突然現れた真希に気持ちが混乱している。だけど結婚するっていう真希とただのいちホストの俺が会う事は駄目だと思い半ば強引にも突き放したんだ」

「だからあの時あんな事を言ったんですね…」

もう顔を見たくないと言ったのは隆二さんにとって本心じゃなかったんだ…

その事にいつもの隆二さんの優しさを感じ心無しか安堵した。

「でも、もう本当に終わった事だ!せなにまで心配かけてすまないな?」

「いえ、俺の事は全然大丈夫なんですが…そこまで本気に愛してたのにこのままでいいんですか?」

「客のために恋人のフリをするのはホストの仕事ではよくある事なんだがそれを本気になるかならないかはそのホスト次第…結果、本気になってしまった方が負けるんだよ」

「それもそうですがでもっ…」

反論しようとしたがそれを遮るように隆二さんの手が途上に乗せられ髪を撫でると笑顔で話を続けた。

「せなもホストの一人なら仕事で本気になるような事はするなよ?」

そう言った隆二さんの表情はどこか辛く悲しそうでそれ以上何も言えなかった。

 *

隆二さんの部屋を後にし自室に戻って行くと中で先程の隆二さんの表情が頭から離れずにいた。

「本当にこのままでいいのかな…?」

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