男装ホストは未来を見る

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「…うん、明日の十時駅前集合ね」

コンコン

「…俺だ」

ドア越しに豹の声が聞こえ話していた理沙の電話を切るとドアを開ける。

「どうしたの?」

「明日出かけるんだろ?」

「うん」

「気を抜くなよ…蓮さんや隆二さんも含めてお前の男の姿を知る同僚に見られたら終わりだからな?」

「わ、分かってるよ!常に注意して動くから」

「ならいいけど…」

そういうと踵を返し出ていこうとする豹の服を掴み止める。

「待って!」

「…何?」

「わざわざ心配して注意しに来てくれたんでしょ?…ありがとう」

「ほんとおめでたい頭してるなお前…」

「なっ…」

「ただお前が女だとバレたら俺にも不利益だからいったまでだ…誤解するな」

「不利益?」

返された質問に答えることなく今度こそ豹は部屋を出ていった。

「…天邪鬼」

出ていったドアを見つめながら呟いた。

 *

今日は晴天!ショッピング日和の天気の中で駅前で待つ理沙達の所に走って向かっていた。

「星那~!こっちこっち!」

駅前にて理沙達の姿が見え駆け寄ると何故か姿を見るなり固まる一同がいた。

「ん?どうかした?」

「どうかした?じゃないよ!何その男子が着てるようなTシャツにデニムの短パンは!」

理沙のあまりの剣幕に怯みつつも正直に答える。

「火事の影響で女物の服全部燃えちゃって…これ実はバイト先の先輩に借りたものなんだ」

蓮さんから借りたTシャツには髑髏の絵柄が描かれており趣味を疑ってしまうほどチャラかった。

「先輩、今日は着る服から先に買いに行きましょう!絶対行きましょう!」

ひのちゃんのこれでもかという後押しに苦笑いで頷く。

「わ、分かりました…」

 *

都内で一番のショッピングセンターは四階まであり上から順に映画館・飲食店・キャラクターグッズ、ブランド品・ゲームセンター・小物売り場、飲食店・ペットショップ・洋服店等などが並ぶ中で一階の『シフォニー』というお店に来ていた。

「星那先輩!これなんかどうですか?」

寧々ちゃんが手にしていたのは水玉模様の黒いブラウスだった。

「可愛い!」

「それならこれを合わせてはどうでしょうか?」

横からひのちゃんが顔を出し持って来たのはボタン付きの赤いハイウエストのスカートだった。

「合いそう!寧々ちゃんもひのちゃんもセンスあるね!」

「これも女子の嗜みのひとつです!」

ドヤ顔でいう寧々ちゃんに苦笑いしつつ渡された服を手に更衣室にて着替える。

数分後………。

「星那~!終わった~?」

「う、うん…」

理沙の声に急かされ慌てて更衣室のカーテンを開ける。

「に、似合う!可愛い~!!」

理沙達の称賛の声と共に店員さんがすかさず小物と称し赤いハイヒールと黒リボン付きクラッチバッグと赤いベレー帽を揃え差し出した。

「是非これもご試着ください!」

「あ、ありがとうございます」

おずおずとそれらを受け取り身につけると理沙達も含め店員さん達の視線が刺さる。

「ど、どうかな?」

恐る恐る聞くと再度称賛の声が飛び交った。

「可愛い~!!!」

「小悪魔コーデの完成だね!」

赤い口紅に黒く艶やかなロングヘアを基調とした服装に理沙が小悪魔と名付けた。

「えっと…じゃあこれで終わり?」

「なわけないじゃん!まだまだこれからよ!」

理沙の言葉に後輩である寧々ちゃんやひのちゃんが頷き、これからだと言う言葉に落胆した。

そんなぁ…

試着した服はそのまま着ることになりその服を含めシフォニーで何着か服を買うと洋服店を片っ端から買い漁っていった。
勿論それは私自身の気持ちではなく理沙達に流されるがままに買うはめになり現在持ちきれないほどの買い物袋で埋め尽くされていた。

「うっ…重い…」

「こんな時にまひるがいればね~」

理沙は今いないまひるの事を思いながら呟くと横から何者かに一つ荷物を奪われた。

「重そうだね~持ってあげよっか?」

途上からかかる声に見上げると如何にもチャラそうな複数のピアス金髪ヘアに鎖物をぶら下げた男がいた。
咄嗟に理沙達の方をみたが皆それぞれにチャラそうな男達に捕まっていた。

「結構です!荷物を返してください」

半睨みで男を見つめ言うと怯むこともなく更に口元をあげた。

「へ~お嬢ちゃん可愛いじゃん…ねぇ、俺といい事しようよ?」

こいつ全然聞いてない…

一方的に話を進めるチャラ男に呆れ手に持っている荷物を取ろうとしたがその手は身長差のせいか腕を掴まれた。

「へ~君から来てくれるなんて大胆だね…」

「んなわけな…」

反論しようとした瞬間、至近距離にあった男の顔が近づいてきた。

うわっ…!?

思わず掴まれている腕を振りほどこうとするが男と女の力量の差は歴然であり更に掴まれていない方の手には複数の荷物があり尚更逃げ出せない状況になっていた。

やばいっ…!どうにかして逃げなきゃ!

その瞬間反射的に動いた足がチャラ男の足を蹴りその衝撃で掴まれていた腕が緩んだのを見てすかさず振りほどき男の腕を逆に掴み捻るとその痛みで唸ったチャラ男の声と同時にそのまま掴んでいた腕ごと体を投げる。

「いっ…!」

床に投げつけられたチャラ男は背中に走る痛みに唸るとすかさず周りの男達の方を見渡した。

「お前ら…なっ!?」

既に周りの理沙達についていたチャラ男は床に座り込みやられた状況にチャラ男は言葉を失う。

「理沙、寧々ちゃん、ひのちゃん大丈夫!?」

「大丈夫!ばっちりやっつけたから!」

心配の言葉にニコニコ笑顔で答える理沙の姿があり安堵する。

「さすがだね、理沙!」

護身用に身につけていたミニ木刀を手に笑っている理沙にさすが剣道七段!と称賛の声をあげる。

「こんな骨もない弱々しい男共なんてこれで充分よ」

手に持つミニ木刀を前に出しそう言う理沙に苦笑いを浮かべつつ再度床にうずくまっているチャラ男に向き直る。

「女だからって舐めないで!このゲス男!」

蔑む目で見つめ言い残すと理沙達を連れ再度女子だけのショッピングを楽しむためその場を後にした。

「くっ…覚えてろよ……」

男の声は星那達に届くことはなくただ立ち去った空間に響き渡った。


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