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舞台の幕開け

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「ゆーきっ!ねぇ、どうだったの?」

教室に入るとすぐに真奈が勢いよく私に近づきニヤニヤとした顔で問いただす。

「どうって、何が?」

「何とぼけてんの?日曜日に決まってるじゃん!」

「あー…」

桂馬先輩との水族館デートの事か…

「特に何もなく終わったけど?まぁ、しいていうならずぶ濡れなって奢ってもらったくらいかな?」

「ずぶ濡れって、絶対何かあるやつじゃん!隠し事は洗いざらい私に話すのだよ…ゆき」

あんたは占い師かっ!

不敵な笑みで手を交差させる真奈に怯みつつ何とか逃れようと頭を巡らせる。

キーンコーンカーンコーン

すると、タイミングよくチャイムが鳴り何とか真奈から逃れる事が出来た。

「残念でしたー、また今度ね?」

「あ、逃げるなんて許さないないんだからっ!早く私に話なさいー!」

「早く席に着くのはお前だがな?」

「うっ…」

パシッ

「痛っ!?」

私を追いかけようとした真奈の後に首席表を持った緑先生がその首席表で真奈の頭を叩く。

「追っかけっこなら外でやれ。こらっ!お前達もだぞ!早く席に着け」

その声に席を立っていた生徒が一斉に急いで座る。
もちろん、頭を叩かれた真奈もである…

「うぅ…か弱い女の子の頭を叩くなんて緑先生酷いよぉ…」

すぐ近くでブツブツ文句を言っている真奈が見え私は密かにクスリと笑う。
その後、緑先生のHRが終え次々と生徒たちが次の授業の準備をする中、私は緑先生と一緒に化学室準備室にいた。

「はい、今日の分のお弁当です」

「ありがとな、相浦…」

朝から弟たちの分と一緒に作った緑先生様のお弁当を渡す。

「今日は、健康を重視して和風で攻めてみました」

「和風か…じゃあ、魚とかか?」

「それは、開けてからのお楽しみです♪」

「ははっ 分かった、昼まで我慢するしかないな」

緑先生は私が渡したお弁当を大事そうに袋ごと抱えた。

「あっ、そういえば私明日から期間限定でバスケ部のマネージャーを頼まれたんですけどやってもいいですか?」

「その話、本当だったんだな。この前立川のやつが俺のところまで来て相浦を期間限定でバスケ部のマネージャーにしたいから承認用の紙くれっていいに来たからまさかなとは思っていたんだが、本当だったとは…」

「えっ、立川先輩来てたんですか!?わざわざ立川先輩が行かなくても私から言ってたのに…」

「それほど、相浦をバスケ部のマネージャーにしたいんだろ。立川の気持ち少しは汲み取ってやれ」

「はい…」

立川の真剣差が伝わる行動だが、雪にとっては自分で出来てた事を先にやられた事に少し歯がゆかった。
なるべく、人に頼りたくない…
そんな、気持ちが幼い頃から雪の性格に反映されていたのだった。
それ故に、親切心であっても人から何かされてしまうと少し気が引けた。

「一応、立川が出した承認用の紙で期間限定でのマネージャーは承認されたが本人ではないから確実とはいかなかったんだ。でも、まぁ今相浦本人の言葉が聞けたからもう確実にマネージャーとして出来るが念の為バスケ部の顧問の葉山にも話は伝えておく」

「はい、ありがとうございます…」

バスケ部の葉山先生か…
どんな人だろう?

初めてのマネージャーという仕事に少し不安を浮かべながらもやるからには精一杯頑張ろうと思った。

次の日の放課後、私はジャージに着替え付き添いで付いてきた真奈と一緒にバスケ部が練習をしている体育館に向かう。
この学校の体育館は本校舎とは別に西校舎にあり西校舎全部が体育館となっている。
西校舎に着き入口の扉を開けるとバスケの練習をしているバスケ部の生徒たちがいた。
体育館全体にバスケットボールを刻む音が響き渡り少し入るのに緊張してしまう。

「雪、早く入らなきゃ!」

「え、わぁ!?」

急かす真奈に背中を押され思いっきり前のめりになりこけてしまった。
だが、顔からぺしゃっという最悪な状況ではなく綺麗にその場に座った状況なのだが…

うぅ…よかった、スカートじゃなくて…

スカートとだったらと思うと膝に思いっきり擦りむけた痕がついてしまっていただろうという状況に少し擦りむけたジャージを摩りながら思う。

「ゆき、ごめん!やりすぎた…ははっ」

乾いた笑いで誤魔化す真奈にキッと睨みつける。

「うっ…」

固まる私たちをよそにその状況に気づいた立川やバスケ部の生徒がこちらを凝視した。

「お、相浦!何やってんだよ、そんなとこに座り込んで…」

立川は私たちに近づくと座り込んでいた私に手を伸ばす。

「後にいる真奈に聞いてください…」

私はその手を掴みながら後ろで固まる真奈に話を振る。

「ん?真奈、どうしてお前までいるんだ?」

「そ、それはゆきが心配で…」

私の顔を伺いながら恐る恐るいう真奈に仕方ないと呆れながらも肩を落とす。
その行為を見た真奈は許しを貰えたと思い満面の笑みで私に抱きついてきた。

「ふーん、まぁ人手が増えるのは嬉しいからいいけどさお前相浦や俺たちの邪魔すんなよ?」

「しないよ、ばーかっ!」

舌を出して反抗する真奈にイラッときた立川先輩が両手に握り拳を作る。
そんな立川先輩にお構い無しに私に抱きついて離さない真奈に内心真奈の態度の変わりように呆れながらも苦笑いしていた。

「てめぇっ…」

「お前達何やってる!立川、お前はさっさと練習再開しろ」

近づいてきた一人の男性が立川先輩に戻るよう声をかけ、ふざけてた真奈と抱きつかれていた私はその声の持ち主を凝視した。
男性はボサボサの黒い髪に玩具の様な絵に書いた伊達メガネに黒のジャージを着ており、傍から見たら地味で冴えない成人男性にしかみえなかった。

「ねぇ、ゆき…あの人が葉山先生かな?私には、バスケ部の顧問にはどうしてもみえないんだけど…」

「うん、私も…」

というか、ちゃんと目が見えてるのか不思議だし…
出来るならあの目が見えない玩具みたいな伊達メガネ取ってみたいんだけど…

「すみませんでしたっ!すぐ練習に戻りますっ!」

立川先輩は、葉山先生らしき男性を見るなり一目散に練習に戻っていった。

「あの…」

私は恐る恐る元に戻ろうとする葉山先生らしき男性を引き止める。

「ん?ああ、確か期間限定でマネージャーをする事になった相浦 雪か?」

「は、はいっ…」

低く鋭い声でそう聞かれ思わず声が震える。

「そうか。じゃ、今日からだな?俺はバスケ部顧問で風紀の顧問もやっている葉山はやま 未黒みくろだ。大変だろうがよろしく頼む」

「はいっ!精一杯頑張りますのでよろしくお願いしますっ!」

私は深々と頭を下げると葉山先生は小さく頷きバスケ部の生徒が練習している近くに向かった。
私と真奈もバスケ部の生徒のバスケットボールを当たらないように避けながらも葉山先生の後ろを付いていった。

「とりま、相浦に頼むのは練習しているバスケ部のサポートだが飲み物やタオルなど必要になったら取ってきて皆に渡してほしい。それと、怪我した時の応急処置や体育館のモップがけやボール拾いなどの後片付けもバスケ部の生徒と一緒にしてくれたら助かる。外での練習とかは相浦も一緒にやらなきゃいけない時もあるが大丈夫か?」

「はい、体力なら自信ありますので大丈夫です!」

バイトで鍛え抜かれてるもん。

「ほぅ…じゃ、頼りにしてるから無理しない程度に頑張れ」

「はいっ!」

バスケ部の練習は考えていた以上にハードで立川先輩も含めバスケ部の生徒たちは葉山先生に言われるとすぐに行動にうつしダッシュ三百回やシュート練習一人百回など見かけによらず葉山先生が鬼にみえた。
私と真奈はバスケ部の生徒が一つ一つ終わる度にタオルや水分補給に徹したりタイム測りやボール拾いなどに力を尽くした。

「うぅ…マネージャーも楽じゃないかも。こんなんなら早く家に帰ってればよかったよぉ…」

「真奈だけでも帰っていいのに。私の付き添いで来たんだから大丈夫だよ?」

「うぅ…でも、ゆき一人にさせるのは嫌だから帰らないっ!」

意地を張ってやるという真奈の気持ちに嬉しい気持ちでいっぱいになった。

「でも、もうお腹空いたかも…私のお腹が限界だっていってるもん…」

真奈は音が鳴りっぱなしのお腹を摩ると垂れた耳が見え隠れするように俯き私に助けてという視線を送る。

「はぁ…仕方ないなー、私が持ってきたおにぎりでもいいならあげるけど食べる?」

「食べるっ!」

すぐに満面の笑みで言う真奈に呆れつつも体育館脇に置かれたおにぎり入の袋を取りに行く。
実は、今日のためにバスケ部の生徒の差し入れとして人数分のおにぎりを作って持ってきたのだ。
まさか、真奈にまであげるはめになるとは思わなかったが…

「すみません、葉山先生。これ、バスケ部の皆に食べてもらいたくておにぎり作ったんですけど渡しても大丈夫ですか?」

「ああ、差し入れか。分かった、わざわざありがとな…」

「いえ…」

ピーッ!

「少し休憩に入る。マネージャーからおにぎりの差し入れだそうだ。騒がずに大人しく食べるように…」

「はいっ!」

バスケ部の生徒たちは葉山先生の言葉に練習をすぐに止めると持っていたバスケットボールを片付け私の方に駆け寄った。

「まじか、おにぎりの差し入れなんてめっちゃ嬉しい!」

「ありがとう、マネージャー!」

「何味があるんだ?」

「えっと、おかかと鮭と梅と高菜納豆が七割あるかな…」

「は?高菜納豆が七割って…」

その言葉に固まる一同を他所に隣にいた葉山だけはわざとそれを探すようにおにぎりをあさぐった。

「ほぅ…高菜納豆か。俺の好物とは是非食べたいな…どれどれ」

「えっ…葉山先生、高菜納豆好きなんですか?」

「あん?そうだが、何か問題でもあるのか?」

「い、いえ…」

鋭い低い声で不満があるのか問われすぐさま顔を背けるバスケ部の生徒たちに小さく苦笑いをする。

「あった、あった!どれどれ…」

パクッ

「ん?これは…」

固まる葉山先生に不思議に思いながら詰め寄る。

「どうかしました?まさか、美味しくなかったですか?」

「ん?いや、そうじゃないんだが…この高菜納豆の作り方どこで教えて貰ったんだ?」

「え?作り方ですか?教えてもらうも何も自分で考えて作ったものですけど…」

「えっ…」

「それがどうかしましたか?」

「あ、えっと…昔、妹がよく作ってくれたのと味が似てるから驚いて…だから、その美味しい…」

妹さん?

「えっ、葉山先生に妹なんていたんだ!?」

「以外すぎる…」

「別に妹がいようがいまいが変な事じゃねぇじゃん!いいから早く食おうぜ?」

立川先輩は目の前に広がるおにぎりを鷲掴みすると両手におにぎりと欲張り美味しそうに頬ばった。

「うっめ!相浦、めっちゃ美味い!高菜納豆も中々いけるわ」

「口にあってよかったです」

「優希お前だけずりぃ!俺も食うっ!」

「俺も俺も!」

立川先輩に続いて慌てておにぎりを頬張るバスケ部の生徒たちに嬉しくて笑っているとバスケ部の生徒たちを押しのけて我が先にとおにぎりに飛びつく真奈が見え唖然とする。

「私が先に真奈のおにぎり食べるのっ!どいてー!」

「おまっ…ふざけんなっ!大体お前のためじゃなくて俺達のために相浦が作ってくれたものだろうが!」

立川先輩の発言に私は無言で頷きながら「ごもっともです…」と心の中で呟いた。

「むっ…私はゆきの心友なんだから私が先に食べるのは当たり前でしょ?」

いやいや、心友は心友だけどそれ真奈のために作ったんじゃないんだけど…

「お前、俺の話ちゃんと聞いてたのかよ!それは俺達のために…」

立川先輩と真奈の言い争いが始まり私も含めその場にいた全員が「もう、勝手にやってくれ…」と思ったのだった。

初めてのマネージャーの仕事が終わり既に夜とかした空を見ながらバスケ部の生徒も含め部活生が下校する中誰もいない体育館に二つの影があった。
一つはバスケットボールを一つ持ちシュート練習をしていた。

「やっぱりあれはお前なのか?…」

バスケットボールに視線を落としてそう呟かれた言葉は誰もいない体育館に響き渡る。
その様子を見ていたもう一つの影は口元を微かにあげ何かを楽しむかのように不敵な笑みを浮かべた。

「これで、キャストが揃った…ようやくゲームの幕が開ける…」

その言葉が何を意味するのか今は誰も知る事はない…

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