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水族館デート

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森山市にある森山水族館では毎日のように沢山の人で埋め尽くされていた。
私は十時三十分に桂馬先輩と待ち合わせとなり約十分前に水族館の入口に着いた。
立川先輩に買って貰った淡いピンクで胸元大きなリボンがあるフリル付きのワンピースにセットであったリボンのついたピンヒールを履き髪型はそれに合った感じに真奈にアイロンとメイク道具を貸して貰ってゆるふわ感のあるパーマを少しかけ普段はしないメイクでピンクを基調としたメイクに仕上げた。
全体的に見て自分じゃないみたいだがデートなのだから仕方がないと真奈ならいうだろう。

んー、桂馬先輩もう着いてるっていってたけどどこだろう?

「今暇ですかー?」

「一緒にお茶しませんー?」

「うわっ、めちゃくちゃかっこいいイケメンいるじゃん!」

桂馬先輩を探して当たりをみると、女性の軍団みたいなのが何やらナンパしている現場を発見した。

「すみません、待ち合わせしてるんで…」

ん?

聞いた事のある声が聞こえ近づいてみると年上の女性たちに囲まれた桂馬先輩がいた。

うわっ、桂馬先輩めちゃくちゃ困ってる…

あからさまに嫌な顔をしている桂馬先輩をみてこれは助けた方がいいんじゃないかと思い勇気を出して声をかけてみる。

「桂馬先輩っ!」

すると、周りにいた女性たちの鋭い視線が一気に来てあまりの怖さに怯まずにはいられなかった。

うっ、怖すぎ…

固まる私に助け舟を出してくれたのは囲まれていた桂馬先輩だった。
私の声が届いたのかすぐに私を見つけると年上女性たちを押しのけ私の手を引いた。

「相浦っ!走るぞ…」

私は無言で頷き急いで水族館の中に入っていった。

「はぁ、はぁ…桂馬先輩っていつもあんな感じ何ですか?」

「すまん…何故かいつもああなって動けなくなるからどこかに行く時は親族か生徒会メンバーか風紀のやつと一緒に行くんだ」

「あはは…桂馬先輩が女の子苦手なの分かった気がします…」

確かにあんな出かける度に女の子たくさん囲まれてちゃ苦手にもなるよね…

「だけど、部活帰りに行く相浦の喫茶店は裏道使ってるから何とか囲まれずに済むんだ…」

「桂馬先輩もあの裏道知ってたんですね!あそこの裏道人通り少なくて確かに囲まれる心配ないですもんね」

喫茶店の裏道は私の中では猫道と呼ばれ人の代わりに野良猫たちが行き交う場所として喫茶店の常連客やマスターたちは知っていた。

「ああ…だから、喫茶店は俺の大事な場所の一つでもあるんだ。…それだけが理由じゃないけどな」

「私も大事な場所です。マスターや美代子さんやそして、桂馬先輩が来てくれるから凄く安心出来る場所なんです…」

「え…ん??」

「桂馬先輩、水族館楽しみましょう!水族館デート再開です」

「え、わっ!」

私は繋いでた桂馬先輩の手を引くとお魚たちで溢れる綺麗な水槽に向かって歩きだした。

「あ、海月だ!綺麗…」

館内をゆっくり歩いて見ていると中央の水槽でプカプカと沈んだり浮いたりしている海月が目に入った。

「海月って水の母ともいうんだよな…」

「当てはまりますね。その名前」

「ああ…まるで水全部の母のようだ…」

「でも、私は海月って可哀想だと思う時もあります…」

私は海月を見つめながら少し悲しげに眉を下げる。

「何でそう思うんだ?」

「海月は、ずっと生きるために浮いたり沈んだりしてるのにそれをする事でいつかは死んでしまう…それが悲しいです」

一生懸命生きているのにそれがまるで無意味みたいに死んでいく…
誰だって生きている人はいつか死んでしまうけどだけど…生きている事さえ否定されてるみたいで悲しい…

「まるで、桜と同じだな…」

「え?」

「桜も咲いている時はみんなに見てもらえて綺麗だって言われる。でも、それは一瞬で散ってしまったら誰もみない…ただの木として通り過ぎられる。海月も生きている時は綺麗だってみんなに見られるのに死んだら何も残らない。似てるだろ?」

「そうですね…それが運命なのかも知れませんね…」

まるで、自分自身に言うように桂馬先輩には聞こえない声で呟いた。

私もこれが運命なのかな…

思わず桂馬先輩の手をぎゅっと握るとそれに驚いた桂馬先輩が心配そうな顔で問いかける。

「…相浦?」

「十一時から開演します。可愛いイルカたちのイルカショー是非起こし下さい…」

すると、桂馬先輩が話かけたのと同時にアナウンスが鳴り桂馬先輩の言葉は聞こえず私はイルカショーのアナウンスに耳を澄ませた。

「桂馬先輩!イルカショーですって!早く行きましょう!」

「え、わっ!?」

私は桂馬先輩の手を引くと急な事に動揺している桂馬先輩をおかまいなしにイルカショーへ走り出した。

イルカショーのある屋外に出ると既に沢山のお客さんで埋まっていた。
家族連れやカップルが主に多く空いてる席を探そうにもほぼ満席なので中々見つけられなかった。

「どうしよう…」

「あ、あそこ空いてるぞ…」

桂馬先輩の指さした先を見ると前に近いのは嬉しいが周りはカップルで囲まれておりしかも真ん中という中々座りづらい席だった。

「…早く座ろう」

桂馬先輩に促され仕方なく腰を下ろすものの両脇のカップルの甘い空気にいたたまれなくなり思わず体を小さくした。

「っ…相浦も緊張しているのか?」

すると、すぐ隣から桂馬先輩の声がかかり振り向くと顔隠すように手のひらで私に見せまいとする桂馬先輩の姿があった。

「…え?」

「俺もその…ずっと緊張しているっ…からその…気にするな」

これは自分も同じだから気にするなと慰めてるのかな?

自分なりに頭の中で解釈をすると桂馬先輩の顔を隠している手のひらそっと外すと戸惑っている桂馬先輩の顔を凝視する。

「桂馬先輩のそういうとこ…」

「?」

「凄く…」

「ん?」

「…可愛いです!」

ガタッ

桂馬は椅子に座っていた体を大きく外すと椅子から落ちそうになり急いで立て直す。

「だ、大丈夫ですか?」

「すまん…何でもないっ」

「コホンッ…私たちよりも甘々ですね?ふふっ」

「っ…」

すると、隣の席のカップルから茶化すような台詞が飛び交い私と桂馬先輩は顔を逸らしながら真っ赤な顔を伏せた。

「イルカショーを開演致します。起こしの皆さん可愛いイルカたちの舞をどうぞ楽しんでいっていってください!」

すると、タイミングよくイルカショーが始まり私と桂馬先輩は同じような気持ちでほっと胸を撫で下ろした。

た、助かった…

イルカショーは可愛いイルカたちが水しぶきを上げながら可憐に飛び交い前に近い席にいた私はその水を思いっきり被った。

「あ…」

呆然とびしょ濡れ状態の自分の姿を見下ろし涙目になりながらもどうしようかと混乱する。

着替えの服持って来てないし、それにこの服は立川先輩がせっかく買ってくれた服なのに…

すると、隣からそっと背中に黒のコートが被さった。

「これでも着てろ…」

桂馬先輩は目線を逸らしながらもコートと一緒に私の肩を優しく包んだ。

「っ…ありがとうございます…」

益々近い距離になった桂馬先輩に俯きながらもお礼をいう。

「せっかく、可愛い服着てもっと可愛くなってくれたのにびしょ濡れにしてごめん…」

「い、いえ…」

ちゃんと、服見てくれてたんだ…
頑張ってオシャレしたかいがあったかも…

桂馬先輩の一言でさっきまで沈んでた気持ちが一気に桂馬先輩の気遣いに嬉しくなった。
コートからかかる桂馬先輩の微かな匂いに優しい空気が私を包み込む…
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