上 下
35 / 79

事件のその後

しおりを挟む
「ふふん♪ふんん♪」

「ゆきが鼻歌なんて珍しいね。朝からなんか楽しい事でもあったの?」

「え?んー、ひ・み・つ♪」

唇に人差し指を当て誤魔化すと
昨日のハクとの路上ライブが思いのほか楽しく思い出すとあのワクワクとした気持ちがまた湧いてくる。
そして、ハクとまたあの場所で一緒に路上ライブをしたいと密かに私は思っていた。

「あ、そうそう!歌と言えばこのGIN様すっごく歌上手くてしかもイケメンなんだよー!」

真奈は、鞄から一冊の雑誌を取り出すと表紙に映るロックな格好の青年を指差した。

「え、これって…」

ハク?

見た目からして地毛の銀髪にサングラスなしの素顔が映る写真にハクしか思えなかった。

でも、GINって…んー、芸名でGINにしたのかな?

「ゆき、GIN様知ってるの?」

あまりにも雑誌を凝視する私に不審に思ったのか真奈が問いかける。

「え?ううん、知らないよ。この人歌やってる人?」

「そうなんだ。あのね、GIN様は五年前ぐらいから急に出てきたイケメンロックバンドのボーカルなの!デビューからすぐに人気になって今ではそのルックスやイケメンフェイスにメロメロの女子も多数で特に凄いのはあの甘い声!GIN様のあの歌声聞いたら即イチコロだね♪中にはライブ中に気絶する女子までいるとかなんとかあったらしくてファンも何万人もいるんだよ!歌も上手いしギターも上手いし、性格もすごーく紳士で女性に優しいって噂あるんだよ!」

あ、最後の紳士で女性に優しいはハクには当てはまらないかも…

「今度、GIN様のライブいきたいなー」

「そんなに人気なんだね。そんな話聞くと、ライブとか満員みたいな感じするなー」

「んーとね、大きなドームとかでのコンサートだと満員確実でチケットすら取れないんだけどGIN様が出来るだけ沢山の人に聞いて欲しいって言ってGIN様専用のライブハウスがあるんだけどそこで週に三日時間はランダムでライブしてて一日目入れなくても残りの二日で入れるって噂でわざわざ遠くから来る人もいるぐらいなんだよ♪」

真奈はGIN様の雑誌を抱きしめながらはしゃぐ。

そんなに、凄いんだ…
私も今度行ってみようかな?

ハクにそっくりのロックバンドのボーカルのGINに興味が湧いた。


昼休みに入り私は日直として自習でのプリントを緑先生に届け真奈が待つ教室に向かって廊下を歩いていた。
私はあの屋上での事件以来、怖くて屋上に近づく事がなくなり真奈と教室で食べたり校舎裏のベンチや花園苑で食べたりしている。
あれから、未だに返信のない高宮くんのメールと行院 アリスさんのその後が気になるが今は目の前の事に集中しようと決めた。

ドンッ

「え?うぐっ!?」

廊下を歩いていると誰かから体を引っ張られ声を出そうとしたがすぐに口を塞がれてしまった。

「静かにしてちょうだいっ…」

え?もしかして、行院 アリスさん?

アリスは雪の口を塞ぐと周りに誰もいないことを確認し雪を解放した。
アリスに連れ込まれたのは今は使われてない空き教室で人通りが少ない事から秘密の話をするには最適な場所だった。

「あの…何でまたこんなことを?」

「また光の事であなたに何かしようとするためにした事ではないけど…ただあなたに聞いてほしくて」

「そうなんですか…私もアリスさんの事、気になってました。あの後どうなったんですか?」

アリスは俯きながらポツリポツリと話し出す。

「あの後、あなたをあんな目にあわせた事を光が私の両親や光の両親に報告して私との婚約は破棄されたの。そもそも私の両親が借金のために光とどうしても私を結婚させたかったからみたいで光の両親はあっさりと私との婚約破棄に同意したらしい…あれから光とも会うことはなくなってもう好きじゃいられなくなったのっ!ひっく…学校にも私の話は伝わってあれから二日間自宅待機処分が下されて私の婚約破棄があったからせめてもの二日間自宅待機で済んだけど私にとっては学校よりも光との婚約破棄が一番辛くて…うぅ…両親にも見放されて私の居場所すらなくなって…」

アリスは話しながら涙でぐしょぐしょの顔を何度も拭いた。

「どうしてその話を私にしてくれたの?それに、私と今更会うなんてどうしてそんな事を?」

「私、もう家にも学校にも居場所がないの…表だけの付き合いの友達も今回の事で軽蔑されて誰にも自分の気持ち吐き出せる人いなくて…最初はあなたに言うなんて間違ってるって思ったわ。だけど、あなたがあの時本心で話してたんだって気づいて悪いのは全部私だけど許してもらわなくていいんだけどせめてあなたにだけは聞いてほしくて…」

「んー、正直あれ以来屋上に行くのはトラウマだし未だにあの事件の事を思い出すと怖いけどアリスさんがこうして本当の気持ち私に話してくれて本当は優しくて純粋人なんだって分かったし…許す!」

「え?でも、私あなたに酷いことを…」

「うん、それは未だに許せないとこもあるかもしれないけどやり直しはいくらでも効くんだし初めからやり直さない?その、よかったらなんだけど…私と友達になってくれませんか?」

「っ…うわぁぁぁんっ!」

アリスは目の前に差し出された優しい手と許すという笑顔の雪に今まで溜め込んでいた涙が溢れだした。

「ひっく…私でいいの?」

「アリスさ…アリスがいいの!」

アリスは未だに頬につたう涙を拭いながら優しい温もりの差し出された雪の手を握った。

「よろしく、アリス!」

「よろしくですわ、ゆき…」

満面の笑みでそういうアリスに胸のつかえが取れたかのように感じた。

アリスと友達になり昼休みはアリスを入れて三人で楽しくランチをすると最初は嫌な顔をしていた真奈もアリスの純粋な性格にすぐに仲良くなった。
放課後に入り私はアリスと真奈に図書室によるといい夕暮れ赤い夕焼けがさす図書室に向かった。

やっぱりこの時間だと誰もいないな…
本借りれるかなぁ…

図書室を除き込むと一人の生徒の影があった。

よかった、まだ誰かいた!

私は図書室のドアに手をかけようとしたが私に気づいた生徒がすぐ様ドアに鍵をかけた。

「ちょっ!?借りたいんですけどっ!開けてってばっ!」

何度もドアを開けようとガタガタ動かすが鍵の閉まったドアはどうやっても開かなかった。
すると、窓際から生徒の姿少し見え窓際へと向かった。

「え、高宮くん!?」

高宮くんは窓から除く私に何やら何か書かれた紙を私の目の前に窓越しで貼り付けた。 

”今は会えない”

そう書かれた用紙に私は口ではなく同じようにメモ用紙書いて窓に貼る。

”どうして会えないの?”

すると、また高宮くんが紙に何か書いて私の前に貼り出す。

”会わせる顔がないから”

「ちょっ、それどういう意味よっ!」

私は窓が鍵がかかってないのを確認すると勢いで窓から高宮くんに向かって飛び越えた。

ガタンッ

「うわぁっ!?」

私は高宮くんに思いっきりぶつかり押し倒した形になると高宮くんは急に顔を赤らめた。
だが、私はそんな状況をお構いなしに高宮くんにたたみかける。

「会わせる顔がないってどういうことよっ!それに、私がしたメールの返信なんか一向に返ってこないし…何かあったんじゃないかって心配したんだからっ!」

ぴしっと高宮くんの顔の前に指差すと高宮くんは私と目線を合わせようとせずそっぽを向いた。

「そ、それは…アリスの事聞いたらゆきちゃん我慢出来なくてまた何かするかもしれないし…それに、次ゆきちゃんと会ったら俺…もう制限効かないっていうか…」

高宮は雪の問いただしに口ごもるように呟く。

「そりゃ、アリスの事あの時聞いたら無茶やってたかもだけど…って高宮くんかなり顔赤いじゃん!?大丈夫?」

私は高宮くんに顔を近づけ自分のおでこと高宮くんの前髪をかきあげおでこに触れる。

「っ…」

「んー、熱はないみたいだけど…」

「ゆきちゃん…」

「ん?」

高宮はそっぽを向いていた目を雪に戻すと熱のこもった目で雪を真っ直ぐに射抜いた。

「俺もう無理みたい…」

「へ?…っ!?」

すると、高宮はその雪の白くて柔らかいほっぺに唇を近づけた。
柔らかい何かが雪の頬に触れ一瞬固まって時間が止まったかのようになったがすぐにそれが現実でそういう事なのだと察し声にもならない声で口をパクパクとさせ真っ赤顔で反論する。

「俺の負け…可愛いよ?ゆきちゃん…」

熱のこもった目で見つめられ思わず高宮から飛び退くと鍵の閉まったドアを今まで以上に力ずくで開け脱兎のごとく逃げ去った。
その後どのようにして自宅に帰ったのか記憶になかった。

雪が脱兎のごとく逃げ去った後、高宮は雪に押し倒された体をゆっくり起こし無意識に図書室の戸締りをし図書室を出ると廊下にズルズルと座り込む。

「あー、またやっちゃった…せっかくまたゆきちゃんと話せるチャンスだったのに俺のばか…」

本能に負けた自分に後悔する半分、本能に負けた事で異性として少しは見てくれた雪の表情に口元を緩めた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

異世界転生先で溺愛されてます!

目玉焼きはソース
恋愛
異世界転生した18歳のエマが転生先で色々なタイプのイケメンたちから溺愛される話。 ・男性のみ美醜逆転した世界 ・一妻多夫制 ・一応R指定にしてます ⚠️一部、差別的表現・暴力的表現が入るかもしれません タグは追加していきます。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

処理中です...