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眼鏡の裏の笑顔

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「ふぅ~、何とか間に合いましたね!」

「そうだな、歳の俺にはちとキツいが…」

「それでは、年寄りの緑先生はまた走って職員室に急いで下さい」

「は、はい…」

不敵な笑みでいう雪に若干引き攣り気味になりながら素直に走っていった。

何が歳の俺にはだ、一回自分の肌触ってみろ!
私よりきっと肌年齢いいぞ
これだからイケメンは…

雪は走り去る緑を半目で睨みつけながら自分も遅れないように教室に向かった。

キーンコーンカーンコーン

「では、各自次の授業の準備を怠らないように」

「きよつけ、礼」

「ありがとうございました!」

「相浦、ちょっといいか?」

「?はい」

私は先生の後をついていくといつもの実験室に辿り着いた。

「あの?先生私に何の用で?」

「その…昨日のことだが、なんで相浦が俺の部屋にいたんだ?」

「そ、それはですね…」

居酒屋でバイトしててたまたま先生たちがいて先生が酔いつぶれたので運んだとかいえない!
口が裂けても言えない!

「ん?」

「昨日先生たちが飲んでいた居酒屋さんに私の知り合いがいてたまたまその知り合いに用事があったので会いにいったら先生が酔いつぶれてたので家までお運びしました!」

「ああ、なるほどな…ん?待てよ、じゃあ俺の酔った時の姿見てるんならあの時俺が何かいったりしなかったか?」

「えっ…そ、そんなことはありませんでした…よ?」

うぅ…言える訳ない…

昨日の先生の発言を思い返して何とか真っ赤になるのを抑えながらなんにもない素振りで話す。

「そ、そうか…ならいいんだが」

先生は安心した顔で息を吐いた。

「先生、あの…明日からのお弁当についてなんですが朝先生の家に行って渡すかこの実験室で朝渡すかどちらがいいですか?」

「朝、俺の家まで行くのは大変だし学校で渡してくれた方が助かる」

「なら、朝HRが終わったら実験室で渡しますね」

「ああ、ありがとな相浦…」

「いえいえ、私がしたくてする事ですしなんて事ないです」

これで先生の健康面が守れるなら負担なんてなんでもない。

私は先生に別れを告げ次の授業の準備に向かった。

「んー、ここはこの法則かなー?」

昼休み、私は屋上に一人で購買のパンをかじりながら床にテスト範囲のプリントとノートを広げていた。
何故私が屋上で一人で食べてるかというと真奈が今日は赤井兄弟の一人の龍くんと食べるから二人っきりにしてくれというのだ。
女の友情とは儚いものだなと男が関わると常々思う。

ガチャ

「はむっ?」

焼きそばパンをかじりついた瞬間、屋上の扉が開くのが見え振り返る。

「なっ!?」

すると、そこには生徒会副委員長の神崎 葵が手に大きな袋を持って驚いた顔をしていた。

「神崎先輩?」

「っ…」

神崎は雪の声に屋上の扉を閉じた。

「あ、待ってくださいっ!」

雪は急いで扉を開けまだ階段を降りきれてない神崎の右腕を掴む。

「待ってくださいっ!屋上に何か用があったんじゃないんですか?私がいるからいけないのなら私が出ていきますから、行かないでくださいっ!」

神崎は必死に訴える雪の声に踵を返し振り返る。

「いや、すまない…大した用じゃないんだ、ただ屋上なら誰もいないだろうと思いゆっくり読書でもしようと思っただけであって…」

「なら、屋上でゆっくり読書してください。私が邪魔なら出ますから」

「ありがとう…別に邪魔ではないから居てくれて構わない」

「そうですか、ならお言葉に甘えて居させてもらいます」

神崎は雪の手に差し伸べられるがままに屋上に戻った。
屋上の床に座ると袋から一冊の本を取り出し静かに読みはじめた。

「あ、あの…神崎先輩これよかったらどうぞ」

雪はすぐそばにある水筒を取り出すと蓋を外しコップにゆっくりと何やら液体を注ぎ渡す。

「ん?これは?」

「ホットレモンティーです。暖まるし読書には最適だと思いまして…」

「ありがとう、お言葉に甘えていただくよ」

神崎は手渡されたレモンティーに手を伸ばし受け取るとゆっくりとそれを口に含む。

「美味い…」

「よかった!お口合ってよかったです!」

手を叩き喜ぶ雪に自然と笑みが零れた。

「っ…」

雪はその笑顔に驚きに似た顔で固まった。

「ん?どうかしたか?」

「えっと、神崎先輩の笑顔中々見ないので貴重だなぁと思いまして…」

「?そうか?」

「はい…いつも少し怖い顔でキリキリと動いているイメージがあるので…」

「まぁ、あの三バカに手のかかる暴君が居れば無理にでもそうなるしかないのだが…」

「ははっ…お疲れ様です…」

あの、三バカとは生徒会の赤井兄弟とチャラ男こと高宮 光と暴君は俺様バカこと金城 玲央会長だろうな…
想像つきます…

私は乾いた笑いを含ませながら神崎先輩に同情した。

「神崎先輩、その本もしかして”ミューズの涙”ですか?」

「知っているのか?」

「はい!愛の女神の淡い恋愛模様の話ですよね?女神の一途な思いが凄く素敵で…」

「ほう…君も結構読み込んでるんだな」

「はい!好きな本は特に読み込んでしまいます!えへへ…」

「それは僕も同意見だな。好きな本には時間が忘れてしまうくらい集中してしまう」

「そうですよね!分かります!」

一冊の本によりさらに神崎と仲良くなった気がした。

「ところで、それテスト勉強ですか?」

「あ、そうでした…勉強しなきゃ」

「教えてさ仕上げましょうか?」

「ふぇ!?」

雪はすかさず神崎の顔を見ると尊敬の眼差しで見つめた。

「うっ…」

神崎はその眼差しに圧倒され引き気味に顔を引き攣らせた。

「是非!お願いしますっ!」

「ああ…で、君はどこが分からないのですか?」

「えっとですね…英語のこのWhyとWhatの使い方で…」

「ふむふむ…なるほどな、一般動詞系などで止まったりしてるとかあるからか…ならこれはこうして…ちょっと借りますよ?」

「え、はい!」

神崎は雪のシャープペンを取ると眼鏡を掛け直した。
真面目に教えてくれているのは分かるがあまりにも顔が近すぎて半分同様隠せない雪は顔をノートから上に上げられずにいた。
その分神崎の文字に集中出来たのは確かだが…

「ふぅ…もう時間ですね。ちっ…時間がもう少し欲しいですね」

「うぅ…やっと終わった~」

「それくらいでへばってたらテストで百点なんて無理ですよ?」

「うぅ…神崎先輩の教え方がスパルタすぎるんですぅ」

頬を膨らませて上目遣いで神崎先輩に反論した。

「うっ…そんな顔しても無駄ですよっ!」

「はひぃ…」

「仕方ないですね…テスト終わりまで暇な日だけ教えて差し上げますよ」

「うっ…ありがとうございます」

半分嫌だがこんなチャンス二度とないと思い半泣き上等で素直に頭を下げる。
一方、神崎はというとまた雪と会える…今度はちゃんと神崎 葵として会えることにどこか嬉しさが込み上げていた。
それ故に、雪の見えないところで眼鏡越しに笑みが零れていた。

雪は時間に遅れないように跡形ずけをしていた。
神崎はその様子を見ながら自分の手元にある袋に目を落とした。

んー、これはまたの機会にしましょうか…
また会えることですし…

「クスッ…」

「神崎先輩?どうかなさいましたか?」

「いえ、なんでもありませんよ」

そう今はまだ…
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