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舞姫

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土曜日の今日は、立川先輩と約束をしていたなぎちゃん先輩こと奧園 渚先輩の舞台を観に行く。
待ち合わせとして学校から近くの公園に集まることにした。

「うーん、早く着きすぎたかなぁ?」

待ち合わせ十分前に公園に着いた私は辺りに立川先輩と真奈がいないか探す。

ピロン

携帯の電子音がなり携帯を開くと立川先輩と真奈からメールが来ていた。
立川先輩からのメールは” すまん、少し遅くなる”と書かれ真奈からのメールは…
 
「なっ!嘘でしょ?!」

私は一目散に公園近くの通りに向かう。
なぜなら、真奈からのメールに書かれていたのは” 助けて ”の一言だった。
何か真奈の身が危険な状態にあるのか、もしくは何か危ないことに巻き込まれたか?

「とにかく急いで真奈のとこに行かなきゃっ!」

私は携帯を握り締めながら助けてとメールをして来た真奈のところに急ぐ。

「はぁ、はぁ…着いた」

荒い呼吸を整えて辺りを見渡す。

「嫌っ!離してって言ってるでしょ!」
 
すると叫び声にも聞こえる真奈の声が耳に入った。

「真奈っ!」

「ゆき?」

名前を呼ばれた方へ走ると目に入ったのは二人の男達に捕まっている真奈の姿だった。
私は急いで真奈に駆け寄ると真奈の腕を掴んでいる男達の腕を掴む。

「真奈を離してっ!」

「あん?誰だてめぇ」

「ゆき…」

今にも泣き出しそうなゆきを横目に腕を組んで振りほどこうと必死に掴む。

「うっ…」

けど女と男じゃ力の差は分かりきっている。
びくともしない男達の腕を全身の力をこめて振りほどこうと手に力をこめる。

「あははっ てめぇなんかの女の力なんざこれっぽっちも効きやしねぇんだよ!」

その瞬間男の空いている方の腕が拳を作り私に目がけて当たるかというところで誰かの手が目の前でそれを止めた。

「あーあ、女の子殴るなんて悪趣味な趣味してるねぇお兄さんたち」

「あ?今度は誰だよ?」

目の前に現れたのは立川先輩だった。
急いで走ってきたようで額に汗が少しみえた。
立川先輩は男達を睨むと左手で受け止めた男の拳を握り締めながら空いている右手で拳を作りすかさず男の頬を殴った。

「あー、あんたらみたいなクズに答えるつもりはないね」

ドカッ

「くっ…」

痛みに顔を拒めさせると負け犬の遠吠えのようなダサい台詞を残しその場から消えていった。

「おっ覚えてろよ!」

「クズを覚えるような頭は出来てないんだけど俺…」

小さく呟かれた立川先輩の声に私は顔を引き攣らせながらも後ろで私の服の袖を掴みながら半泣き状態の真奈をみる。

「真奈、大丈夫?」

「うん…大丈夫。ゆきも優ちゃんも来てくれたからもう怖くないよ」

「よかった…真奈が無事で」

私は真奈を抱き締めるとその背中を優しく撫でる。

「まったく、無事だったからいいものの真奈はともかく相浦まで何で飛び出してくんだよ。相浦だって女の子なんだから危ないに決まってんだろうが」

「ごめんなさい…でも、目の前で真奈が危ないめにあってるのに見過ごすことなんて出来なかったんです」

「はぁー、それでも無茶はダメ!分かった?」

私の頭に右手をやって顔を覗き込む立川先輩に素直に頷くと先輩は優しい笑顔で笑った。

「よし!じゃあ、なぎちゃん先輩の舞台でも観に行きますか!」

「うん!」

真奈と私は笑顔で頷くと三人で奧園先輩の舞台劇場へ向かった。
劇場に着くと周りの旗に奧園一座と書かれていた。
中に入ると広い受付けスペースの向こう側には舞台へ続く入口があった。

「受付けの人いないのに入って大丈夫なのかな?優ちゃん」

「そこは気にするな。ちゃんとなぎちゃん先輩に許可もらってるから俺達はフリーパスで入れるからな」

「でも立川先輩、せっかくの舞台なのに誰一人お客さんいないのっておかしいと思うんですけど…」

「あー、それはだな…もう舞台公演はついさっき終わったばかりだから特別に俺達だけに舞台を見せてくれるんだ」

「うわぁ~!贅沢だね!」

「少しは俺のこと見直したか?真奈と相浦」

「うーん…」

ドヤ顔を決めながら言う立川先輩に顔を引き攣らせながら私と真奈は顔を見合わせると二人揃って首を横に振る。

「ない!それはない!」

あまりにもきっぱり否定する二人に立川は項垂れると目を失せた。

「ひでぇ…」

「あははっ」

その様子に二人で顔を見合わせながら笑うと立川先輩から悲しそうな視線が注がれた。

一通り笑い終わると舞台の方へ向かった。
薄暗い空間の中で舞台のとこだけライトが当てられており後ろに広がるのは何万もの椅子が並んでいた。

「ひろーい!凄いね!ゆき」

「うん、ほんと凄い…」

感嘆の溜息を零す私と両手を大きく広げて瞳を輝かせる真奈を他所に立川先輩はクスリと笑うと舞台の上へ上がって行った。

「おーい!なぎちゃん先輩来たぞー!どこだ?」

劇内中に響く立川先輩の声と共に舞台袖から着物を着た奥園先輩が出て来た。

「うるさいっ!大声で呼ばなくてもちゃんと聞こえてますよ立川」

「だってさ~せっかく来たのになぎちゃん先輩いなんだもん!」

「だからって大声で呼ばなくても…」

「大きな声で呼ばないとなぎちゃん先輩出て来てくれないだろ?絶対」

「はぁ…もういいですよ。何言ってもお前には通用しないと分かりましたので…」

うわぁ…
奥園先輩大変だなぁ

同情の眼差しを奥園先輩に投げかける私と真奈だった。

「では、始めましょうか。私の舞をお見せしましょう。」

「はい!お願いします!」

深々と頭を下げる私と真奈を余所に立川先輩は観させてもらう立場なのに当たり前のように腕を腰に当て頷いていた。

私たちは奥園先輩が準備をしている間大人しく一番前列の真ん中に座り証明が暗くなるのを待った。
程なくして証明がゆっくりと暗くなると幕が、上がり舞台上にライトが当てられた。
舞台の中心には綺麗な美女が淡い桜が散りばめられた美しい着物を羽織り色ぽく垂れ下がるまつ毛がうっすら開私たちを見つめた。
先程の奥園先輩とは違い見たこともない美女姿の奥園先輩は女の私でも見惚れてしまうぐらいだった。

「ほぅ…」

感嘆の声しか零すことが出来ない私たちはその美しすぎる美女に目を奪われていた。
美女は歌が流れるのと同時にその真っ白な肌がかすかに見える腕をゆっくりと振る。
袖を持ち桜が散りばめられた黒の扇子で顔を少し隠すと高い黒の下駄をゆっくり動かす。
扇子と袖を使い舞う奥園先輩はなんとも言えない程の美しさで私たちを魅了した。
舞が終わると同時に私たちは思わず立ち上がり精一杯の拍手を送る。

パチパチパチ

「凄すぎますっ!奥園先輩!」

「綺麗で美しくて私たちでも見惚れてしまうほど凄く美しかったですっ!」

「やべぇ…俺、なぎちゃん先輩に惚れそう…」

いやいやいや、立川先輩それは駄目だって!
男同志が好きになったら確実にグレーになるよ…

少し引いた目で立川先輩を見ながら私は改めて美しい奥園先輩を見る。

あー…でも、分かるかも…
立川先輩の気持ちも。
綺麗だもん奥園先輩。

「それはそれは、嬉しいお言葉をありがとうございます。私としては凄く嬉しゅうございます。」

「え?奥園先輩?」

女言葉で話す奥園先輩に私たちは空いた口が塞がらなかった。

「はい?どうかしましたか?」

「いっ、いえっ!」

綺麗な笑顔の中で目だけが笑っていない奥園先輩にそれ以上のことは言えなかった。
固まる私たちに奥園先輩は笑顔で私たちに手招きをする。

「さぁ、みなさんこちらへ。一緒に踊りましょ?」

「ふへぇ?」

きょとんとした目で私たちは奥園先輩を見つめ返すと奥園先輩は笑顔のまま手招きをする。

「おっ、俺は遠慮しとくわ!」

「わっ、私もやめとくっ!ゆっ、ゆき行きなよ?」

「は?えっ?!ちょっと…」

真奈に背中を押され私は舞台に立つ奥園先輩の胸の中に倒れ込む。

「つぅ…」

「あらあら、大丈夫?」

「えっ?!うわっ!ごめんなさいっ!」

起き上がり顔を上げるとすぐ近くに奥園先輩の顔があり思わず飛び退く。

「相浦さん?でしたよね。どうぞ」

「え?…」

手を差し出され私は凝視をしていると待ちきれなかった奥園先輩の方から私の手を掴む。

「うっ、うわぁ?!」

「踊り方はこう…腰を下げて…」

奥園先輩の手が腰に当てられ私の顔はすぐさま熱を帯びていき赤くなる。

「あっ、あの…」

「どうしましたか?」

「いっ、いえ…」

目の前にある奥園先輩の顔に反論しようとした言葉をやめる。
一つ一つ丁寧に教えてくれながらも奥園先輩との近距離と触れられる感触に私の精神は限界だった。
そんな中でも、奥園先輩はやっぱり美しく時々男性だと言う事を忘れてしまうほどに私は完全に見惚れてしまっていた。
可憐に舞う奥園先輩はまさしく舞姫のようだった…
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