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泡まみれのご遊戯
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ある浴室の一室では泡まみれになりながらも髪を洗う一人のメイド少女とその少女に身を委ねる少年がいた。
「おい、もっとそこは強くだ」
「はいはい、ここですか?」
「うっ…ああ~そこそこ」
気持ち良さそうに頷く我が主人金城先輩は私が合宿から帰って来て早々俺様命令を下したのである。
「金城先輩、私がいない間誰にお世話をされたんですか?」
「は?誰にもされてねーよ」
「え!?じゃあ、私がいない間どうしてたんですか!?まさか一人で…なんてありえないですよね?」
「くっ…お前俺を馬鹿にしてるのか?ふんっ、お前が居なくとも一人でやっていける」
「へ~…なら私がメイド辞めても困りませんね?」
「なっ…!?メイドが主人の断りなく勝手に辞めるなど俺が許さんっ!」
「きゃっ!?ちょっ、何するんですか!もう泡だらけ…」
金城先輩が浸かっている浴槽の泡が本人によりかけられ全身泡まみれ状態になってしまった。
「知るか!俺をからかったお前が悪い」
「クスッ…」
「何がおかしい?」
あからさまに拗ねる金城先輩が少し可愛く見え笑みを零す。
「ふふっ、やっぱり金城先輩には私がいないと駄目なんですね?」
「っ…勘違いしてんじゃねー!俺のメイドが務まるのは雪だけだってだけだ」
「はいはい、そうですね…ふふっ」
ぶっきらぼうに否定する金城先輩の言葉に本当は必要としてくれてるんだと分かっているからこそ嬉しさでいっぱいになる。
本当は優しい人…ちゃんと分かってますからね
艶やかな黒髪に触れながら内心で頷いていると唐突に話題を切り出すように金城先輩が口を開く。
「そういえば、合宿どうだったんだ?」
「それ聞きます?何もかも知っているくせに」
「ふんっ、よく分かってるじゃないか」
「そりゃあメイドなんてやってたら嫌でも分かってきますよ」
傲慢で俺様気質の金城先輩が自分の所有物を野放しにするはずがない。勿論、その所有物にはメイドである私も入っており恐らく予想では情報源は副会長で一番仲が良い神崎先輩だろう。
「合宿で秋月に散々振り回されたらしいな?」
「秋月さんの事知っているんですか?」
「親同士が仲が良いってだけだ。言わゆる幼なじみってやつだ」
「幼なじみ!?秋月さんと金城先輩が!?」
「何だ?そんなに驚く事か?」
「い、いえその…以外だったというか…」
「言いたいことがあるならハッキリ言え」
「じゃあ、その…金城先輩って秋月さんに言い寄られた事なんてあるんですか?」
「言い寄られる?ある訳ないだろ、そんな馬鹿みたいな事」
「へ?」
「俺に言い寄る事が出来る女はそれなりの覚悟がないとまず出来ないからな」
「あー、なるほど」
だから、面食いで愛されたい女子の秋月さんなのにこんな歩く狂犬には手を出さなかったんだ…そりゃあ容易に手なんか出したら倍返しになって返って来そうだもんね
神崎先輩ですら手を焼く金城先輩の性格に初めて会った頃の女性への対応を思い出し苦笑いを浮かべた。
「予想通り秋月すら敵わないとはさすが俺が見込んだだけはあるな」
「えっと…どこまで知ってるんですか?」
予想したくもないが全て知っていそうな金城先輩の言葉に思わず質問する。
「全てだ」
ですよね……あははは
予想通りの答えに内心乾いた笑いが零れた。
「あー、だが油断しない方がいいな。秋月はああ見えてしつこい女だぞ」
「それはもう身に染みて分かってますよ…嫌な予感しかしません」
別れ際に”またね”と言われた事に嫌な予感しかしないと思っていた。
「そうか…ククッ」
「金城先輩、何か楽しんでませんか?」
何故か妙に楽しんでいる様子の金城先輩に訝しげに尋ねる。
「そうだな…雪のめちゃくちゃで予想外すぎる行動を見てるのも楽しいが、それに巻き込まれて変わっていく奴らを見るのも楽しいな」
「それ褒められてるのか貶されてるのか分かりませんし、趣味悪いですよ?金城先輩」
「何とでも言え。まぁ、要約するとお前はいい女だと言う事だ。ん?いいメイドの方がいいか…」
「そこはメイドじゃなくてもいいですよ!急に褒めるような事言わないでください、らしくないですよ…っ」
「何だ?照れてるのか?」
「うっ…違いますっ!」
見上げて顔を覗き込む金城先輩の目を無視しながら赤くなった頬を隠すように横に向く。
いつもは罵声や横暴な言葉しか飛んでこないのに急に褒めるとかずるいですよ…っ
まともに目が見られないまま手だけは頭皮をマッサージしていると思い出したかのように金城先輩が口を開く。
「そういえば、三十一日空いてるか?」
「三十一日ですか?その日は翔先輩の試合を見に行く予定です」
「ん?翔の試合見に行くのか?」
「え?はい、行きますよ。合宿で一緒に練習した剣道部の人達を応援したいですし、日頃お世話になっている翔先輩をしっかり応援しなきゃっ!」
「は?日頃お世話になっているだと…?」
「それはもうお世話になりまくりですよ。いつも助けてくれるし優しく相談にも乗ってくれて…きっと応援一つじゃお礼にもならない程です」
「雪、お前……こいっ!」
「うひゃっ!?」
バシャアンッッッ!!!
唐突に金城先輩によって思いっきり腕を引っ張られバスタブの中に引きずり込まれた。
「ブグブグブグブグ…ゴブッ!ゴホッゴホッ!!急に…何するんですかっ!?…痛っ!」
お湯の中から顔を上げ泡まみれ状態で金城先輩を睨むと不機嫌な顔でおでこを弾かれた。
「誰に日頃お世話になっているだと…?お世話してやってるのは俺様の方だ!この馬鹿メイドっ!」
「なっ…!?お世話されてるより私がお世話してるんです!金城先輩にお世話された事なんて微塵もありませんよ!!」
「ほう…微塵もか…本当にないと言える確証はあるのか?」
「ぐっ…そ、それは…」
金城先輩の言葉に脳内には過去、海イベントでのメイドというバイトの事を皆に言わないでおいてくれた事やアリスの同行を許可してくれた事を思い出しそれらは少なからず感謝している為微塵もとは言いずらかった。
「海のバカンスの際に俺がメイドの事を言わないでおいてあげた事もう忘れてないだろうな?それに、お前がバイトを始めたきっかけも忘れたとは言わせないぞ」
「そ、それは掃除のバイトで同僚だったおばさんを庇ってクビと引き換えに仕方なくメイドになったからで別にお世話になったなんて…」
「はぁ…俺がメイドにしてやっただけでもまだマシだからな?普通なら一般庶民の戯言など無下にしてとっとクビにしてたところだ。そう考えればメイドにする事で世話してやってる事にもなるだろ」
「あの…めちゃくちゃな事言ってる気がするんですけど」
「あん?どこがだ?正論極まりないだろ」
「そうですねー…」
これが通常運転というべきかお手上げというべきか…
珍しく急に褒めるような言葉を口にしたのに最終的には相変わらずの俺様発言に照れという感情が冷めきり棒読みで受け流した。
「そういう事だから……」
「え……っ…」
「…お前は一生俺だけに世話されてろ」
不意におでこに口付けを落とされ至近距離でそう言われ私の思考は一瞬にして停止した。
…え?何?これもイベントですかぁぁぁっ!?
バシャアンッ!!!
「お、おい?どこに…」
「着替えてきます」
…バタンッ!
無意識に体が動き律儀にも返答に答えバスルームから出るとその場に一気に崩れ落ちた。
「ふぁ~……もう駄目…っ」
恋愛初心者に俺様キャラの相手はキツすぎると真っ赤な顔を両手で覆いながらしみじみと思った。
*
一方、雪が扉越しで蹲っている際に金城はバスタブのすぐ側に置かれたミニテーブル上にある携帯を取るやいなやある人物に電話をかける。
プルルルル…プルルルル…
「…俺だ。三十一日の件だが俺も同行する……ああ、分かってる。お前の邪魔はしないさ。俺はせいぜい傍観者ってところだ」
そういうなり電話越しに小さく笑う声が聞こえ金城の口元も自然と笑みを零した。
「おい、もっとそこは強くだ」
「はいはい、ここですか?」
「うっ…ああ~そこそこ」
気持ち良さそうに頷く我が主人金城先輩は私が合宿から帰って来て早々俺様命令を下したのである。
「金城先輩、私がいない間誰にお世話をされたんですか?」
「は?誰にもされてねーよ」
「え!?じゃあ、私がいない間どうしてたんですか!?まさか一人で…なんてありえないですよね?」
「くっ…お前俺を馬鹿にしてるのか?ふんっ、お前が居なくとも一人でやっていける」
「へ~…なら私がメイド辞めても困りませんね?」
「なっ…!?メイドが主人の断りなく勝手に辞めるなど俺が許さんっ!」
「きゃっ!?ちょっ、何するんですか!もう泡だらけ…」
金城先輩が浸かっている浴槽の泡が本人によりかけられ全身泡まみれ状態になってしまった。
「知るか!俺をからかったお前が悪い」
「クスッ…」
「何がおかしい?」
あからさまに拗ねる金城先輩が少し可愛く見え笑みを零す。
「ふふっ、やっぱり金城先輩には私がいないと駄目なんですね?」
「っ…勘違いしてんじゃねー!俺のメイドが務まるのは雪だけだってだけだ」
「はいはい、そうですね…ふふっ」
ぶっきらぼうに否定する金城先輩の言葉に本当は必要としてくれてるんだと分かっているからこそ嬉しさでいっぱいになる。
本当は優しい人…ちゃんと分かってますからね
艶やかな黒髪に触れながら内心で頷いていると唐突に話題を切り出すように金城先輩が口を開く。
「そういえば、合宿どうだったんだ?」
「それ聞きます?何もかも知っているくせに」
「ふんっ、よく分かってるじゃないか」
「そりゃあメイドなんてやってたら嫌でも分かってきますよ」
傲慢で俺様気質の金城先輩が自分の所有物を野放しにするはずがない。勿論、その所有物にはメイドである私も入っており恐らく予想では情報源は副会長で一番仲が良い神崎先輩だろう。
「合宿で秋月に散々振り回されたらしいな?」
「秋月さんの事知っているんですか?」
「親同士が仲が良いってだけだ。言わゆる幼なじみってやつだ」
「幼なじみ!?秋月さんと金城先輩が!?」
「何だ?そんなに驚く事か?」
「い、いえその…以外だったというか…」
「言いたいことがあるならハッキリ言え」
「じゃあ、その…金城先輩って秋月さんに言い寄られた事なんてあるんですか?」
「言い寄られる?ある訳ないだろ、そんな馬鹿みたいな事」
「へ?」
「俺に言い寄る事が出来る女はそれなりの覚悟がないとまず出来ないからな」
「あー、なるほど」
だから、面食いで愛されたい女子の秋月さんなのにこんな歩く狂犬には手を出さなかったんだ…そりゃあ容易に手なんか出したら倍返しになって返って来そうだもんね
神崎先輩ですら手を焼く金城先輩の性格に初めて会った頃の女性への対応を思い出し苦笑いを浮かべた。
「予想通り秋月すら敵わないとはさすが俺が見込んだだけはあるな」
「えっと…どこまで知ってるんですか?」
予想したくもないが全て知っていそうな金城先輩の言葉に思わず質問する。
「全てだ」
ですよね……あははは
予想通りの答えに内心乾いた笑いが零れた。
「あー、だが油断しない方がいいな。秋月はああ見えてしつこい女だぞ」
「それはもう身に染みて分かってますよ…嫌な予感しかしません」
別れ際に”またね”と言われた事に嫌な予感しかしないと思っていた。
「そうか…ククッ」
「金城先輩、何か楽しんでませんか?」
何故か妙に楽しんでいる様子の金城先輩に訝しげに尋ねる。
「そうだな…雪のめちゃくちゃで予想外すぎる行動を見てるのも楽しいが、それに巻き込まれて変わっていく奴らを見るのも楽しいな」
「それ褒められてるのか貶されてるのか分かりませんし、趣味悪いですよ?金城先輩」
「何とでも言え。まぁ、要約するとお前はいい女だと言う事だ。ん?いいメイドの方がいいか…」
「そこはメイドじゃなくてもいいですよ!急に褒めるような事言わないでください、らしくないですよ…っ」
「何だ?照れてるのか?」
「うっ…違いますっ!」
見上げて顔を覗き込む金城先輩の目を無視しながら赤くなった頬を隠すように横に向く。
いつもは罵声や横暴な言葉しか飛んでこないのに急に褒めるとかずるいですよ…っ
まともに目が見られないまま手だけは頭皮をマッサージしていると思い出したかのように金城先輩が口を開く。
「そういえば、三十一日空いてるか?」
「三十一日ですか?その日は翔先輩の試合を見に行く予定です」
「ん?翔の試合見に行くのか?」
「え?はい、行きますよ。合宿で一緒に練習した剣道部の人達を応援したいですし、日頃お世話になっている翔先輩をしっかり応援しなきゃっ!」
「は?日頃お世話になっているだと…?」
「それはもうお世話になりまくりですよ。いつも助けてくれるし優しく相談にも乗ってくれて…きっと応援一つじゃお礼にもならない程です」
「雪、お前……こいっ!」
「うひゃっ!?」
バシャアンッッッ!!!
唐突に金城先輩によって思いっきり腕を引っ張られバスタブの中に引きずり込まれた。
「ブグブグブグブグ…ゴブッ!ゴホッゴホッ!!急に…何するんですかっ!?…痛っ!」
お湯の中から顔を上げ泡まみれ状態で金城先輩を睨むと不機嫌な顔でおでこを弾かれた。
「誰に日頃お世話になっているだと…?お世話してやってるのは俺様の方だ!この馬鹿メイドっ!」
「なっ…!?お世話されてるより私がお世話してるんです!金城先輩にお世話された事なんて微塵もありませんよ!!」
「ほう…微塵もか…本当にないと言える確証はあるのか?」
「ぐっ…そ、それは…」
金城先輩の言葉に脳内には過去、海イベントでのメイドというバイトの事を皆に言わないでおいてくれた事やアリスの同行を許可してくれた事を思い出しそれらは少なからず感謝している為微塵もとは言いずらかった。
「海のバカンスの際に俺がメイドの事を言わないでおいてあげた事もう忘れてないだろうな?それに、お前がバイトを始めたきっかけも忘れたとは言わせないぞ」
「そ、それは掃除のバイトで同僚だったおばさんを庇ってクビと引き換えに仕方なくメイドになったからで別にお世話になったなんて…」
「はぁ…俺がメイドにしてやっただけでもまだマシだからな?普通なら一般庶民の戯言など無下にしてとっとクビにしてたところだ。そう考えればメイドにする事で世話してやってる事にもなるだろ」
「あの…めちゃくちゃな事言ってる気がするんですけど」
「あん?どこがだ?正論極まりないだろ」
「そうですねー…」
これが通常運転というべきかお手上げというべきか…
珍しく急に褒めるような言葉を口にしたのに最終的には相変わらずの俺様発言に照れという感情が冷めきり棒読みで受け流した。
「そういう事だから……」
「え……っ…」
「…お前は一生俺だけに世話されてろ」
不意におでこに口付けを落とされ至近距離でそう言われ私の思考は一瞬にして停止した。
…え?何?これもイベントですかぁぁぁっ!?
バシャアンッ!!!
「お、おい?どこに…」
「着替えてきます」
…バタンッ!
無意識に体が動き律儀にも返答に答えバスルームから出るとその場に一気に崩れ落ちた。
「ふぁ~……もう駄目…っ」
恋愛初心者に俺様キャラの相手はキツすぎると真っ赤な顔を両手で覆いながらしみじみと思った。
*
一方、雪が扉越しで蹲っている際に金城はバスタブのすぐ側に置かれたミニテーブル上にある携帯を取るやいなやある人物に電話をかける。
プルルルル…プルルルル…
「…俺だ。三十一日の件だが俺も同行する……ああ、分かってる。お前の邪魔はしないさ。俺はせいぜい傍観者ってところだ」
そういうなり電話越しに小さく笑う声が聞こえ金城の口元も自然と笑みを零した。
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みんなの感想(15件)
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指摘ありがとうございます┏●
いえいえ、お待たせしてすみませんm(_ _)m💦
私も金城は好きなキャラなので金城ファンは嬉しいです(´ ꒳ `)
そして、合宿が終わり登場させる予定です。
秋月の裏の黒幕は次回出るのかな?ざまぁお疲れ様でした( ^ω^ )
遅くなりすみません🙏💦 黒幕はこれから徐々に出していきます。秋月もまだまだ鍵になるかも?と思います(笑)
秋月の開き直り方はさすが悪女ですね( ̄∇ ̄)笑 メールの相手はこの先鍵になるので注目していただけると幸いです( ᴗˬᴗ)⁾⁾⁾
3話分更新にて話が急展開しますのでご期待ください\^^/