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覆る策略

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雪から起こされた桂馬は、剣道部の部員達を起こし終わり支度をし大広間へ向かうと入口の襖が開かれ中から秋月が出て来た。

「あら?翔君、おはようございます…」

「挨拶は置いといて秋月に話したい事があるんだが…」

「話…?」

秋月は、桂馬の言葉にほんのりと頬を染め恥ずかしそうに聞き返す。

「ここではちょっと…」

周りを見渡すと仲居が廊下を行き交う姿が見え顔をそむけながら言うと秋月は頬を染めたまま嬉しそうに提案をする。

「でしたら、人気のない場所に移動致しましょうか?」

「いや、人気がなければ廊下でも構わないんだが…」

「まぁまぁ、そう言わずに…」

パシッ!

そういうと半ば強引に腕を掴み前を歩き出した秋月に流されるように歩いていると既に人気のないのにも関わらず大広間から遠ざかっている事に気づき掴まれた腕を勢いよく外す。

「離してくれ…っ!」

「い、いかがしましたか?」

ドンッ!

急に腕を離す桂馬に驚き戸惑いの表情を浮かべる秋月に冷たい眼差しのまま真っ直ぐに見つめ壁に追い詰め勢いよく片手で秋月の顔の傍にある壁横を叩き逃げ場をなくす。

「きゃっ!?」

「…シラを切るのもいい加減にしろ」

「何の事を言っているのですか?私はただ人気のない場所を案内しようと…」

「人気のない場所?歩いている途中で既に人気はなかった…この先にある部屋と言えば雪や秋月がいる部屋になるが?」

「わ、私の部屋の方が人は来ませんので…」

「他にも近くにいくらでも人気のない部屋はあるはずだ…俺には意図して誘導しているように見えるがな…?」

「っ…」

言葉に詰まる秋月の様子に本題と称し再度口を開く。

「俺が聞きたいのは秋月本人の口から雪のイルカのストラップを盗んだという真実とそのイルカのストラップを返して貰うためだ」

「私が盗んだ…?何を言いがかりを…元に翔君にも言ったようにあれは相浦さんから貰った物だと…」

「雪から貰った?俺はあの日雪と別れた後、雪本人の口から秋月が知り合いから貰った物だと言っていたと聞いたが…?」

「なっ…そんな相浦さんの嘘を信じるんですか!?大体、確証も証拠もないのにどうしてそんなでたらめを…」

「俺は雪を信じる…!それに雪は嘘はついていない…あの日雪から聞かされ別れた後、秋月と同じシフトの仲居さんにその日の一日に雪が部屋を出た時間帯から部屋に入った夕食前の間にあの部屋に休憩を取り尚且つ出入りしたただ一人の人物は秋月だけだと教えてくれた。それを踏まえてあの日あの部屋で雪の荷物からイルカのストラップを盗めるのは秋月しかいない…それにもし雪が秋月に渡した話を言うのなら自ら俺に嫌われる理由もなく泣くほど必死に誤解を解く為に探し回る程の事はしないだろう…」

「っ…」

桂馬の正論じみた言葉に言葉を詰まらせ俯く秋月に更に付け足すように口を開く。

「何故嘘をついた?そして雪を陥れるような真似をしたんだ?」

「ふっ…とんだ小賢しいお姫様だこと」

秋月は桂馬に聞こえない小さな声でそう呟くと懐から雪から盗んだイルカのストラップを取り出す。

「こちらでよろしいでしょうか?…紳士様?」

「ああ…」

不敵な笑みで微笑みながら差し出すイルカのストラップを取り去ると冷たい眼差しで見下ろす。

「…で?理由はなんだ?」

「相浦さんのイルカのストラップが可愛らしくてつい…出来心ですよ」

「そうか…悪いが言い訳は聞き流す主義でな」

「っ…」

冷たく刺さる桂馬の視線に息を呑む秋月に再度付け足すように口を開く。

「お前の失敗の要因の一つとして俺が警察官の息子でこういう調査や尋問が得意なのと俺が雪を信頼しているのが悪かったな…」

日頃、剣道に打ち込む桂馬だが父が偉大な警察本部長官という事もありその血の才能を受け継ぎ警察官としての才覚を認められているため時折父の手伝いとしてサポートをしていたためかこのような類の事はそれなりに得意としていた。

「それと…また雪にこんな真似したら俺はお前を許さない…っ!」

静かな怒りのこもった桂馬の言葉に恐怖の眼差しで見上げる秋月を桂馬は最後まで冷たく見下ろすと視線を外し大広間へと戻っていった。

ガタッ…

「っ…何よ!何であんな地味で取り柄もない女の肩を持つのよ…!」

その場に崩れ落ち座り込む秋月は予定通りの策略と違う状況に苛立ちを隠せなかった…


あれから数分後、立川の協力により半ば強引にバスケ部の部員全員を叩き起し既に皆が集まる大広間へと少し遅れて来た雪は入口の襖に手をかけるのを少し躊躇っていた。

また秋月さんと会うのか…いやいや!あれは桂馬先輩の気遣いもあったし悪い事なんて早々起きるわけ…

クイッ!

「んにゃ…れいにぃ?」

突然背後から顔を上にあげられ見上げると玩具眼鏡姿の葉山の姿があった。

「な~にうじうじ一人で考え込んでんだよ?入らねぇのか?」

「は、入るけど…」

何か昨日の事もあって秋月さんと顔を合わせるのが少し怖いんだよね…

桂馬によって裏で気遣ってもらっていた事を知っても尚、あの時の悪意に満ちた言動と雪と違っていた桂馬に向けた話の食い違いにあからさまに嫌がらせなのだと分かる秋月の行動を半ばトラウマとして恐怖心があった。

「はぁ…桂馬には誤解は解いたんだろ?なら正々堂々と入ればいいじゃねぇか…秋月に何かされたら俺が何とかしてやるから」

「れいにぃ…」

真剣な眼差しで見つめられ困惑しつつも葉山の優しさに不安と恐怖心でいっぱいだった反動で泣きそうな眼差しで見つめ返すと顎に当てられた両手が頬に当てられ引っ張られる。

ムニッ!

「うにゃっ…!?」

「ばーか!泣きそうな顔してんじゃねーよ!…どうしても不安なら俺だけ見とけ」

「っ…」

最後に言われた言葉が何故かいつもと違う感じに聞こえ相手がれいにぃだというのに頬が熱で赤く染まる。

何でれいにぃの言葉で赤くなっちゃうんだろ?熱でもあるのかな?…

どうしたらいいか分からず勝手に結論づけているとそのどうにもならない空間を打ち破るように突然大広間の入口の襖越しに大きな物音がした。

バシャッーンッ!

「…ごめんなさいっ!今すぐ拭きものを…」

大きな物音と共に葉山の手が離され二人揃って入口の襖を振り向くと秋月の謝罪の声と同時に入口の襖が開かれた。

「あら?葉山先生、おはようございます…お入りにならないのですか?」

毎度のことながら雪の存在をスルーしつつ葉山ににこやかに話しかける秋月に内心引き攣り笑いを浮かべる。

「ああ…今、入ろうとしていた所だ」

「そうですか…では失礼致します」

葉山に向かって小さく会釈をし雪を通り過ぎようとした瞬間、雪にしか聞こえない声で小さく呟いた。

「ふふ…紳士様達に守られるお姫様はさぞかし幸せなのでしょうね?」

「え…」

威圧するような言葉に畏怖の念を感じつつただ呆然と秋月が通り過ぎて行くのを見つめる。

どういう意味なの…?

「…かな?大丈夫か?」

すると呆然としている雪の姿を訝しげに問いかけると葉山の声が聞こえ動揺しながらも作り笑いを浮かべる。

「だ、大丈夫…!」

「そうか…ならいいが」

必死の雪の作り笑いに渋々納得した様子の葉山を他所に雪の頭の中には先程秋月に言われた言葉が響き続けていた…















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