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涙と流れ星

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静かな東武道場内にて一人の男子生徒と一人の着物姿の女子とその二人を上から見つめる一人の女子生徒がいた。

これってもしかしなくても…告白!?

頬をほんのりと染めて真っ直ぐに立川を見つめながら言い放った秋月の言動に言われた立川のみならずそれを聞いていた雪までもが驚きを隠せないでいると固まって返事をしない立川に焦れとたさを感じたのか再度秋月が口を開く。

「返事は今じゃなくてもいいです…ただお伝えしたかっただけなので」

にっこりと笑みを向け入口の扉の方に足を向けゆっくりと歩き出す秋月に突然の事に動揺しきって固まっていた立川は慌てて声をあげ引き止める。

「あ…ま、待って!つぐみちゃん…っ!」

立川の声に扉に手を掛けていた手を止め振り返る秋月に未だ状況を整理出来てない頭のまま確かめるように問いかける。

「今の言葉って本気なのか…?」

立川の表情には動揺と疑いの色が浮かんでおり、そんな立川に対して秋月は妖艶な笑みを浮かべ右手を口元に当てると意味不審な言葉を返した。

「ふふ…優希君はどう思いますか?」

「っ…そんなの分かるわけねぇだろ」

「そうですね…では一つだけ、私は本気じゃない人には言いません」

「じゃあ、今のって…」

「ふふふ…もう夜も遅いので私はこれで失礼致します」

立川の言葉に返す事もなく一方的に終わらせるとその場から去っていった。

「何なんだよあいつ…っ!」

トンッ…

耳を赤くしたまま立川は床に落ちているバスケットボールを拾うと用具室に入っていった。

ガラッ…

「ぷはっ…!はぁ…はぁ…今のうちに屋上に行かなきゃ…」

立川が用具室に入ったのを見ると息を吐き出し慌てて硬直していた足を叱咤し屋上の扉を開け中に入るとそこにはビニールシートを下に敷き毛布を被り星空を見つめる桂馬の姿があった。

キー…ガチャ…

開けたままの扉が閉まる音が響くとそれに気づいた桂馬が振り返り黒い瞳が真っ直ぐに向けられた。

「あ…えっと…ご、ごめんなさいっ!!」

言いたい事は沢山あったが実際に桂馬を目にすると何も言葉が出てこず咄嗟に出てきたのは謝罪の言葉だった。
頭を下げ体を震わせる雪に桂馬は先程みたく冷たく突き放すのではなくいつもの様に優しい声を投げかける。

「…頭を上げてくれ」

だが、頭を下げたまま首を横に何度も振るとずっと伝えたかった言葉を吐き出す。

「嫌です…っ!私、イルカのストラップ無くしてしまって…そしたら秋月さんが何故か同じの持ってて…でも貰った物だって言われて…秋月さんに何言われたか分からないけど誤解なんですっ!本当に無くしちゃただけで…本当に何も…」

「分かってる…全部分かってるから頭を上げてくれないか?」

「え…?」

桂馬の言葉に涙でぐしょぐしょの顔をゆっくりと上げるといつもの優しい笑みが向けられていた。

「とりあえず、俺からも話したい事があるから座らないか?」

被っていた毛布を外し隣に手を叩く桂馬に言う通りに恐る恐る腰を下ろすと隣で体が密着した状態で膝に毛布が掛けられた。

「あの話って…?」

「実は、秋月からあのイルカのストラップを見せられた時に秋月本人から”雪からいらないからと言う理由で貰った”と言われたんだ…だが、俺からしたらどう考えても雪がそんな事をする奴だとは思えなくて…それでも秋月のストラップを雪のだと言う証拠も確証もなくあの時出来たのは何を考えてるか分からない信ぴょう性のかける秋月を遠ざけつつ雪と関係を持つ事で何か雪にするのだとしたらあの場ではああ言うしかなかった…だからと言って傷つけてしまったのは事実だ…すまない」

隣に座る雪に振り向くと既に涙でぐしょぐしょだった顔から再度小さく揺れる瞳から大粒の涙がいくつも頬に伝い零れていた。

「…よかったぁ…嫌われてなくてよかったぁ…ひっく…うぅ」

頬に伝う涙を服の袖で何度も拭いながら安堵する雪の姿に手を伸ばし涙を拭う手を止める。

「本当にすまなかった…もう泣かせるような真似はしない」

潤んだ雪の瞳を真っ直ぐ見つめ言うと頬に伝う涙を空いている手の指先で拭い愛おしそうな眼差しで笑みを向ける。

「っ…わ、私も無くしちゃて…んっ!?」

再度イルカのストラップを無くした事について謝罪しようとした瞬間、涙を拭った指先がスライドし唇を塞いだ。

「謝らなくていい…」

っ…どうしよう… 何だかいつもと違って凄く翔先輩がズルく感じる

先程まで突き放された事で悲しんでは桂馬の本心を聞いて安堵の涙を流していた筈なのに今は何も抗う事も表情にする事も言葉を発する事も出来ず至近距離で真っ直ぐに向けられた黒い瞳にただ息が出来ず固まった。

「あ…えっと…星!星綺麗ですね!」

この状況にいたたまれなくなり慌てて首を横に回し振り切ると夜空に輝く満天の星空を指差した。

「そうだな…見れてよかった」

雪の言葉に桂馬も首を回し星空を見つめるとその瞬間、星が空を突っ切り流れ星が見えた。

「あ!流れ星!願い事しなきゃっ!」

慌てて瞼を閉じブツブツと心の中で必死に願い事を復唱する。

…どうか無事にゲームが終わって皆が幸せになりますように

ゆっくりと瞼を開け隣に座る桂馬に振り向き問いかける。

「翔先輩は何かお願い事しましたか?」

「俺は…」

雪の言葉に真剣な眼差しで見つめ返し口を開く。

「…雪とずっと一緒に居られますように」

「っ…は…えっと…」

それって後輩とか友達とかで大切だからとか何かだよね…?そ、そうに違いない!

どういう意味での言葉か分からず混乱しつつも深い意味ではないと自身の胸の内に言い聞かせ頬を赤く染めながらも慌てて返答する。

「わ、私も!翔先輩とずっと一緒に居れたら嬉しいです…っ!」

「そ、そうか…よかった…っ」

笑顔で言う雪の言葉に戸惑いながらも言葉を返すと先程自身が無意識で言った発言を思い出し赤面する。

いつもの翔先輩だ…

いつもと同じ翔の姿に嬉しさと安堵の気持ちで笑みを零しながら満天の星空が見守る中で屋上にて夜の風に吹かれている最中、一人自室に戻っていた秋月は携帯を見ながら不敵な笑みを零す。

「ふふ…明日は翔君を狙おっかな…?」

イルカのストラップによって動揺しきった桂馬の顔と絶望感によって呆然と佇んでいた雪の姿を思い出しながら益々不敵な笑みを浮かべたのだった。
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