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三章 “夜降る宵朧”殺髏編

第59話 黒幕

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「悠大が来てない……え?」

 どういうことだ?

「なにか聞いていないのなら、悠大君は無断依頼放棄したことになるが……私もそんなはずはないということは分かっている。もしかして……悠大君になにかあったんじゃないか?」

「なにか……」

 確かに、悠大は無断で遅刻するような人間じゃない。
 それに、一部先払いしてもらった母親の治療費の分の依頼だから、途中で放棄なんてするはずも……

「……!! 一絺さん!」

「なっなんだ?」

 俺は一つの可能性に思い当たり、一絺さんの肩を掴んで問い詰める。

「なにか……悠大に変だなっていうところを感じませんでしたか?」

「え、ええ……!? 別にそんな……」

「いえ、一絺さんが原因なんじゃとかいうわけじゃなくてですね……正直に、詳しくお願いします!」

「ちょ、ちょっと! あなたちよ君に近づきすぎよ!!」

「えっと……絶妙に千縁君と意思疎通……いや、感情の共有が出来てなかった……?」

 遠慮がちに目を逸らした一絺さんは、気遣うように答えた。

「!! そうか……それだ!!」

「……?」

 そうだ。
 言葉にできなかったあの、違和感。

 悠大は妙にんだ。

 やけに落ち着いていたり、癖が違ったり、妹と母親が誘拐された時も、

 まるで、家族はどうでもいい……俺を観察しているような……

「もしかして……悠大君に千縁君も違和感を抱いているのなら……別人なんじゃないか?」

「!! 別人……!!」

 まさか……

「殺髏!!」

『わかった。探ってみるよ』

「ち、千縁君?」「ちよ君!?」

 【憑依】深度Ⅰを発動し、俺は外へと飛び出す。

(もし悠大が、誰かの変装した別人だとすれば……)

 本物の悠大がどうなってるか、分かったもんじゃない。

「殺髏! 何か!?」

『いや……全く。流石に直近じゃなさそうだ。難しい』

 殺髏は門の中の“異世界”で出会った、最強の暗殺者だ。
 ある程度の痕跡を探ることや、その大体の時間を当てることもできる。

 しかし、プロの殺髏でもわからないとなると、相当前の話になる。

(一体いつから……? 気づけなかった……!!)

 くそ……どこに……

「まてよ……」

 俺は、一縷の望みにかけて、目に力を込める。

『千縁! やるのじゃな?』

「ちょっと、“眼”だけ借りるぞ……!!」

『なんじゃ……眼だけか……』

 の眼が、紫金色に輝いた。

「っく、ぅう……!!」

 右目に焼き付くような痛みが。
 しかし、場所は特定できた。

「近くにいるな……!」

『千縁……向かうのか?』

「当然だ……! 悠大を誘拐したやつ、家族まで巻き込んだやつに会わねぇわけにはいかねぇだろ!」

 聞きたいことはたくさんある。
 本当に悠大の母は病気なのか、大丈夫なのか、いつから成り代わっていたのか……

(まず金を借りて延命しようとしなかった時に気づくべきだった……!)

 そうだ、きっとあの時から……!

 今更になって、後悔が押し寄せてくる。

『千縁……用心しなよ』

「ああ……! 絶対に報いを受けてもらう……!」

 俺は、悠大の反応がする方へと走り出した。


~~~~~


「ねぇ、一絺いちさんだっけ?」

「ああ……日月一絺だ。私ということが、自己紹介を忘れていた」

 千縁が飛び出した後の一絺邸。
 残された優香と一絺は、互いに立ち尽くしていた。

「あなた、ちよ君のこと好きなの?」

「なっ、そんなわけないだろ! 私はもう今年で23になったところだ! 7歳も年下の千縁君に……!」

「え、一絺さんそんな若かったの? 長年仕事モンスター研究してるように思えたんだけど……」

「か、勝手に資料を読んだのか……そ、そうだ。私は大学を出てないからな」

「え、大学出てなくても研究家ってなれるんですか? 大丈夫なんです?」

「だ、大丈夫だ! 私は成績優秀で入学後すぐ卒業認定をもらったんだぞ!」

「いやそれ、後ろ盾合っての荒業でしょ?」

「うっ……」

 優香と一絺はどんどんとヒートアップしていく。

「だ、だが、私は実際に研究家として数年活動している! 19の頃に研究を始め、大学を早期卒業してから四年も実績があるんだぞ!」

「まぁ、才能があるのは本当なんでしょうけど……どちらにせよもうおばさんじゃないの」

「おっ……わ、私はまだ若──」

 一絺は胸を張る優香を見て、次の言葉を飲み込む。
 千縁も、この優香という少女も、まだ16歳。青春真っ盛りな若者だ。
 彼女らと比べては、何も言えない……

「で、でも、そっちこそ! ぺ、だろう!?」

「んなっ……! そ、そっちは無駄に大きいだけじゃないの! と、年食ってるんだからそのくらい普通よ普通! わ、私かってあと7年もすれば……!」

「ふふん……! お子さまにはないものだろう!」

「て、てか、あんたもちよ君のこと意識してるんじゃない!」

「!! い、いや、それは海原のやつがそそのかして……!」

 
 優香と一絺の二人は、夜が更けるまで不毛な言い争いをしたのだった。


~~~~~


「出てこいっ!!」

「は~い」

 俺はとある廃工場の扉を蹴り破る。
 悠大と何者かの気配があった場所だ。

 俺の怒号に、犯人であろう存在は間延びした返事を返す。
 そして、奥の方から一人の男が現れた。

「やっと来たかぁ……」

「お前は……?」

 現れたのは、銀髪のクールな外国人。
 極級や超級探索者なら、数少ない強者たるゆえに、探索者の皆が覚えているレベルだが……俺の知らない男だ。

「ハハッ! 僕は『クロイツ帝国』の新星! 極級探索者のジル・ドレイドさ! ま、ここで死ぬ君に覚えてとは言わないよ」

「極級探索者……だと?」

 おかしい。それなら聞いたことがあるはず……

「ああ、そうさ。実はこれが昇格初任務でね。“王”べネジア様に頼まれたのさ! 日本に現れた“神童”を消せ、と」

「なんだと……?」

 昇格したばかりの極級探索者……
 いや、それよりも美穂を消す?

「世界で見ても学生の若さで超級探索者なんて、前例がないほど優秀だよ。芽は早めに摘んどかないと」

「てめぇ……!」

「ま、そこで“神童”を越える君を見つけたわけだけど。“革命児”君?」

 ジルは気色の悪い笑みを見せると、その体をドロドロと溶かす。

「!?」

「【模倣コピー】……」

 ジルの体が、に変化していく。

「っ!? 【憑依】──」

 そして、お互いの体から濃密な魔力の波動が放たれた。


「「悪鬼!!」」 




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