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三章 “夜降る宵朧”殺髏編
第57話 事件の真相
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「続いてのニュースです。今朝7時頃、某人気アイドルグループ育成事務所の寺上カンパニーにて、全ての従業員と社長、来訪していたアメリカの超級探索者バット・テイラー氏が突如行方不明となりました。日本政府は昨夜から一切ない目撃情報に……」
「……」
次の日の朝、俺はニュースを見ていた。
一絺さんと。
「ふむ……会社から出たことすら視認されてないのなら、十中八九死んだか……いや、百人余りを証拠すら残さず殺すのは不可能か」
「……優香、大丈夫でした?」
「ああ……ところで……彼女、ではないのか?」
一絺さんが紅茶を渡してきながら、今日何度目かの質問をする。
「違いますよ……目、覚めないですか?」
一絺さんは無言で頷いた。
あの後、【憑依】を解いた俺は、自宅ではなく一絺さんの家に向かった。
目を覚まさない優香をどこに連れていくか悩んで……家も知らないし、自宅に連れて行っても悪環境で何もできない。
だから、治療室もあるという一絺さんの家にお邪魔したのだ。
深夜に、いきなり意識のない少女を連れて来た俺に、一絺さんは即答で部屋を貸してくれた。
曰く、「それなら千縁君も泊まっていくといい! 連れて来たのは千縁君だからな! 三階が空いているから!」だそう。
うちにはご飯もベッドもないからまじで助かったんだけど……なんで俺まで泊まらされたんだ?
まあ、もしかしたら殺人容疑とかで指名手配される可能性もあったかもしれないからな……
殺髏が手掛かりを残すわけないか。
(しかし、謎なのは……【憑依】終盤での記憶が全くないこと……)
深度Ⅱの【憑依】を使うと、意識の9割が持ってかれる。
主に目的くらいしか確実に伝えられないのだ。
大きな過ちは起こさないけど、多少の行動ズレは出る感じだな。
(でも、最後の方の記憶が思いだせねぇ……たまに忘れることはあるけど、なんか引っかかるんだよなぁ)
「でも、こんな形で三階の改築が役に立つとは……」
「え? 改築してたんですか?」
言われてみればなんか、女性っぽいというより男性用っぽかった気が……
「あ……もしかして……」
「んん!? な、何もないぞ!! やましいことなど!」
『脈ズレがある。動揺してるよ』
「ああ、はい……」
(ち、千縁君が来たときに引き留めたいならこの部屋はやめとけ、とか海原に勧められたんだが……気づかれたか……!?)
(もしかして彼氏さん用の部屋だったか……? やけに探索者風な部屋だったけど……お邪魔しちゃったか?)
『……こいつはバカじゃ』
なんか気まずくなって、俺と一絺さんは同じソファから距離をとる。
まじでこのソファ欲しいなぁ……
てか俺、未だに家買えてねぇじゃん!
莉緒が今大阪来ちゃったらどうするよ……!?
あんなボロ屋で再開の喜びもクソもねぇぞ……
「ていうか、千縁君……学校は?」
俺が頭を悩ませていると、一絺さんがふと、思い出したかのように言う。
「ああ、俺と美穂、通常授業の日はもう自由出席なんですよ。何って“先生”がいないので……」
「ああ……そうだろうな」
一絺さんはフフッと微笑む。
致命的な威力ほ誇る一絺さんスマイルは放っておいて、実際俺たちに教えられるとしたら同じく超級探索者の滝上学園長だけ。
実際美穂は第一学園の時から学校サボることもあったらしいし、登校時はいつも“業火の魔女”こと柏田学園長に個別指導してもらってたらしい。
……柏田学園長ってなんか、苦手なんだよな。
美穂をうちによこしてはきたんだけど、俺に対していい印象はなさげだったし……
まあ、俺がほぼ一人で第一学園から引きずり下ろしたようなもんだし、印象いいわけがないんだよな。
「そうだ……その、千縁君、よかったらしばらくこのまま、うちに泊まらないか?」
「……え!?」
一絺さんが紅茶を置いたかと思うと、いきなりそんなことを言い出した。
「ほ、ほら! その、依頼がまだ終わってないし……千縁君にもほら、事情があるんだろ? 彼女もまだ目を覚まさないことだし──」
「ん、んんぅ……? ここは……? 私……」
早口で一絺さんが捲し立てたその時、丁度治療室の扉から優香の声が。
「あ──」
「優香!?」
「あ……ちよ君!!」
優香の瞳に千縁が映った瞬間、バッ! と優香は首筋目掛けて抱き着いて来た。
「ちょっ!?」
「なっ……!」
「ありがと……ごめんね……ありがと……」
優香は俺に抱き着きながら、嗚咽を漏らす。
「……」
「うう、うぅ……!」
「ちょ、ちょっと、く、くっつきすぎじゃないか!?」
いつまでも抱き着いて離れない優香に、耐えかねたのか一絺さんが優香を引き剥がす。
いやなんで一絺さんが?
「……? ……!!」
強制的に顔をあげた優香の視線が、まず俺を見て、次にその後ろの一絺さんを捉え……
「だ……」
「だ?」
「誰よこのエロ女ー!!」
優香は、一絺さんを指さして絶叫した。
~~~~~
「まさか親友の家族を引き合いに出しても、仲のいい女友達を引き合いに出しても、始末できないとは……」
ある廃工場の片隅にて。
一人の男が、ある一人の男子学生を縄で縛って監禁していた。
「んん、んん!!!!」
「君、どうせ喋らないじゃん。かといって殺したら変装できなくなるし面倒だなぁ……ね、悠大くん?」
「んんんんん!!」
銀髪の男がそう言うと、その姿が溶けるようにして変わる。
あっという間に、銀髪の男は悠大に変身していた。
「んん! んんん!」
「いやー僕も恵まれたもんだ。目覚めたスキルがまさか極級になれるクラスのものだったなんて!!」
銀髪の男から放たれていた魔力が、一気に小さくなっていく。
「僕の【模倣】は対象の姿どころかスキル、魔力値、記憶! ぜーんぶ模倣できちゃう!! まさに、最強のスキルだ!!」
カナダ国内に存在する、王級探索者であるべネジア・クロイツが立ち上げた国『クロイツ帝国』。
彼が生み出す無数の魔道具によって武装されている、世界最強の軍事国家であるが、その城下町には強者が集まる探索者街が形成されている。
その中でも10人といない極級探索者が一人、ジル・ドレイド。
彼は今、王べネジア・クロイツから依頼を受けて、日本に来ていたのだ。
「いやー最初は世界で見ても最年少超級探索者とか言われてた“神童”を潰すのが依頼だったんだけどねぇ……まさかそれすら越える革命児なんてのが出てくるとは! 全く日本では今、何が起きているのやら……」
ジルはやれやれ、というように首を振る。
「学園祭で拉致ろうと思ってたけど、対象変更のせいで予定が遅れちまった。まぁ、君のおかげで手早く情報は集められたけどね! ハハハハハ!」
「んー!!!!」
ジルの体がどろどろと溶け出し……悪鬼の姿に変わる。
「──ハーハッハッハッハッ!!」
「っ!?」
全方位に、魔力の波動が放たれた。
「あぁ……力が沸き上がる……!」
ジルは対抗祭、美穂を始末するため、観客席にいた。
そして、見たのだ。
あの憐れみ掠する地獄の王を。
「これならなんでも……!」
ジルは一人、歪んだ笑い声をあげた。
「……」
次の日の朝、俺はニュースを見ていた。
一絺さんと。
「ふむ……会社から出たことすら視認されてないのなら、十中八九死んだか……いや、百人余りを証拠すら残さず殺すのは不可能か」
「……優香、大丈夫でした?」
「ああ……ところで……彼女、ではないのか?」
一絺さんが紅茶を渡してきながら、今日何度目かの質問をする。
「違いますよ……目、覚めないですか?」
一絺さんは無言で頷いた。
あの後、【憑依】を解いた俺は、自宅ではなく一絺さんの家に向かった。
目を覚まさない優香をどこに連れていくか悩んで……家も知らないし、自宅に連れて行っても悪環境で何もできない。
だから、治療室もあるという一絺さんの家にお邪魔したのだ。
深夜に、いきなり意識のない少女を連れて来た俺に、一絺さんは即答で部屋を貸してくれた。
曰く、「それなら千縁君も泊まっていくといい! 連れて来たのは千縁君だからな! 三階が空いているから!」だそう。
うちにはご飯もベッドもないからまじで助かったんだけど……なんで俺まで泊まらされたんだ?
まあ、もしかしたら殺人容疑とかで指名手配される可能性もあったかもしれないからな……
殺髏が手掛かりを残すわけないか。
(しかし、謎なのは……【憑依】終盤での記憶が全くないこと……)
深度Ⅱの【憑依】を使うと、意識の9割が持ってかれる。
主に目的くらいしか確実に伝えられないのだ。
大きな過ちは起こさないけど、多少の行動ズレは出る感じだな。
(でも、最後の方の記憶が思いだせねぇ……たまに忘れることはあるけど、なんか引っかかるんだよなぁ)
「でも、こんな形で三階の改築が役に立つとは……」
「え? 改築してたんですか?」
言われてみればなんか、女性っぽいというより男性用っぽかった気が……
「あ……もしかして……」
「んん!? な、何もないぞ!! やましいことなど!」
『脈ズレがある。動揺してるよ』
「ああ、はい……」
(ち、千縁君が来たときに引き留めたいならこの部屋はやめとけ、とか海原に勧められたんだが……気づかれたか……!?)
(もしかして彼氏さん用の部屋だったか……? やけに探索者風な部屋だったけど……お邪魔しちゃったか?)
『……こいつはバカじゃ』
なんか気まずくなって、俺と一絺さんは同じソファから距離をとる。
まじでこのソファ欲しいなぁ……
てか俺、未だに家買えてねぇじゃん!
莉緒が今大阪来ちゃったらどうするよ……!?
あんなボロ屋で再開の喜びもクソもねぇぞ……
「ていうか、千縁君……学校は?」
俺が頭を悩ませていると、一絺さんがふと、思い出したかのように言う。
「ああ、俺と美穂、通常授業の日はもう自由出席なんですよ。何って“先生”がいないので……」
「ああ……そうだろうな」
一絺さんはフフッと微笑む。
致命的な威力ほ誇る一絺さんスマイルは放っておいて、実際俺たちに教えられるとしたら同じく超級探索者の滝上学園長だけ。
実際美穂は第一学園の時から学校サボることもあったらしいし、登校時はいつも“業火の魔女”こと柏田学園長に個別指導してもらってたらしい。
……柏田学園長ってなんか、苦手なんだよな。
美穂をうちによこしてはきたんだけど、俺に対していい印象はなさげだったし……
まあ、俺がほぼ一人で第一学園から引きずり下ろしたようなもんだし、印象いいわけがないんだよな。
「そうだ……その、千縁君、よかったらしばらくこのまま、うちに泊まらないか?」
「……え!?」
一絺さんが紅茶を置いたかと思うと、いきなりそんなことを言い出した。
「ほ、ほら! その、依頼がまだ終わってないし……千縁君にもほら、事情があるんだろ? 彼女もまだ目を覚まさないことだし──」
「ん、んんぅ……? ここは……? 私……」
早口で一絺さんが捲し立てたその時、丁度治療室の扉から優香の声が。
「あ──」
「優香!?」
「あ……ちよ君!!」
優香の瞳に千縁が映った瞬間、バッ! と優香は首筋目掛けて抱き着いて来た。
「ちょっ!?」
「なっ……!」
「ありがと……ごめんね……ありがと……」
優香は俺に抱き着きながら、嗚咽を漏らす。
「……」
「うう、うぅ……!」
「ちょ、ちょっと、く、くっつきすぎじゃないか!?」
いつまでも抱き着いて離れない優香に、耐えかねたのか一絺さんが優香を引き剥がす。
いやなんで一絺さんが?
「……? ……!!」
強制的に顔をあげた優香の視線が、まず俺を見て、次にその後ろの一絺さんを捉え……
「だ……」
「だ?」
「誰よこのエロ女ー!!」
優香は、一絺さんを指さして絶叫した。
~~~~~
「まさか親友の家族を引き合いに出しても、仲のいい女友達を引き合いに出しても、始末できないとは……」
ある廃工場の片隅にて。
一人の男が、ある一人の男子学生を縄で縛って監禁していた。
「んん、んん!!!!」
「君、どうせ喋らないじゃん。かといって殺したら変装できなくなるし面倒だなぁ……ね、悠大くん?」
「んんんんん!!」
銀髪の男がそう言うと、その姿が溶けるようにして変わる。
あっという間に、銀髪の男は悠大に変身していた。
「んん! んんん!」
「いやー僕も恵まれたもんだ。目覚めたスキルがまさか極級になれるクラスのものだったなんて!!」
銀髪の男から放たれていた魔力が、一気に小さくなっていく。
「僕の【模倣】は対象の姿どころかスキル、魔力値、記憶! ぜーんぶ模倣できちゃう!! まさに、最強のスキルだ!!」
カナダ国内に存在する、王級探索者であるべネジア・クロイツが立ち上げた国『クロイツ帝国』。
彼が生み出す無数の魔道具によって武装されている、世界最強の軍事国家であるが、その城下町には強者が集まる探索者街が形成されている。
その中でも10人といない極級探索者が一人、ジル・ドレイド。
彼は今、王べネジア・クロイツから依頼を受けて、日本に来ていたのだ。
「いやー最初は世界で見ても最年少超級探索者とか言われてた“神童”を潰すのが依頼だったんだけどねぇ……まさかそれすら越える革命児なんてのが出てくるとは! 全く日本では今、何が起きているのやら……」
ジルはやれやれ、というように首を振る。
「学園祭で拉致ろうと思ってたけど、対象変更のせいで予定が遅れちまった。まぁ、君のおかげで手早く情報は集められたけどね! ハハハハハ!」
「んー!!!!」
ジルの体がどろどろと溶け出し……悪鬼の姿に変わる。
「──ハーハッハッハッハッ!!」
「っ!?」
全方位に、魔力の波動が放たれた。
「あぁ……力が沸き上がる……!」
ジルは対抗祭、美穂を始末するため、観客席にいた。
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