千変万化の最強王〜底辺探索者だった俺は自宅にできたダンジョンで世界最強になって無双する〜

星影 迅

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三章 “夜降る宵朧”殺髏編

第56話 夜降る宵朧

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「HEY! ボーイ! 俺の守りは解けないYO! さっと降参しなさいYO!」

「……」

 は無言で、光すら飲み込むナイフを構える。

「この先輩様がきっちりと立場を教えて──」

 カキンッ! と何かが、金属にでもはじかれたかのような音を鳴らす。

「……早えな! 【自動防壁オートブロック】がなければ危なかったぜ」

「……自動防御か」

「ヒッ……! て、テイラー君! さっさと処理したまえ!!」

 いつの間にか飛来していたナイフに、寺上社長はおびえた声で急かす。

「あぁ、ちょっと待てよ。まあ、依頼主の言葉ならしゃあねえ、急ぐか」

 バット・テイラーは、寺上の言葉に不服そうにしながらも、拳を鳴らして更にスキルを発動する。

「【攻撃反射リフレクション】」

「!!」

 バット・テイラーがそう言うと同時に、バット・テイラーを薄桃の膜が包み込む。
 その膜は、の放ったナイフを、軌道そのままに跳ね返した。

「……反射。ダブルか」

「おうよ! つってもお前さんからすりゃぁしょぼいもんだろうがよぉ、シックスマン?」

「……ほざいてろ」

 世界で23防御スキル使い、バット・テイラー。
 生半可な不意打ちは【自動防壁】で塞がれ、認識後はより堅牢な【攻撃反射】によって物理攻撃を跳ね返されるという、世界で見ても中々いないタンカーだ。

 魔法攻撃には【自動防壁】でしか対応できないものの、そもそも超級探索者である彼に大打撃を与えるのは難しい。

「【暗器ワイヤー&ナイフ】」

「【攻撃反射】!」

 はバット・テイラーに無数のナイフを投擲する。
 バット・テイラーはそのあまりの速度と多様な角度、飛来するワイヤーさえ使って反射してくるナイフに反応ができない。

 しかし、全方位を守る【攻撃反射】の能力によって、その全てを防ぎ切った。

「さあ! BOY! 俺を倒すことも、傷つけることもできないだろ!? さっさと諦めてバッドな時間を過ごしな!」

「……」

 は全てのナイフがはじかれたのを見て、攻撃の手を止める。
 どれほどの速度で飛ばそうが、武器が壊れない程度には限界がある。
 武器を投げずに攻撃するのに比べれば、攻撃力が抑制されるのは仕方ないことだ。

「それともこのままこのテイラー様に引き裂かティラーされるか? どうする! こっちはあの鬼にも対応できるんだぜ? 出し惜しむ必要はない!」

「お、おい! しゃべってないでさっさと殺せ!」

「……」

 バット・テイラーの言葉にが返事を返さないでいると、バット・テイラーは更に言葉を重ねる。

「見た感じお前は暗殺タイプ……アサシンだろ? 例のパワータイプに切り替えたほうがまだ勝ち目あるんじゃあないか?」

「……【瞬影強襲ゴーストアサルト】」

「!! 消え……!」

 しかし、不意の背面攻撃も、【自動防壁】+【攻撃反射】によって防がれる。

「は……無駄だと──」

「【瞬影強襲】」

「次はどこに……逃げたか……?」

 バット・テイラーがを掴もうとするも、【瞬影強襲】によって避けられる。【瞬影強襲】は当然、身動きの取れない状況からの撤退にも使えるからな。

「……【瞬影強襲】」

「またか……あ?」

 そして、三度告げられる【瞬影強襲】のトリガー。
 それにため息をついたバット・テイラーは、一拍後、首をかしげる。

 が、消えたまま出てこないからだ。

「マジで逃げたか? おいおい、チキンちゃんがよ」

「おい! テイラー君、逃がすんじゃない!」

 この場から消えたに、寺上はテイラーを責める。
 しかし、今度はテイラーがその発言を許さなかった。

「ある程度は金もらってるから我慢するけどよォ……ちょっとテメェ、調子乗りすぎじゃねぇか?」

「ヒッ……!!」

 バット・テイラーが威圧すると、一般人の寺上は耐え切れずに失禁する。

「チッ……依頼が終わったら殺してやろうか」

 そこまで言って、バット・テイラーは一人の男が正面に立っていることに気づく。

「……何?」

(さっきまで全く気が付かなかった……いつからそこに……?)

 社長室の入り口。
 黒づくめの格好をした、一人の男が、俯いたままたたずんでいる。
 その男は、紛れもなく先ほどまで対峙していた“革命児”そのものだった。

 しかし、バット・テイラーはそのことに、違和感を抱いた。

姿使はずだが……)

 千縁の姿は全く変わってない。
 しかし。

 纏う空気が、先ほどまでとはどこか違う。

(元々、音も立てないし寡黙だしやけに気配が薄い奴だとは思っていたが……)

 バット・テイラーはそこまで考えて、違和感の正体に気づく。

「……お前」

「──夜は必ず、訪れる」

(気配が、!!!!)

 刹那。
 辺りの空気が変わった。

 千縁の言葉と同時に、部屋の色々なところから無数のナイフが出現し、バット・テイラーめがけて飛来する。

「ハッ! 効かねぇって言ったはずだぜ──」

 バット・テイラーが【攻撃反射】を発動しようとした、その瞬間。

 突如くうはしった漆黒のワイヤーが、それらのナイフを反射して、軌道を変える。

「チッ! ダメージも与えられないのに、無駄なことを──」

 しかし、バット・テイラーの中の不穏な予感は消えない。
 バット・テイラーは【攻撃反射】を発動して、様子を見ることにした。

(なんだ……? どうして戻ってきた……? この嫌な予感はなんだ!? 何をする気だ!!??)

 明らかに、千縁の様子がおかしい。
 敵意に満ちていた千縁の瞳が、今。
 
 圧倒的な“殺意”を宿していたのだ。

(まるで……!!)

 バット・テイラーはそこまで考えて、ハッとする。
 背に感じる痛み、熱。

(まさか……)

 バッと自分の背を確認しようと振り返った瞬間、頬にドロリとした熱を感じる。

「どういうことだ……さっきと変わらないナイフが……どうして俺に!?」

 【自動防壁】と【攻撃反射】。
 たとえ前者が打ち破られたとて、攻撃自体を反射する【攻撃反射】がある限り、物理的ダメージは負わないはずなのに……

「【致命キラー】」

 容赦なく傷をつけてくる、飛来するナイフに、バット・テイラーはゾクリ、と背筋が泡立つのを感じた。

「う、おおおお!」

 破られた無敵の防御に、バット・テイラーは長らく使っていない短剣を取り出して、ナイフを振り払う。
 しかし、光すら飲み込む漆黒のナイフは、その速度に加えて認識することを拒むもの。防御するのは至難の業だ。

「……」

「うっそだろ……!?」

 更に。
 【攻撃反射】で一部反射しているナイフが、先のワイヤーや他のナイフにあたり、角度を変えて飛来する。

(そんなアニメみたいな芸当ができるのか!? いや、こいつまるで遊んでるような……!!)

「ぐ……ぐ、ああああああ!?」

 塞ぎきれないナイフの濁流に、バット・テイラーはついに悲鳴を上げた。

 千縁改め、殺髏せつろはそれを、光の宿らない瞳で見つめている。

 殺髏が指を動かすたび、角度を変えるナイフや小刀。
 その姿からは、千縁の面影が全く感じられなかった。

 まるで、顔が同じ他人のように……

任務遂行キル

「──ぁ」

 ジュパンッ!

 終わりは唐突に。
 まるで飽きたかのように──、殺髏がバット・テイラーの首を飛ばした。

 バット・テイラーの予想は正しかった。
 初めから即殺すつもりなら、あっさりと首を飛ばすことも出来たのだから。
 
 察知不可の速度で接近した殺髏の、確実に首を刈り取る一撃に、バット・テイラーの命の灯がロウソクの火よりも軽く消える。

「な……あ……ひっ!?」

 グリンッ、と首を向けた殺髏に、寺上社長は今になって“死”を感じた。
 そして……

 ジュパンッ!!

「任務達成、帰還」

 最後の首が飛んだ。


「──っ!」

 の憑依が解ける。

「はぁ、はぁ……」

 血みどろの空間に、唯一佇む黒い影。

「終わった……
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