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三章 “夜降る宵朧”殺髏編

第55話 激昂

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「急に抜け出したこと、一絺さんに謝らないとな……」

 とりあえず俺は、突然の事態に思わず抜け出したことを謝りに、一絺さんのところへ行くことにした。
 ちなみに電話じゃないのは、謝罪は直接会ってしたほうがいいかということと、晩御飯を買いに行くついでだ。

 ……別に後者の理由が大きい、なんてことはないからな?

「……ん?」

 俺が夜道を歩いていると、少し離れたところからなにやら大勢の声が聞こえる。

「……嫌な予感がするな……行ってみるか」

 俺は一旦、そちらへ向かって見ることにした。
 そして、見てしまった。

「……あれって……優香!?」

 公園の端で倒れる、一人の下着姿の女の子。
 顔が大きく腫れ、潰れているも、確かに気配は優香のものだ。

「優香!!」

 俺は優香の方に駆け寄る。

「なにがあった!? 大丈夫か!?」

「ぁ……ちよ……く……」

 パシャッ!

「……あ゛?」

 息も絶え絶えといった様子の優香が瞼を薄らと開けると同時、どこからかシャッターを切る音が鳴った。

「あれ、やばくね?」

「うわ……また探索者の犯罪かな……」

「てか、近くにいるの“革命児”じゃね!?」

「え! マジっぽい! 写真撮ろ写真!」

「……よ……くん……」

 優香は、手を伸ばして、声を絞りだす。

「ごめ……んね……?」

 その瞬間、場に氷河期が訪れた。

 そう錯覚するほどに、全員の背をゾクリ、とおぞましい感覚が襲う。

「【憑依】──殺髏せつろ

 刹那、千縁の気配が掻き消えた。
 
 黒髪黒目に人の体。
 唯一変化した点は漆黒のロングコート。
 どこからか一瞬で現れたロングコートの内側には、おびただしい数の暗器が仕込まれている。

 そして辺りの魔力が、悪鬼の時とは正反対にの体内に引き込まれていき、その姿さえをこの世から隠す。

「これスクープじゃね? SNSにあげよ──うわっ!?」

「下着姿で外に寝る痴女出現、と。これはバズりそ──うわあ!? スマホが!!」

「なんだこれ!? ……糸?」

 周囲に集まる野次馬クズ共の手のスマホが、突如全て粉々になった。
 目を凝らせば、そこには細い漆黒のワイヤーが。

「【黙れ静かにしろ】」

 その瞬間、周囲から全ての音が消えた。
 不意に訪れた完全無音状態に、人々は平衡感覚を失い、悲鳴を上げようとするも声を出すことはできない。

「……」

 一瞬だけ茶に輝いた瞳でが優香の顔をなぞると、優香の顔は一転して顔色を取り戻す。
 は優香を影で覆うと、その姿を隠して、一言。

「──夜は必ず訪れる」

「ガッ……!?」

「うっ……!?」

 その瞬間、その場にいた全ての野次馬クズたちの意識が失われる。
 視界が闇に覆われ、全員が地に倒れ伏した。

『殺髏。俺からの頼みは一つ──』

 千縁は、覚悟を決めて告げる。

『優香にこんなことした奴等を──全員、殺す』

「……絶対に任務は達成するよ」

 はその手に二本のナイフを出現させ、夜道を走り出した。


~~~~~


「……これで確実に、飛彩優香は潰せます。以前宝晶千縁は優香のために、うちに乗り込んできたと聞きました。今回も乗り込んでくるでしょう」

「そうか! これで“革命児”に復讐できるな! なあ、テイラー君?」

 とある寺上の名を冠する会社の社長室。
 社長席に座る男が、メガネの男と外国人の男に語り掛ける。

「ハハハハハ! 俺に任せな!金さえ払えばこのバット・テイラーが凄惨バッド引き裂いてティラーしてやるぜ!」

 妙にラップ口調の外国人は、そのおちゃらけた性格とは正反対ので言った。
 それは明らかに何人も殺している、深淵のどすぐろい眼。

「お、おお……任せるよ。標的は先ほど見せたようにパワータイプの、超級なりたてだ。先輩の君なら、奴を抑えて殺すことも可能だろう?」

「ああ! パワータイプは一番の得意相手だ! 任せとけ!」

「社長……“革命児”はもう確実に殺すんですか?」

 メガネの男は、控えめに進言する。
 その言葉に、寺上はフンッと鼻を鳴らして苛立ち気に腕を組んだ。

「当たり前だろう! この私を脅したんだぞ!? 死んで当然の奴だ! ……まあ、どうしてもというなら私の下につけてもよいが……」

(ああ……これは確実に、どちらかが死ぬな)

 メガネの男は、内心ため息をついた。

(恐らく、私の計画が上手くいったとして……それでも革命児と社長のどちらが勝つかはわからない)

 完全なる警備を整えたとはいえ、“革命児”がまだ見ぬ能力を持っている可能性がある。
 現時点でも、学園対抗祭にて【螺旋拳】、【爆地】、【瞬影強襲ゴーストアサルト】、【虐殺】、【破砕旋風】、【憑依】、6つのスキルが確認されている。
 ダブル、ましてやトリプルでもあらず、シックス。

 異常なるポテンシャルを秘めている。

 正直、まだ隠し玉があるとは思えないが、あれだけの戦闘力を見せられたら、まだ何かあるんじゃないかと、期待してしまう。

(まあ、あった場合は我々の負けか……)

「では社長、私は邪魔になりますので先に失礼します」

「ん、おう。下がってよいぞ」

 メガネの男は、足早に社長室を後にする。
 そんな男を、廊下にいる無数の警備員たちは敬礼で見送った。

(そしてこれで少なくとも、私の身は守られた。社長が勝てば地位が手に入るからぜひ勝ってほしいが……最悪負けても、就職し直せばいい)

「私の作戦に抜けなどないのだよ。ハハハハ──」

「それじゃあな」

「え──」

 ジュジュジュジュジュジュジュパンッッッッ!!!!!!

 錆をチェーンソーで削るかのような深い音が、に響き渡る。
 突如その場の全員の首が、一斉に飛んだ。

生首しゃれこうべサンキュー」



 は、【瞬影強襲】を使い、社長室内に侵入する。

「だからあとは待つだ……うおお!?!?」

「来たかぁ!」

「【黙れ静かにしろ】」

 内部の構造はすでに把握済みだ。
 仕掛けられた全ての罠をかいくぐり、破壊したは、ナイフを構えてバット・テイラーに対峙する。

「……ぷはっ! おもしれえスキルだな! だが、俺には効かねぇ!」

「……抵抗スキルか」

 が沈黙スキルを発動させるも、バット・テイラーには長く持たなかった。

「そう! 俺がアメリカ一のボディガード! バット・テイラー様だ! 今からお前には凄惨バッド自信引き裂かれるティラーな時間を過ごしてもらうZE!」

「……こいよ」

 余裕綽綽のバット・テイラーには、冷ややかな“殺意”を以て返した。
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