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三章 “夜降る宵朧”殺髏編

第52話 魔力測定

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「日月一絺さん、0.009です」

「え!? 一絺さん、モンスター倒したことあたんですか?」

「ああ……幼いころに家庭内でちょっと、な」

「悠大さん、126です!! 126.0301!!」

「おお! やった!」

 一絺さんの次に、悠大の結果が発表される。
 中級探索者になる目安がおよそ魔力値100前後だから、悠大が試験に受かったのも納得だ。

「そして……宝晶様の魔力値ですが……」

 なにやら、係の人が言いづらそうに身じろぎしている。
 なんだ……? お、さては俺の魔力値が高すぎて測れなかったとか!

「……668です」

「「「え?」」」

 俺も二人も、思わず聞き返した。
 668……?

「……668.866401です。確かに、超級探索者レベルではあるんです……けど……」

「おい!! 本当にちゃんと測ったのか!? 千縁君のことは知ってるだろ!」

 一絺さんが係員の肩を揺さぶって問い詰める。

「ほ、本当です! 凄まじい数字ですが……私も、わかりません……!」

「ちょ、一絺さん落ち着いて!!」

 荒ぶる一絺さんを、俺は引きはがして諫める。

「は、はぅ……」

(でも……確かに妙だ)

 超級探索者はおよそ魔力値590~610あたりでなれることが多いとされ、確か一年前の美穂の判明していた魔力値が580ちょい……入学直後には超級だったと言われてるから、恐らくそんなもんで合ってるはずだ。

(でもそれだと、美穂に勝てた理由がわからない)

 確かに、【月狼変化】前は俺のほうが優勢だった。
 身体能力と技術を合わせて奮闘できていたからな。

 【月狼変化】後は、逆に俺が押されてた……【月狼変化】まで出されると、深度Ⅰ憑依すらないままじゃ勝てないんだよな……

「ん? まてよ? じゃあ【憑依】使うと一時的に魔力値上がるのか?」

 形態変化しているため、美穂の【月狼変化】中に魔力値が上がるかは確定しないが、恐らく俺の方は魔力値自体に変化があると見た。
 身体能力差で勝ったわけだし、魔力値が関与しないわけがない。

(んーでも、いちいち【憑依】使って診断やりなおしたくないな……あんまし見せたくもないし)

 そもそも、【憑依】で最大魔力値を出そうと思えば、を憑依させる必要がある。
 でもは、そう簡単に呼べないからな……
 いや、まてよ?
 、あっちのが最大か?

(いやいや! あいつは嫌だ。流石に!)

「千縁君……その……離してくれないか……?」

「あっすみません」

「ちよ……一体どういうことなんだ?」

 悠大も気づいたようだ。

「恐らく……【憑依】してたら、魔力値が変化するんだと思う」

「「!!」」

 その言葉に二人は係の人は目を丸くし、そして納得した顔をした。

 シンプルに突き抜けた身体能力で黄金の人狼と化した美穂を圧倒した俺が、身体能力を決める要素の魔力値しょぼしょぼだと聞いたら、そりゃ納得できないよな。
 スキルの力だけで倒していたとかだったら、魔力値低くても納得するんだろうけど……

「……で、日月さん。俺たちは次どうしたら?」

「……? あ、ああ! そ、そうだな、いったん帰ろう」

「……一絺さん、どうなりました?」

 なぜか結果を聞いて、俺よりも考え込む一絺さんに、悠大に聞こえないようこっそりと聞く。

「……ああ、ボ……カメラの件だな?」

 俺は無言で頷いた。

「あれは生物じゃなかった。単なる魔道具……しかし、あんな奇妙なものがダンジョンに自然生成される可能性は0に等しい……さらに言えば、小型カメラは確実に現代で生産されているもの……恐らく、やはり人為的に作られたようだ」

「!!!」

 人為的にダンジョンを……!?

 方法はわからないが、確かなことは一つ。

「魔道具を作れる探索者は一人……」

「そう、“王級探索者”……べネジア・クロイツだ……!」

 “王級”、ベネジア・クロイツ。今現在この世で唯一魔道具を作れるスキルを有しており、その力で世界最高峰の軍事帝国『クロイツ帝国』を立ち上げた探索者だ。
 ちなみに、バチカン市国の如くカナダのど真ん中に領土を持っている。

 カナダ政府は彼に報酬や領土を支払い、対価に庇護と魔道具を受け取っているのだ。
 彼のおかげで、カナダは探索者大国となることができた。

 実際、“王級”のなかでも最も引く手あまたな彼は、カナダ出身でなければ他の所に行っていただろう。

「まさか“王級”が関与しているなんて……」

「ああ。信じられないが、それしか考えられない」

 でもいったい何のために日本に……?
 だけど、一つだけ分かることは……

(テメェは絶対に許さねぇからな……べネジア・クロイツ……!!)

 よもやダンジョンブレイクが起きて、一絺さんや町自体が消えてしまうかもしれなかった。
 そんなことを人工的に仕組んだとするなら……

「おい、ちよ、どうした? そんな険しい顔して」

「! あ、ああ……悠大の母さん大丈夫かなって」

「まぁ、もう医者に任せるしかないよな……」

 悠大は事情を話し、依頼報酬を先払いで一部もらっている。
 それで既に治療費の支払いを終えたところだ。

 とにかくこれで一安心……

 そう思い息をついた時だった。

 プルルルル!!

「ん? 家から? ってことは琴葉ことは……?」

 悠大のスマホから、着信音が。

「もしもし? 急にどうし……」

「妹と母親の身は預かった。返してほしければ宝晶千縁ってやつと一緒に丸腰で来るんだな」

「その声って……まさか羽場さん!?」

 プツッと電話が切られた。
 悠大は呆然と立ち尽くし、ポトリとスマホを落とす。

「……まさか」

 それを聞いていたは、一言だけ聞いた。

「……悠大の家はどこだ?」

「っつ!」

 そのに、悠大は思わず怯む。

「ちよ……俺は……」

「どこだ」

「っ……あっちの──」

 悠大が言うが早いか、の気配が薄れていき、その姿が掻き消える。

「……!?」

 その漆黒の瞳に宿る感情はまるで、存在自体が影である人でないかのような────

「……? 悠大君、千縁君は……?」

「すみません!!」

「えっ? ちょっ、悠大君!?」

(はぁ、はぁ、ちよ……まさか……)

「待ってろよ……!」



 ──恐ろしいほどに冷めた、“殺意”だった。
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