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三章 “夜降る宵朧”殺髏編
第47話 二人目の仲間
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「……優香!」
「……」
次の日。
俺がいつもの駅前で待っていると、唇を強く結んでいる優香が現れた。
「優香……?」
「……ねぇ」
様子がおかしい。
優香は、俯いたままポツリと、雨粒が水たまりに落ちるかの如く呟いた。
「……ちよ君は、もし私が泣いてたら、助けてくれる?」
「……え?」
「もし、それが自分じゃ届かないことでも、支えてくれる?」
よく見ると優香が小刻みに拳を震わせている。
「それで……他の人が不幸になってしまうとしても……私を、助けてくれる?」
「何を……!?」
「ねぇ!」
『ほぉ……これは……』
優香の言葉に、唯一女性の仲間が反応する。
『千縁……こやつ、相当追い詰められているぞ。急がなねば手遅れになるかもしれん』
「え!?」
どういうことだ……!?
優香にもう後がないって……
『完全に病んどるんじゃろ。彼女は助けを求めてる。それが例え、言葉だけでも』
「……ごめんね」
「え?」
「迷惑だったよね……私、遠慮なくちよ君に言い過ぎた。ごめんね」
「い、いや、そもそも話を聞くって言ったのは俺だし……!」
俺が混乱していると、優香がキュッと目を瞑り、軽く頭を振った。
「ううん。元々、ちよ君は関係なかったでしょ? それなのに私の話を聞いてくれて……ちよ君、すごい人だったのに」
「……」
「もう大丈夫だから。私、色々考えたんだけど、やっぱり逃げてばかりじゃだめだよね。アイドル、もうちょっと頑張ってみることにしたんだ」
その言葉には、悲しみが含まれていた。
(だめだ……俺には、よくわからないけど、このまま優香を帰すのだけはだめだ……!!)
「だから──」
「優香!」
俺はあはは、と乾いた笑いをする優香の肩を掴む。
「……!? なっ……」
「やりたくなければ、やめればいいんだよ! 無理にやる必要はなんて、全然ない!」
「……っ!」
優香の顔が紅潮するが、そんなことを気にしている暇はなかった。
「嫌ならやめったっていい! 望むならいつだって、俺が助けてやる!」
「!! で、でも……!?」
その時、優香は千縁をみて、あることに気づいた。
(眼が……少しだけ……緑色……?)
千縁の目が、心なしか薄緑に見えたのだ。
そして、そんなことに気づかない俺は、優香に更なる言葉をかける。
「優香が本当に辞めたいと心から思ったなら、無理せず辞めたらいいんだ! 優香がほかの人のために我慢する必要はないんだ! 俺は、他の人より優香に幸せになって欲しい!」
「~っ!!」
当然だ。
優香の親友だか親だか知らないが、俺は優香の友達だから。
俺にとっては俺と、その友達が一番大切。
色々、気づいたことがある。
すべてを救うことは不可能なこと。
俺は、他の大勢と自分の周りの少数なら、自分の周りの少数を選ぶ。
門の中では、選択を迫られることもあったのだ。
どちらもなんて、両方失うだけだ。選ばなければいけなかった。
決断を遅らせば、間に合わなくなる。
だから俺は、迷いはしない……。
「でも……」
「でもじゃない! 俺なら、救える! だからそんなに我慢しないで……もっと、頼ってくれても構わない……!?」
そこまで言って、俺はハッとする。
(まただ……この感覚……)
何か、自分の言葉を何かが代弁したかのような感覚……以前にも一度、感じたことがある。
「えっと……そ、その!」
「……あっ! ご、ごめん!」
優香の声で、俺は我を取り戻す。
気づけば俺は、優香の肩を掴んでしまっていたのだ。
慌てて、優香の肩から手を放す。
「……ううん。ありがとう! おかげで分かった……私……」
優香は、紅潮したまま、スッキリとした笑みを見せた。
「私、もうこんなことやめたい!! だから────助けて!!」
「なら、手伝うよ」
俺の言葉に、優香は小さくうん、と呟いて頷いた。
「でも、社長は私が辞めるなら陽菜ちゃんもやめさせるって……」
その言葉に、俺はニヤリと笑う。
「……じゃあ、まずはお話しないとな?」
「……?」
~~~~~
一方その頃。
「ったく! なんで俺が下級探索者の面倒見なきゃいけねぇんだ! ラァ!!」
「はっ、はっ、はっ……!」
蓮は、鉱物ダンジョンで悠大の面倒を見ていた。
ちよから、今日一日手伝ってくれと言われたからだ。
(チッ……まぁ学校なんてほぼ崩壊してないようなもんだけどよぉ……)
第二学園は今、完全に空中分解状態に陥っている。
学園長に実力ある優秀生たちが反抗し、まともに授業もくそもあったもんじゃない。
「ったく、俺も第よ……第一学園に行きたかったがなあ」
美穂だけ第一学園に行きやがって……
(まぁ、“神童”くらいじゃなきゃ異動なんて出来やしねぇか……)
「ふぅ、ふぅ……いや、まさかあの“悪童”が手伝ってくれるなんて……」
「あ? なんか文句あんのか?」
「い、いや、そういうわけじゃないけど……おわっ!?」
「……チッ! 油断すんな!!」
「! あ、ありがとう……?」
ちよの親友らしい、岩田悠大というやつが俺を見上げながら言う。
「ああ、別にいい。ちよに頼まれたからな」
「……お前から見て、ちよはどんな奴なんだ?」
「あ?」
俺が手短に返すと、悠大が聞いてきた。
(どう……だと?)
「あぁー……まぁ、なんだ。ライバル……というより、今は師匠のほうがどちらかといえば近いか? スキルも似てるし、色々学ぶことが多いんだよ」
俺は、憑依の“深度”分けについて聞かされた時のことを思い出して言う。
そんな器用に調整できることなんて知らなかった。先に知ってりゃ、鬼道丸を使うたびに“悪童”と呼ばれずに済んだだろうに……
「そうか……ちよも、少し前までは俺と同じレベルだったのに……」
「ああ、俺も聞いたな。全く信じらんねぇけど……否定するやつはいねぇし、最近まで噂も聞いたこともなかったから本当なんだろ?」
悠大は無言で頷いた。
「はー、まじかよ。てか、知ってたか? なんかちよが前憑依できるのは一人じゃないとか言ってたんだが……」
「え!? まじ!? まだあんの!?」
最初はお互いに気が乗らなかったものの。
蓮と悠大は意外にも、ちよの話題で盛り上がるのだった。
~~~~~
さて……使える時間は今日のみだ。
今日は蓮に悠大の特訓を頼んでおいたが、明日からは流石に頼むわけにはいかない。
悠大は緊急事態だから学校を休んでいるが、蓮は普通に学校だしな。
俺は、高速で大阪を南下する。
(隠密行動……及び素早さ、器用さ、お話にはこいつがもってこいだ!)
「頼むぞ、“相棒”──殺髏!」
その瞬間、千縁の纏う空気が、悪鬼の時よりも大きく変化する。
耳下くらいの黒髪に黒目。
服は全て闇に紛れるかの如く漆黒に染め上げられ、その内側には無数の凶器が格納されている。
スキル【暗器】によるものだ。
だがそれだけだった。
そう、見た目は一切変化していないのだ。
しかし、千縁と大きく異なる点が一つ。
異様なまでに、気配が薄い。
そこにいるのにもかかわらず、たとえ視界にいても見失ってしまいそうな、影そのものの如く。音もなく移動するその姿は暗殺者を彷彿とさせる。
「っし、優香の所属グループって『キュリオシスターズ』、だよな? 寺上カンパニーとかいう会社のグループのはず。向かうぞ、相棒」
『はいよ。今回は本職のほうでいいのか?』
「いや、半分は本職だが……まあ、お話だよ。得意だろ?」
俺が脳内で、相棒に言う。
そう、殺髏は隠密行動や暗殺に向いた仲間であり、そのポーカーフェイスを活かして何度も誤魔化しの際【憑依】させてもらった、俺の“相棒”だ。
殺髏は唯一、【憑依】させても見た目が変化しない。こっそり憑依させておくにはぴったりの仲間である。
まぁ、無口すぎるせいで会話を極度に省略しようとしてしまい、それが原因でばれることはあるかもしれないが……
『任務は絶対に達成するよ』
「ああ。行くぞ!」
そうして、俺は寺上カンパニーへと向かった。
「……」
次の日。
俺がいつもの駅前で待っていると、唇を強く結んでいる優香が現れた。
「優香……?」
「……ねぇ」
様子がおかしい。
優香は、俯いたままポツリと、雨粒が水たまりに落ちるかの如く呟いた。
「……ちよ君は、もし私が泣いてたら、助けてくれる?」
「……え?」
「もし、それが自分じゃ届かないことでも、支えてくれる?」
よく見ると優香が小刻みに拳を震わせている。
「それで……他の人が不幸になってしまうとしても……私を、助けてくれる?」
「何を……!?」
「ねぇ!」
『ほぉ……これは……』
優香の言葉に、唯一女性の仲間が反応する。
『千縁……こやつ、相当追い詰められているぞ。急がなねば手遅れになるかもしれん』
「え!?」
どういうことだ……!?
優香にもう後がないって……
『完全に病んどるんじゃろ。彼女は助けを求めてる。それが例え、言葉だけでも』
「……ごめんね」
「え?」
「迷惑だったよね……私、遠慮なくちよ君に言い過ぎた。ごめんね」
「い、いや、そもそも話を聞くって言ったのは俺だし……!」
俺が混乱していると、優香がキュッと目を瞑り、軽く頭を振った。
「ううん。元々、ちよ君は関係なかったでしょ? それなのに私の話を聞いてくれて……ちよ君、すごい人だったのに」
「……」
「もう大丈夫だから。私、色々考えたんだけど、やっぱり逃げてばかりじゃだめだよね。アイドル、もうちょっと頑張ってみることにしたんだ」
その言葉には、悲しみが含まれていた。
(だめだ……俺には、よくわからないけど、このまま優香を帰すのだけはだめだ……!!)
「だから──」
「優香!」
俺はあはは、と乾いた笑いをする優香の肩を掴む。
「……!? なっ……」
「やりたくなければ、やめればいいんだよ! 無理にやる必要はなんて、全然ない!」
「……っ!」
優香の顔が紅潮するが、そんなことを気にしている暇はなかった。
「嫌ならやめったっていい! 望むならいつだって、俺が助けてやる!」
「!! で、でも……!?」
その時、優香は千縁をみて、あることに気づいた。
(眼が……少しだけ……緑色……?)
千縁の目が、心なしか薄緑に見えたのだ。
そして、そんなことに気づかない俺は、優香に更なる言葉をかける。
「優香が本当に辞めたいと心から思ったなら、無理せず辞めたらいいんだ! 優香がほかの人のために我慢する必要はないんだ! 俺は、他の人より優香に幸せになって欲しい!」
「~っ!!」
当然だ。
優香の親友だか親だか知らないが、俺は優香の友達だから。
俺にとっては俺と、その友達が一番大切。
色々、気づいたことがある。
すべてを救うことは不可能なこと。
俺は、他の大勢と自分の周りの少数なら、自分の周りの少数を選ぶ。
門の中では、選択を迫られることもあったのだ。
どちらもなんて、両方失うだけだ。選ばなければいけなかった。
決断を遅らせば、間に合わなくなる。
だから俺は、迷いはしない……。
「でも……」
「でもじゃない! 俺なら、救える! だからそんなに我慢しないで……もっと、頼ってくれても構わない……!?」
そこまで言って、俺はハッとする。
(まただ……この感覚……)
何か、自分の言葉を何かが代弁したかのような感覚……以前にも一度、感じたことがある。
「えっと……そ、その!」
「……あっ! ご、ごめん!」
優香の声で、俺は我を取り戻す。
気づけば俺は、優香の肩を掴んでしまっていたのだ。
慌てて、優香の肩から手を放す。
「……ううん。ありがとう! おかげで分かった……私……」
優香は、紅潮したまま、スッキリとした笑みを見せた。
「私、もうこんなことやめたい!! だから────助けて!!」
「なら、手伝うよ」
俺の言葉に、優香は小さくうん、と呟いて頷いた。
「でも、社長は私が辞めるなら陽菜ちゃんもやめさせるって……」
その言葉に、俺はニヤリと笑う。
「……じゃあ、まずはお話しないとな?」
「……?」
~~~~~
一方その頃。
「ったく! なんで俺が下級探索者の面倒見なきゃいけねぇんだ! ラァ!!」
「はっ、はっ、はっ……!」
蓮は、鉱物ダンジョンで悠大の面倒を見ていた。
ちよから、今日一日手伝ってくれと言われたからだ。
(チッ……まぁ学校なんてほぼ崩壊してないようなもんだけどよぉ……)
第二学園は今、完全に空中分解状態に陥っている。
学園長に実力ある優秀生たちが反抗し、まともに授業もくそもあったもんじゃない。
「ったく、俺も第よ……第一学園に行きたかったがなあ」
美穂だけ第一学園に行きやがって……
(まぁ、“神童”くらいじゃなきゃ異動なんて出来やしねぇか……)
「ふぅ、ふぅ……いや、まさかあの“悪童”が手伝ってくれるなんて……」
「あ? なんか文句あんのか?」
「い、いや、そういうわけじゃないけど……おわっ!?」
「……チッ! 油断すんな!!」
「! あ、ありがとう……?」
ちよの親友らしい、岩田悠大というやつが俺を見上げながら言う。
「ああ、別にいい。ちよに頼まれたからな」
「……お前から見て、ちよはどんな奴なんだ?」
「あ?」
俺が手短に返すと、悠大が聞いてきた。
(どう……だと?)
「あぁー……まぁ、なんだ。ライバル……というより、今は師匠のほうがどちらかといえば近いか? スキルも似てるし、色々学ぶことが多いんだよ」
俺は、憑依の“深度”分けについて聞かされた時のことを思い出して言う。
そんな器用に調整できることなんて知らなかった。先に知ってりゃ、鬼道丸を使うたびに“悪童”と呼ばれずに済んだだろうに……
「そうか……ちよも、少し前までは俺と同じレベルだったのに……」
「ああ、俺も聞いたな。全く信じらんねぇけど……否定するやつはいねぇし、最近まで噂も聞いたこともなかったから本当なんだろ?」
悠大は無言で頷いた。
「はー、まじかよ。てか、知ってたか? なんかちよが前憑依できるのは一人じゃないとか言ってたんだが……」
「え!? まじ!? まだあんの!?」
最初はお互いに気が乗らなかったものの。
蓮と悠大は意外にも、ちよの話題で盛り上がるのだった。
~~~~~
さて……使える時間は今日のみだ。
今日は蓮に悠大の特訓を頼んでおいたが、明日からは流石に頼むわけにはいかない。
悠大は緊急事態だから学校を休んでいるが、蓮は普通に学校だしな。
俺は、高速で大阪を南下する。
(隠密行動……及び素早さ、器用さ、お話にはこいつがもってこいだ!)
「頼むぞ、“相棒”──殺髏!」
その瞬間、千縁の纏う空気が、悪鬼の時よりも大きく変化する。
耳下くらいの黒髪に黒目。
服は全て闇に紛れるかの如く漆黒に染め上げられ、その内側には無数の凶器が格納されている。
スキル【暗器】によるものだ。
だがそれだけだった。
そう、見た目は一切変化していないのだ。
しかし、千縁と大きく異なる点が一つ。
異様なまでに、気配が薄い。
そこにいるのにもかかわらず、たとえ視界にいても見失ってしまいそうな、影そのものの如く。音もなく移動するその姿は暗殺者を彷彿とさせる。
「っし、優香の所属グループって『キュリオシスターズ』、だよな? 寺上カンパニーとかいう会社のグループのはず。向かうぞ、相棒」
『はいよ。今回は本職のほうでいいのか?』
「いや、半分は本職だが……まあ、お話だよ。得意だろ?」
俺が脳内で、相棒に言う。
そう、殺髏は隠密行動や暗殺に向いた仲間であり、そのポーカーフェイスを活かして何度も誤魔化しの際【憑依】させてもらった、俺の“相棒”だ。
殺髏は唯一、【憑依】させても見た目が変化しない。こっそり憑依させておくにはぴったりの仲間である。
まぁ、無口すぎるせいで会話を極度に省略しようとしてしまい、それが原因でばれることはあるかもしれないが……
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そうして、俺は寺上カンパニーへと向かった。
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