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三章 “夜降る宵朧”殺髏編

第46話 それぞれの心情

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「ふぅ……」

 私は、携帯を置く。
 いきなり千縁君から電話がかかってきてびっくりした。

(あのバカ……)

 私は恥ずかしくて、思わず顔を覆う。

(海原のやつ……何が恋だ! 意識してしまうじゃないか……!)

 千縁君がダンジョンブレイクを終息させた後から、私は千縁君のことを考えることが増えた。
 大阪探索者四校対抗戦も見た。例の白髪の悪鬼の姿も再確認した。

(【憑依】か……それに、“悪童”も同じスキルを持っている……?)

 あの圧倒的な力とオーラを見て、研究意欲が沸いてきたのだ。しかし、そこまでならよかったのだが……なぜだか、千縁君のことを考える度に、気恥ずかしさがする。

 それを海原に聞いてみたところ、「? 恋じゃね?」と、適当に返されたのだ。
 恋っていうのは、心が苦しくなるんじゃないのか? と聞いても、海原は「人によんじゃね? そもそもお前恋したこともないだろ。何で分かってる風装ってんだ」とかぬかしおる。

 グッ……確かに、私は恋愛とは無縁な人生を送ってきたが……

「ああ! まさか16かそこらの少年に……そんなわけないだろ!」

 私は大学の退屈な日々に飽き、入学後すぐに退学したが、もし行っていたら今頃22歳……だから卒業していたはずだ。つまり、どのみち立派な社会人。
 千縁君とは6年も離れてるんだぞ!?

(ああ……どうしたらいいんだ……)

 いつもは堂々としたthe・研究家である日月一絺だが、アウェイには異様なまでに弱い。
 大学でも、その才能を妬まれ、陰口を言われていたことに気づいてやめたのだ。

 一絺は、初めて感じる感情に、非常に頭を悩ませるのだった。


~~~~~


 その後も。
 毎日朝6時に悠大とダンジョンに潜り、昼ご飯と休憩を挟んで20時までパワーレベリングをする。

 俺たちはひたすら、それを繰り返していた。

 そして三日後。
 ピロンッ! と俺のスマホが鳴る。

「んあ?」
 
 どうせまた蓮か美穂だろ……と、俺はL〇NEを開いて……

『飛彩優香:一件』

「!!!!」

 優香からだ!
 この三日間、全く音沙汰がなかったから、どうなったのかが心配だ。
 まず、何を助けてほしいのか、どういう状況なのか……

 俺は、緊張したまま、優香のメッセージを開く。

『カフェいこ』20:59

「は?」

 カフェいこ……て、助けてとか言ってたのはどうしたんだ??

『まあ、いいけどいつ?』21:00既読
『あした』21:00
『どこ?』21:00既読
『大舎駅前《いつものとこ》』21:00
『わかった』21:01

「なんなんだ……?」

 話を聞いてほしいってことなのか?
 なんか、三日目前にはかなり切羽詰まってそうだったからもっと深刻な何かが発生したのかと思ったが……

「……いや。絶対に深刻な事なのは間違いない。優香が直接助けを求めたのは初めてだった」

 いつもならなんでもないと言ったり、察してほしいというような態度をとったりしていた優香のことだ。
 それがいきなり「助けて」……だと?

(なんにせよ、明日にはわかるはずだ)

 俺は悠大に、をする。
 そして、単語でしか話さなくなった優香と時間を決め、俺は思考を張り巡らせた。


~~~~~


「……」

 私は、暗い自室でスマホを握りしめた。
 部屋には、自分の歌っているところや踊っているところが撮られた写真が飾ってある。

「……いや」

 そんなに知名度のある番組じゃなかった。
 まだまだ新人の域を出なかった。
 でも、それはデビューしていない人たち……親友にとっては、とても輝かしく見えたんだ。

 私が親友の陽菜ちゃんと、お互いの親と映画を見に行った帰り、あるぽっちゃりとした男性が名刺を取り出しながら、私たちの親に接近した。

『ご両親方、ちょっといいですか? 私はこういうものでして……』

 男の名刺には、探索者時代を生き抜いた、アイドルグループを有する寺上カンパニーの文字が。

『え!? これって……』

『はい。、うちに来てみませんか? こういうことをするのは初めてなのですが……素晴らしい可能性を見いだせましてね』

 その言葉に反応したのは、陽菜ちゃんだった。

『ほ、ほんとうですか!?』

『……! ええ。一緒にどうですか?』

『すごい! 優香ちゃん、一緒にやろうよ!』

 私はわかっていた。男の視線が最初から私と私の両親にばかり向いているのに。
 しかし、先に勘違いして反応した陽菜ちゃんと、陽菜ちゃんがアイドルを夢見てることを知っていた私の顔を見て、男は一瞬にして察したのだ。

 陽菜ちゃんを無駄に落胆させないよう、言葉を選んで私にも誘いを送る。
 どうみても親密な仲である陽菜ちゃんに誘われれば、私も断らないはずだと思ってのことだ。
 しかし、当時の私には、そんなことわかる由もなかった。

『優香! スカウトなんてすごいわよ!? やってみない!?』

『そうだぞ! 無理にとは言わないが、せっかくのまたとないチャンスだしやってみたらどうだ!?』

『お母さんたちが言うなら……じゃあ……』

 両親と陽菜ちゃんに後押しされた私は、正直言ってあまり興味がなかったものの、勧誘を承諾した。
 横を見れば、陽菜ちゃんの親も同じように喜んで、涙を流しながら陽菜ちゃんのことを後押ししていた。

 そうして、私たちは中学卒業直後に、アイドルグループの候補生に選ばれたのだ。

 
──それで終わったならよかった。


 最初は私も全力で頑張った。スカウトがとても珍しいことであるのは分かっていたから、せっかくのチャンスで両親をガッカリさせたくたくなかった。
 
 探索者関連のことばかりが報道され、視聴者を獲得し、数多の既存番組が潰れてきた中、唯一“大激変”前から人気を落とさず、生き残ったアイドルグループである『キュリオシスターズ』。
 そんな会社の社長とだけあって、あの男が見込んだ通りの才能が私にはあった。

 すぐにダンスも覚え、中学卒業後すぐから入部した私は、高校一年の一学期半ばにはデビューを遂げていた。

 達成感もあったし、数少ないながらもファンがいて、親もものすごく喜んだ。
 しかし、アイドルを本気で目指し、昔から私にそのことを語っていた陽菜ちゃんはそれを見て良くは思わなかったのだ。

 陽菜ちゃんはある日、“夢を奪われた”と言って、私にもう友達じゃないと告げた。

 その時の衝撃を、今でも鮮明に覚えている。

 そんなつもりはなかったのに……
 しかし、何と言ってももう陽菜ちゃんは聞いてくれなかった。

 それから、アイドルなんてやっている意味が分からなくなった。

 陽菜ちゃんに縁を切られて……そうまでして私がやりたいことって、なんだろう?

「……もう嫌だ」

 私が辞めたいと言っても、母は猛反対し、父ももったいないと叱る始末。
 更には、社長が私のためにあの子も入れてやったんだから、君が辞めるならあの子陽菜ちゃんにもやめてもらうと言う。

「もう、嫌なのに……」

 更に、ちよ君が日本で最も視聴率の高い、最も人気のイベントである大阪四校学園対抗祭で優勝した。
 今年はただでさえ“神童”や“悪童”のいる中、それらを圧倒、前代未聞の下克上を遂げた“革命児”。
 それを知った社長は、私が知り合いなのを知って、私にちよ君を誘惑するように命令する。

 でも、私はそんなことしたくない。

 私はそんなことはせずに……純粋にちよ君と仲良くなりたかった。

 でも、拒否する私に社長は怒り狂い、陽菜ちゃんのことも脅しながら私に許容範囲外の出演を強制してきた。

 アイドルなんてやりたいわけじゃないのに……
 もし、あの時にまた戻れたら……

 自分でも気づかないうちに、涙が白のシーツを濡らす。



「──もう、だれか助けてよ!!」
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