千変万化の最強王〜底辺探索者だった俺は自宅にできたダンジョンで世界最強になって無双する〜

星影 迅

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三章 “夜降る宵朧”殺髏編

第44話 悠大の願い

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「……なに?」

 俺は朝目を覚まし、スマホを確認する。
 そこには、優香からの返信が。

『助けて』21:22

(一体……何があったんだ!?)

『どうした!?』06:31

 朝だからか、既読はつかない。

(確か、最初の頃……)

 俺は、優香と初めてあった頃を思い出す。


~~~~~


『友達と一緒にいる時に事務所の所長に勧誘されたんだけど……友達が凄く喜んで入っちゃって、私の親も後押しするから、なんとなくで入っちゃったの』

『へぇ~……で、なんで辞めたくなったんだ?』

『…………友達と一緒に入ったけど、私だけ、たまたま予想外にすぐ売れちゃって……友達には嫉妬されて……話さなくなって……』

『……』

『私は、陽菜ちゃんとの仲を捨ててまでアイドルなんてやりたくなかった! でも、陽菜ちゃんはアイドルになれたって喜んでたし、辞めたくないって言ってたの! 私の事情でこれ以上陽菜ちゃんを困らせたくない!』

『そんな……』

『でも、私だけ辞めるって言っても聞いて貰えなかった! それに、私の親も猛反対するし……私が出しゃばったから……』

『……そうか』


~~~~~


(いや……! 優香が悪いんじゃない!)

 そもそも、優香が悩むべきじゃないんだ。
 最初から、優香は被害者だった。

「文句くらい聞いてやるって言ったけど……あぁ……ほっとけないよな」

 だけど、今すぐにはどうこうできない。

「とりあえず、今は優香の連絡を待とう」

 そうとなれば、どうする?

 一絺さんは例のチビボス(?)を調べるためにしばらく研究室にこもると言っていた。
 美穂と蓮あいつらとダンジョンにでも行ったっていいが……

ピロン!

「!!」

 俺が考えていると、丁度よくL〇NEの通知音が鳴る。

(優香か!?)

 そう考えてスマホを取り、思い直す。
 優香は朝に弱い。
 こんな時間に起きてるのは……探索者だ。

「……え? 悠大?」

 てっきり二人からの連絡かと思ったら、そこに書かれた名前は『岩田悠大』だった。

『ちよ、今すぐ時間あるか? なるべく早く会いたい。本当にすまない』06:45

『え、いいぞ? どうした? お前も何かあったのか??』06:46既読

『お前も?』06:46
『いや、とりあえず会って話したい。忙しいのは分かってるんだが……緊急なんだ。頼む!!!!』06:46

 スタンプが一切押されていない。
 悠大は普段、結構スタンプを使うんだが、普段なら送っているタイミングで一切スタンプが無いとなると、恐らく本当に深刻な問題が発生している可能性がある。気のせいかもしれないが。

(ったく、なんでこんな急に問題が!?)

 優香といい、悠大といい、急に何があったんだ?
 突然急変する事態に、流石の俺も困惑を隠せない。

「とりあえず、ゴブスラダンジョン前で待ち合わせか」

 俺は動きやすい服装に着替えて、ダンジョンへと向かった。


~~~~~


「はぁ、はぁ、ち、ちよ……」

「!! 悠大!!」

 俺が30分ほど待っていると、走って来たのか息切れした悠大が現れた。

「どうしたんだ!? 何かあったのか!?」

「あ、ああ。実はな……」

 悠大は、昨晩の電話のことを説明する。

「お前の母さんが……それで悠大は探索者になろうと思ったのか……」

 まさか、そんな理由があったなんて……

「ああ……隠してて悪い。大学に行く時間も金もなかったし、中級探索者以上になる必要がどうしてもあったんだ。でももう、時間がない」

「ああ……もう持って一月なんだって?」

 病院の先生が言うには、悠大の母はもう一か月持たないかもしれないらしい。
 どうやら、過労による体調不良に無理に働いたことによる病気も合わさって、相当こじらせたという。
 更に、追い打ちをかけるかの如く“魔障症”が発症し、もはや薬では治せないほどに病気が渋滞しているそうだ。

 “魔障症”とは、大激変以降に発見された、魔力と深い関係にある病気のことで、魔力に対するアレルギー反応を引き起こす、生まれながらの障害である。
 探索者も、一般の人々でさえも魔力に深く関わっているこの世界で、魔力に対するアレルギー体質だというのは、すなわちこの探索者社会に淘汰されたことに他ならない。

(様々な病気をこじらせたせいで通常の薬じゃどれも効き目がない……挙句の果てに魔障症……)

 魔障症の人間は、基本的に何をしても治らない。
 唯一治せる……魔力に体をなじませることができるのは、魔道具……ポーションを飲むことだ。
 魔道具の一つである、ポーションと呼ばれる治療薬。
 それは探索者の怪我を治したり、病気をも飲むだけで治せてしまうのだ。

(しかし、ポーションは“専門外”なんだよな……せめてアイテムボックスならなんとかんだが……)

 しかしポーションは下級のもので50万ほどする。
 病気を治せるのは中級以上のものだけだ。

「中級なら200万……」

「あ、いや、先生がなんか病院の名義で150万で買えるって」

「え? まじ?」

 探索者の需要が最も高いポーションだが、当然医療従事者にも人気は高い。
 かけるだけで安全に治療が出来るからな。
 だから病院でも確保するために優先権が月に一度もらえるのだが……そうだとしても、悠大の母親にちゃんと使ってもらえるのか?

「それにしても、そんなに安くなるもんか? いくらなんでもそんなに差が出るわけ……」

「いやまぁ、俺もそう思ったんだけどよ? それが探索者協会の闇ってやつよ」

 魔道具類のオークションは全て探索者協会が管理している。
 探索者の需要が高いのは確かだが、いくらなんでもぼったくりじゃねぇか?

「じゃあ、150万持ってこようか? 別に返さなくていいぞ」

「いやいや! そういうわけじゃねえから! これ以上ちよに迷惑はかけれない!」

 悠大は違う違うと両手を振る。

「でも、マジで時間ないんだろ? 母親、助けるんだよな?」

「でも、金の貸し借りは人間関係を破滅させる……そうなりたくないんだよ!」

「そ、そうか」

 実際、そんなに余裕があるわけではないけど、悠大になら、150万くらいあげても構わないと思う。
 悠大がいなければ俺は、探索者を続けられてなかったはずだしな。

「母さんは俺と妹が幼い頃に死んだ父さんの代わりに、毎日働き続けて……そのせいで倒れたんだ」

「そうか……で、じゃあ俺は何すればいいんだ?」

 悠大が、ガバッと頭を下げた。

「頼む! どんなにきつくてもいい! 俺を今すぐ鍛えてくれないか!?」

「え、いや……それはいいが」

「……! ありがとう!!」

 なんだ、そんなことか?
 思ったより簡単な願いだった。

 しかし、簡単なのは悠大の要求であって状況じゃない。

 とにかく、悠大の母親を治すのは急がなくちゃならない。

(どう考えても俺が出した方が早いと思うんだが……)

 俺は頭を悩ませながらも、悠大を連れてダンジョンに向かった。
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