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二章 “憐れみ掠する地獄の王”悪鬼編

第43話 巻き起こる異変

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──時刻は19:30分。
 一般ピープルにとっては、いわゆるテレビを見る時間……ゴールデンタイムだ。

(はぁ……一体なんだったんだ、あのモンスターは……)

 結局あの後、一絺さんは情報を探ると言って研究室にこもった。
 しばらくはやっぱり来なくて良いぞとのこと。

「あ……そういえば最近、優香から連絡無くないか?」

 俺は帰ってきてから、気を紛らわすためにテレビをつけ、思い出す。

(学園対抗祭に出てたことは知ってるだろうし、見てたとも思うんだけど……てっきりお祝いL〇NEくらいは送ってくれると思ってたな……)

 まぁ、思い上がりってやつだったんだろうか。
 ……あ。
 そういえば今日のこの時間って……

「どうも~皆さんこんにちは、司会の熊田銀次郎です! 今日も新鮮な観光名所巡りの光景をお送りいたしまーす!」

「今日のこの時間、優香が出るって言ってたけど……」

 記憶力が跳ね上がっている俺は、一月ほど前に優香が言っていた言葉を思い出すことに成功し、なんとはなしに見てみることにした。

「さて、今日行くところは~! 最近流行りの探索者の国、シンガポールです!」

「おぉ、シンガポール」

 シンガポールは、ボス以外が出現しないゴールドダンジョンを見つけ、大量の魔道具によって一気に大国へと躍り出た国だ。
 当然、探索者人気が年々挙がっているこのご時世において、最もホットな観光スポットである。

「今日のメンバーは~?」

 次々とメンバーの男性女性が発表されていく。そして……

「そして、最近有名な超若手アイドル、飛彩優香さん!」

「……優香?」

 思わず、目を見開いた。

 紹介された優香は、水着姿だったから。

「今日は最近話題のナイトプールに行ってみました~!」

「「イェーイ!」」

「……」

 どうやらプール撮影だったようだ。
 他の人たちも水着なのだが、何か違和感が……

(なんか、恥ずかしがってる……?)

 番組に出演してる以上、水着ロケと分かってて来てるはずだが……
 どうみても、異様に恥ずかしがっている……いや、嫌がっているのか??

 優香はとにかく、顔に出やすい。
 これは明らかに嫌々、といった風だ。

 結局、優香は余り喋らずにカメラから消えてしまう。

(なにか……あったのか?)

 とりあえず、俺はこちらから連絡してみることにした。
 実際、初めて歌以外の番組で優香の出演を見たので、バラエティ番組ではいつもの事なのかもしれないが……

 いや、待てよ?
 優香はソロ歌手のアイドルだよな?
 それがいきなりバラエティ……か?

 そもそも、歌番組以外の出演予定はなかった気がする。
 この時間も、本来ライブ番組だったはずだが……

『優香、今日のテレビ出てた?』19:44既読
『なんか、凄いらしくなかったけど……』19:44既読

 既読がつくも、何分待っても返信が来ない。

(あれ……? そんなことあったっけ?)

『もしかして何かあった? 大丈夫?』20:10既読

…………
…………


『助けて』21:22



~~~~~


「え!? 母が危篤!?」

 夜中に来た病院からの電話。

「はい……はい、治療費の方はどのくらい……? やはり100万のポーションが必要ですか……それでも延命なんですか? なるほど、1年は伸ばせると……はい、分かりました、すぐ向かいます」

 俺は電話を切る。

「くそっ……! 時間がない!」

 俺の家庭は、数年前から俺と妹しかいない。
 父は俺が小学生の頃に亡くなり、母は働き詰める余り体調を崩してしまった。

 それでも幼い俺と妹のために無理をして働き続けた母は、遂に倒れてしまったのだ。

 病気を拗らせて入院となってしまい、どこに行っても100万程の治療費がかかるらしい。

 まだ探索者学校に入学したところだというのに、もう時間がない……!

 貯金なんてないし、今のままじゃ中級探索者にもなれない……!

(なにか……売れるものとか……!)

 ……!
 俺は、玄関にあるベルトに目が留まる。

 アリゲータベルト……800万を越えるほどの高値で売られていた魔道具で、俺の【探索】スキルを補助する効果を持つ魔道具だ。

 魔道具は、中古でも値段がほぼほぼ変わらない。
 これを売れば間違いなく、治療費になるだろう。
 なんならこの家より高いかもしれない。

(いや……これは千縁から貰ったものだ。売ったりなんか絶対に出来ない!)

 俺は、頭の中に浮かんだ悪しき考えを振り払う。

「なにか……なにか方法は……!」

 俺は、隣ですやすやと熟睡する妹を横目に、頭を悩ませるだった。
















​───────​───────​───

これにて二章“憐れみ掠する地獄の王”悪鬼編は完結です!!
ここまでご覧頂きありがとうございました!
続きましては、第三章“夜降よくだ宵朧しょうろう殺髏せつろ編が始まります!!
お楽しみに!!!!
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