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二章 “憐れみ掠する地獄の王”悪鬼編
第40話 新たなる出立
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「よぉ、ちよ!」
「……千縁、遅い」
「よお! いや、まだ時間5分前だからな!?」
翌日。
俺と鬼塚、神崎の三人はいつもの場所に集まっていた。
「流石に今日は逃さねぇぞ~?」
「……早く行こう」
「うぇ、ちょっ、待てよ! てか、今日はどうすんだ?」
俺の言葉に、二人は顔を見合わせる。
二人とも考えなしかよ……
「てか、ちよの目的はなんなんだ? なんか東城莉緒? ってやつのために学園対抗祭で優勝したってのは記事で読んだんだが……色男さんよお?」
「え、それ記事とかになってんの!?」
「うん」
恥ずかしい……ま、まあでも! そこまで広まってるなら会えないなんてことはないだろう。
(てか……確かに、目標か……)
有名になって、莉緒に俺が約束を果たしたことは伝えられた。
俺の最大の“目的”は、もう叶ったわけだ。
「俺は……」
俺は、あの日見た夢を思い出す。
『──は──だ』
「「!!」」
千縁の瞳が、一瞬、黄金に輝いた。
「俺は……王になる」
「……何?」
思わず鬼塚は聞き返す。
そこで、俺はハッとした。
(なんだ……今俺、【憑依】使ってないよな……?)
一瞬だけ、意識が【憑依】使用中のようにフワッとしたのだ。
まるで自分の人格が、裏に回ったような、あの感覚。
二人の前でボロを出さないためにも、“相棒”を【憑依】させておくことは多々あったが、今は使ってないはず……
(まあいいや。昨日の連続発動で疲れただけか)
俺は誤魔化すように、見つけた次の目標を告ぐ。
「そうだ。俺は……“王級探索者”になる」
「!!!!」「王級……」
二人は俺の言葉に、目を見開いた。
王級探索者……世界に五人の、“超越者”達だ。
彼らは全員、桁が外れた力を持っており、それぞれが個人で国を為すことを認められている。
……というより、誰も彼らに反対などできないのだ。
現在、彼らは全員、各々が探索者のための国を持っている。
「ちよは……王様になりたいのか?」
蓮が、戸惑いつつ聞いてきた。
「いや……そういうわけじゃないけど」
「じゃあ……なんで?」
ジッ、と美穂が見つめてくる……
少したじろぎながらも、俺は正直に答えた。
「だって……力がなければ、誰も意見なんて聞かないんだ」
「「……っ!」」
「……それより! お前ら毎日呼んでくるけど、用事とかないのかよ!?」
「ねぇよ! ってか、今うちはそれどころじゃねぇし……」
「……ない。取材なんかよりこっちのが大事」
おい!
予定断って来てんじゃねぇかよ!!
「って、え? それどころじゃないって……」
「ああ、それはな……」
蓮が、少し気まずそうに唸る。
「今、元第二学園空中分解っつうか……まあ、荒れてんだわ」
「「え?」」
“悪童”鬼塚蓮が、ため息をつきながらそう言ったのだった。
~~~~~
「やっ!!」
「ラア!!」
「……」
とりあえずのメギドだったが、俺たちは物足りなさを感じていた。
今戦ってる美穂と蓮は、それぞれ最大攻略層が36と34だった。
当然それ以上下に行くとソロで戦うのは不可能ということだ。
パーティだからといって、まだまだ互いに連携は取れてない。そのため今はあまり深くに行かないようにしよう、と34階層に潜っている。
「【貫通】!!」
「【地獄鎖】!!」
黄金の人狼と化した美穂と、鬼童丸を憑依させた蓮が同時に攻撃を繰り出し、全身に高熱を帯びたゴーレム……ヘルゴーレムは砕け散った。
「……ぁっちぃ!」
「……」
34階層レベルだと、二人も流石にスキルを解放するらしいな。
……いや、蓮は別に隠してなかったわけだけど。
「ふう……てか、ちよも戦えよ!」
「王級、なるんじゃないの? 魔力値」
「ああ~まあ、そうなんだけど……」
正直、王級のなり方がわからない。
極級と王級には明確な区分がなく、テストでどうこうというものではないからだ。
(確か日本唯一の極級探索者、天星祐也は政府から直接指名されたんだったよな……)
王級になるために必要なものか……わからんな。
「……ちょっと、別のダンジョンにも行ってみるしかないか」
──植物ダンジョン52階層
「【劫源煥掠】!」
地獄の業火が敵を焼き尽くす。
「ギョエエエキョピイイィィ!!」
「うわっ……悲惨な……ってか、火の魔法使えたのかよ!?」
植物型モンスターたちは見るも無残な焦げ跡と化した。
~~~~~
──廃街砂漠ダンジョン21階層
「うおおおお!? 蟻地獄かああああ!?!?」
「……蟻地獄の牙20本が依頼。突っ込むしかない」
「うっそだろおい!?」
~~~~~
──ゴブリンアンドスライムダンジョン40階層
「おい! ちゃんと合わせろよ!」
「……そっちが遅い。むしろ私に合わせられるよう努力すべき」
「なにぃ……!」
「おい、さっさと来い!」
~~~~~
(……………………)
俺たちは放課後、連日依頼を受けては、様々なダンジョンに潜ってきた。
その理由は、当然金を稼ぎながら実力を上げるため。
二人は依頼なんかに縛られず狩りをしたいとずっと言ってるが、俺は今とにかく金がいるので強行する。
いや普通に俺の生活やばいからな!?
一度売った素材で金を稼いだが、悠大にあげたアリゲーターベルトでほぼ使い果たして、今はご飯を買うので精一杯だ。
部屋なんてない6畳ほどのアパートに、蜘蛛の巣壁穴なんでもあり!
「……終わってる」
「「??」」
そりゃ、できるもんなら引っ越したいですよねって。
まあ、探索者が金を稼ぐための一番の行動は依頼を受けることだ。
依頼は普通、生産系スキル持ちの人を起点に出される。
生産系スキル持ちは貴重だ。そのため国で保護され雇われていることが多く、依頼自体は国が出しているのだ。
実は、生産スキルによって特殊武具……魔道具とは違う、魔法器というものを作ることができる。
それはいずれも、美穂の大剣であったり、蓮の戟であったり……ダンジョンの素材を使った強力な武器である。
確か、日本にも数人はいた。
需要に応じて、彼らが武器を作り、素材自体は探索者に集めさせ、給料は国が払う……一種のサイクルだ。
(生産系スキル持ちがいなければ依頼は発生しないんだよな……)
「というか、数人しかいない生産系の人たちが俺たち皆の武器を作るって、協会に出てる依頼の量からしても超超超超超ブラックだな」
「急に何言ってんだ?」
「……意味不明」
「あ、いや……その、独り言だ」
(あっぶねー、声に出てたのか。なにぶん、【憑依】による脳内会話が常識になってたからついつい喋っちまうことがあるんだよな……)
門の中では、周りに人間は俺しかいなかったし、気にする必要もないから声に出して会話していたんだが……癖って怖いね。
「で、今日もまーた依頼かあ? 今日は指名依頼とかなんとか……」
「そうそう! 今日は俺の初指名依頼なんだよ!」
俺たちが最近、ニュースにも取り上げられるようになって、依頼を高速で消化してることからかついに、今日指名依頼が入ったのだ。
指名依頼とは、言葉の通り誰かが特定の探索者に対して依頼を検討することだ。
実は、有名な探索者だと指名依頼の方が通常依頼よりも多い。
指名依頼と一口に言っても、一緒に遊んで欲しいとか子供が一目会いたがっているとかがほとんどだからな。
当然、断られる方が多いが。
「でもよ、誰からだ? 正直ちよならしょっちゅう“一目見たい勢”が沸きまくってそうだが、今まで一回もなかったってことは何かブロックがかかってんだよな?」
喜ぶ俺に、蓮が疑問を投げかける。
「え……お前、そんな賢かったっけ?」
「……意外」
「まじでぶっ殺すぞお前ら!?!?」
だっておま、“悪童”らしくいつも一番にモンスターに突っ込んでんじゃん。
知らない人に戦闘狂って言われても否定できんで? まあ“悪童”知らん探索者はほぼいないと思うけど……
「……で、誰からなの?」
「あ、ああー、えっとな……」
呆れた声で美穂に急かされる。
強烈なジト目が気まずくて、俺は急いで受付に依頼人を確認しに行った。
「えと……あぁ!?」
「どうした??」
「……?」
俺は依頼人の名前を見て、思わずアッと声を上げる。
「……日月……一絺?」
そこに書かれていたのは、一絺さんの名前だったからだ。
=====
依頼人:日月一絺
報酬金:内容に比例
依頼内容:大阪府〇〇市××町△△ー▲▲▲に来て欲しい
=====
────────────────────
因みになんですけど、深度Ⅰの【憑依】の際には千縁が【憑依】を言いません。
【憑依】─〇〇!で深度Ⅱの発動合図です。
「……千縁、遅い」
「よお! いや、まだ時間5分前だからな!?」
翌日。
俺と鬼塚、神崎の三人はいつもの場所に集まっていた。
「流石に今日は逃さねぇぞ~?」
「……早く行こう」
「うぇ、ちょっ、待てよ! てか、今日はどうすんだ?」
俺の言葉に、二人は顔を見合わせる。
二人とも考えなしかよ……
「てか、ちよの目的はなんなんだ? なんか東城莉緒? ってやつのために学園対抗祭で優勝したってのは記事で読んだんだが……色男さんよお?」
「え、それ記事とかになってんの!?」
「うん」
恥ずかしい……ま、まあでも! そこまで広まってるなら会えないなんてことはないだろう。
(てか……確かに、目標か……)
有名になって、莉緒に俺が約束を果たしたことは伝えられた。
俺の最大の“目的”は、もう叶ったわけだ。
「俺は……」
俺は、あの日見た夢を思い出す。
『──は──だ』
「「!!」」
千縁の瞳が、一瞬、黄金に輝いた。
「俺は……王になる」
「……何?」
思わず鬼塚は聞き返す。
そこで、俺はハッとした。
(なんだ……今俺、【憑依】使ってないよな……?)
一瞬だけ、意識が【憑依】使用中のようにフワッとしたのだ。
まるで自分の人格が、裏に回ったような、あの感覚。
二人の前でボロを出さないためにも、“相棒”を【憑依】させておくことは多々あったが、今は使ってないはず……
(まあいいや。昨日の連続発動で疲れただけか)
俺は誤魔化すように、見つけた次の目標を告ぐ。
「そうだ。俺は……“王級探索者”になる」
「!!!!」「王級……」
二人は俺の言葉に、目を見開いた。
王級探索者……世界に五人の、“超越者”達だ。
彼らは全員、桁が外れた力を持っており、それぞれが個人で国を為すことを認められている。
……というより、誰も彼らに反対などできないのだ。
現在、彼らは全員、各々が探索者のための国を持っている。
「ちよは……王様になりたいのか?」
蓮が、戸惑いつつ聞いてきた。
「いや……そういうわけじゃないけど」
「じゃあ……なんで?」
ジッ、と美穂が見つめてくる……
少したじろぎながらも、俺は正直に答えた。
「だって……力がなければ、誰も意見なんて聞かないんだ」
「「……っ!」」
「……それより! お前ら毎日呼んでくるけど、用事とかないのかよ!?」
「ねぇよ! ってか、今うちはそれどころじゃねぇし……」
「……ない。取材なんかよりこっちのが大事」
おい!
予定断って来てんじゃねぇかよ!!
「って、え? それどころじゃないって……」
「ああ、それはな……」
蓮が、少し気まずそうに唸る。
「今、元第二学園空中分解っつうか……まあ、荒れてんだわ」
「「え?」」
“悪童”鬼塚蓮が、ため息をつきながらそう言ったのだった。
~~~~~
「やっ!!」
「ラア!!」
「……」
とりあえずのメギドだったが、俺たちは物足りなさを感じていた。
今戦ってる美穂と蓮は、それぞれ最大攻略層が36と34だった。
当然それ以上下に行くとソロで戦うのは不可能ということだ。
パーティだからといって、まだまだ互いに連携は取れてない。そのため今はあまり深くに行かないようにしよう、と34階層に潜っている。
「【貫通】!!」
「【地獄鎖】!!」
黄金の人狼と化した美穂と、鬼童丸を憑依させた蓮が同時に攻撃を繰り出し、全身に高熱を帯びたゴーレム……ヘルゴーレムは砕け散った。
「……ぁっちぃ!」
「……」
34階層レベルだと、二人も流石にスキルを解放するらしいな。
……いや、蓮は別に隠してなかったわけだけど。
「ふう……てか、ちよも戦えよ!」
「王級、なるんじゃないの? 魔力値」
「ああ~まあ、そうなんだけど……」
正直、王級のなり方がわからない。
極級と王級には明確な区分がなく、テストでどうこうというものではないからだ。
(確か日本唯一の極級探索者、天星祐也は政府から直接指名されたんだったよな……)
王級になるために必要なものか……わからんな。
「……ちょっと、別のダンジョンにも行ってみるしかないか」
──植物ダンジョン52階層
「【劫源煥掠】!」
地獄の業火が敵を焼き尽くす。
「ギョエエエキョピイイィィ!!」
「うわっ……悲惨な……ってか、火の魔法使えたのかよ!?」
植物型モンスターたちは見るも無残な焦げ跡と化した。
~~~~~
──廃街砂漠ダンジョン21階層
「うおおおお!? 蟻地獄かああああ!?!?」
「……蟻地獄の牙20本が依頼。突っ込むしかない」
「うっそだろおい!?」
~~~~~
──ゴブリンアンドスライムダンジョン40階層
「おい! ちゃんと合わせろよ!」
「……そっちが遅い。むしろ私に合わせられるよう努力すべき」
「なにぃ……!」
「おい、さっさと来い!」
~~~~~
(……………………)
俺たちは放課後、連日依頼を受けては、様々なダンジョンに潜ってきた。
その理由は、当然金を稼ぎながら実力を上げるため。
二人は依頼なんかに縛られず狩りをしたいとずっと言ってるが、俺は今とにかく金がいるので強行する。
いや普通に俺の生活やばいからな!?
一度売った素材で金を稼いだが、悠大にあげたアリゲーターベルトでほぼ使い果たして、今はご飯を買うので精一杯だ。
部屋なんてない6畳ほどのアパートに、蜘蛛の巣壁穴なんでもあり!
「……終わってる」
「「??」」
そりゃ、できるもんなら引っ越したいですよねって。
まあ、探索者が金を稼ぐための一番の行動は依頼を受けることだ。
依頼は普通、生産系スキル持ちの人を起点に出される。
生産系スキル持ちは貴重だ。そのため国で保護され雇われていることが多く、依頼自体は国が出しているのだ。
実は、生産スキルによって特殊武具……魔道具とは違う、魔法器というものを作ることができる。
それはいずれも、美穂の大剣であったり、蓮の戟であったり……ダンジョンの素材を使った強力な武器である。
確か、日本にも数人はいた。
需要に応じて、彼らが武器を作り、素材自体は探索者に集めさせ、給料は国が払う……一種のサイクルだ。
(生産系スキル持ちがいなければ依頼は発生しないんだよな……)
「というか、数人しかいない生産系の人たちが俺たち皆の武器を作るって、協会に出てる依頼の量からしても超超超超超ブラックだな」
「急に何言ってんだ?」
「……意味不明」
「あ、いや……その、独り言だ」
(あっぶねー、声に出てたのか。なにぶん、【憑依】による脳内会話が常識になってたからついつい喋っちまうことがあるんだよな……)
門の中では、周りに人間は俺しかいなかったし、気にする必要もないから声に出して会話していたんだが……癖って怖いね。
「で、今日もまーた依頼かあ? 今日は指名依頼とかなんとか……」
「そうそう! 今日は俺の初指名依頼なんだよ!」
俺たちが最近、ニュースにも取り上げられるようになって、依頼を高速で消化してることからかついに、今日指名依頼が入ったのだ。
指名依頼とは、言葉の通り誰かが特定の探索者に対して依頼を検討することだ。
実は、有名な探索者だと指名依頼の方が通常依頼よりも多い。
指名依頼と一口に言っても、一緒に遊んで欲しいとか子供が一目会いたがっているとかがほとんどだからな。
当然、断られる方が多いが。
「でもよ、誰からだ? 正直ちよならしょっちゅう“一目見たい勢”が沸きまくってそうだが、今まで一回もなかったってことは何かブロックがかかってんだよな?」
喜ぶ俺に、蓮が疑問を投げかける。
「え……お前、そんな賢かったっけ?」
「……意外」
「まじでぶっ殺すぞお前ら!?!?」
だっておま、“悪童”らしくいつも一番にモンスターに突っ込んでんじゃん。
知らない人に戦闘狂って言われても否定できんで? まあ“悪童”知らん探索者はほぼいないと思うけど……
「……で、誰からなの?」
「あ、ああー、えっとな……」
呆れた声で美穂に急かされる。
強烈なジト目が気まずくて、俺は急いで受付に依頼人を確認しに行った。
「えと……あぁ!?」
「どうした??」
「……?」
俺は依頼人の名前を見て、思わずアッと声を上げる。
「……日月……一絺?」
そこに書かれていたのは、一絺さんの名前だったからだ。
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依頼人:日月一絺
報酬金:内容に比例
依頼内容:大阪府〇〇市××町△△ー▲▲▲に来て欲しい
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因みになんですけど、深度Ⅰの【憑依】の際には千縁が【憑依】を言いません。
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