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二章 “憐れみ掠する地獄の王”悪鬼編

第37話 逃亡劇

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「ヴオオオオオオオオ!!!!」

「なっ──ガハッ!!」

「!! ち、千縁君!」

 おびただしい量の血が吹き出したかと思えば、瓦礫の中からが飛び出す。
 は、千縁の体を薙ぎ払って吹き飛ばすと、そのままの勢いでボス部屋の壁までをも崩壊させた。

 ドガアアアアアアアアン!!!!

「ひゃ、ひゃあああああ!!」

「っ! 一絺さん! 立って!!」

 飛び出したのは、ボス

 背や肩から突き出していた管が、まるでパイプのように蒸気を吹き出し、目元さえもシャッターのようなものが降りてあやしい光を放っている。

 もはや、生物としての面影はどこにも残ってなかった。

(なんかやけにロボットみたいな見た目だなと思っていたが……!)

 いや、これもスキルの一つなのかもしれない。
 スキルについては未だ何もわかっていないからな。モンスターの使うスキルには特殊なものもたくさんある。

「ほ、本当に特殊なダンジョンだったんだな……これを捉えられれば研究が捗るぞ……ハハハ……」

 確実な“死”の気配からか、一絺さんの声から諦めの色が見える。

「ちょっ、しっかり! 崩れますよ! 逃げましょう!!」

 の言葉に、一絺は乾いた笑みを見せた。

「わ、私はダメだ……どうやらボスのを見誤ってたようだ。私は思ったより、ビビりだったのかもしれないな……はは……一般人の分際でダンジョンに入ろうなんて、私がバカだったんだな」

「一絺さん……」

(いや……一絺さんは悪くない。普通の中級ボスなら、超級を超える俺の力で安全マージンを取ったまま撮影もできたはずだった!)

 しっかりと計算されて出来た企画、計画書。
 かなり高い、生産系スキルで作られたスーツも着ていた。

 恐らく、問題なかったはずだ。
 問題行動ではあるが。

 しかし、イレギュラーはダンジョンにとって付き物だ。
 どれだけ確実に練られた作戦でも、イレギュラー一つでパーティが全滅、なんてのはよくあることだ。

「まあ、もう……遅いようだがな……はは」

(俺が躊躇してなかったら……! 最初から崩落を恐れず全力で叩きのめしていれば……いや、そうすれば結局崩落していたのは変わらないのかもしれない)

 クソッ! 考えてもしょうがない。

『千縁! あやつは“無敵”じゃ! 一旦引け!』

「無敵!?!?」

 ボスは依然その体から蒸気を放出し、まるで自我を無くした機械のように咆哮している。
 そんなバカな……超級ダンジョンと言われている、十年前の超級パーティ全滅事件のボスでさえそんなぶっ壊れたゲームのようなスキルはなかったはず……!

(それが、状態異常:無敵だと……?)

わらわの“眼”じゃ! 間違いない! 恐らく、時間付きの制限スキルじゃ!』

「くそ……なんでこんなやつが中級ダンジョンにいるんだよ……!」

 仲間の一人が、脳内で教えてくれる。
 俺の眼と耳が異様にいいのは、こいつの契約者である副作用であるからと言うのもある。その大元からの情報だから、間違い無いだろう。

「ヴオオオオオオオオ!!!!」

 そして考える暇もなく、ボスが高速で動き出した。

「クソ!? お前その見た目でそんな早く動けんのかよ!?」

 要塞のような見た目に反したスピードだ。狭い場所で制限を喰らってたのはこっちだけじゃ無いってことか……!

「一絺さん! 早く立って、走って! 本当に死にますよ!!」

「あ……ああ……!」

 そこでようやく、一絺さんが立ち上がる。

 そうして、俺たちとボスの生死を賭けた鬼ごっこが始まった。



「はぁ、はぁ……!」

「ちょっ、一絺さん、大丈夫ですか!?」

「だい……はぁ、はぁ……あっ」

 現在十階層。
 走り出してまだ100メートルも行ってない。

 俺は一絺さんの手を取って走るが、速攻一絺さんがずっこける。

「え!? すげぇ汗……!? た、立てますか!?」

「は……はぁ、はぁ、はぁ……ぃ」

 躓いたのかと思いきや、どこにも怪我の様子は見えない。

「ヴオオオオオオオ!!」

 そうしているうちにも、走り出したボスはすぐ後ろまで迫る……!

「かひゅー……かひゅー……」

「ちょっ!? 死にかけてないですか!?!? それ死戦期呼吸ですって!」

 まさか50メートルも走ってないのに体力切れか!? 嘘だろおい!?
 クソっ……だが、ここに一絺さんを置いていくわけにはいかない。

「っ……一絺さん、しっかり捕まってくださいね!!」

「ヒュー……ヒュー……?」

 俺は【憑依】を解除し、一絺さんを抱き抱える。
 そして、追いつかれないギリギリの速度で来た道を引き返して行く。

 全力で走れば、風圧やら空気抵抗やらで一絺さんが死んでしまうからだ。

「ひゃ、ひゃああああああ!?」

「舌噛まないように気をつけて!」

「あ、あぃ……」

「ヴオオオオオオ!!!!」

 なんだ……?
 
 最初は意外と速いな、くらいの認識だったのに……なんか速くなってないか?
 
「ひゃあっ!」

 ボスの巨大な鉄腕が、俺たちのすぐ後方の壁に叩きつけられ、轟音と衝撃に一絺さんが短い悲鳴をあげる。

(間違いない……! あいつ、加速してる!)

 最初は一般人でも全力で走れば同速……くらいだった。
 だが、今は数倍以上の速度だ。

「って、うお!?」

「ひゃっ!!」

 そして九階層に上がったその時、目の前に瓦礫が落ちてきて道を塞がれる。
 それは、天井が崩落したことに他ならない。

(なんだ!? そうそう簡単にダンジョンの壁は壊れないはずだぞ……!? それにまだあいつは十階層に……!)

 そこまで考えて振り返り、気づいた。

「……! あいつ……!」

「な、なんか、大きくなってないか!?」

「ヴオオオオオオオ!!!!」

 明らかにおかしい。
 後ろには、未だ十階層に足をつけているボスの頭が、九階層にいる俺たちの頭より高い位置にある。

「速くなったんじゃない……歩幅が変わったんだ!!」

「ヴオオオオオオン!!!!」

「ひゃああああああ!!」

 ボスが腕を振るうたび、上方や後方から崩れゆくダンジョンの瓦礫片が襲い来る。
 それを避けながら、俺は瓦礫の壁を蹴り飛ばして地上へと向かう。

「お、おひっ……お姫様……っ」

「????????」

 なんだこの人? この状況でいきなり意味わからんこと言い出したぞ。

 そうして逃げること30分。

 何時間にも感じられた逃亡劇に、終わりが見えた。

「でっ出口だ!」

「……!」

 一絺さんがそう言うが早いか、ボスがまるで脱出を阻止するがごとく何かを飛ばす。

「!?!?」

「なっ……あ、あれはなんだ!? ち、千縁君!!」

 あれは……ミサイル、か!?

 無機質な筒が二十本。

 無情にも、それらは脱出目前のと一絺に直撃したのだった。
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