千変万化の最強王〜底辺探索者だった俺は自宅にできたダンジョンで世界最強になって無双する〜

星影 迅

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二章 “憐れみ掠する地獄の王”悪鬼編

第36話 異常

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「あっ、来ました?」

「……早かったな」

 一絺さんと別れてからから30分後。
 入り口のあたりで待っていると、一絺さんがやってきた。

 俺がすでに入り口で待っていることに、一絺さんは驚いた表情をする。

「ふっふっ……ちゃんと終わらせておきましたよ」

「よし、それじゃあ……行くぞ。このダンジョンのボスはまだわからないが……用意はいいか?」

「はい!」

「よっし、それじゃあまずは雑魚掃除と行こうじゃないか!」

「あ、いや、終わりましたよ?」

 ビシッ! とダンジョンの入り口を指差した一絺さんがずっこける。

「なん、なんだって?」

「いや、ですからちゃんと終わらせておきましたよって」

 一絺さんが愕然とした顔で俺の顔を見つめてくる。

 ちょっ、何? やめて。あんたが言ったじゃん。
 美人にそんな見つめられたら照れるんだが?

「と、とにかくさっさとボス部屋行きましょう!!」

「本当なら奥まで数時間かかるはず……せっかくおやつも持ってきたのに……」

 何やら呟いている一絺さんを引っ張って、俺はダンジョンへと向かった。


~~~~~


「ほんとに10階層のモンスターを30分で全滅させたのか!?」

『ハッ! あんな雑魚如きが、俺様の相手になるわけがねぇだろ!』

「まぁ……一応超級依頼を受けさせてもらってますんで……」

 俺は一絺さんの言葉を勘違いしていたらしい。
 ボスを捕獲する準備だから、道中の雑魚を全員掃除するのかと思ってたんだけど……

 シンプルに準備運動の意だったらしい。

「ふぁあぁ……」

 一絺さんがグミを頬張りながら欠伸あくびする。
 俺が道中のモンスターを全て倒したことで、もはやダンジョン内はお散歩スポットと化していた。
 たった30分でモンスターが再出現リポップするわけもないしな。

「ところで……千縁君は大阪対抗祭で優勝したのか?」

「え? ああ、はい。見てくれてました?」

「いや……私は普段PCで研究の専用サイトしか見ないからな。テレビもネットも見てなくて、今知ったところだよ」

「そ、そうですか……」

 え、えぇ……まあ、視聴率100%な訳じゃないし、知らない人がいてもおかしくはないんだけど……ネットすら見てないとは。
 トレンドってやつに載ってたから、誰もの目には入ると思ってたんだけど。

「しかし、千縁君がしてくれたおかげで快適だよ!」

「あ、そうですか。よかったです。と言うより、一絺さんはどうして中に?」

 一絺さんがハハハ、と笑う。
 この人マジで楽しそうだな……

「ああ、それはな……ボスモンスターが戦う様子を、カメラに収めたいからさ!」

「……え?」

 一絺さんはそういうと、持っていたリュックサックからカメラを取り出した。

「いや、なんでですか!? 危ないですよ!?」

「これも研究だよ、研究。直接見て、動画に収めることでモンスター、とりわけボスモンスターの行動をする手掛かりとなるだろ?」

「え、えぇ……? そう……ですかね? いやでも、ボス部屋に入りとか無謀過ぎますって!」

 ボス部屋に入ったとしても、ボスを倒さなきゃ撤退できないわけではない。
 それならそもそも生け捕りにして運ぶことすらできないしな。
 しかし、危険なことには変わりない。

「危険を犯さずして結果がついてくるわけがないだろう? 安全に未知を紐解こうなんて……土台無理な話だ!」

「……!」

『自分より格下の魔物じゃ魔力が全然上がらないので、無理もせずに強くなろうなんてのは土台無理な話ですよね』
 
 この言葉が、脳裏に浮かんだ。
 これは、俺の家にダンジョンが出現した時……極級探索者、天星祐也がテレビインタビューで言っていた言葉だ。

(…………)

 なんというかまあ……

「すごい人は、皆同じことを考えるんだな」

「ん? 何か言ったか?」

 やっぱり、想像以上にこの人は凄い研究家なのかもしれないな。
 研究のために、一般人ながらもボス部屋に強行するなんて。
 この人は、大激変研究の一任者になるかもしれない。

(俺がいる以上……ボス部屋に入ったとしても、この人を無傷のままボスを倒して帰してやる!)

「ふぅ、ふぅ。さて……ここがボス部屋かな?」

「はい。この扉を開けるとボスがいる……はずです」

 そうしてお散歩するうち、ボス部屋前の扉にたどり着く。

『……オイ。用心しとけ。なんか、妙な気配を感じるぞ』

「悪鬼?」

「ん?」

 悪鬼が何やら警告する。

『まあ、俺様の力を使うってんなら楽勝だけどなぁ!』

(そうか、よかった)

 中級ダンジョンなのに、悪鬼から警告を聞くとは……
 やはりボスモンスターは、埒外の存在らしい。

「さて……じゃあ人生初のボス、いっちょ捕まえてやりますか!」

「おー!」

 拳を突き上げてノリノリの一絺さんと一緒に、俺は初のボス部屋へと踏み込んだ。


~~~~~


「ウオオオオオオオ!!!!」

「こ、これがダンジョンボス……!」

 たった二十畳ほどしかない部屋の中には、鋼鉄の鬼がいた。

 そう表現する他ない見た目のボスモンスターの背丈は、5メートルほどある天井ギリギリまである。
 全身があやしく光る謎の金属……ダンジョン鉄でできており、ロボットの如く全身には丸みがない。背や肩辺りからは噴出口のようなものが複数飛び出しており、その重圧感と威圧感は相当なものだ。

 ボスの放つ威圧感に、一絺さんがカメラを撮り落として尻餅をつく。

(おい……どうなってる? こいつ……明らかに中級ボスレベルじゃねぇぞ!?)

「グオオオオオオオ!!!!」

「っ! 危ない! 悪鬼──!!」

 即座にが【憑依】を使う。
 後ろで腰を抜かしてしまった一絺さんを庇うように、は三叉槍を構えた。

「ハッ! 【虐殺】!」

 ガキィン!!

「ウオオオオ!?」

 の一撃がボスの腕を塞ぎ、その軌道を逸らす。

「チッ! ……一絺さん、大丈夫ですか!?」

「あ、あぁ……ぅっ……!? ち、千縁君、その姿は……?」

 一絺がを見て、驚きと恐怖の入り混じった声を上げる。

 原因は当然、いつの間にか千縁が白髪に角の生えた見た目に変貌していたからだ。
 しかし、その姿は対抗祭の時と違い、髪も伸びてなければあの時ほど大きな角でも牙でもない。

スキルです! それより、やっぱり危険ですから離れてください!! 明らかに中級レベルじゃ──」

「ウオオオオオオ!!!!」

「クッ……!?」

「千縁君!」

 は一絺に離れるように言うが、その瞬間、ボスが先ほどまでとは一線を画す速度でに腕を薙ぎ払った。
 
 なんとか三叉槍を盾にしてそれを塞ぐも、その質量に押されての体は壁に激突した。

「ぐうぅ……舐めるな!!」

「グオッ!?!?」

 そして今度はが、その腕力でボスの腕をかちあげる。
 
「喰らってろ! 【劫源煥擽ごうげんかんりゃく】!!」

 ジュワッ!! っと鋼鉄が溶ける音がする。

 の三叉槍から溢れ出した地獄の業火が、ボスの体表を焼いたのだ。
 地獄の業火が、その名に相応しい速度でボスの金属肌を延焼する。

「グウオオオオオオオオオ!!?」

「一絺さん!! 早く!!」

「あ、あぁ……」

 が一絺に言うが、腰の抜けてしまった一絺は動けなかった。

(チッ……想像以上の強さだな……! おかげで一絺さんは完全に圧倒されちまった!)

「ウオオオオオオオオ!!」

「……クソが」

(やるしかないか……?)

 がそう、全身に力を溜めた──その時。

「【憑依】──深度」

「は、離れろ!!」

「!!」

 一絺の声に、は一瞬でその場を離れた。
 直後……

 ガアアアアアアン!!

「ウオオオオオオオオ!?!?」

 凄まじい力と力のぶつかり合いに、耐えきれなかった天井が崩落する。

 ドドドドドドド!!

 ボスの姿が、完全に瓦礫の山に埋もれた。

「なんだ……?」

(まあ、いずれにせよチャンスだ。身動き取れないこの空間で、確実に防御されない今なら……!!)

 は、三叉槍を後ろ手に引き絞り、左手を顔前に持ってくると、両足を深く開いて重心を落とし、力を溜める。
 その構えは、いつかみた“悪童”、鬼童丸の見せた……まさしく、だった。

「行くぜ──【悪逆阿修羅】!!」

 鬼童丸のそれとは、比べるまでもなく完全な構え。
 力を溜めたその構えから放たれた攻撃は、圧倒的なまでに暴力的で……一切の隙が無い、な連撃だった。

 ガンッ!! ガンッッ!!!

「オラァ! オラ、オラァ!!」

 ドガンッ! ドガンッ!! ドガンッ!!

 無慈悲なまでの連撃が、瓦礫の山に叩き込まれる。

 やがて、瓦礫の山ごとボスの装甲を叩き斬ったか、瓦礫の中からおびただしい血が噴き出した。

「はあ……はぁ。死んだか」

「……!」

 が三叉槍を担ぎ、振り返った、その時だった。

「ヴオオオオオオオオオ!!!!」

「「なっ──!?!?」」


 瓦礫の山から、が飛び出したのは。
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