千変万化の最強王〜底辺探索者だった俺は自宅にできたダンジョンで世界最強になって無双する〜

星影 迅

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二章 “憐れみ掠する地獄の王”悪鬼編

第34話 日月一絺

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「とりあえず、座ってくれ」

「え、ええ……じゃあ」

 絵の中は、外見以上に豪華だった。
 言われるがままに、ふかふかな椅子に座る。

(おお……すげぇ、ふかふかだ! 欲しいな……)

 家を買ったらこの家具も欲しいな……と考えていると、奥から長髪の女性がカップに何かを入れて持ってくる。

「ほら、紅茶は飲めるかな?」

「紅茶……? 名前は聞いたことありますけど」

「えっ???」

 紅茶かぁ……金持ちの飲み物って聞いたことはあるけど。

「ま、まあいいか。ところで依頼といったね?」

 白衣の女性は、紅茶を啜りながら言った。

(医者……なのか?)

「はい。モンスターの捕獲とだけ聞いてますが……」

「おお!! ついにその依頼を受けるものが現れたのか!」

 なんだこの人!? 俺が依頼を受けに来たと言った瞬間、テンションマックスで立ち上がり、俺の手を取って振り出した。

「で、誰だい!? その依頼を受けたのは!」

「ぼ、僕ですけど……」

「え??」

 ピタッ、と女性の動きが止まる。

「誰かの使いとかじゃなくて?」

「はい」

 一瞬女性は困惑したようだが、すぐにハッとした。

「まさか……君、若いように見えるが超級探索者か!?」

「え、ええ、まぁ……はい」

「おお! そうなのか!! しかし、超級なりたてだとかなりしんどいかもしれない依頼だが……大丈夫か?」

 かなり頭の回転が早そうだな。
 女性はそう言いつつも、小さな袋から書類の束をとり出した。

(アイテムボックス……!? この人、明らかに探索者じゃないのに……この豪邸といい、凄まじい金持ちなんだな……!)

 探索者でもないのにアイテムボックスを買うとは、探索者ほどのリターンがないことを考えるとかなりの浪費だ。それを許せるくらいの金持ちなんて……

「さて、それじゃあまず説明させてもらいたいんだが……」

「あっちょっと待ってください!」

「ん?」

 勢いそのままに書類をめくり出した女性に、慌てて自己紹介をする。

「僕は宝晶千縁と言います。お名前は……?」

「あぁ! まだ言ってなかったか! いや~すまない、よく忘れてしまうんだ」

 女性はコーヒーカップを置くと、髪を払いながら言った。

「私は日月一絺ひづきいち。モンスター研究家だ」

「モンスター研究家……ですか?」

 一絺いちさんがフフン、とドヤ顔で鼻を鳴らす。

「そんなにかしこまらなくてもいいぞ。そうそう、極秘裏にモンスターの生態について研究しているのさ」

「それ言ったら極秘裏じゃ……」

「あっ」

 一絺いちさんがゴホンッ、と咳払いする。

「わ、忘れてくれ。とにかく、政府からの支援も受けていた、大研究家なんだぞ!」

(この人、凛とした見た目と違って、意外と抜けてるところあるな……)

「でも、モンスターについての研究なんてすごいじゃないですか!!」

「そ、そうだろう? フフフ」

「解明できたら人々の希望になるかもしれませんし、何より危険じゃないですか! それなのに研究を進めるなんて、流石大研究家……って、?」

「……」

 俺の言葉に、一絺いちさんが少し唇を噛んだ。

「……何も解明しないから、と早々に見限られたのが三年前だ」

「ああ……」

 まあ27年もあって何も進歩しないとあればそうなのか。
 でも、一絺さんは見た感じとても若いし、諦められたのは他の研究員で、一絺さんの研究はまだまだこれからのはずなんじゃ……

「だから私は、今まで誰もが叶えられなかった実験をして、モンスターの謎を解明するんだ!!」

 ダンっ! と一絺さんは机を叩いて立ち上がった。

「まあ、研究を始めたのは四年前だが」

 一絺さんがてへっ、とウインクする。

 いや一年で支援切られたんかい!
 なんだ……? 豪邸に住んでるのは元々お金持ちだったからなのか?
 
 すごい才能の持ち主だったのかと思ったんだけど……いや、この場合は政府が諦めてしまったという方が正確だろう。
 ダンジョンのことは何も分からない、と既に決めうったんだろうな。

「で……じゃあ、何を捕まえてくればいいんですか?」

「フフフ……よくぞ聞いてくれた! それはな……」

 俺の言葉に、一絺さんは腰に手を当てて言った。

「当然、ボスモンスターさ!!」

「……はああああああ!?」

 一絺さんはなんでもないかのように言い放つ。

 ダンジョンの最深部にいる、そのダンジョンのおさ。それがダンジョンボスだ。
 ダンジョンは、ダンジョンボスを倒した後にある部屋に入ると消滅する。その部屋には当然、報酬が盛りだくさんだが、問題はこの部屋には入れない、ということだ。
 というより、ボスモンスターは倒せない、という問題だ。

 なぜなら、ダンジョンボスを倒さない限りダンジョン内ではいくら倒しても一定時間後にはモンスターが発生する。

 そして、モンスターを倒すことで得られる魔力値で探索者は強くなり、モンスターを倒すことで手に入る魔石は超効率のエネルギー資源になり、ごく稀に手に入る宝箱はモンスターと同じく一定期間で出現し、超常の魔道具アイテムが手にはいる。

 そんなを、勝手に消していいわけがないんだよなぁ。

 報酬部屋で報酬を受け取らなければダンジョンは消えないが、ダンジョンボスが倒れた時点でモンスターや宝箱の供給リポップは止まる。

 恐らくそんなことをしたら政府から何か言われそうだ。
 最悪の場合罰金とか……

「当然、ある程度の強度が欲しいから中級ダンジョンのボスが望ましい!」

「いやいやいやいや、ちょっと待ってください!」

 なんでこの人キョトン? って顔してんだ!
 明らか寝起きで髪もボサボサなのに、妙に性に合っていてちょっとドキッとしてしまう。

 ってのは置いといて。

「なんだい? 中級ダンジョンボスくらいならまぁ、なんとかならんこともないだろう?」

「いや、ダンジョンボス倒したら法律違反じゃ……!」

 俺がそういうと、一絺さんはアッという顔をして、ニヤリと笑った。

「あぁ、そういうことか。若いのにしっかりしてるね~。依頼人のことだから、何も考えずやればいいんだよ?」

「いや、重大な犯罪ですよ。倒さなくても、生け捕りにするだけで供給リポップが止まるかは解明されてませんよね!?」

 そもそも、生け捕りということが問題だ。
 暴れ狂うダンジョンモンスターを、地上まで連れて行くだけでも困難を極めるというのに、その後地上に運ばなきゃいけないんだろう
 
 それに、ダンジョンには探索者のランクに連動した推奨ランクがある。
 中級ダンジョンといえば、下級ゴブスラダンジョン中級最上位メギドの中間のレベルか。

 いくらなんでも生け捕りとすれば、厳しすぎる。

「大丈夫だ。バレなきゃ犯罪じゃない」

「バレるわ! ちょっと!?」

「ははは、冗談だよ。……実際、中級ダンジョンの内一つは許可が出ているんだ」

 許可が出ている……?
 中級ダンジョンといえば、最も手頃な難易度とそこそこのアイテムが出るから、国資源としては一番大事だと思うが……

「この私を疑ってるね? なぜ最も多い下級探索者が背伸びすれば探索でき、次に多い中級探索者がよく使い、上級探索者が安全マージンを取って探索できるという、最重要のレベルのダンジョンを消す許可が降りているのか」

「ま、まぁ……その通りで……」

 俺の考えを見事に当てて見せた一絺さんは、得意げに言う。

「それは、私がそのダンジョンをからだよ」


「…………は?」


 ダンジョンを……所有してる??

「そう。私はこの俗世で言うところの富豪の生まれでね。訳ありとはいえ、個人資産をほぼ全て投入して買えたのさ」

 いやいや待てよ。
 何やら訳ありだったらしいとはいえ、中級ダンジョンを個人所有って……嘘だろ?
 一体何百億かかるんだよ……

「……」

「はは、呆然とした様子だね。面白い顔だ」

 一絺さんが意地悪な顔をする。

「…………で、訳ありっていうのは?」

 聞きたいことが大量にあるんだが……
 なんとか現実に復帰しつつ、揶揄うように笑う一絺さんに向かって出た言葉は、それだけだった。

 それに対して、一絺さんの答えは……

「ああ、それはね──」





「──そのダンジョン、んだ」
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