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二章 “憐れみ掠する地獄の王”悪鬼編

第29話 真実と陰謀

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「勝者、宝晶千縁ィィィィィィ!!!!」

「「「「「「うおおおおおおお!!」」」」」」

「ちよ、くん……?」

 私は今、テレビを見ていた。
 探索者の町、大阪の四校が対決する『大阪四校学園対抗祭』。
 毎年視聴率が70%を超えるほどで、国が定めた祝日にすら該当している。

『いやー大波乱の展開でしたね……一体、彼はどこから現れたのでしょうか』

『おかげで視聴率は90%を超えましたよ。歴史上初なのでは?』

(確か、宝晶千縁って……)

 確かここに引っ越す二年前。私が目をつけた子だ。

「東城莉緒……俺はお前に会いに、ここに来た」

「!!」

 心臓が跳ねる。

(まさか……まだあの約束を……)

 思わず、笑みが溢れた。




「──これは儲けもんだなぁ♪」

 いやーまさか遊びで引っ掛けてたあの可愛い子が、本当にあんな強くなるなんて。
 しかもまだ私にゾッコンだったの?

「ふふふ……ウケる。私にもツキが回ってきたかなぁ♪」

 あの時は確か、次誰をだまくらかそうと決めあぐねていた時、友達の金城玲奈かなしろれなちゃんから千縁君のことを聞いたんだっけ。

「いやーあの玲奈ちゃんが初恋なんていうから……奪っちゃった♪」

 私たちを見る玲奈ちゃんのあの目は最高だったなぁ……

「こ、れ、は……うーん、でも、連絡手段がないなぁ」

 あの時千縁君はスマホ持ってないって言ってたしなぁ……
 ま、持ってても交換しなかったか。

「それなら大阪行こうかな~」

(いつか中級、上級探索者になれたらいいねっ! 私も家事とか料理とか、それまでには極めるから! そうなったら結婚しようね! ……確かこう言って回ってたなぁ)

 中二の途中でこの田舎に引っ越してきたが、それまでは大阪で10人ほど引っ掛けてきた莉緒だ。
 千縁は初心で可愛かったのと、友人の金城玲奈の初恋相手だから引っ掛けたが、その他は全員現時点で優秀な探索者生だった。

(1番期待してなかった、遊びのあの子が、ねぇ……本当人生って分からないものだなぁ)

「よーし! 今、会いに行くからねー、ちよくん?」


~~~~~


「うそっ! 勝った!! ちよ君勝った!!」

「あ、あの、優香さん、もう収録始まるんですけど……」

「ちょっと!! ちよ君優勝したのよ!? 大阪学園対抗祭よ!? それどころじゃないわ! 余韻に浸らせてよ!」

「い、いえ、ですから優香さん、対抗祭を見るために既に時間ギリギリまで待ちましたよね……?」

 とある事務所の控え室にて。
 高校生にしてアイドルの卵、飛彩優香は、大阪四校学園対抗祭のテレビ中継を見て沸き立つ。

「ってえ、神童に勝った人がいるんですか!? ってもしかして……知り合い!?」

「うん。こないだデートも行ったんだから!!」

 優香は両頬に手を合わせて頬を染める。

(もしかして……)

 スタッフは優香をみて閃いた。
 優香は顔に出易でやすすぎる。

(優香を利用すれば“神童”越えの彼に接近出来るかもしれない)

 そうすれば、うちの会社にとってもまた利益になるだろう。

「そうですか、とにかく今日は撮影ですので準備の方よろしくお願いします。またデートにいけるといいですね」

「えっ! う、うん……」

 優香が出ていった後、一人残されたスタッフは「会長」と書かれた電話帳を開き、ニヤリとほくそ笑むのだった。


~~~~~


「宝晶千縁と対抗戦メンバーの皆に、乾杯!!」

「「「「「乾杯!!」」」」」

 対抗祭の日の夜。
 俺たちは興奮冷めやらぬまま、少し高級なレストランへと来ていた。

「ちよぉぉ!」

「「兄貴!!」」

「うぇっ、抱きつくなよ!」

「あはは、千縁くんのところは楽しそうだねぇ」

「……」

「まあ、そりゃ主役だしな」

 白城しろきさん、剛田さん、そして加藤が言う。
 対抗戦関連メンバーの席から、俺は一人離脱していたからだ。

 俺がいるのはは対抗祭ダンジョン攻略戦メンバー席。
 俺の友達がいるからと言う理由で抜け出してきたが……

(まあそりゃ加藤に玲奈と……めんどくせえからな)

 加藤はなんかかっこつけて頭おかしくなってたし……玲奈もか?

(そういや、話したいことってなんだったんだ? 今までの謝罪とか?)

 まあ、どうでもいいか。
 俺にとっては、バカにしてきていた加藤よりも裏切った玲奈の方が嫌いだからな。

「てか、うちが明日から第一学園とか信じられない!」

「というか、なっちゃったら来年から俺らより強いやつばっか入ってくるってことだよな?」

「なんでもいいけど、第一学園っていうブランド力がすごいんでしょ!」

「コーラ二つー!」

 流石に30人×2クラス×3学年=180人は騒がしすぎる。
 俺としてはそんな大人数が入る店が大阪にあったことに驚きだが。

「むぐ……って、ちよ、外になんか来てるぞ」

「え?」

 悠大に言われて外を見ると、カメラを構えた人が何人か……

「きゃー! テレビの人じゃない!?」

「私たちもうつしてくれないかなー!」

「ご飯食べてんのに来んのかよ……」

「ま、それだけちよが凄まじかったってことだな。すげぇじゃねぇか!」

 まあ、そりゃ有名になりたかったわけだし、まだまだ嬉しいところではあるが……

「流石にちょっと言ってくるわ」

「おー、いってら」

「「兄貴行ってらっしゃい!」」

 流石に食事中に見られるのは鬱陶しいため、俺は一言言いに外にでる。

「今ご飯食べてるから迷惑なんだけど……」

「宝晶千縁様」

 俺が出て行くように言おうとしたところ、その前に人混みの中から一人出てきた、スーツの男が膝まづいた。

「えっ!?」

「大阪探索者協会長から御呼び出しがあります。できればすぐ来ていただきたい」

「協会長?」

 探索者協会長? あぁ、大阪支部のか。
 ん? それって俺が昇格試験受けに行ったあの協会ギルドのギルド長と同一人物だよな?

(ってことは重吾さんの言ってた通りランクアップを図ってくれるってわけか)

「ああ、じゃあ明日行きます」

「明日? できれば今すぐにでも来ていただきたいのですが」

 俺はその言葉にムッとして目に力を込める。
 一瞬、の眼が紫金色に輝いた。

(ああ……そう)

「失せろ。あんたのためだ」

「……あまり調子に乗ってると……!?」

 スーツの男がこめかみに青筋を浮かべて、俺の肩に手を伸ばし……背後から突然現れた大柄な男性に掴まれ、止められる。

「あーあ……だから黙って引いていた方がよかったのに。ねぇ、協会長?」

「きょ、協会長!?」

 そこにいたのは、協会長だった。

「誠司くん、俺はと言ったのだが」

「い、いえ、わた」

「クビだ、帰れ!」

 協会長の放つ魔力の波動に、その場にいたカメラマンや野次馬たちは皆、蜘蛛の子を散らすように逃げだした。

「あんたが重吾さんの紹介の?」

「おう! 俺が大阪探索者協会協会長の海原真かいばらまことだ! 重吾から話は聞いていたが、ここまでとは驚いた! というか、どうやって俺の隠密を見破ったんだ?」

 部下の失態に対する態度とは打って変わって、豪快に笑った大阪協会長、海原真は、俺に握手の手を差し出したのだった。
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