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二章 “憐れみ掠する地獄の王”悪鬼編
第27話 憐れみ掠する地獄の王
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~~~~~
「なんだ……?」
千縁がその一言を発した瞬間、ざわついていた会場がシンっと異常なほどに静まった。
「ちよ……?」
千縁の親友、岩田雄大は初めて見る親友の姿に困惑を隠せないでいた。
そしてそれは2人の舎弟……三郎と竜二も、第四学園の皆も同じ気持ちだった。
「岩田の兄貴……宝晶の兄貴は一体どうしちまったんですか……」
「なにか、とんでもなく不穏な気配が……」
2人がかろうじて搾り出したその言葉に反応できる者は、いなかった。
(ちよ……無理はするなよ)
会場が異様な空気に包まれる中、悠大は心の中で千縁の無事を祈るのだった。
~~~~~
「バカな……」
千縁が所属する第四学園の学園長、滝上由良は、気付かぬうちにそう漏らしていた。
(宝晶のスキルは超高倍率の【身体強化】なはず……まさか虚偽申告!?)
「滝上……なんだこの存在感は」
「あの子、なんのスキルを持ってるの!?」
「……私にもわからない」
知っていたとしても敵チームにバラすわけないだろう、と由良は心の中で付け加えた。
(いや、宝晶は虚偽申告なんてしないような純粋な少年に見えた……いや、まさかあれも全て演技だったのか!?)
いくら高倍率とはいえ【身体強化】であそこまで強くなれるはずがない、と由良は他に何かあるということに薄々勘付いてはいたが、まさかスキルそのものが違うとは思わなかった。
(いや……まさか……デュアルか!?)
そう考えるのが妥当だろう。
あそこまでの身体能力をスキルの強化なしに出せるのならば、それはもう超級探索者最上級……もしくは極級以上だ。
「……身体強化は副効果?」
「!!」
第三学園長、翠の言葉に、由良はハッとする。
(そうか……聞いたことがあると思ったら“悪童”の【憑依】と同じスキルか! まさかあのスキルを持っているやつを連続で見ることになるとは)
千縁が手にするまでは確か、“悪童”しか所持者が確認されていない超レアスキルだったはずだ。
あのスキルは、“悪童”のインタビューなんかで少し聞いたことがある。
確か外部から力を借りる存在と契約をして初めて力が借りられるスキルで、契約者の能力に応じてスキル非使用時も多少能力が上昇するスキルだ。
それに“神童”の【月狼変化】も軽い【身体強化】の副効果があるっぽいな。千縁と力で渡り合っていた美穂の【身体強化】倍率は平均やや上程度だったから、ほかの助けもあったことは必然だ。
「宝晶……」
(お前は一体、何を隠しているんだ……?)
~~~~~
「【憑依】──悪鬼」
俺……千縁がそういうと同時に、千縁の身体が激変する。
耳下くらいの高さしかなかった黒髪は、肩下まである白髪に。
頭部からは二本の赤黒い角が生え、瞳は真紅に染まっている。
口を閉じているにも関わらず、大きくなった犬歯がその口からはみ出した。
『っ……、!』
十数分の一秒すらかからず、一瞬で変化した千縁の身体から大瀑布の如きプレッシャーが放たれ、観客のみならず【月狼変化】した美穂も息を詰まらせる。
そして……ついにそれは、顔を上げた。
「修羅のお目覚めだァ────ハハハハハハハハ!!」
『ッ!?』
千縁が両腕を広げて豪快に笑うと、その体から凄まじい魔力の波動が放たれる。
「キャアアアアアアア!?」
「うわっ!? どうなってんだ!!」
放たれた衝撃波は、観客の安全を保つための結界にヒビをいれた。
(嘘でしょ……?)
私が【月狼変化】を使って全力で攻撃しても結界にはヒビ一つ入れられない……あれは超高級魔道具なのだ。
それを、魔力を放った衝撃波だけで……?
『冗談じゃない!』
「アァ……俺様と戦うつもりか? やめといた方がいいけどなァ」
『ッ……舐めるな!』
実況も、観戦している人々も、皆が呆気に取られている中、“神童”神崎美穂だけがその中心に向かって動き出す。
だが、千縁は焦ることなく無造作に横に手を突き出すと、先程までのとは違った、赤黒く禍々しい三叉槍をどこからともなく取り出して担ぐ。
「わかんねェか? お前じゃ俺様には……敵わねぇ」
千縁がそういい、鼻で笑うと同時に、美穂はバランスを崩した。
『っ!?』
(どこに……っ!?)
たたらを踏みながらなんとか踏みとどまるも、千縁の姿が見えない。
ザッ────
突然耳元で聞こえたその音に、美穂はバッと上を向いて、言葉を失った。
「雑魚のくせに」
『~!!』
黄金の人狼と化して強化された腕が、豆腐を切るよりも軽く振られた三叉槍によって切り落とされていた。
千縁はいつの間にか、美穂の頭の上に、それも後ろ向きに座っていたのだ。
(全く見えなかった……!)
『グアア!!』
そして背後に衝撃。
美穂の背後に放たれたサイドキックは、音すら超越してその骨を打ち砕く。
美穂は先ほどの千縁のように、闘技場の壁まで吹き飛んで血反吐を吐き崩れ落ちた。
(体が……動かない)
「神崎!!!!」
全く、見えなかった。何が起きたのかわからないが、ぼやける視界の端でさっきまで私が立っていたところで振り上げた足を下ろす千縁の姿が見えた。
(私は……)
“神童”“神童”と言われて期待されてきた。
日本最強じゃなければ私に存在価値はない。
最強じゃなければ、彼女に顔向けできない……!!
「きゅ、救急班!!」
『わた、しは……』
急いで試合を中断して回復術師を呼ぼうとする審判を残る片手で制し、美穂はフラフラと立ち上がった。
「アァ?」
『私は……!!』
片腕を失い、見るからに瀕死の美穂が立ち上がるのを見て、会場から小さな悲鳴が漏れる。
「神崎!! やめ──」
『私は、負けない──!!!!』
美穂は残る全力を注いで、決死の一撃を繰り出した。
ただでさえ死にかけの体に、スキルを三個発動させ、激痛が走る。
(それでも私は、ぜったいに、負けられ、ない……!!)
『ルアアアアアアアアア!!!!』
「……憐れだなァ」
美穂の身体から、黄金の魔力が噴き出す。
そんな美穂の決死の攻撃に、千縁は軽く頭を掻いてため息をついた。そして──
「だが……俺様は憐憫なんて持たねぇ! ハハハハハハハ!!」
──【虐殺】
『ァ──』
続く千縁のその言葉と同時に、美穂の残る三肢から感覚がなくなる。
切り落とされてはいないが、恐らく健を全て切られたのだろう。
「悪いが……同情なんざ、鬼には似合わねぇからなァ!」
(ああ……)
そして、ついに地に倒れ伏した“神童”に千縁は歩み寄って、耳元で一言。
「……まだまだだ。全然足りないぞ」
「……っ」
その言葉に、美穂は歯を食いしばり……フッと微笑んで気を失った。
「「「「「…………」」」」」
呆然と言葉を失っている会場の皆に向かって、【憑依】を解除した千縁が、拳をゆっくりと突き上げる。
「俺が一位だ」
会場は未曾有の歓声に覆われた。
「なんだ……?」
千縁がその一言を発した瞬間、ざわついていた会場がシンっと異常なほどに静まった。
「ちよ……?」
千縁の親友、岩田雄大は初めて見る親友の姿に困惑を隠せないでいた。
そしてそれは2人の舎弟……三郎と竜二も、第四学園の皆も同じ気持ちだった。
「岩田の兄貴……宝晶の兄貴は一体どうしちまったんですか……」
「なにか、とんでもなく不穏な気配が……」
2人がかろうじて搾り出したその言葉に反応できる者は、いなかった。
(ちよ……無理はするなよ)
会場が異様な空気に包まれる中、悠大は心の中で千縁の無事を祈るのだった。
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「バカな……」
千縁が所属する第四学園の学園長、滝上由良は、気付かぬうちにそう漏らしていた。
(宝晶のスキルは超高倍率の【身体強化】なはず……まさか虚偽申告!?)
「滝上……なんだこの存在感は」
「あの子、なんのスキルを持ってるの!?」
「……私にもわからない」
知っていたとしても敵チームにバラすわけないだろう、と由良は心の中で付け加えた。
(いや、宝晶は虚偽申告なんてしないような純粋な少年に見えた……いや、まさかあれも全て演技だったのか!?)
いくら高倍率とはいえ【身体強化】であそこまで強くなれるはずがない、と由良は他に何かあるということに薄々勘付いてはいたが、まさかスキルそのものが違うとは思わなかった。
(いや……まさか……デュアルか!?)
そう考えるのが妥当だろう。
あそこまでの身体能力をスキルの強化なしに出せるのならば、それはもう超級探索者最上級……もしくは極級以上だ。
「……身体強化は副効果?」
「!!」
第三学園長、翠の言葉に、由良はハッとする。
(そうか……聞いたことがあると思ったら“悪童”の【憑依】と同じスキルか! まさかあのスキルを持っているやつを連続で見ることになるとは)
千縁が手にするまでは確か、“悪童”しか所持者が確認されていない超レアスキルだったはずだ。
あのスキルは、“悪童”のインタビューなんかで少し聞いたことがある。
確か外部から力を借りる存在と契約をして初めて力が借りられるスキルで、契約者の能力に応じてスキル非使用時も多少能力が上昇するスキルだ。
それに“神童”の【月狼変化】も軽い【身体強化】の副効果があるっぽいな。千縁と力で渡り合っていた美穂の【身体強化】倍率は平均やや上程度だったから、ほかの助けもあったことは必然だ。
「宝晶……」
(お前は一体、何を隠しているんだ……?)
~~~~~
「【憑依】──悪鬼」
俺……千縁がそういうと同時に、千縁の身体が激変する。
耳下くらいの高さしかなかった黒髪は、肩下まである白髪に。
頭部からは二本の赤黒い角が生え、瞳は真紅に染まっている。
口を閉じているにも関わらず、大きくなった犬歯がその口からはみ出した。
『っ……、!』
十数分の一秒すらかからず、一瞬で変化した千縁の身体から大瀑布の如きプレッシャーが放たれ、観客のみならず【月狼変化】した美穂も息を詰まらせる。
そして……ついにそれは、顔を上げた。
「修羅のお目覚めだァ────ハハハハハハハハ!!」
『ッ!?』
千縁が両腕を広げて豪快に笑うと、その体から凄まじい魔力の波動が放たれる。
「キャアアアアアアア!?」
「うわっ!? どうなってんだ!!」
放たれた衝撃波は、観客の安全を保つための結界にヒビをいれた。
(嘘でしょ……?)
私が【月狼変化】を使って全力で攻撃しても結界にはヒビ一つ入れられない……あれは超高級魔道具なのだ。
それを、魔力を放った衝撃波だけで……?
『冗談じゃない!』
「アァ……俺様と戦うつもりか? やめといた方がいいけどなァ」
『ッ……舐めるな!』
実況も、観戦している人々も、皆が呆気に取られている中、“神童”神崎美穂だけがその中心に向かって動き出す。
だが、千縁は焦ることなく無造作に横に手を突き出すと、先程までのとは違った、赤黒く禍々しい三叉槍をどこからともなく取り出して担ぐ。
「わかんねェか? お前じゃ俺様には……敵わねぇ」
千縁がそういい、鼻で笑うと同時に、美穂はバランスを崩した。
『っ!?』
(どこに……っ!?)
たたらを踏みながらなんとか踏みとどまるも、千縁の姿が見えない。
ザッ────
突然耳元で聞こえたその音に、美穂はバッと上を向いて、言葉を失った。
「雑魚のくせに」
『~!!』
黄金の人狼と化して強化された腕が、豆腐を切るよりも軽く振られた三叉槍によって切り落とされていた。
千縁はいつの間にか、美穂の頭の上に、それも後ろ向きに座っていたのだ。
(全く見えなかった……!)
『グアア!!』
そして背後に衝撃。
美穂の背後に放たれたサイドキックは、音すら超越してその骨を打ち砕く。
美穂は先ほどの千縁のように、闘技場の壁まで吹き飛んで血反吐を吐き崩れ落ちた。
(体が……動かない)
「神崎!!!!」
全く、見えなかった。何が起きたのかわからないが、ぼやける視界の端でさっきまで私が立っていたところで振り上げた足を下ろす千縁の姿が見えた。
(私は……)
“神童”“神童”と言われて期待されてきた。
日本最強じゃなければ私に存在価値はない。
最強じゃなければ、彼女に顔向けできない……!!
「きゅ、救急班!!」
『わた、しは……』
急いで試合を中断して回復術師を呼ぼうとする審判を残る片手で制し、美穂はフラフラと立ち上がった。
「アァ?」
『私は……!!』
片腕を失い、見るからに瀕死の美穂が立ち上がるのを見て、会場から小さな悲鳴が漏れる。
「神崎!! やめ──」
『私は、負けない──!!!!』
美穂は残る全力を注いで、決死の一撃を繰り出した。
ただでさえ死にかけの体に、スキルを三個発動させ、激痛が走る。
(それでも私は、ぜったいに、負けられ、ない……!!)
『ルアアアアアアアアア!!!!』
「……憐れだなァ」
美穂の身体から、黄金の魔力が噴き出す。
そんな美穂の決死の攻撃に、千縁は軽く頭を掻いてため息をついた。そして──
「だが……俺様は憐憫なんて持たねぇ! ハハハハハハハ!!」
──【虐殺】
『ァ──』
続く千縁のその言葉と同時に、美穂の残る三肢から感覚がなくなる。
切り落とされてはいないが、恐らく健を全て切られたのだろう。
「悪いが……同情なんざ、鬼には似合わねぇからなァ!」
(ああ……)
そして、ついに地に倒れ伏した“神童”に千縁は歩み寄って、耳元で一言。
「……まだまだだ。全然足りないぞ」
「……っ」
その言葉に、美穂は歯を食いしばり……フッと微笑んで気を失った。
「「「「「…………」」」」」
呆然と言葉を失っている会場の皆に向かって、【憑依】を解除した千縁が、拳をゆっくりと突き上げる。
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