27 / 61
二章 “憐れみ掠する地獄の王”悪鬼編
第27話 憐れみ掠する地獄の王
しおりを挟むバイトが終わって、いつも通りにドアを開けようとして、鍵が掛かっていることに気がつく。
──あ…。
そういや姉ちゃん、今日は彼氏の家にお泊りなんだっけ。
すっかり忘れていた。
今日は家に誰も居ないのか……。
首の後ろを掻いた後、鞄の中から鍵を取り出してドアを開けると、明かりの消えた玄関が目に入った。
いつも点いている電気がないってだけで、部屋が何だか寒々しい。
会社関係で用事がない限りは、姉ちゃんが家に居るのが当たり前の生活だったもんな。
「たっだいまー」
壁のスイッチを押して電気を点けた後に、テレビの電源も入れた。
自分以外の声が聞こえるってだけで、ちょっとホッとする。
テレビの音に耳を傾けながら、帰りがけに渡された惣菜の残りを冷蔵庫にしまいこんだ。
明日の朝はこれを食べればいいかな。
夕飯は昨日のうちに姉ちゃんがカレーを作ってくれていたので、それを温めて食べることにした。
いつもは食卓でご飯を食べるけれど、ソファ前のローテーブルに胡座をかきながら、深皿によそったカレーをつつく。
テレビではバラエティーの賑やかな笑い声が聞こえてくるのに、部屋の寒々しさが消えない。
はぁ、と思わず溜息がこぼれた。
自分から姉ちゃんに『これからは気兼ねなく、彼氏の家に泊まりに行って来い』なんてデカイ口を叩いたくせに、いざ居ないとなると一人の空間が寂しくて堪らねぇ。
両親が家から出て行った時は、全然平気だったんだけどな。
なのに姉ちゃんが家を留守にするってだけで、こんなにダメージがあるのかよ。
「……子供か俺は」
自分でも呆れてしまう。
思っていた以上に、俺って寂しがり屋だったんだな。
高校生にもなってみっともないとは思うけど、一人の空間が耐えられない。
一度でも泊まりに行けば、これからはちょくちょく姉ちゃんの外泊も増えていくだろうに、今からこんなんで大丈夫か俺……。
気持ち的には「気兼ねなく泊まりに行ってこいよ」って姉ちゃんには笑って言ってやりたいのに、本心はずっと家に居てほしいって思ってしまう。
想像以上の依存具合に、ちょっと自分でも引いた。
(あーダメダメ! 俺が姉ちゃんの足を引っ張ってどうすんだよ! 邪魔したいわけじゃねーんだって!)
首を左右に振って、寂しがる気持ちを振り払う。
カレーをとりあえず胃袋に詰め込むと、気分を変えるためにも、シャワーを浴びる事にした。
◆◆◆
どうせ一人なんだし良いだろと、風呂上がりにパンツ一枚という姿で、ソファに座りながら髪を乾かしてやった。
姉ちゃんがいる時は、この姿で部屋をうろつくことは許されていない。
うっかりやろうものなら、怒りの鉄槌が頭に飛んでくる。
弟の半裸さえ許さないってどんだけだよと思うけど、彼氏相手にも同じことしてんのかな?
いつもの癖で、反射的に殴ってなきゃいいけど。
──…まぁいいや。
今日は姉ちゃんがいたら、絶対出来ないことをしてやると決めたのだ。
思いっきり一人を満喫してやる!
そしてそのための第一歩として、パンイチで過ごしてやると決めた!
うん、快適快適。だから寂しくないない。
適当に髪が乾いた所でドライヤーを仕舞うと、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して一口飲む。
気持ちを切り替えたら、何だかスッキリした。
姉ちゃんがいないのはまだ慣れねーけど、今日の俺には癒やしがあるし。
へへっ。アレの存在を思い浮かべるだけで、顔が緩まってきた。
バイトの疲れもきれいに吹っ飛ぶ。
居間の電気を消して自分の部屋に入ると、悠から渡された紙袋を手にとった。
(お疲れ俺!そしてありがとう悠! 俺はこれに癒やされる!!)
紙袋と一緒にベッドに飛び乗ると、ドキドキしながら圧縮袋の口を開けた。
ふわりと漂ってくる悠の香り。
(はぁあ……)
すっっげーいい匂い!!
好き。ホント好き……っ。
何でこんなに良い匂いなんだろ。
なんかもう嗅ぐだけで胸がキュッとなってくる。
Ω性は呪いでしかないけど、β性になってこの匂いが分らなくなるのは嫌かも。
しばらく中の香りを楽しむように、うっとりと目を閉じる。
出すのがもったいなく感じるけど、思い切って袋の中身を取り出した。
「うゎ、すげー!」
思わず感動に胸が震える。
本当にリクエスト通りのものが入っていて、嬉しさと興奮が抑えきれねぇ!
(欲しいものがもらえるって……最高すぎ!!)
44
お気に入りに追加
209
あなたにおすすめの小説

世界樹を巡る旅
ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった
そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった
カクヨムでも投稿してます
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。


チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

成長チートと全能神
ハーフ
ファンタジー
居眠り運転の車から20人の命を救った主人公,神代弘樹は実は全能神と魂が一緒だった。人々の命を救った彼は全能神の弟の全智神に成長チートをもらって伯爵の3男として転生する。成長チートと努力と知識と加護で最速で進化し無双する。
戦い、商業、政治、全てで彼は無双する!!
____________________________
質問、誤字脱字など感想で教えてくださると嬉しいです。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
☆10/25からは、毎日18時に更新予定!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる