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二章 “憐れみ掠する地獄の王”悪鬼編
第25話 学園対抗祭決勝
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「……」
「神崎さん……、出番かも」
第一学園ベンチにて。私──“神童”、神崎美穂は試合を眺めていた。
(さっきの……デコピン? かなり速かったし、凄まじい威力だった。でも今は使ってない)
今はうちの副将と奴……千縁が戦っている。
だが今の試合では千縁は先ほどのスピードも、一撃で試合を終わらせるほどのパワーも見せていない。
(恐らくあれは、制限があってそんなに使えない)
と言っても、今上級探索者を一方的に押しているが。うちの副将ですら耐えるのがやっとって感じだ。
たとえ“悪童”であっても上級探索者三人を相手取るとかなり疲弊するはずなのに……そんな様子は見えない。
「あいつ、第二学園戦を一人で勝ちに導いた後にこれですよね?」
「もう、ほんとあいつ何者なのよ!? 第四学園でしょ! 第一学園が一人に押されるなんて、ありえない!!」
指揮を任されている私の先輩も思わず絶叫するほどに、彼は強かった。
(でも、一体何故、どこからこんな強者が……)
「……出番」
「あっ……そうみたい。……神崎さんは、負けないよね?」
「……私を信用してないんですか」
「いっいや、そういうわけじゃ! えっと……圧勝しちゃって!!」
先輩はアセアセと両手を振る。別に怒ってるわけじゃないんだけど……。
まぁ、この学校でダントツに強いのは私だから。
「じゃぁ、勝ってくる」
今しがた、副将が負けた。学園長が拳を振るわせているのがわかる。
「うん……いってらっしゃい」
私が闘技場に向かってまっすぐに歩くと、会場が爆発した。
そう錯覚するほどの歓声が、私を出迎えた。
「ついに来たぞ!!! ドリームマッチ!!」
「第四学園!! この調子のまま“神童”まで超えちまえ!!」
「ばか! あの“神童”様だぞ!! ここまでだ!!」
(……私が負けると思い始めてる人がたくさんいる……不愉快)
私が定位置に着くと、対戦相手──宝晶千縁が少し緊張した顔で視線を逸らした。
(……?)
「さあ!!!! みなさんこの時をどれほど待ち侘びたでしょうかッッ!! 今日第四学園が勝ち進んでから、ずっと夢見たこの対決!!!! ついに宝晶選手が“神童”、神崎美穂と相対するー!!!!」
「「「「「「わああああああああ!!」」」」」」
「ちよー!!!! 勝てぇぇぇぇ!!!」
「負けるな一年生ー!!!」
第四学園サイドからかなりの歓声が聞こえる。ここまで辿り着いて興奮状態なのだろう。
(でも……ここまで)
私が落ちかけた第一学園の名声を取り戻す。
「泣いても笑っても、これが最後の決勝戦!!!! 第四学園は大逆転を起こせるか!?!?」
「なあ……一個言いたいことがあるんだが」
「……何?」
千縁が私に、こそっと言った。
「昔から憧れててさ。でも、俺は今日お前を、超えてみせる」
「……」
あっあとで握手お願いな、と付け足した千縁は様々な武器に変形する剣を構えた。
(……とても強そうには見えないけど)
しかし、私も最初は同じことを言われたものだ。女性探索者は強い人が少なく、更に超級に達した4人のうち3人が学園長に就任しただけあって、協会では特に女性は舐められたものだ。
まぁ、目にもの見せてやったが。
どちらにせよ……
「私は、負けない」
「それでは……学園対抗祭決勝戦─────開始!!!」
ついに、決戦の火蓋が切って落とされた。
「ラァ!!」
「フッ……!」
試合開始後、俺はこちらから攻撃を仕掛ける。
剣を振る……と見せかけて分解し、蛇腹剣にして背後から攻撃するも、いとも簡単に止められた。
「【破砕旋風】!!」
「【貫通】」
美しい金髪が揺れる。
俺は蛇腹剣を振り回し、円を描くように攻防一体の技を繰り出した。これもスキルなら発動中隙なしなのだが、模倣だから如何せん隙間があったりする。
それに合わせて、“神童”神崎美穂は剣で突くようにスキルを発動する。
【貫通】……普通はこのスキルを持つ人は槍を使う。
このスキルは、刺突に限って普段の数倍のものも貫通する程の威力を発揮するスキルだ。
美穂はそれを剣で代用し、俺のガードをはじき飛ばした。
「疾っ!」
「甘い!!」
俺は一気に伸ばした関節部を引き寄せる。
ギィン!!!
俺と美穂の剣が交差した。
鍔迫る鋼鉄の剣が火花を散らす。
俺と美穂が、お互い初めて全力でぶつかり合える相手に出会いヒートアップする反面、会場は静まり返っていた。
特別席の人も、VIP席の人も、通常席の人も、ベンチの人も、そしてテレビで見ている人たちも、皆が手に汗握って言葉なく集中している。
「……これは驚き。ここまで勝ち進んできてまだこんな余力があるなんて」
「そうか? それほど苦労を感じる相手はいなかったが」
「……生意気」
剣と剣がぶつかり合う音だけが響き渡る。
5分以上過ぎたが、戦況は依然微動だにしなかった。
「ちっ……」
「本当に、強い……!」
(流石は神童だな……全然攻撃が通らない)
ガンッと三度打ち合った後、俺たちはお互いに距離を離した。
「……あなたは、何者?」
「あ? 俺? んー」
美穂はスッと剣を下ろすと、目を閉じて俺に問いかけた。
(今襲うってわけにはいかねぇよな……)
「……第四学園の劣等生、かな?」
「……」
俺の言葉に、美穂は反応しなかった。
(なんだったんだ……?)
「……使わないの?」
「??」
「“悪童”を倒した技」
「おお……第一学園なのに第四学園見てたのか。」
美穂が言うのは、【虐殺】(模倣)のことだろう。
「まあ、別に使ってもいいけど……」
「……私は」
美穂は突如、俯き目を伏せたまま剣を持つ右腕を突き上げた。
「まだ、スキルを隠してる」
「……!?」
なんだ?
その言葉と同時に、美穂の雰囲気がガラリと変わる。
どこか不思議で、神秘的だった美穂の気配は、一瞬にして牙を剥いた狼のような、鋭い気配に変化した。
そしてすぐ、その感覚が間違いじゃないことを知る。
「……何!?」
「まさか……“神童”はまだ本気じゃなかったのか!?」
「兄貴……!!」
動揺する外野をよそに、美穂の骨格がバキバキと変わっていく。
そして……
『【月狼変化】』
オオオオオオオオン!!! と咆哮が轟いた。
美穂の姿はわずか1秒程度のうちに1.5倍ほど膨らみ、金毛の美しい人狼へと変化を遂げる。
『絶対、逃さない』
「はは……“神童”様が本気になったってか」
想像もしなかった展開に思わず笑ってしまう。
【貫通】【身体強化】の二個持ちだって聞いてたけど、そりゃ今の俺に【身体強化】だけで並べるわけないよな。
(まさかの三個持ちかよ……)
俺は再度変形剣を握りしめ、四肢に力を入れた。
「神崎さん……、出番かも」
第一学園ベンチにて。私──“神童”、神崎美穂は試合を眺めていた。
(さっきの……デコピン? かなり速かったし、凄まじい威力だった。でも今は使ってない)
今はうちの副将と奴……千縁が戦っている。
だが今の試合では千縁は先ほどのスピードも、一撃で試合を終わらせるほどのパワーも見せていない。
(恐らくあれは、制限があってそんなに使えない)
と言っても、今上級探索者を一方的に押しているが。うちの副将ですら耐えるのがやっとって感じだ。
たとえ“悪童”であっても上級探索者三人を相手取るとかなり疲弊するはずなのに……そんな様子は見えない。
「あいつ、第二学園戦を一人で勝ちに導いた後にこれですよね?」
「もう、ほんとあいつ何者なのよ!? 第四学園でしょ! 第一学園が一人に押されるなんて、ありえない!!」
指揮を任されている私の先輩も思わず絶叫するほどに、彼は強かった。
(でも、一体何故、どこからこんな強者が……)
「……出番」
「あっ……そうみたい。……神崎さんは、負けないよね?」
「……私を信用してないんですか」
「いっいや、そういうわけじゃ! えっと……圧勝しちゃって!!」
先輩はアセアセと両手を振る。別に怒ってるわけじゃないんだけど……。
まぁ、この学校でダントツに強いのは私だから。
「じゃぁ、勝ってくる」
今しがた、副将が負けた。学園長が拳を振るわせているのがわかる。
「うん……いってらっしゃい」
私が闘技場に向かってまっすぐに歩くと、会場が爆発した。
そう錯覚するほどの歓声が、私を出迎えた。
「ついに来たぞ!!! ドリームマッチ!!」
「第四学園!! この調子のまま“神童”まで超えちまえ!!」
「ばか! あの“神童”様だぞ!! ここまでだ!!」
(……私が負けると思い始めてる人がたくさんいる……不愉快)
私が定位置に着くと、対戦相手──宝晶千縁が少し緊張した顔で視線を逸らした。
(……?)
「さあ!!!! みなさんこの時をどれほど待ち侘びたでしょうかッッ!! 今日第四学園が勝ち進んでから、ずっと夢見たこの対決!!!! ついに宝晶選手が“神童”、神崎美穂と相対するー!!!!」
「「「「「「わああああああああ!!」」」」」」
「ちよー!!!! 勝てぇぇぇぇ!!!」
「負けるな一年生ー!!!」
第四学園サイドからかなりの歓声が聞こえる。ここまで辿り着いて興奮状態なのだろう。
(でも……ここまで)
私が落ちかけた第一学園の名声を取り戻す。
「泣いても笑っても、これが最後の決勝戦!!!! 第四学園は大逆転を起こせるか!?!?」
「なあ……一個言いたいことがあるんだが」
「……何?」
千縁が私に、こそっと言った。
「昔から憧れててさ。でも、俺は今日お前を、超えてみせる」
「……」
あっあとで握手お願いな、と付け足した千縁は様々な武器に変形する剣を構えた。
(……とても強そうには見えないけど)
しかし、私も最初は同じことを言われたものだ。女性探索者は強い人が少なく、更に超級に達した4人のうち3人が学園長に就任しただけあって、協会では特に女性は舐められたものだ。
まぁ、目にもの見せてやったが。
どちらにせよ……
「私は、負けない」
「それでは……学園対抗祭決勝戦─────開始!!!」
ついに、決戦の火蓋が切って落とされた。
「ラァ!!」
「フッ……!」
試合開始後、俺はこちらから攻撃を仕掛ける。
剣を振る……と見せかけて分解し、蛇腹剣にして背後から攻撃するも、いとも簡単に止められた。
「【破砕旋風】!!」
「【貫通】」
美しい金髪が揺れる。
俺は蛇腹剣を振り回し、円を描くように攻防一体の技を繰り出した。これもスキルなら発動中隙なしなのだが、模倣だから如何せん隙間があったりする。
それに合わせて、“神童”神崎美穂は剣で突くようにスキルを発動する。
【貫通】……普通はこのスキルを持つ人は槍を使う。
このスキルは、刺突に限って普段の数倍のものも貫通する程の威力を発揮するスキルだ。
美穂はそれを剣で代用し、俺のガードをはじき飛ばした。
「疾っ!」
「甘い!!」
俺は一気に伸ばした関節部を引き寄せる。
ギィン!!!
俺と美穂の剣が交差した。
鍔迫る鋼鉄の剣が火花を散らす。
俺と美穂が、お互い初めて全力でぶつかり合える相手に出会いヒートアップする反面、会場は静まり返っていた。
特別席の人も、VIP席の人も、通常席の人も、ベンチの人も、そしてテレビで見ている人たちも、皆が手に汗握って言葉なく集中している。
「……これは驚き。ここまで勝ち進んできてまだこんな余力があるなんて」
「そうか? それほど苦労を感じる相手はいなかったが」
「……生意気」
剣と剣がぶつかり合う音だけが響き渡る。
5分以上過ぎたが、戦況は依然微動だにしなかった。
「ちっ……」
「本当に、強い……!」
(流石は神童だな……全然攻撃が通らない)
ガンッと三度打ち合った後、俺たちはお互いに距離を離した。
「……あなたは、何者?」
「あ? 俺? んー」
美穂はスッと剣を下ろすと、目を閉じて俺に問いかけた。
(今襲うってわけにはいかねぇよな……)
「……第四学園の劣等生、かな?」
「……」
俺の言葉に、美穂は反応しなかった。
(なんだったんだ……?)
「……使わないの?」
「??」
「“悪童”を倒した技」
「おお……第一学園なのに第四学園見てたのか。」
美穂が言うのは、【虐殺】(模倣)のことだろう。
「まあ、別に使ってもいいけど……」
「……私は」
美穂は突如、俯き目を伏せたまま剣を持つ右腕を突き上げた。
「まだ、スキルを隠してる」
「……!?」
なんだ?
その言葉と同時に、美穂の雰囲気がガラリと変わる。
どこか不思議で、神秘的だった美穂の気配は、一瞬にして牙を剥いた狼のような、鋭い気配に変化した。
そしてすぐ、その感覚が間違いじゃないことを知る。
「……何!?」
「まさか……“神童”はまだ本気じゃなかったのか!?」
「兄貴……!!」
動揺する外野をよそに、美穂の骨格がバキバキと変わっていく。
そして……
『【月狼変化】』
オオオオオオオオン!!! と咆哮が轟いた。
美穂の姿はわずか1秒程度のうちに1.5倍ほど膨らみ、金毛の美しい人狼へと変化を遂げる。
『絶対、逃さない』
「はは……“神童”様が本気になったってか」
想像もしなかった展開に思わず笑ってしまう。
【貫通】【身体強化】の二個持ちだって聞いてたけど、そりゃ今の俺に【身体強化】だけで並べるわけないよな。
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