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二章 “憐れみ掠する地獄の王”悪鬼編
第24話 伝説の一撃
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「……」
「……」
第二学園の控え室にて。
“悪童”こと鬼塚蓮と、お姉さんこと水月由梨はテレビ中継で第四学園……というより、千縁の試合を観戦していた。
「……」
「……そんなに気負わなくても、ほら、調子悪い時とかあるでしょ?」
由梨は千縁に負けてから一言も発さない鬼塚に慰めの言葉をかけるが、鬼塚は依然黙ったままだった。
「……うわ、ほんとに千縁君って強いんだ。でもなんであんな逸材が第四学園に来たのか……やっぱり何かおかしいなぁ」
「……」
正直、そう思わない人はどこにもいないであろう。
“神童”と“悪童”、この二人は中一の頃から探索者に生涯を捧げてきたわけだ。
それでも上級、超級になったのは早すぎておかしいと世間では言われている。
(あいつ……高校から探索者を始めた、だと?)
鬼塚は昼休憩に捕まえた第四学園の生徒から、聞いていたのだ。
千縁が探索者を始めたのは高校生から。つまり一年も経ってない。
しかも、夏休みが始まるまで、彼は第四学園でも指折りの弱者だったらしい。
その時はスキルに目覚めてなかったから弱かったんだと思う、とのことだが、それだけで片付く戦力じゃない。
千縁は今わかるだけで超級探索者くらいの力を最低でも身につけている。
本来なら才能ある若者が十年以上かけてたどり着けるかどうかの力だ。それくらい、上級と超級には差がある。
(俺たちが四年かそこらで超級前後まできたのですら天才だの大騒ぎされて来たのに、あいつは10ヶ月だと? しかも、スキルを手に入れてから3ヶ月?)
「……鬼塚君、どうしたの? 具合でも悪い?」
普段はこんなことを言ったらブチギレられるわけだが、それでも由梨は鬼塚を励ましてあげたかった。
しかし、今回はそのどちらも叶わない。
鬼塚は依然考え込んだままだ。
(そうか……違和感の正体がわかった)
鬼塚は自分の【憑依】契約者、鬼童丸と話し合いながら、あることに気づいた。
(妙な既視感があったんだ)
身体強化系と言っているようだが、なんのスキルも使っているようには見えなかった。
身体強化系とは言っても、発動していればなにかしら魔力の動きをうっすらとでも感じられるはずだ。
なのに、千縁の体からは魔力を一切感じなかった。
つまり、身体強化作用は、千縁のスキルの副効果だ。
鬼塚自身も、【憑依:鬼童丸】を持っているから身体能力が副効果としてかなり上昇している。メイン能力と別にこうして副次効果があるスキルというのはレアだが確かに存在しているのだ。
(冗談だろ……副作用であれ? しかも、鬼童丸があいつの最後の技……【虐殺】だっけか? あれに異常なほど警戒心と怯えを抱いていた)
傲岸不遜な鬼童丸があんな状態になったのは初めてだ。恐らく、“鬼”と関係があるのだろう。
というより、あれが副効果というなら……
「鬼塚君? ほら、元気出して──」
「あいつはさっき、スキルを使ってなかった」
「え!?!?」
鬼塚の言葉に、由梨はつい体を跳ね上げさせた。
「あいつのスキル……もしかして」
鬼塚は、ライブ映像を見ながら千縁のスキルについて一つの仮説を立てた。
(【憑依】……?)
~~~~~
「お前が、第二学園“悪童”を倒した宝晶ってやつか」
「……5秒だ」
「あ?」
富永が俺に何か言おうとするが、俺はそれを遮って指を立てた。
「5秒で終わらせるぞ」
俺のその宣言に、会場がざわつく。
「……テメェ、調子に乗りすぎだ」
「なんでだ? 上級なりたてだろうが。大して苦労しそうには見えないが」
「テメェ!!」
俺が煽ると、富永は速攻で突っ込んできた。
近接タイプか。
「待て──!」
「【ブレイクアーマ──!?」
「遅い」
富永が拳に力を集め、殴り掛かろうと腕を引き絞り……驚愕に目を見開く。
俺は富永が地を蹴る瞬間に、富永の前まで高速で移動していたのだ。
そして、地を蹴ってしまって勢いが殺せない富永の額に親指と中指を合わせ……デコピンを放った。
ドガンッ! と砲弾の如く音を鳴らした俺のデコピンは、富永の頭のみを運動エネルギーと逆方向に弾き、首がちぎれそうな勢いで富永の体はふき飛んだ。
「「「「……!?」」」」
ガタッと学園長たちと両サイドのベンチが立ちあがる。
凄まじい勢いで回転しながらぶっ飛び、頭から墜落した富永は、頭の前後からから血を流して失神した。
「……」
おい審判、口開いてるぞ。
「審判」
「……はっ! しょ、勝者! 宝晶千縁!!!」
「「「「うおォォォォォォォォ!!」」」」
「馬鹿な……」
審判の勝利宣言に、観客たちは大盛り上がりを見せる。それと反対に、両ベンチはシーン、と静まり返っていた。
「なんだ、5秒も要らなかったな」
今やったのは“過剰魔力濃縮”という技術だ。
門の中で鍛えられた俺は今まで、体が魔力を得たことによって強化された基礎身体能力のみで戦ってきた。
だが、【身体強化】のスキルで知られるように、魔力を体に注ぐことでさらに身体能力は上げることができる。
ただ、この方法はいくら修行したからといって【身体強化】スキルがないと体が爆発してしまう。
そのため、一工夫したのだ。
魔力を過剰なほど濃縮して、魔力が流れることを塞いでいるのだ。詳しく言えば球体を作って中に向かって流れるようにして漏れを塞いでる、的な?
だから一部分にしか強化を施せないし、強力な負荷がかかるから積極的に使用することはない技だ。
今回は後の選手に絶望を与えるために使用したが。
「おい……滝上……なんだ、あいつは……」
「宝晶……?」
「なっ……上級探索者に到達した富永が……一撃で……」
いい感じに選手たちに恐慌を与えられてるみたいだな。指と足めっちゃ痛いけど。例えるなら辞書小指に落とした痛みの10倍。
「つっ続いて第一学園中堅、三年上級探索者、袴田京介!!」
「……次はお前か?」
「うっ……」
よしよし、いい感じに腰が引けてるな。
さっきの場面ハイライトとか名場面とかで選んでくれないかなぁ。
のちのテレビ放送でこの一撃は『伝説の一撃』と呼ばれるのだが、それはまた別の話。
「袴田!!!! しっかりしろ!!!! 怖気つくな!!!!」
学園長席から第一学園長の叱責が轟く。
「はっはい!!」
(せっかく恐慌に陥れたのに学園長、やるな。一瞬で闘志を取り戻しやがった)
というか、学園長の助言は決勝戦じゃ禁止じゃなかったか?
審判とか誰も指摘しないけど……できないか。大阪は日本一の探索者街、その探索者を育てる学園の最高権力者だもんな。
「まあ、どうでもいい」
「そっそれでは試合……開始ぃ!!」
俺は集中して袴田へ向き直り、変形剣を構えた。
「……」
第二学園の控え室にて。
“悪童”こと鬼塚蓮と、お姉さんこと水月由梨はテレビ中継で第四学園……というより、千縁の試合を観戦していた。
「……」
「……そんなに気負わなくても、ほら、調子悪い時とかあるでしょ?」
由梨は千縁に負けてから一言も発さない鬼塚に慰めの言葉をかけるが、鬼塚は依然黙ったままだった。
「……うわ、ほんとに千縁君って強いんだ。でもなんであんな逸材が第四学園に来たのか……やっぱり何かおかしいなぁ」
「……」
正直、そう思わない人はどこにもいないであろう。
“神童”と“悪童”、この二人は中一の頃から探索者に生涯を捧げてきたわけだ。
それでも上級、超級になったのは早すぎておかしいと世間では言われている。
(あいつ……高校から探索者を始めた、だと?)
鬼塚は昼休憩に捕まえた第四学園の生徒から、聞いていたのだ。
千縁が探索者を始めたのは高校生から。つまり一年も経ってない。
しかも、夏休みが始まるまで、彼は第四学園でも指折りの弱者だったらしい。
その時はスキルに目覚めてなかったから弱かったんだと思う、とのことだが、それだけで片付く戦力じゃない。
千縁は今わかるだけで超級探索者くらいの力を最低でも身につけている。
本来なら才能ある若者が十年以上かけてたどり着けるかどうかの力だ。それくらい、上級と超級には差がある。
(俺たちが四年かそこらで超級前後まできたのですら天才だの大騒ぎされて来たのに、あいつは10ヶ月だと? しかも、スキルを手に入れてから3ヶ月?)
「……鬼塚君、どうしたの? 具合でも悪い?」
普段はこんなことを言ったらブチギレられるわけだが、それでも由梨は鬼塚を励ましてあげたかった。
しかし、今回はそのどちらも叶わない。
鬼塚は依然考え込んだままだ。
(そうか……違和感の正体がわかった)
鬼塚は自分の【憑依】契約者、鬼童丸と話し合いながら、あることに気づいた。
(妙な既視感があったんだ)
身体強化系と言っているようだが、なんのスキルも使っているようには見えなかった。
身体強化系とは言っても、発動していればなにかしら魔力の動きをうっすらとでも感じられるはずだ。
なのに、千縁の体からは魔力を一切感じなかった。
つまり、身体強化作用は、千縁のスキルの副効果だ。
鬼塚自身も、【憑依:鬼童丸】を持っているから身体能力が副効果としてかなり上昇している。メイン能力と別にこうして副次効果があるスキルというのはレアだが確かに存在しているのだ。
(冗談だろ……副作用であれ? しかも、鬼童丸があいつの最後の技……【虐殺】だっけか? あれに異常なほど警戒心と怯えを抱いていた)
傲岸不遜な鬼童丸があんな状態になったのは初めてだ。恐らく、“鬼”と関係があるのだろう。
というより、あれが副効果というなら……
「鬼塚君? ほら、元気出して──」
「あいつはさっき、スキルを使ってなかった」
「え!?!?」
鬼塚の言葉に、由梨はつい体を跳ね上げさせた。
「あいつのスキル……もしかして」
鬼塚は、ライブ映像を見ながら千縁のスキルについて一つの仮説を立てた。
(【憑依】……?)
~~~~~
「お前が、第二学園“悪童”を倒した宝晶ってやつか」
「……5秒だ」
「あ?」
富永が俺に何か言おうとするが、俺はそれを遮って指を立てた。
「5秒で終わらせるぞ」
俺のその宣言に、会場がざわつく。
「……テメェ、調子に乗りすぎだ」
「なんでだ? 上級なりたてだろうが。大して苦労しそうには見えないが」
「テメェ!!」
俺が煽ると、富永は速攻で突っ込んできた。
近接タイプか。
「待て──!」
「【ブレイクアーマ──!?」
「遅い」
富永が拳に力を集め、殴り掛かろうと腕を引き絞り……驚愕に目を見開く。
俺は富永が地を蹴る瞬間に、富永の前まで高速で移動していたのだ。
そして、地を蹴ってしまって勢いが殺せない富永の額に親指と中指を合わせ……デコピンを放った。
ドガンッ! と砲弾の如く音を鳴らした俺のデコピンは、富永の頭のみを運動エネルギーと逆方向に弾き、首がちぎれそうな勢いで富永の体はふき飛んだ。
「「「「……!?」」」」
ガタッと学園長たちと両サイドのベンチが立ちあがる。
凄まじい勢いで回転しながらぶっ飛び、頭から墜落した富永は、頭の前後からから血を流して失神した。
「……」
おい審判、口開いてるぞ。
「審判」
「……はっ! しょ、勝者! 宝晶千縁!!!」
「「「「うおォォォォォォォォ!!」」」」
「馬鹿な……」
審判の勝利宣言に、観客たちは大盛り上がりを見せる。それと反対に、両ベンチはシーン、と静まり返っていた。
「なんだ、5秒も要らなかったな」
今やったのは“過剰魔力濃縮”という技術だ。
門の中で鍛えられた俺は今まで、体が魔力を得たことによって強化された基礎身体能力のみで戦ってきた。
だが、【身体強化】のスキルで知られるように、魔力を体に注ぐことでさらに身体能力は上げることができる。
ただ、この方法はいくら修行したからといって【身体強化】スキルがないと体が爆発してしまう。
そのため、一工夫したのだ。
魔力を過剰なほど濃縮して、魔力が流れることを塞いでいるのだ。詳しく言えば球体を作って中に向かって流れるようにして漏れを塞いでる、的な?
だから一部分にしか強化を施せないし、強力な負荷がかかるから積極的に使用することはない技だ。
今回は後の選手に絶望を与えるために使用したが。
「おい……滝上……なんだ、あいつは……」
「宝晶……?」
「なっ……上級探索者に到達した富永が……一撃で……」
いい感じに選手たちに恐慌を与えられてるみたいだな。指と足めっちゃ痛いけど。例えるなら辞書小指に落とした痛みの10倍。
「つっ続いて第一学園中堅、三年上級探索者、袴田京介!!」
「……次はお前か?」
「うっ……」
よしよし、いい感じに腰が引けてるな。
さっきの場面ハイライトとか名場面とかで選んでくれないかなぁ。
のちのテレビ放送でこの一撃は『伝説の一撃』と呼ばれるのだが、それはまた別の話。
「袴田!!!! しっかりしろ!!!! 怖気つくな!!!!」
学園長席から第一学園長の叱責が轟く。
「はっはい!!」
(せっかく恐慌に陥れたのに学園長、やるな。一瞬で闘志を取り戻しやがった)
というか、学園長の助言は決勝戦じゃ禁止じゃなかったか?
審判とか誰も指摘しないけど……できないか。大阪は日本一の探索者街、その探索者を育てる学園の最高権力者だもんな。
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