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二章 “憐れみ掠する地獄の王”悪鬼編

第21話 第二学園大将戦、決着

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 俺の構えに、突進途中の鬼童丸がこれでもか、というほどに目を見開いた。

 【憑依】は、確かに対象の人格を大幅に引き寄せ、性格すら変貌させる。だが、あくまで主導権はスキルの保持者、この場合は鬼塚だ。
 この突進も、鬼塚が攻撃の意思を持って行ったのだろう。
 だが、どこかでこの構えを見たことがあるのか、鬼童丸は俺と鬼塚が接触する間際、目を見開くと同時に無理やり急停止して逃げようとする。

 だが、それはあと少し、致命的なまでに遅かった。

『蓮!! まずい!! あれは、あいつは──!』

「あ!?」

 鬼塚がそう発し薙刀を振り上げると同時に、俺は三叉槍を右肩のあたりから大きく弧を描くように動かす。

「──【虐殺】」

「──あ、?」

 ザンッッッ!!! と荒々しい攻撃に反して美しい音がした。
 同時に、鬼塚は膝をつき、何が起きたのかと自分の体を見下ろして……気づいた。

 今の一瞬で、俺は鬼塚の両手両足の付け根の関節を斬ったのだ。

 【虐殺】。俺が最初に入った地獄の門で出会った、使カウンターのような技だ。
 本来攻撃スキルであるが、最大限に威力を発揮するのは反撃の時なんだよな。
 鬼童丸も、どこかで見たことがあり、その恐ろしさを知っていたのだろう。全力で体に急ブレーキがかかっていた。しかし、一歩遅かったようだ。

「ぐっ……く、そ……」

「……終わりだ」

 俺は崩れ落ちた鬼塚に三叉槍を突きつける。

「まだだ……!! まだ……俺は……!!」

 鬼塚は無理矢理でも立ちあがろうとするが、足から血を吹き出して失敗する。多量のダメージからか、【憑依】の効力もかなり薄くなってきたようだ。

「無駄だ……それじゃもう、治療するまで四肢は使えない」

「くそ……くそっ!! こんな、ところで……!!」

 鬼塚はそれでも諦めない様子で、立ちあがろうとするも、手も足も使えないのにそれは不可能なことだ。

「審判」

「……え、あ! こ、この勝負は……」

「待て! 俺は、……!!」

 どよめく会場に、固まる審判。
 仕方なく俺が審判に声をかけると、審判は意識を取り戻したかのように宣言する。

「第二学園大将、鬼塚蓮戦闘継続不可! よって第四学園大将──」

 そこで審判は深呼吸をし、俺の名を呼んだ。

「──宝晶千縁の勝利ッッッッッ!!!!」

「「「「……」」」」

 一瞬皆が固まる。そして……

「「「「「「「うおおおおおおおおお!!!」」」」」」」

 一泊遅れ、大歓声が響き渡った。


~~~~~


「ごめん、ちょっといい!?」

「ん……はい、どうしました?」

 私……神崎美穂は、興奮した先輩の声に、“第一学園大将控え室”とある扉を開ける。

「ちょっと! 聞いた!? 今の試合!!」

「どうしたんですか? 確かになにかすごい歓声が起きてましたが……時間的に第三学園対第四学園でしょうか?」

 私は、もしかしたら第四学園が第三学園に勝ったりでもしたのか? それなら……と少し驚き、問う。ここ10年間は序列が変わってないからだ。

「違うの!! 今はまだ第二学園対第四学園よ!」

「……え?」

 第四学園がかなり粘ったということ? ……いや、この場合は第二学園が遊んでいた、という可能性の方が高いか。

「それがねっ、それがね!?!?」

「落ち着いてください」

 あまりにも興奮し、少し混乱すらしているような先輩に、私は一度落ち着くように言うが、その後の言葉を聞いて今度は私が落ち着きを保てなくなる。

 それもそのはず、次の先輩の言葉は……

「第四学園が、第二学園に勝ったのよ!!!!!!」

「……は?」

 だったからだ。


~~~~~



「「「「「うおおおお!!」」」」」

「嘘だろ!? おい!?」

「まさか……いや、これ夢だよな!?」

「んな……まさか……」

 俺がベンチに戻ると、第四学園サイドから喉が張り裂けんばかりの歓声を浴びることとなった。

「ちよ……まさか……そんな……」

「さすがです兄貴!! 俺たちは信じてました!!」

「……!」

 皆が皆あり得ない、と頬をつねったり目を擦ったりしている。
 それもそのはず、俺は10年ぶりの快挙を、半ば一人で成し遂げたんだからな。

「宝、晶……」

「あ、学園長」

 そんな半数は呆然、半数は大騒ぎする中で、学園長は開いた口が塞がらない、といった表情で俺を見つめていた。

「まさか……いや、本当に……」

「だから、言ったじゃないですか」

 言葉が出てこない滝上学園長に、俺はからかうように笑って、再び告げた。

「明日からは俺たちが第一学園だって」

「「「「おおおおー!!!!!!!」」」」

「……!」

 学園長はヒュッと息を吸う。

 もう三度目となる俺のこの宣言を疑うものは、いなかった。


~~~~~


「なんということだ……なんということだっ!?」

「誰だ! 彼は誰なんだ!? 今すぐ調べろ!!」

「あの“悪童”を……あれは将来、この国を救う者になる! 絶対にコンタクトを取るんだ!!」

 一方、VIP席の老人たちの間では怒号が飛び交っていた。
 ここには、実況の鏡秀以外にも、本来“神童”と“悪童”を見るために集まった政府の者や、ギルドマスターもいるのだ。第四学園が“悪童”に勝つところを見た彼らは、急いで千縁の情報を探らせる。
 だが、千縁は2ヶ月前まで魔力値最底辺スライムハンターだったため、大した情報が見つからない。

 その事実に気づくはずもない国の重鎮たちは、完全な情報統制が行われていると思い、戦慄する。

 そんな中、千縁の情報に心当たりがある人物が一人。
 大阪探索者協会協会長ギルドマスターだ。

(まさか……)

 彼は昨日、大阪の協会本部を任せておいた上級探索者の斎藤重吾から聞いていたのだ。
 「“神童”を思わせるレベルの新人が第四学園学園長の推薦で特別ランクアップを受けにきた」と。
 聞けば、今日の大会に出場すると聞いていたそうで、それなら出席が決まっているしついでに見ておくか……と思っていたのだが……。

(おいおい。下級探索者から中級に上がっただけじゃなかったのかよ!)

 てっきり“神童”が下級から中級になった時と同じくらいの実力かと思ったんだが……いや、それでもニュースになるであろうくらいにはすごいのだが……

「騙された……まさか今の“神童”レベルとは……」

 騙されたと言うより、詳細を聞いてなかった自分が悪いのだが……ギルドマスターである海原真かいばらまことはそんなことは棚に上げて呟いた。

(しかし、あいつなら……)

 海原真は、東京でつい先日議論してきたことについて思い出す。

(……それよりも今は、“神童”との対決が楽しみだ)

 海原は嫌な記憶を振り払うように頭を振ると、ついに相見あいまみえた宝晶千縁と“神童”神崎美穂の戦いに集中するのだった。
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