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二章 “憐れみ掠する地獄の王”悪鬼編
第20話 “悪童”
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「何が、何が起きているッッッ!?!?」
実況の上級探索者である鏡秀は、あまりにも予想外な、そして予想以上に対等に戦う二人をみて、仕事中なのについつい口からそんな言葉がこぼれる。
実況っぽくも聞こえなくはないため、横の理事長らは何も言ってこない。……いや、例え仕事を忘れて見入っていたとしても、この方達も絶句して何も言えないだろう。
最初、この実況席&VIP室となっているこの場にいる全員が、“神童”に“悪童”は勝てるのだろうか、や今年はどんな面白いバトルが見られるか、と第一学園対第二学園の話しかしていなかった。
だから当然、第四学園の先鋒が秒殺された時、皆ああ、当たり前だな、と流して見向きもせず、雑談に花を咲かせていた。
確かに次鋒が善戦をしたのは皆驚いたが、相性というのもあっただろう。その後も中級探索者がいたことに少し驚いたりもしたが、それでも相手と比べれば同格以下。実際三人も倒せずに大将となった。
ここまででも皆、今年の第四学園は善戦しましたねぇ、や流石黄金世代ですねぇ、などと笑顔を浮かべていた。
だが、あれの登場で、全てが変わった。
一年にして中級探索者。第二学園ですら下級探索者で入学することもそこそこあるというのに、一年中級探索者は第四学園にもう二人目だ。
それほどの逸材が第四学園に揃っていることにも皆驚いたようだが、それ以上に驚いた……いや、恐怖を感じたのはその実力だった。
初めは誰もが、中級なりたてあたりだろうと、倒せても一人だろうと鷹を括っていた。
だが、あろうことはあいつは、上級探索者でも手を焼く、使い手もそこそこいる【綱身化】した三年中級探索者の和田の腕を当然の如く切り飛ばし、降参させたのだ。
それは、圧倒的な力の差に相手が絶望したことに相違ない。
蛇腹剣など、ダンジョン化の影響で実現した、そう、実現しただけ。というだけのロマン武器のようなものを使いこなしており、更に変形させ、さまざまな武器種を扱ってすらいるのと同義だ。
我々は皆言葉を失い、なんとか捻り出すようにして彼の勝ちを宣言する。
そして、彼は立て続けに上級探索者間近である副将、水月由梨すらをも圧倒した。
全く訳のわからないまま、私は彼を称賛することしかできなかった。
ついには“悪童”と対峙する。
我々の間にもはや言葉はなく、ごくりと生唾を飲み込む音だけが間々聞こえるだけだった。
あの【鬼化】した“悪童”、上級探索者上位の力を持つ彼と対等に戦う彼。
もしや彼なら、この日本の黄金世代にさらなる旋風を巻き起こしてくれるのではないだろうか。
疑問は無限に出てくるが、我々は今、彼が見せる可能性に目を奪われているしかなかった。
~~~~~
「……何者なんだ、お前は!」
「どうした? 鬼童丸。散々イキリ散らかしてたくせにまだ一般人一人倒せないか?」
「ほざけっ! この猫かぶりが!」
俺の挑発にキレながらも、鬼童丸は多彩な攻撃を繰り出し続けていた。
斜め斬りと見せかけてフェイント突き、それすらもフェイントとする回転斬り。
半分斬りかけているのにも関わらず、鬼の常識を超えた膂力によって無理やり軌道を反対に変える変則斬り。
そのどれもが並の上級探索者を一瞬で溶かすほどの超火力を誇っている。
それを俺は交わし続け、少しづつだが攻撃を入れていく。
その事実に腹が立つのか、鬼童丸は一層ブチ切れながらも俺と対峙する。
流石に、キレさせても隙を見せたりはしてくれないが、短気である鬼をキレさせるのは楽しい。
俺たちの、というより俺の予想を遥かに超える善戦に、むしろ少しづつ押してる様に、観客もベンチの選手も皆がザワザワ、と、歓声というよりどよめきの声を挙げる。
まさか……あの“悪童”ですら……
何者なんだ? あんなぽっと出の奴が“悪童”と同等以上なのか?
もしかして“悪童”は何か全力を出せない理由があるのか? それとも、弱くなってしまったのか?
といった会話が、そこかしこから聞こえる。
魔力によって大幅強化された俺の聴覚は観客席の声も一部拾える程だが、鬼童丸を【憑依】している今なら、鬼塚の耳にも聞こえたはずだ。
鬼童丸は自分が舐められていると分かると、顔を更に赤く染めて、苛烈な攻撃を繰り出す。
「雑魚のくせに……!!」
「【螺旋拳】」
「……しまっ!」
【螺旋拳】のように、本来隙がある接近スキルを当てるのに一番いいのは“隙をなくす”ことだ。そのため、俺は二の腕で槍などの武器を押さえることで、腕を腰まで引き絞るモーションと兼用している。
まあ、そこまでわかってるわけではないだろうが、先ほどの試合でも使っていた時に武器を押さえてバランスを崩して放ったことから察し、薙刀を刺す動作をした鬼童丸は「しまった」という表情を浮かべた。
「ガッ……!」
鬼童丸はかなりの距離ぶっ飛ぶ。が、またすぐに起き上がると再び全速で突っ込んでくる。
「な、な、何が起きているんだッ!? 目にも止まらぬ高度な戦いがくり広げられているッ!? とても学生大会とは思えないィィィ!!」
「テメェッ……! なぜだ……なぜ攻撃が、当たらないッッ!!」
戦い続けて10分ほど。
鬼童丸に何度か攻撃を当て、かなりのダメージを与えたはずだ。
それに対して俺の方は、無傷とは言えないがかなり傷が少ない。堅実に攻撃を防ぎ続けていたからだ。
鬼童丸が怒りと焦りを交えた声で叫んで攻撃を繰り出してくるが、ここで俺は初めて、攻勢に回った。
「らあッ!!!!」
「……チッ!!!」
お互いに凄まじい力で武器をぶつけ合い、両者その体を吹き飛ばされる。
そして距離ができた時、俺は鬼童丸にこちらから話しかけた。
「なあ、もう終わりにしようぜ?」
「ああ!?」
そういって俺は武器を三又の槍……三叉槍に切り替え、足を大きく開いて構えた。
「舐めるなよ……俺様はまだまだ……これからが勝負だッッ!!」
そう言うと鬼童丸はこちらへ突進し──
──勝負は、一瞬でついた。
実況の上級探索者である鏡秀は、あまりにも予想外な、そして予想以上に対等に戦う二人をみて、仕事中なのについつい口からそんな言葉がこぼれる。
実況っぽくも聞こえなくはないため、横の理事長らは何も言ってこない。……いや、例え仕事を忘れて見入っていたとしても、この方達も絶句して何も言えないだろう。
最初、この実況席&VIP室となっているこの場にいる全員が、“神童”に“悪童”は勝てるのだろうか、や今年はどんな面白いバトルが見られるか、と第一学園対第二学園の話しかしていなかった。
だから当然、第四学園の先鋒が秒殺された時、皆ああ、当たり前だな、と流して見向きもせず、雑談に花を咲かせていた。
確かに次鋒が善戦をしたのは皆驚いたが、相性というのもあっただろう。その後も中級探索者がいたことに少し驚いたりもしたが、それでも相手と比べれば同格以下。実際三人も倒せずに大将となった。
ここまででも皆、今年の第四学園は善戦しましたねぇ、や流石黄金世代ですねぇ、などと笑顔を浮かべていた。
だが、あれの登場で、全てが変わった。
一年にして中級探索者。第二学園ですら下級探索者で入学することもそこそこあるというのに、一年中級探索者は第四学園にもう二人目だ。
それほどの逸材が第四学園に揃っていることにも皆驚いたようだが、それ以上に驚いた……いや、恐怖を感じたのはその実力だった。
初めは誰もが、中級なりたてあたりだろうと、倒せても一人だろうと鷹を括っていた。
だが、あろうことはあいつは、上級探索者でも手を焼く、使い手もそこそこいる【綱身化】した三年中級探索者の和田の腕を当然の如く切り飛ばし、降参させたのだ。
それは、圧倒的な力の差に相手が絶望したことに相違ない。
蛇腹剣など、ダンジョン化の影響で実現した、そう、実現しただけ。というだけのロマン武器のようなものを使いこなしており、更に変形させ、さまざまな武器種を扱ってすらいるのと同義だ。
我々は皆言葉を失い、なんとか捻り出すようにして彼の勝ちを宣言する。
そして、彼は立て続けに上級探索者間近である副将、水月由梨すらをも圧倒した。
全く訳のわからないまま、私は彼を称賛することしかできなかった。
ついには“悪童”と対峙する。
我々の間にもはや言葉はなく、ごくりと生唾を飲み込む音だけが間々聞こえるだけだった。
あの【鬼化】した“悪童”、上級探索者上位の力を持つ彼と対等に戦う彼。
もしや彼なら、この日本の黄金世代にさらなる旋風を巻き起こしてくれるのではないだろうか。
疑問は無限に出てくるが、我々は今、彼が見せる可能性に目を奪われているしかなかった。
~~~~~
「……何者なんだ、お前は!」
「どうした? 鬼童丸。散々イキリ散らかしてたくせにまだ一般人一人倒せないか?」
「ほざけっ! この猫かぶりが!」
俺の挑発にキレながらも、鬼童丸は多彩な攻撃を繰り出し続けていた。
斜め斬りと見せかけてフェイント突き、それすらもフェイントとする回転斬り。
半分斬りかけているのにも関わらず、鬼の常識を超えた膂力によって無理やり軌道を反対に変える変則斬り。
そのどれもが並の上級探索者を一瞬で溶かすほどの超火力を誇っている。
それを俺は交わし続け、少しづつだが攻撃を入れていく。
その事実に腹が立つのか、鬼童丸は一層ブチ切れながらも俺と対峙する。
流石に、キレさせても隙を見せたりはしてくれないが、短気である鬼をキレさせるのは楽しい。
俺たちの、というより俺の予想を遥かに超える善戦に、むしろ少しづつ押してる様に、観客もベンチの選手も皆がザワザワ、と、歓声というよりどよめきの声を挙げる。
まさか……あの“悪童”ですら……
何者なんだ? あんなぽっと出の奴が“悪童”と同等以上なのか?
もしかして“悪童”は何か全力を出せない理由があるのか? それとも、弱くなってしまったのか?
といった会話が、そこかしこから聞こえる。
魔力によって大幅強化された俺の聴覚は観客席の声も一部拾える程だが、鬼童丸を【憑依】している今なら、鬼塚の耳にも聞こえたはずだ。
鬼童丸は自分が舐められていると分かると、顔を更に赤く染めて、苛烈な攻撃を繰り出す。
「雑魚のくせに……!!」
「【螺旋拳】」
「……しまっ!」
【螺旋拳】のように、本来隙がある接近スキルを当てるのに一番いいのは“隙をなくす”ことだ。そのため、俺は二の腕で槍などの武器を押さえることで、腕を腰まで引き絞るモーションと兼用している。
まあ、そこまでわかってるわけではないだろうが、先ほどの試合でも使っていた時に武器を押さえてバランスを崩して放ったことから察し、薙刀を刺す動作をした鬼童丸は「しまった」という表情を浮かべた。
「ガッ……!」
鬼童丸はかなりの距離ぶっ飛ぶ。が、またすぐに起き上がると再び全速で突っ込んでくる。
「な、な、何が起きているんだッ!? 目にも止まらぬ高度な戦いがくり広げられているッ!? とても学生大会とは思えないィィィ!!」
「テメェッ……! なぜだ……なぜ攻撃が、当たらないッッ!!」
戦い続けて10分ほど。
鬼童丸に何度か攻撃を当て、かなりのダメージを与えたはずだ。
それに対して俺の方は、無傷とは言えないがかなり傷が少ない。堅実に攻撃を防ぎ続けていたからだ。
鬼童丸が怒りと焦りを交えた声で叫んで攻撃を繰り出してくるが、ここで俺は初めて、攻勢に回った。
「らあッ!!!!」
「……チッ!!!」
お互いに凄まじい力で武器をぶつけ合い、両者その体を吹き飛ばされる。
そして距離ができた時、俺は鬼童丸にこちらから話しかけた。
「なあ、もう終わりにしようぜ?」
「ああ!?」
そういって俺は武器を三又の槍……三叉槍に切り替え、足を大きく開いて構えた。
「舐めるなよ……俺様はまだまだ……これからが勝負だッッ!!」
そう言うと鬼童丸はこちらへ突進し──
──勝負は、一瞬でついた。
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