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二章 “憐れみ掠する地獄の王”悪鬼編

第16話 生徒会長の覚悟

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「さあ、第二学園の先鋒を討ち取った剛田選手を倒した本田選手に立ちはだかるは第四学園、一年、中級探索者の加藤俊介だァァァ!!」

 第四学園で1年の中級探索者と聞いて本田はピクッと反応したが、すぐにポーカーフェイスに戻って大剣を分離する。

「それでは第四試合、開始!!」

「【ファイアバレット】!」

「ふん……!」

 加藤は初手で炎の弾丸を3つ放つ。
 だが、本田は意にも介さず一つを転がって避け、一つをジャンプで避け、最後の一つを切り捨てて接近する。

 魔法を切り捨てたと言うことは、やっぱりあの剣は魔道具か。何円したのだろうか。

「っ!」

「試合中に焦るな。さっさと次を放て!」

 一瞬加藤は動揺するも、振るわれた剣を回避してカウンターを放つ。

「【フレイムスピア】!!」

「チッ!」

 加藤の放てる最大火力の魔法に、流石の本田も一旦距離を離す。

「魔法使いね……悪いな」

「あ?」

 本田は双剣を大剣に戻すと、加藤に接近する。

「【ファイアランス】!!」

 加藤はそれに対し、炎の槍を作り出して打ち合う。

「魔法使いが……!?」

 本田が膂力で押し切ろうとしたその時、炎の槍が空気に溶け込んで熱波を生み、バランスを崩した本田の皮膚を焼きにかかる。

「何っ!?」

「喰らえ──【フレイムスピア】!!」

 後退しようとする本田に、加藤は必殺の間合いで【フレイムスピア】を放つ。
 本田は避けようとするも、間に合わない……

 チュドオオオン!!

「「「…………」」」

「……」

 会場が緊張で静まり返る。
 どっちが勝ったのか……

 結果は。
 煙が晴れる。そこに見えたのは……

「ぐっはぁ、……!」

「お前……やるな」

 大剣に突き刺された加藤と、薄い膜に守られている本田だった。

「加藤!!」

「キャアア!!」

「よくやった本田!!」

 観客たちが一斉に歓声を上げる。
 だが、本田もアーマーのようなものを纏っているが、流石に大ダメージを受けたようだ。

「まさか俺の【マジックアーマー】を破るとは……中級の中でも中々強いじゃないか……何故第四学園に?」

「くっ……そっ……!」

 加藤が倒れる。

「まだだ……! 俺は、まだ……ぐっ」

「そこまで! 第四試合、勝者は第二学園、本田義道!」

「「「「うおおおおおお!!」」」」

「「「……」」」」

 加藤がベンチに運ばれてくる。治療はされたが、まだ気絶してるようだ。

「花澤……いけるか?」

 学園長は、極めて冷静に言う。
 こういう雰囲気には慣れているのだろう。

「はは、無理言わないでくださいよ学園長。俺は加藤くんより魔法も弱いし属性も水ですよ?」

 花澤さんはおちゃらけたようにそう言って……顔を引き締めた。

「覚悟はできてますけど」

「……ああ。行ってこい。三年代表の意地を見せてやるんだ」

「先輩」

「ん? どうしたんだい千縁くん」

「あのアーマー、加藤の攻撃で左肩に穴が開いてます。恐らく修復不可なレベルでダメージを受けてますし、魔法使いじゃないので魔力がなく修復出来ないんでしょう。次の試合でも壊れたままのはずですし、そこを狙ってください」

 (見た目は普通に完全な膜が形成されているように見えるが……千縁くんはこの距離で煙の中、どこにフレイムスピアが当たったのかを見ていたって言うのか!?)

「あ、ああ。ありがとう。自信が出てきたよ」

 生徒会長である花澤彰人は、ちよの能力スペックに度肝を抜かれたのだったが、なんとかそう、絞り出したのだった。


~~~~~



「さあ! 試合も後半戦! 立て続けに第四学園を破った本田義道選手に対抗するは、第四学園副将! 三年、下級探索者の花澤義道ィィィ!!」

「「「花澤くん!! 頑張ってぇぇぇ!!!!」」」

「会長! 俺たちの代わりに勝利をもぎ取ってくれぇ!!」

「おお、会長なのか、君は」

「ええ……全く第二学園が相手だってのに気が重いですね……」

 俺たちのベンチは一層激しい応援が巻き起こる。
 皆生徒会長、つまり第四学園三年のトップに最後の望みを見ているのだろう。

 ……忘れてるかもしれんけど、この後俺の出番あるんだぞ? この次に出るのなんか雰囲気嫌なんだけど……

「それでは第五試合、開始!!」

「……」

「……」

 今度は、本田は剣を分離せず様子見をしている。対して、先輩も沈黙のまま。お互いを警戒しあっている。

「おっとー! ここにきて初の展開! 両者睨み合いだー!」

「お前も、魔法使いか……」

「ああ。残念ながら。相性が悪くなきゃ勝てたと思うんだけどなぁ」

 二人はジリジリと迫りながら、言葉をぶつけ合う。

「へえ? その言い方じゃ勝つのを諦めたふうに聞こえるんだが……それなら降参しないのか?」

「はは、まさか。覚悟は決めてきたんでね」

 先輩の煽りにも一切動じない本田。
 一歩づつ、迫り来る衝突に観客が湧き上がる中、お互いのベンチは緊張で静まっていた。

「じゃあ……行くぞ!」

「ああ、【ウォータージェット】」

 大剣を肩に構えて踏み込んだ本田に対し、先輩は足へ水のレーザーを放つ。

 だが、ここで驚くべきことが起こる。
 本田はさらに、二度地を踏み加速したのだ。
 その際に足は浮き上がり、【ウォータージェット】を交わす。そして、一瞬にして懐に入り込まれた先輩は……

「タッチ……グゥ!?」

「何? ……がはっ!」

 脇腹を千切られて、同時に本田の左肩に手を当てた。直後、本田の左肩から湯気が上がる。

 そして……

 ドオオオオオン!!!!

「「「「!?」」」」

 水蒸気爆発を起こした。

 左肩が弱まってるのは、本田自身も気づいているはず。だから格上の本田の隙を狙うなんて到底無理な話だった。
 だが、本田の武器は大剣だ。振る時は肩が空く。
 だから確実に当てるため、花澤先輩は攻撃を敢えて喰らって、反撃することにしたのだ。
 自らをも巻き込む最大威力で。

「先輩っ!!」

「キャアア!!」

「会長!!」

(だけど、あれはやりすぎだ!!)

 第四学園側から焦燥の声が上がる。対して、第二学園は【マジックアーマー】で無事だろう、と考えていた。
 しかし……

「「「なっ!?」」」

「これは……予想外だああ!! なんと、両者一撃で決着がついたああ!! 第五試合、両者相打ちィィィ!!」

 土煙の先では、二つの人影が倒れていた。

(まさか左肩を狙うために、自爆するなんて……)
 
 正直言っても当てられないか、と思っていた。
 運ばれてきた花澤さんの目は閉じていたが……途中、口元がわずかに動く。

『後は頼む』

「……」

「よくやった、よくやったぞ花澤……! 第二学園相手に二人も落とすことができた……! 後は宝晶にまかせてゆっくり休めよ……!」

 学園長は、花澤さんの覚悟を見て拳に力を入れると、こちらへ振り返った。

「宝晶……次の試合、勝てる見込みはあるか?」

 その声色は、不安が多分に含まれていて……期待を孕んでいた。

「当然ですよ学園長。ほんとの試合はここからなんで」

 俺は、最初の興奮は何処やら、お通夜ムードになっているベンチの皆を励ますように言い放つ。

「一人じゃぁ終わりません。三人。“悪童”も倒すんで。次は第一学園との決勝ですよ!」

 俺の本心からの自信に、少し明るくなった学園長は、笑みを浮かべて俺を送り出した。

「行ってこい! お前の力を見せてやれ!!」

「「「「「おおおおおお!!」」」」

 そしてついに、俺の番が来た。
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