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一章 目覚めと出会い編
第13話 学園対抗祭直前
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「……今日はありがとね」
「ん? ああ、こっちこそ」
優香が俺の腕をガシッと掴んでくる。
「?」
「そっその、また何かあったら怖いから……」
ああ、確かにな。鬼塚にも威勢良く立ち上がったが、そりゃ怖かったよな。
急に腕を掴まれたから攻撃されるのかと思った。
「なるほど。流石に一日に何度もないとは思うが……今日は愚痴聞いてやれなくて悪かったな」
「あ、いや……別に、今日はそれが目的じゃないから……」
「え?」
俺は、ぽつ、っと言った優香の言葉を超聴覚で拾う。
「いや、今日はっ……」
ああ、今日はもしかしてサーカス見るだけが目的だったのか? なら他の友達と行けばいいものを……もしかして、友達いないのか。
「ああ、悪かったな勘違いして」
「ちょっと!? その残念系アイドル見るような目線やめなさいよ!」
おーうドンピシャで当てられてる。
しかし、優香は目立つな。変装も何にもしてないし知ってる人がいるのも当然か。知らなくても可愛いことには変わりないし。
今もちらちらと優香を見る視線を多数感じる。
「んじゃ、ここまでで」
「え?」
俺は駅に着いたので、そう言って優香を引き剥がす。
「……普通女の子は家まで送ってあげなきゃだよ?」
「それはストーカーな。じゃあまた」
「あっちょっ!?」
(今日の分の鍛錬が溢れてんだよ……!)
俺は反対車線の電車に乗り込むと、今日の分の鍛錬をしにダンジョンへ向かった。
「察してよね……」
優香のそのつぶやきは、誰にも聞こえなかった。
~~~~~
「痛ってぇな……ったく、対抗戦前じゃなきゃやり合ったってのに、なかなかどうして腹がたつな……」
「それで謹慎くらったら“神童”と再戦できなくなるわよ」
「ああ、だからちゃんと我慢したろうが! チッ……でも、あいつなんだったんだ?」
鬼塚は、肋骨を押さえながら連れの女子に聞いてみる。
だが、女子の方も肩をすくめて首を振るだけだ。
「でも本当になんだろね……“悪童”を一撃で吹き飛ばすなんて“神童”くらいじゃないと……」
「……いや」
“悪童”。“神童”と対としてそう呼ばれるのは、鬼塚蓮。
その性格とスキルから悪童と呼ばれる彼は、第二学園に今年入学したエースだ。
第一学園の“神童”に第二学園に入った“悪童”。学生一年目にして超級と上級上位の二人がいるから、この世代は日本で“黄金世代”と言われている。
今日本にいる超級に達した探索者の平均年齢が30代だと考えると、10代後半で上級、ましてや超級に達した二人は控えめに言って“異常”と言える。
「?」
「吹っ飛んだだけじゃねぇ。あれで骨にヒビがいった」
「え!?!? 鬼塚君の魔力値は!?」
「ああ。655だな」
魔力値、魔物を倒すことで手に入る能力値が高いほど基礎的な身体能力は上がる。
今の鬼塚は車に轢かれても少し痛い、くらいしか感じない身体能力を持っている。それをただの蹴り一発でヒビを入れたのだ。
「そんな倍率の高い【身体強化】が……」
「ああ。同学年に見えたが……第一学園の秘蔵っ子……ってとこだろうな」
第二学園の学園対抗戦代表である二人は、新たな強敵の登場に気合を入れ直したのだった。
~~~~~
「千縁ー今日昼休み生徒会室集合だってよー」
「あー? わかったー」
もう学園対抗祭1週間前だ。
俺は先生から生徒会室に呼び出される。
「あ、兄貴もっすか!」
「兄貴はうちのエースですからね!」
「おう……お、悠大も呼ばれたのか」
俺が同じく呼ばれた三郎と竜二とともに生徒会室に行くと、そこにはすでに悠大と先輩たち、そして加藤がいた。
「……」
「……」
俺は悪くないと思うが、なんか気まずくって軽く片手を上げた。加藤も同じように返す。
加藤のことはそれっきりにして、先輩たちに自己紹介をする。
「ども。宝晶千縁です」
「ああ、君が今年のエースなんだよね? 僕は花澤彰人。3年だ」
「全く、今年の一年は黄金世代なんだなぁ……私は白城春。2年生だよ!」
「俺は剛田。3年」
剛田さんはあんまり喋るのが好きじゃないのかな?
俺たちが自己紹介をしていると、学園長である滝上由良が入ってきた。
「「「「こんにちは」」」」
「おお……何もいう前から自己紹介は済ませてくれたみたいだね。話が早くなるから助かる」
「先生、今日集まったのは来週の学園対抗祭のことですよね?」
俺は早速学園長に尋ねる。
「ああ。今日は出場生全員に顔合わせしてもらおうと思ってな。あとは、出場競技の決定だ」
大阪四校学園対抗祭では、一番盛り上がる『学園対抗戦』以外にも、特別なダンジョンにアイテムや魔物を配置してポイントを競う『ダンジョン探索戦』というものがある。
学園対抗戦は先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の5人からなる勝ち抜き型の一対一だ。
それに対してダンジョン探索戦は、5人でパーティを組んで四校同時に行われる総合力の勝負となっている。
「まず、学園対抗戦に出場するメンバーだが……」
学園長は順番にメンバーを発表していく。
先鋒 白城春
次鋒 剛田マサル
中堅 加藤俊介
副将 花澤彰人
大将 宝晶千縁
「以上、このようになっている。異議申し立てはまあ……千縁のところ以外は受け付けるからなんでも言ってくれ」
「あれ、加藤は中堅なんですか? 副将じゃなくて」
俺は、この学校で二番目に強い加藤が中堅にいる理由について学園長に尋ねる。
「ああ、中盤で加藤に相手を削ってもらうのがいいんじゃないかって思ってな。何かいい策はあるか?」
「そうですね……」
他の皆はこの順番に意義はないようだ。
まあ正直戦略的にいうと俺が先鋒で全員倒せばいいのだが……そういうわけにもいかないしな。
「全然、完璧だと思います」
「そうか……。では、ダンジョン探索戦だが……」
ダンジョン探索戦のメンバーは以下の通りらしい。
岩田悠大
田中三郎
森山竜二
水谷浩太
河原凌
下二人は先輩たちだ。
俺が教えたからか、同級生、同クラス、それに俺の知り合いが半分を占めてるわけだな。いや、それは自意識過剰か。
「じゃあ、各グループ作戦を立てて行こう。今年は本気で勝ちに行くからな!」
学園長の珍しく気合の入った言葉により、俺たちは号令をあげた。
────────────────────
これにて一章「目覚めと出会い」編は完結です。
次回より二章「“憐れみ掠する地獄の王”悪鬼」編が始まります。
「ん? ああ、こっちこそ」
優香が俺の腕をガシッと掴んでくる。
「?」
「そっその、また何かあったら怖いから……」
ああ、確かにな。鬼塚にも威勢良く立ち上がったが、そりゃ怖かったよな。
急に腕を掴まれたから攻撃されるのかと思った。
「なるほど。流石に一日に何度もないとは思うが……今日は愚痴聞いてやれなくて悪かったな」
「あ、いや……別に、今日はそれが目的じゃないから……」
「え?」
俺は、ぽつ、っと言った優香の言葉を超聴覚で拾う。
「いや、今日はっ……」
ああ、今日はもしかしてサーカス見るだけが目的だったのか? なら他の友達と行けばいいものを……もしかして、友達いないのか。
「ああ、悪かったな勘違いして」
「ちょっと!? その残念系アイドル見るような目線やめなさいよ!」
おーうドンピシャで当てられてる。
しかし、優香は目立つな。変装も何にもしてないし知ってる人がいるのも当然か。知らなくても可愛いことには変わりないし。
今もちらちらと優香を見る視線を多数感じる。
「んじゃ、ここまでで」
「え?」
俺は駅に着いたので、そう言って優香を引き剥がす。
「……普通女の子は家まで送ってあげなきゃだよ?」
「それはストーカーな。じゃあまた」
「あっちょっ!?」
(今日の分の鍛錬が溢れてんだよ……!)
俺は反対車線の電車に乗り込むと、今日の分の鍛錬をしにダンジョンへ向かった。
「察してよね……」
優香のそのつぶやきは、誰にも聞こえなかった。
~~~~~
「痛ってぇな……ったく、対抗戦前じゃなきゃやり合ったってのに、なかなかどうして腹がたつな……」
「それで謹慎くらったら“神童”と再戦できなくなるわよ」
「ああ、だからちゃんと我慢したろうが! チッ……でも、あいつなんだったんだ?」
鬼塚は、肋骨を押さえながら連れの女子に聞いてみる。
だが、女子の方も肩をすくめて首を振るだけだ。
「でも本当になんだろね……“悪童”を一撃で吹き飛ばすなんて“神童”くらいじゃないと……」
「……いや」
“悪童”。“神童”と対としてそう呼ばれるのは、鬼塚蓮。
その性格とスキルから悪童と呼ばれる彼は、第二学園に今年入学したエースだ。
第一学園の“神童”に第二学園に入った“悪童”。学生一年目にして超級と上級上位の二人がいるから、この世代は日本で“黄金世代”と言われている。
今日本にいる超級に達した探索者の平均年齢が30代だと考えると、10代後半で上級、ましてや超級に達した二人は控えめに言って“異常”と言える。
「?」
「吹っ飛んだだけじゃねぇ。あれで骨にヒビがいった」
「え!?!? 鬼塚君の魔力値は!?」
「ああ。655だな」
魔力値、魔物を倒すことで手に入る能力値が高いほど基礎的な身体能力は上がる。
今の鬼塚は車に轢かれても少し痛い、くらいしか感じない身体能力を持っている。それをただの蹴り一発でヒビを入れたのだ。
「そんな倍率の高い【身体強化】が……」
「ああ。同学年に見えたが……第一学園の秘蔵っ子……ってとこだろうな」
第二学園の学園対抗戦代表である二人は、新たな強敵の登場に気合を入れ直したのだった。
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「千縁ー今日昼休み生徒会室集合だってよー」
「あー? わかったー」
もう学園対抗祭1週間前だ。
俺は先生から生徒会室に呼び出される。
「あ、兄貴もっすか!」
「兄貴はうちのエースですからね!」
「おう……お、悠大も呼ばれたのか」
俺が同じく呼ばれた三郎と竜二とともに生徒会室に行くと、そこにはすでに悠大と先輩たち、そして加藤がいた。
「……」
「……」
俺は悪くないと思うが、なんか気まずくって軽く片手を上げた。加藤も同じように返す。
加藤のことはそれっきりにして、先輩たちに自己紹介をする。
「ども。宝晶千縁です」
「ああ、君が今年のエースなんだよね? 僕は花澤彰人。3年だ」
「全く、今年の一年は黄金世代なんだなぁ……私は白城春。2年生だよ!」
「俺は剛田。3年」
剛田さんはあんまり喋るのが好きじゃないのかな?
俺たちが自己紹介をしていると、学園長である滝上由良が入ってきた。
「「「「こんにちは」」」」
「おお……何もいう前から自己紹介は済ませてくれたみたいだね。話が早くなるから助かる」
「先生、今日集まったのは来週の学園対抗祭のことですよね?」
俺は早速学園長に尋ねる。
「ああ。今日は出場生全員に顔合わせしてもらおうと思ってな。あとは、出場競技の決定だ」
大阪四校学園対抗祭では、一番盛り上がる『学園対抗戦』以外にも、特別なダンジョンにアイテムや魔物を配置してポイントを競う『ダンジョン探索戦』というものがある。
学園対抗戦は先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の5人からなる勝ち抜き型の一対一だ。
それに対してダンジョン探索戦は、5人でパーティを組んで四校同時に行われる総合力の勝負となっている。
「まず、学園対抗戦に出場するメンバーだが……」
学園長は順番にメンバーを発表していく。
先鋒 白城春
次鋒 剛田マサル
中堅 加藤俊介
副将 花澤彰人
大将 宝晶千縁
「以上、このようになっている。異議申し立てはまあ……千縁のところ以外は受け付けるからなんでも言ってくれ」
「あれ、加藤は中堅なんですか? 副将じゃなくて」
俺は、この学校で二番目に強い加藤が中堅にいる理由について学園長に尋ねる。
「ああ、中盤で加藤に相手を削ってもらうのがいいんじゃないかって思ってな。何かいい策はあるか?」
「そうですね……」
他の皆はこの順番に意義はないようだ。
まあ正直戦略的にいうと俺が先鋒で全員倒せばいいのだが……そういうわけにもいかないしな。
「全然、完璧だと思います」
「そうか……。では、ダンジョン探索戦だが……」
ダンジョン探索戦のメンバーは以下の通りらしい。
岩田悠大
田中三郎
森山竜二
水谷浩太
河原凌
下二人は先輩たちだ。
俺が教えたからか、同級生、同クラス、それに俺の知り合いが半分を占めてるわけだな。いや、それは自意識過剰か。
「じゃあ、各グループ作戦を立てて行こう。今年は本気で勝ちに行くからな!」
学園長の珍しく気合の入った言葉により、俺たちは号令をあげた。
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これにて一章「目覚めと出会い」編は完結です。
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