上 下
12 / 61
一章 目覚めと出会い編

第12話 デートと遭遇

しおりを挟む
「おはよう! ちよ君!」

「ん、優香おはよう」

 日曜。
 第四学園と第二学園の間の、以前優香に出会った場所の近くにある大舎駅で、俺は優香と待ち合わせした。

「で、今日は急にどうしたんだ? サーカスに行きたいって」

「あ、ああ~えっとね、お母さんがチケットくれたのよね」

 優香はそう言って、スーパーサーカスの最前列チケットを一枚手渡してくれた。

「へぇ、そんなこともあるんだな」

 にしてもサーカスか。行ったことないな。
 ダンジョンが出現してから、サーカスの人気が急上昇している。
 特殊な能力を手に入れた人たちが集まって、従来ありえないような挙動で芸をするからだ。それらを一部残る昔ながらのサーカスと区別して、スーパーサーカスと呼ぶ。

「と、とりあえず行きましょ! なかなか見れないんだから!」

「お、おう、そうだな」

 何か焦っている優香に押されて、俺は劇場へ向かった。

「私初めてきた!」

「おお、結構珍しいもんな」

「ねぇ~ゆうくんもあんなのできないの~?」

「出来ねぇよ! 俺土魔法使いだから」

 俺たちが着くと、もう会場はたくさんの人で埋まっていた。
 今はメインの準備中に軽い曲芸をステージで披露していたところらしい。

「レディースアーンドジェントルメーン! 本日はご来場いただきありがとうございマース! どうぞ我々『白黒無常隊』の技で、お楽しみくだサーイ!」

「白黒無常……だと!?」

「えっ、ちよ君知ってるの!?」

 俺はつい、【虹の門】を思い出して臨戦態勢に入りそうになる。

(何やってんだ……それにい、今の俺ならあのくらいなんでもない、うん……)

「いや、何でもない、勘違いだ」

 隣の人までもが注目しているという事実に、俺は恥ずかしくなって座り直す。

「なんだ? あいつ、頭おかしい野郎だな」

「こらっそういうこと言わない!」

 隣に座っていたいかにも不良ですっていう同年代の茶髪が堂々と言い放つ。それを隣にいるお姉さん風の女子が諌めていた。

 なんかすげぇアンバランスな光景だな……と目を奪われていると、今度は俺の隣の優香残念アイドルがジッと俺の方を見つめてきた。

「? ど、どうした?」

 俺は何か得体の知れない圧力にちょっと面食らいつつ聞き返したが、優香はツンとして返事を返さなかった。

(てか、結局サーカス見にきたのにこっちばっか見て、あんましサーカス見てなかったな優香……)

 ボールを20個以上使ったスーパージャグリングなんかはとても盛り上がったが、優香はなぜかずっとご機嫌斜めだった。

 そして、最後にリーダーらしきピエロがみんなでジャグリングをつなげ、大きな虎が動く様を形どる。

「ええ!? あれどうなってるの!?」

「俺にもわからん……スキルかなんかじゃないか?」

 いや、本当すごいよな、こういう人って。中級以上の探索者なら給料的に探索者一筋の方が多いからおそらく下級探索者だろうし、すごい技術だ。

「それでは! 本日はご来場いただき、ありがとうございました!」

 ピエロがそういうと、最後の一つのお手玉が頭に降ってきて、ポコンッ! と音が鳴る。
 会場は歓声に包まれた。

「すごーい!!」

「やばかったよねあれ!」

 そんな時だった。
 跳ねたボールが、最前席にいた茶髪ヤンキーの頭に直撃した。
 ヤンキーが立ち上がる。

「では、これにて公演を──」

「──オイ」

「なっ……ガッ!?」

「ちょっと! 鬼塚君!?」

 ヤンキーは一瞬にして会場の上に跳ぶと、ピエロの胸ぐらを掴みあげたのだった。

「テメェ……人の頭に何ぶつけてんだよ! 喧嘩売ってんのか、あぁ!?」

「えっ!? なになに、誰あれ!?」

 鬼塚と呼ばれたヤンキーが舞台上に一瞬で移動したのに気づいた優香が声を上げると同時に、鬼塚はピエロを掴んだ手で投げ飛ばす。
 ありとあらゆる機材を破壊しながら、ピエロは壁に激突した。
 ポコっと鬼塚の頭にお手玉が落ちて笑っていた観客たちは、一瞬にして静まり返る。

「ちょっと!」

「おいどうした!? テメェも探索者なんだろうが。さっさと立ち上げって見ろよ! 謝る気もないのか、あぁ!?」

 横にいたお姉さん風の女子が止めようとするが、鬼塚の力が圧倒的だからだろうか、止めようにも止めれないでいる。

「キャ、きゃあああああ!」

「なんだ!? テロか!?」

「いやだ、死にたくない!!」

 一拍遅れて、観客たちは悲鳴をあげて逃げ出した。
 確かに普段探索者に触れない人は、あんな飛び方をしたら死んだと思うだろう。だが、ピエロも、下級でも腐っても探索者だ。その程度で死んだりはしない。気絶しているだけのようだ。

「舐めやがって……俺が誰だと──」

「やめなさい!」

 まだ暴れようとする鬼塚を見て、俺は逃げようと優香の方を見て……俺が逃げようという前に、優香が立ち上がっていた。

「ああ?」

「迷惑なのよ! 私たちはサーカスを見にきただけなのに、あんたのせいで楽しくなかったしめちゃくちゃよ!」

「……あ?」

「いますぐやめなさい! これはアイドル命令よ!」

 いやなんだよアイドル命令って。と俺は思ったが、鬼塚が一瞬で優香の胸ぐらを掴んだのを見て意識を切り替える。

「うっ……」

「凡人が……どいつもこいつも俺のことを舐めやがって……テメェ、どう落とし前──」

「おい」

「……?」

 俺は、優香の胸ぐらを掴む鬼塚の腕を掴んで下ろす。
 【死壊圧】を発動しながら、俺は鬼塚と対峙する。

「いい加減にしとけよ。さっきから好き勝手やりやがって……優香にも手を出したな?」

「ああ?」

 俺の圧を受けて、鬼塚は逆に不敵に笑った。

「テメェ、俺が誰だと……」

「……黙れ」

「──ガッ!?」

 俺は言葉を遮ると、超速のサイドキックを放つ。
 ヒュドンッ! と大気が普通ありえないほどの音をあげ、鬼塚の体は優に壁を貫いて吹き飛んだ。

「……!?!?」

 これに驚いたのは、連れのお姉さんだ。

「すみません、お姉さん。あいつ、殺しますね」

「っ!」

 俺はお姉さんにそういうと、鬼塚の方へ追撃しようとして……

「待った! 俺が悪かった!」

「あ?」

 寸前で止まった。
 鬼塚が両手をあげて降参したからだ。

「……どういうつもりだ?」

「いや、本当気持ちが高ぶりすぎてた! 悪ぃ」

 瓦礫から出てきた鬼塚のそばに、お姉さんが駆け寄る。

「鬼塚君! あんなにすぐキレちゃダメって言ってるのに!!」

「お、おう、悪い、つい、な」

 鬼塚は、まるで人が変わったように謝罪をしていた。
 ぶっきらぼうで威圧的なのは変わらないが、あれほど沸点の低くすぐぶちぎれてたやつがすぐ落ち着くものなのか?

『………、……!』

「なに……?」

 ……なるほど。
 俺はこの現象をよーく知っている。

 なら、ここは許しておいてやるか。

(いや、でも、まさかな……)

 こんなところで会うとは。

「わーったよ。俺も全力で蹴り飛ばして悪かった。だが、優香にも謝れ」

「ああ。本当にすまなかった! 興奮しすぎて周りが見えてなかった!」

「え、うん……別にいいよ!」

 そのまま、なぜか機嫌の良くなっている優香と一緒に、俺たちはサーカステントから退場した。

「……本当に迷惑かけたな」

「すみませんでした!!!!」

 別れしな、鬼塚とお姉さんがもう一度謝ってくる。

「ああ……もうこんなことしないようにな」

「うっ……それは……」

「はい、ちゃんということ聞かせますので!!」

「おい!?」

 まあ、十中八九だろうから無理だろうが、仕方ない。

(どうりでなんか、憎めない野郎だ……だからか?)

「じゃあ、帰るか」

「うん!」

 俺は、優香と一緒に駅まで歩み出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...