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一章 目覚めと出会い編
第10話 中級昇給試験
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「ここで試験を行う。その前に、ここから武器を選んでもらおうか」
連れてこられた場所は、協会の闘技場兼試験施設とされる地下だった。
「この中から、ですか?」
俺がテーブルを見回すと、剣から槍、さらには蛇腹剣のような数年前まで空想の域を出なかった武器まで、数十種類だけの武器が置いてあった。
「ああ。いい武器でも持って調子に乗ってる奴なんてごまんといるからな。お前も下級探索者でアイテムボックスなんか持ってるくらいだし、今までは武器に頼ることができたかもしれないが……それじゃ試験の意味がないからな」
まあアイテムボックスなんて畳一畳サイズでも一千万近くするもんな。下級探索者なんかが持ってたら金持ちの子としか思えんだろう。
下級探索者がいけるダンジョンのアイテムボックスなんかはとうの昔に全部回収されてるだろうしな。入手もほぼ不可能。
まあ、これは俺が作ったんだが……
「俺にそんな金ありませんよ。あったら履歴書みたいな貧乏生活してませんし」
「ふむ……それもそうだな。なら作ったのかって疑問もあるが、アイテムボックスを作れるのは“王”ベネジアだけ……そんなわけないか」
今まで唯一マジックアイテムを作れたのは、世界が異例と認めた5人の“王級”の一人のみ。
だから俺は、大した規模じゃないとは言っても、制作技術には自信がある。
マジックアイテムを作れるんだからな。
これも門の中でみっちり教えられたんだが。
「改めて、俺は重吾。斉藤重吾だ。お前の試験官を担当する上級探索者だ、よろしく」
「よろしくお願いします」
俺は、重吾さんの差し出された手を握って握手をすませた後、少し後ろへ歩いて距離を取った。
「? アイテムボックスはちゃんと瑞樹に預けてこいよ? 試験中自分のアイテムを使ったら失格だからな」
俺がなんの武器も取らず下がったのを見て、重吾さんが咎めるように言う。
俺は、それに返事をせず受付の可愛い系お姉さん……瑞樹さんにアイテムボックスを渡して、肩を鳴らした。
「……? お前、武器は……」
「重吾さんは、槍使わないんですか?」
俺は重吾さんの言葉を遮って聞く。
「なんで俺が槍を使うって……」
「歩き方とか、所作ですかね? それより、自前のとかはちょっと困りますけど、なんの武器も使わないんですか?」
俺は急くように促した。
「……下級探索者の昇級試験に武器を持ち出す上級探索者がいるか」
俺の言葉に重吾さんが苛立ったようにして言った。
それに俺は、先ほどの仕返しに煽って返す。
「それで下級探索者に手も足も出ずに負けたって言われる方が余程恥ずかしいと思いますけどね」
「……あ?」
重吾さんは、「黙って武器をとれ」と言わんばかりに睨んできた。
「あ、でも俺ただの探索者じゃないですし、負けても気にしなくて良いですよ。あと、どっちみち僕は武器使いませんから。身体強化系なんで素手で十分です」
「だったらやってみろ!!」
重吾さんは、俺の挑発の甲斐あったか、槍を出して突っ込んできた。
こういう嫌味な性格の人は後で武器がなかったからと言って試験をやり直しさせようとかする可能性がある。
流石にそこまでだとは思いたくないが、念のためだ。
それに……
(俺はちゃ~んと根に持つからなァ!)
重吾さんの態度も気に入らないが、そんなことよりも俺の母に関する言葉の方が許せない。
正確に言えば、許せないのは母である。
まあ……そんなことを今言ったって仕方がない。
「ハアア!!」
「ス────【螺旋拳】!!」
いきりたって突進してきた重吾さんの槍を前進しながら回転して二の腕の裏で捉える。そしてそのまま腕を引き絞る動作に合わせて、不自然なほど自然に槍と頭を下げさせた。
更に重吾さんの目が見開かれる……よりも早く、今の回転の力を乗せたまま、グッと軸足に力を込めて反対向きに回転しつつ拳を放つ。
ゴガァッッッッッ!!!!
「か────」
大気が、骨の砕けた音を上から消すほどの轟音をあげ、重吾さんは闘技場の対岸まで吹き飛んでめり込んだ。
「やっべ……やりすぎた? いやまあ上級探索者だし大丈夫だろ……」
つい追撃しそうになるのをなんとか堪える。
ほぼ無意識だった……全く、スキルの唯一のデメリットって言っても良いかもな。非活性状態でもこれだ。
まあ……恐らく腹部周囲の骨は全部砕け散っただろう。確実に何本か心臓に刺さってそうだ。
だが、上級探索者にもなると心臓が止まっても数分は普通に生きてる。
俺は拳に魔力込めてなかったからな。
そして、上級回復術師ならここからでも回復できるはずだ。
「き──キャアアアアアアア!!??」
「あっ!」
大惨事に受付嬢の瑞樹さんが叫び声を上げた。協会全体に響くほどの衝撃によって他の探索者たちも地下の闘技場で何か起きたのかと駆けてくる足音がする。
「瑞樹さん!! 早く回復を!! 上級回復術師なんですよね!?」
「私じゃこんなの……治せない……! このままじゃ、重吾さんが……」
試験には試験後の怪我を治すため、回復術師が必ず同伴しなければならないのだが、受付の瑞樹さんがそのままついてきたのを見て瑞樹さんが回復術師だと当たりをつけた……のだが。
「落ち着いてください!! ここはダンジョンじゃありませんし、邪魔も入りませんから、落ち着いてゆっくり……」
「わっ私はまだ中級なんです!」
は?
最初はこんな事態に慣れてないから焦ってるのかと思ったが……瑞樹さんは中級探索者資格持ちだった。
本来、未来ある探索者を下手にミスして障害を残してしまうと国の損失になるため、確実に治せるよう上級探索者がどのランクの昇格試験でも同伴するのが決まりとなっている。
これは法律にもなっていて、協会支部を置くにあたって必要な項目だったはずだ。今回の場合は、試験官がだが。
「どういうことだ!?」
あのくそ試験官、マジで適当やってやがったな……
瑞樹さんを連れてきた理由って自分の強いとこを見せるため、とか?
下級探索者にそんなことやるわけない……よな?
「マジで救いようがねぇ……」
「どうした!? 何があったん……斉藤さん!?」
急いで上級回復術師を呼ばなければならないが、探してるほどの時間はないだろう。
俺がスキルを使おうとしたその時……上の階から探索者たちが降りてきた。
「なんだこの状況は!!」
先頭にいた探索者たちが、死にかけの重吾さんと傍の瑞樹さん、そして無傷の俺を見て、大声を上げた。
「お前……アイテムでも使ったのか!?」
「違うわ! そんなことよりさっさと治療できるやつ連れてこい! 死ぬぞ!」
焦ってちょっと人格が引っ張られたが、とりあえず上級探索者の回復術師は見つかった。急いで重吾さんを治療してもらい、治癒術師を連れてきてくれたパーティの人に瑞樹さんと一緒に事情説明をする。
「ふんふん……本当に、今から中級探索者になるお前が、一撃で重吾をこんな風にしたっていうのか……」
助けてくれたパーティの人たちが俺に疑いの目を向けるが、瑞樹さんの証言もあって、信じてもらえた。
この人たちは、ここのギルドで一番強い『アレクシスの牙』という、超級探索者一人と上級探索者三人からなるパーティの人たちだ。
超級探索者というのは、日本でも数十人……たしか29人だっけ? それだけしかいない超トップの実力者だ。
さらに上の極級探索者となると日本に3人しかいない。
ちなみに、アレクシスっていうのは魔物の名前らしい。
連れてこられた場所は、協会の闘技場兼試験施設とされる地下だった。
「この中から、ですか?」
俺がテーブルを見回すと、剣から槍、さらには蛇腹剣のような数年前まで空想の域を出なかった武器まで、数十種類だけの武器が置いてあった。
「ああ。いい武器でも持って調子に乗ってる奴なんてごまんといるからな。お前も下級探索者でアイテムボックスなんか持ってるくらいだし、今までは武器に頼ることができたかもしれないが……それじゃ試験の意味がないからな」
まあアイテムボックスなんて畳一畳サイズでも一千万近くするもんな。下級探索者なんかが持ってたら金持ちの子としか思えんだろう。
下級探索者がいけるダンジョンのアイテムボックスなんかはとうの昔に全部回収されてるだろうしな。入手もほぼ不可能。
まあ、これは俺が作ったんだが……
「俺にそんな金ありませんよ。あったら履歴書みたいな貧乏生活してませんし」
「ふむ……それもそうだな。なら作ったのかって疑問もあるが、アイテムボックスを作れるのは“王”ベネジアだけ……そんなわけないか」
今まで唯一マジックアイテムを作れたのは、世界が異例と認めた5人の“王級”の一人のみ。
だから俺は、大した規模じゃないとは言っても、制作技術には自信がある。
マジックアイテムを作れるんだからな。
これも門の中でみっちり教えられたんだが。
「改めて、俺は重吾。斉藤重吾だ。お前の試験官を担当する上級探索者だ、よろしく」
「よろしくお願いします」
俺は、重吾さんの差し出された手を握って握手をすませた後、少し後ろへ歩いて距離を取った。
「? アイテムボックスはちゃんと瑞樹に預けてこいよ? 試験中自分のアイテムを使ったら失格だからな」
俺がなんの武器も取らず下がったのを見て、重吾さんが咎めるように言う。
俺は、それに返事をせず受付の可愛い系お姉さん……瑞樹さんにアイテムボックスを渡して、肩を鳴らした。
「……? お前、武器は……」
「重吾さんは、槍使わないんですか?」
俺は重吾さんの言葉を遮って聞く。
「なんで俺が槍を使うって……」
「歩き方とか、所作ですかね? それより、自前のとかはちょっと困りますけど、なんの武器も使わないんですか?」
俺は急くように促した。
「……下級探索者の昇級試験に武器を持ち出す上級探索者がいるか」
俺の言葉に重吾さんが苛立ったようにして言った。
それに俺は、先ほどの仕返しに煽って返す。
「それで下級探索者に手も足も出ずに負けたって言われる方が余程恥ずかしいと思いますけどね」
「……あ?」
重吾さんは、「黙って武器をとれ」と言わんばかりに睨んできた。
「あ、でも俺ただの探索者じゃないですし、負けても気にしなくて良いですよ。あと、どっちみち僕は武器使いませんから。身体強化系なんで素手で十分です」
「だったらやってみろ!!」
重吾さんは、俺の挑発の甲斐あったか、槍を出して突っ込んできた。
こういう嫌味な性格の人は後で武器がなかったからと言って試験をやり直しさせようとかする可能性がある。
流石にそこまでだとは思いたくないが、念のためだ。
それに……
(俺はちゃ~んと根に持つからなァ!)
重吾さんの態度も気に入らないが、そんなことよりも俺の母に関する言葉の方が許せない。
正確に言えば、許せないのは母である。
まあ……そんなことを今言ったって仕方がない。
「ハアア!!」
「ス────【螺旋拳】!!」
いきりたって突進してきた重吾さんの槍を前進しながら回転して二の腕の裏で捉える。そしてそのまま腕を引き絞る動作に合わせて、不自然なほど自然に槍と頭を下げさせた。
更に重吾さんの目が見開かれる……よりも早く、今の回転の力を乗せたまま、グッと軸足に力を込めて反対向きに回転しつつ拳を放つ。
ゴガァッッッッッ!!!!
「か────」
大気が、骨の砕けた音を上から消すほどの轟音をあげ、重吾さんは闘技場の対岸まで吹き飛んでめり込んだ。
「やっべ……やりすぎた? いやまあ上級探索者だし大丈夫だろ……」
つい追撃しそうになるのをなんとか堪える。
ほぼ無意識だった……全く、スキルの唯一のデメリットって言っても良いかもな。非活性状態でもこれだ。
まあ……恐らく腹部周囲の骨は全部砕け散っただろう。確実に何本か心臓に刺さってそうだ。
だが、上級探索者にもなると心臓が止まっても数分は普通に生きてる。
俺は拳に魔力込めてなかったからな。
そして、上級回復術師ならここからでも回復できるはずだ。
「き──キャアアアアアアア!!??」
「あっ!」
大惨事に受付嬢の瑞樹さんが叫び声を上げた。協会全体に響くほどの衝撃によって他の探索者たちも地下の闘技場で何か起きたのかと駆けてくる足音がする。
「瑞樹さん!! 早く回復を!! 上級回復術師なんですよね!?」
「私じゃこんなの……治せない……! このままじゃ、重吾さんが……」
試験には試験後の怪我を治すため、回復術師が必ず同伴しなければならないのだが、受付の瑞樹さんがそのままついてきたのを見て瑞樹さんが回復術師だと当たりをつけた……のだが。
「落ち着いてください!! ここはダンジョンじゃありませんし、邪魔も入りませんから、落ち着いてゆっくり……」
「わっ私はまだ中級なんです!」
は?
最初はこんな事態に慣れてないから焦ってるのかと思ったが……瑞樹さんは中級探索者資格持ちだった。
本来、未来ある探索者を下手にミスして障害を残してしまうと国の損失になるため、確実に治せるよう上級探索者がどのランクの昇格試験でも同伴するのが決まりとなっている。
これは法律にもなっていて、協会支部を置くにあたって必要な項目だったはずだ。今回の場合は、試験官がだが。
「どういうことだ!?」
あのくそ試験官、マジで適当やってやがったな……
瑞樹さんを連れてきた理由って自分の強いとこを見せるため、とか?
下級探索者にそんなことやるわけない……よな?
「マジで救いようがねぇ……」
「どうした!? 何があったん……斉藤さん!?」
急いで上級回復術師を呼ばなければならないが、探してるほどの時間はないだろう。
俺がスキルを使おうとしたその時……上の階から探索者たちが降りてきた。
「なんだこの状況は!!」
先頭にいた探索者たちが、死にかけの重吾さんと傍の瑞樹さん、そして無傷の俺を見て、大声を上げた。
「お前……アイテムでも使ったのか!?」
「違うわ! そんなことよりさっさと治療できるやつ連れてこい! 死ぬぞ!」
焦ってちょっと人格が引っ張られたが、とりあえず上級探索者の回復術師は見つかった。急いで重吾さんを治療してもらい、治癒術師を連れてきてくれたパーティの人に瑞樹さんと一緒に事情説明をする。
「ふんふん……本当に、今から中級探索者になるお前が、一撃で重吾をこんな風にしたっていうのか……」
助けてくれたパーティの人たちが俺に疑いの目を向けるが、瑞樹さんの証言もあって、信じてもらえた。
この人たちは、ここのギルドで一番強い『アレクシスの牙』という、超級探索者一人と上級探索者三人からなるパーティの人たちだ。
超級探索者というのは、日本でも数十人……たしか29人だっけ? それだけしかいない超トップの実力者だ。
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