上 下
7 / 61
一章 目覚めと出会い編

第7話 新たな一歩

しおりを挟む

「いっ、いつの間に!」

 ぶほっ……あんまりにもテンプレみたいなこと言うから笑いを堪えるのが必死だわ。

「テメェはもう少し、周りの被害を考えろ」

「ぶべっ──」

 俺は、加藤の頭を地に叩きつけると両手で埃を払う。

「「「「……」」」」

 教室中が静まった。
 加藤が負けた。それも、成績最下位の俺に。

 絶対的強者として好き勝手していた加藤を軽くあしらった俺は、騒ぎに駆けつけた教師に三馬鹿が悪いことを伝えて、何事もなかったように席につく。

「ちよ、お前……」

 悠大が信じられないといった風に俺をみて目を見開いている。

「俺、強くなったて、言ったろ?」

 そんな悠大に対して俺は、ハハ、と苦笑いして答えた。

 数日後、この学校で唯一中級探索者の称号を持っていた加藤がなすすべもなく俺にやられたことは、学校中に広まっていた。
 第四探索者学校ここは弱小も弱小の、「他校に比べたら」小さなボロ高校だ。
 噂が広まるのは一瞬だった。

 そのうち俺を取り巻く環境が風変わりする。

「ちよ君、お弁当食べようよー!」

「ちよ君、私おにぎり作ってきたんだけど……」

「ちよ君って可愛い名前だよね~」

「ちよ君」

「ちょっと黙れ!! 押しかけてくんな帰れ!」

 あの後から、クラスの女子たちが群がってくるのだ。
 優秀な探索者の収入には、限りがない。今のうちに加藤よりも強いと思われる俺に取り入っておこうと言うことだろう。

 つい数日前まで加藤に同じことをしていたと言うのに……なんていうか、図太い奴らだ。ついには隣のクラスのやつまで来やがった。

「なんだ、ちよ。そんなこといいながら嬉しそうじゃねぇかヨォ」

「そりゃあねぇ!」

 だって魂胆が見えてたとしても、女子に持ち上げられるなんて、1ヶ月前まで只のキモ男だった俺が経験あるわけねぇだろ!
 あぁ、そういえばだが、魔力を吸えば吸うほど、ほんの少しだが顔が良くなる効果があるらしい。俺は門の中で大量の魔力を吸っている。だから、自分でも誰!? って思うほど……には程遠いが、中の上程度にはイメチェンできた自信があるんだが。それも関係あるかも。いや、あってほしい。ほら、普段キモい奴がイメチェンしたら……ってやつ。ないか。

 まあなんだ、同年代から褒められるとなんか大人の女性に褒められるのとは違うものがあるな。

「でも、流石に邪魔だ……加藤もずっと来ないしなすりつけれん」

 俺は悠大とご飯を食べながらそう独りごちる。
 俺にボコボコにされてから、加藤はずっと学校に来ていない。もう1週間になる。はよ立ち直れよな……

 ちなみに、取り巻きABこと三郎と竜二は普通に学校に来ている。
 今までは加藤という盾があったからこそ許されていた彼らも、今では後ろ指を刺される立場だ。

 ただ、この二人は心を一新していて、それも、後ろ指を刺されながらも俺に教えを乞うほどだ。
 周りから見ればどの面下げてんだ、って感じだが、俺からしてみればこういう奴らが強くなると思うのよ。
 俺も門の中の化け物に挑み、ボロボロにされ、教えを乞った側だからな。
 自分と重ねてしまうと、どうしても突っぱねることができなかった。

「兄貴! 昼からの模擬戦、相手してくださいませんか!」
「兄貴! 俺からもお願いします!!」

 ……噂をすればなんとやら。

「あー、今日5、6限は悠大と特訓するって約束してるんだ」

「なるほど! 岩田の兄貴っすか! なら俺たちはお時間の空いている時でいいので!!」

「え、俺もそんなずっと訓練するわけじゃないからさ、途中から変わるよ。ちよ、いいか?」

「ん、お前が言うならいいが……」

 こいつらは今や俺と悠大のことを兄貴と言って慕っていた。
 俺の人生の夢の一つ、兄貴と言われて慕われるが叶うとは思ってなかったし、学園対抗戦に向けてこいつらでも鍛え上げようかな、と考えてるくらいには、こいつらのことを許してしまっている自分がいる。

 こいつらには甘いって? 自分を“兄貴”って言ってくれる人だよ? 男なら甘くしちゃうのは仕方なくない?

 ま、特訓で甘くする気は一切ないけどな!!
 あと、加藤にもな。



 さて、うちの学校は、というよりどこも大差ないと思うが、探索者学校というのは基礎教育2時間に模擬演習……つまり戦闘訓練だな……が4時間で1日を構成している。朝2限動いて2限勉強、昼から2限自主特訓って感じ。
 ちなみに勉強ってのもダンジョンやダンジョンで発見されたアイテムの勉強、スキルの勉強といったものばかりだ。

 今日も朝から活気よく皆特訓をしている。

「今日は一段と気合入ってんな」

 まあ、それもそうか。だってそろそろ……

「はい、注目~」

 一限が終わってすぐ、担任の鈴木が手をパンパンと鳴らしながら号令をかける。
 このタイミングということは、十中八九だろう。

「来月頭、4校合同の交流大会が開かれる!」

 来たか! 大阪四校対抗学園祭!
 毎年10月初めの土曜日に行われる交流戦で、内容はこの第四探索者高校を含む4校で勝ち抜き勝負を行う、といったものだ。
 トーナメント制なので実際に戦うのは2校だけなのだが、外部からの観客も多く、決勝の大将戦なんかはテレビ中継で視聴率50%弱を達成するほどの盛り上がりだ。

 そして、俺が最も狙っていた行事の一つである。

(派手に優勝すれば……きっとこの学校も俺も、かなり有名になるだろう)

 心躍る接戦に、生み出されるドラマ。
 その両者が国民を沸き立たせる。

 俺が探索者学校の名門が揃いしここ、大阪に来たのも、この四校対抗学園祭で活躍することを夢見てきたからだ。

 ……まぁ、当初の予定なら3年までに出るのを目指してたんだが。
 本当に実現するとは、思ってもみなかった。
 え? 選抜確定してるみたいな言い様だって? そりゃぁこの学校でいちばん強い加藤を倒してんだから、絶対呼ばれるっしょ。呼ばれる……よね?

 まぁいい、この力で四校最弱と言われたこの第四高校を優勝させてやる……!

 俺は、だからな。

「そして、その出場者が昨日の会議で決まった! なんと今年はこのクラスからも出場者がいるぞ!」

 大量に……

 鈴木がポツリと言ったのを、俺は聞き逃さなかった。

「まず、田中三郎! 前へ!」

「おっ俺!?」

「わぁ! 田中くん、頑張って! 最近毎朝早くから森山くんと特訓してるの、皆知ってるから!」

「えっ!?」

 この一週間で多少の好感度と信頼は取り戻したらしいな。
 毎朝早くに校庭に来て、竜二……苗字森山っていうのか? と訓練をする姿が他のクラスメートに好かれたらしい。
 曲がりなりにも、この学校の生徒は探索者だからな。訓練する姿に惹かれるのは、俺も同じだ。

「その森山も選抜されている! 前へ!」

「うおっ! まじか! やったぜ……遂に俺があの4校交流戦に……!」

 次いで竜二も呼ばれ、喜びを隠しきれず三郎とハイタッチをしている。

「そして、加藤俊介! 中級探索者のお前に、学校うちは期待してるぞ!」

「……ッ、はい」

 お? 久々に来てたらしいな。まぁ、自分が呼ばれるであろうメンバー発表を欠席とかしないわな普通。

「そして最後……宝晶千縁! 前へ」

 鈴木は俺の方をチラッと見ると、ブルッ、とした……ように見えた。

 あの後学園長から話を聞いたのか?
 魔石が本物って分かってくれたなら、俺が上級探索者レベルの力を持っていることも分かるはずだ。だからどう扱うか手をこまねいてるのか?
 猛獣じゃあるまいし……

「はい」

「1年2組からはこの4人が出場する! この学校が始まって以来、1年から4人も出るのは初めてだ! 代表となった彼らに拍手!」

「うおおおおお! 千縁達なら今年こそ勝てるって信じてるぞ!」

「私たちの分まで頑張って勝ってきてね!」

「来年はその座は俺のもんだ! 首洗って待っとけ!!」

 ワーワー、と俺たちに拍手が送られる。
 加藤を除いて、俺たちの表情が無意識に緩んでいく。

 あと、3人目の君。来年もこの座は俺のもんよ。譲らんぞ??

 俺は残りの時間をどのように活用するかを考えながら、悠大達との特訓へ戻った。



    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました

平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。 しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。 だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。 まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...