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一章 目覚めと出会い編
第6話 新たな出会いと復讐
しおりを挟む運転手の男は泡を吹いて倒れた。
俺が使ったのは、自らの感情をコントロールし、外に向けて放つことで直接伝えるスキル……【死壊圧】だ。
正確にいえば、その模倣なのだが……
(誘拐なんてするくらいだから強いのかと思ったけど……死んでないよな?)
ちょっとビビりながらも、やっぱり俺の強さは本物だとわかった。
超級以上はわからないが、おそらく上級探索者位なら片手でフルボッコにできるだろう。
「大丈夫か? 親は……」
「待って!!!!」
「……?」
俺が少女に親を呼んでもらおうとすると、少女がそれを止めてきた。
「一人で大丈夫だから……その、ありがとう、ございました……」
「いやいやいやいや」
この子大丈夫か?
どう見ても俺と同じくらいの少女だが、その美貌からか、誘拐されそうになってんたんだぞ。普通もっと怖がるだろ。なんか普通に、俺のことだけ怖がってね? 誘拐されそうになった件について冷静すぎる気が……
「誘拐されそうになってたんだよ!? とりあえず警察には行かないと……」
「だっ、だめ! それはダメ!!」
何がダメなんだ? 可愛いけど、なんか怪しいな……
それを感じ取ったのか、少女はポツリとこぼした。
「あの、あの人たちは……事務所の人」
「は? 事務所?」
「そう……私、飛彩優香。ライブが嫌で、抜け出してきたの」
飛彩優香? どっかできた気がするな。それに、事務所、ライブ……
「アイドル!?!?」
「うん……」
はぁ!? じゃあ、あの人たちは事務所の人で、逃げた優香を連れ戻そうとしてただけってことか!?
「うんじゃねぇよ! 説明しろ!」
「アババババ」
俺は冷や汗が流れるのを感じて、優香を揺さぶり事情を聞き出すことにした。
~~~~~
「……つまり、辞めたいのに友達を人質にされてやめれないってか?」
「うん……全然学校にもいけないし、みんなにも会えない……もうアイドルなんか嫌なのに……」
優香がアイドルに誘われた時、一緒に誘われた友達は続けたいそうだが、優香が辞めるならその子も辞めさせると言われているらしい。まあ、有名なのは優香の方だからな。売れ始めている優香をやめさせたくないから脅してるんだろうが……
うーん、これ俺、犯罪っすか?
いやいやいや!!
ややこしいこと言ってる奴が悪いんだよな、うん!
大丈夫、姿は見られてないはず……運転手もあの感じじゃ俺の顔なんか思い出せんだろ。一瞬しか見てないだろうし。
「はぁ……じゃぁ帰すしかねぇじゃんか、結局」
「い、いやっ!」
いや、嫌とかって言われても……俺にどうしろと?
優香は、俺の手を掴んで引き止めようとする。
アイドルと生握手するなんて思ってもなかったけど……
俺の心は「こいつどうしたらいいんだ……」と、厄介ごとを抱えてしまった後悔しかなかった。
何とは言わないが、門の中で色々あったからな……
もう前のように美人と喋れない童貞野郎じゃないぜ!!
……いや童貞だけどさ。
「私、帰りたくない……匿って!」
「アホか漫画の見過ぎだ。断る」
「そんな……!」
当たり前だろうが! 俺を犯罪者にする気か!
「その、なんだけど私、アイドルよ……? ほら、下卑た魂胆とかないの?」
「何言ってんだお前は! もう帰れ!」
だめだ。このアイドルポンコツすぎる。
大体それで俺が本当にお前のこと襲ったらどうすんだよ。文句言えねーぞ。
「そこまでして辞めたいのかよ?」
「……」
え? マジで言ってたん? 急に黙るの辞めてもらっていいですか!?
美人とも普通に接せるようになったとは言ったけど、女慣れしてるってわけじゃねーぞ、俺。そんな泣きそうな顔されたらオロオロすることしかできなくなるんだが?
「ま、まぁ、元気出せよ。俺はアイドルじゃねーしむしろ嫌われ者だから全く何にも助言できねーけど」
「……? いや、宝晶さんは……!」
「はいはい、行った行った」
俺は面倒ごとに巻き込まれたくないのでさっさとお暇することにする。もう手遅れかもしれないが。
というか、そんなにやめたいって一体、なにがあったんだ……? 普通じゃないのは確かだが。
「でっでも!」
「……本当に、本当にどうしようもなく辞めたくなったらまた言ってくれたらいいからさ。愚痴ならいつでも聞くから。今日は帰ろう?」
「……じゃぁ」
俺はもう会うことはないだろうと、適当にはぐらかして帰ろうとするが、優香の差し出したものを見てその足を止められた。
「……連絡するから」
そう言って差し出されたのは、神器だった。
面倒事最高!!!!
~~~~~
「おはよ~」
「おはー」
9月2日、新学期最初の授業の日だ。
俺は結局あの後連絡先を交換し、ゴブスラダンジョンの40階層でスキルを試し撃ちしてきた。
(大規模破壊が起きてしまった……)
俺は、自分の手にした力の評価を改めた。
俺が試し打ちした40階層は1日にして更地……むしろクレーターだらけになってしまったのだ。
そんなことより、アイドルと連絡先を交換できたことだ。
門の怪物の中には、女好きのクソ野郎がいて、そこで俺は休憩がてら口説き方を習わされたし、口説けるかどうかは置いといて、なんかやらかすことは……ないだろう。
……とか思っていると、早速クズが絡んでくる。
「ヨォ、ちよ! 昨日は何サボってんだ~?」
「全く加藤さんを見習ってほしいなァ!」
「おいおい、加藤さんに話しかけてもらえて光栄です、だろ?」
相変わらずの三馬鹿だ。
「……んだよ、鬱陶しい」
「……あ?」
もうこいつらなんて、眼中に無い。
なんで中級探索者なのにこんな学校にいるのかと思ってたが……この性格だし、他の学校は落とされたんだろうな。
それに、俺はもう強くなった。こいつらにいちいちビビる必要はない。
「なんか用か?」
「テメッ加藤さんが話しかけてくださってんのに」
「──黙れ」
「「「!?」」」
俺は、取り巻きAが吐いた言葉の途中で、立ち上がって胸ぐらを掴み上げた。
「はなっ……ぐぁっ……」
「さっ三郎! 三郎を離せこのクズがっ!!」
取り巻きBが俺を指差して騒ぎ立てる。
こいつ三郎っていうのか。古い名前だな、おい。
「人に指差すんじゃねーって、習わなかったのか? ア゛ァ゛?」
「っ──!?」
ガシャアアアア!!
「「「「キャアアアアア!?」」」」
「ちっ、ちよ?」
俺は、三郎を取り巻きBに向かって投げ飛ばす。
野球ボールの如く速さでぶっ飛んだ三郎に巻き込まれた取り巻きBは何かを言おうとしていたらしいが、飛んできた三郎に巻き込まれてその言葉を発すことなく気絶した。
あーあ。あれ、呼吸できなかっただろうな。だから黙れって言ったのに。
「なっ……お前、このクズ! 三郎と竜二に手を出してどうなるのか分かってんのか!?」
「……どうなるんだ? 教えてくれよ。なぁ?」
この後に及んでまだ貶せるとか尊敬するわ、ある意味。
俺が容赦なく、普段と豹変した行動をとるのには理由がある。
4年前(1ヶ月前?)、門の中で戦闘訓練をしていた時のこと。
『おい、ちよつったか?』
『え?』
どんな武器も使えるようにならなきゃいけない。そうしなければこの試練はクリアできない。
そう思って俺がさまざまな武器を並べて見ていた時のことだ。
『テメェ……やる気あんのか? あ゛?』
『あっあるわ!! 急にどうしたんだ?』
『テメェにはなぁ、“覇気”がねぇんだよ』
『“覇気”……?』
『ああ、お前は、戦う時に相手のことを考えてるんだよ』
『だって、そりゃ』
『うるせぇなぁ、まぁ聞け。“戦っている”ってことはな、そいつは「敵」なんだよ。「敵」に対して、容赦をするな。「敵」に対して、同情するな。「敵」に対して、遠慮すんじゃねぇよ。たとえ相手が1歳の赤子でも、赤子を身籠った妊婦だったとしても、親友だったとしても。「敵」であるなら、絶対に殺せ』
『いや、何も殺さなくても』
『テメェは手加減ができるような、そんな“上”にいねぇんだよ! ……まぁ、殺すのはやりすぎにしても、決して情けとか、ましてや哀れみなんぞ持つな。敵対したからには絶対に制圧しろ』
『鬼かよ……』
『? 俺様は鬼だぞ??』
『……』
『そもそもその程度の覚悟じゃぁ俺様に攻撃を通すことなんて到底出来ねぇがなぁ?』
『っ……わーったよ! やってやる!! 勝負だこの野郎!!』
~~~~~
ちなみにこの後1年に渡ってボコられ続けるのだが……マジであいつ強かったな。あいつが力を貸してくれるとか、今でも信じられねぇわ。
「ふ、ふん。少し強くなったようだな。だが……喧嘩を売る相手を間違えたなぁ、ちよちゃんヨォ!!」
「は……?」
「俺は1年……いや、学園最強の探索者加藤俊介様だぞ!!」
……なんだこいつ。もしかして、まだ本気で自分が強いと思ってんのか??
「くたばれ! 【ファイアランス】!!」
加藤が教室を吹っ飛ばせる程度の魔法の槍を放った。
教室から悲鳴があがる。
「ちよっ!?」
悠大が焦った声を上げるのを片耳に、俺は一瞬で加藤との距離を0にした。
「じゃあさ、お前……これが目で追えんの?」
「ハハハ! くたばれぇ……ぇぇぇええ!?」
俺は加藤の首を左手で掴み、右手で【ファイアランス】を握りつぶした。
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