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一章 目覚めと出会い編
第3話 謎の存在と門との邂逅
しおりを挟む「……案外広いな」
「おう、来たか」
階段を全て降りると、横向きに座っている男が、こっちを向いて座るように促してきた。当然のように、男の椅子は玉座で、俺の椅子も玉座だった。
何故に玉座。
こんな話がある。
シンガポールに出来たダンジョン、通称ゴールドダンジョン。
そこには、本来いるはずの魔物が居らず、大量の宝箱とアイテムがあったらしい。
やがてそこは神の宝物庫だとも言われ、産出された強力な装備を得た元シンガポールは一気にダンジョン大国の地位を得た。
で、現在。
奥にある黄金の扉。一体しか居ない魔物? 人間?
これはそのゴールドダンジョンに近いものなのではないだろうかと推測される。
「ま、座れよ千縁」
「っ!?」
王冠の男は、俺の名前を呼ぶとコップに入った飲み物を飲んだ。あれ、メロンソーダじゃね?
「なんで、俺の名前を……」
「あぁ、最初にそれか?」
一体しか魔物? がいないことからも、こいつが相当に強い魔物だと分かる。
だが話し合いが出来るということは、交渉次第で何か譲ってもらえたり、生きて帰して貰える……かもしれない。
「はい。全く礼儀なんて知らずに誠に申し訳無いのですが、宜しければ教えていただけないでしょうか」
「……敬語やめようか」
「いえ、しかし……」
「だって俺は──お前だ」
王冠の男はおもむろにそう言うと、片手を上に向けた。
その手から、巨大な火球が生み出される。
「っ!? 俺……?」
「ああ。まぁ、お前のコピーってとこかな」
王冠の男……俺(?)は火球を上に飛ばして、遊び始める。
にしてもすげえな。あんなレベルの火球、何級だ……? 極級くらいあるんじゃないか??
火球が分裂し、色とりどりに変化した小火球が元の火球の周りを衛星の如く回っている。
こんな芸当が片手間で、尚且つ喋りながら無詠唱でできる人間がいるだろうか。
もしいたら、王級か、人の皮を被った化け物だろうな。
……いや、よく見ると足がない。この変な形の下半身……
(石、像……か?)
「俺は、何しにここへ来た」
俺が俺に、そう問う。
「俺は……」
俺はなんというか迷うが……こいつは俺の名前を知っていたし、恐らく記憶もコピーされているだろう。取り敢えず今正直に思っていることを言った。
「何かお宝でもあるのかと思って入ってみたんですよ」
「違うな」
違うなってなんやねん!
ノータイムで否定されたわ。
「違うって……」
「まぁ、確かに今はそう思ってるかもしれねぇけどな。このダンジョンが現れた時、入ってくる時、何を思って入ってきたんだって」
ダンジョンができた時……?
「……強くなりたい?」
「そうだ」
俺が強くなりたいって願ったから出来たって……? んな都合のいい話が……
いや、でも、強くなりたいなんて日頃からずっと願って来たことだ。それならなぜ今になって急に……
「お前がやっと、本気になったからだよ」
……うん、心くらい読むんだろうなって思ってたよ。
にしても本気か……
俺は今まで、本気で強くなりたいと願って無かったってか……?
だからといって、なんで願ったらダンジョンが出てくるんだよ。
「まあ、時が来たって考えてくれたらいい」
俺はそういうと立ち上がり、両手を広げて見せた。宙の火球が爆散する。
「俺は俺を、俺の力を知っている……だから俺が、チャンスを与えよう」
突如として、莫大な威圧感が発生する。
「──!?」
それを受けた俺は、無意識のうちに吐いていた。気づけば視界が床で埋まっている。
「……ハッ」
「そうだ。今のお前は弱い。身体能力も低ければスキルも何も無い。だから……」
俺から威圧感が消える。
「好きな門を選べ。そこの奴に気に入られれば、力を貸してくれる筈だ」
「門……」
俺は7つの門を見回してみる。
それぞれが特徴的な、形の無い門だ。
「俺のスキルは、【憑依】。力を借りて発動するスキルだ。あいつらに力を借りれれば……最強にもなれるだろう」
「【憑依】……?」
……ほんとだ。いつの間にか、スキルが解放されてる……!
「だが──代償も危険も無しに強くなるなんて不可能だ」
「っ!」
俺は、俺に挑発的な目を向け、鼻を鳴らした。
「その門の試練をクリアしたら……道は開く。ただ──生半可な根性では不可能だ」
そういうと、石像がスっと消えていく。
「それでも力が欲しければ……」
「あっ! ちょっ、待っ──」
「命を賭けて、試してみろよ」
シュッ!
「命を……賭けて……!!」
「さあ……門を一つ、選ぶといい」
後に残ったのは、不吉に騒めく、7つの門だけだった。
~~~~~
「連絡つかねぇな……大丈夫なのか?」
8月ももう10日。成績不振者の千縁や悠大は、急いで魔石を集める必要がある時期だ。
「俺ももうそろそろ集め始めなきゃやばいのに……ちよ、大丈夫かな?」
悠大は、もしかしたら一人で勝手に行ったのかもしれないと思ったが、直ぐにそれは無いかと考え直す。
(ちよは決して人がいい訳でもないし、ちょっとひねくれてる所もあるけど……)
ちよは、約束を破るようなやつじゃない。
例えそれが初対面他人だったとしても、約束をすれば必ず守るのだ。
「はぁ……あの馬鹿、実家にでも帰らされたのか……?」
悠大は、連絡のつかないちよとのメッセージに、「もうやばいから先魔石集め行くぞ」と送って、ダンジョンに行く準備をする。
「……夏休み中に、3階層まで行こうかな」
ちよと悠大は、探索者成績、つまるところは能力値が最下位と下から2番目の生徒だ。
ただ、探索者高校に入ってる以上、9割を越える生徒がスキルや魔法を覚醒させている。
悠大も、ちよと違い、成績不振者ながらスキルホルダーの1人だった。
悠大はゴブスラダンジョンに向かい、受け付けを済ませて、ちよの姿を探す。
「まあ、居ない、よな……」
本当にどこに行ったんだか。家の場所聞いとけば良かったな。
悠大はダンジョンに入ると、真っ直ぐに走る。
その途中、カクンカクンと不自然に曲がる悠大を見て、他の探索者たちが訝しげな顔をするが、悠大は気にしない。
「っふぅ……」
悠大は息をつき、2階層への階段の前で十数個のスライムの魔石を袋に移す。
悠大の持つスキルは、【探索】。
悠大の魔力がまだまだ低いので、半径10Mにしか効果がないが、敵と味方の位置を感知できる、極めて優秀なスキルだ。
走りながらスライムを踏み潰し、魔石を回収する事など造作もない。
途中カクカク曲がっていたのは、スライムを踏み潰す為だった。
何故探知系のスキルという優秀なスキルを持ってして、成績が下から2番目なのか。
それは、悠大の魔力量に由来する。
探知系のスキルは、常時発動を常とすることが多いスキルであり、消費魔力こそ少ないが、長い間発動出来るかというと悠大の魔力では3分が限界なのだ。
一般的に、中級探索者に上がろうと思えば、探知系スキルは60分は連続発動出来なければ昇級出来ないとされている。
魔物を探知する能力なのに、時間が短ければ探索中に探知を切らしてしまうこととなり、意味が無いからだ。
身体能力も、魔力を取り込めば取り込むだけ強くなっていくため、悠大は低い。
(魔力……強い魔物を、倒せたら……)
悠大には、探索者にならねばいけない理由がある。
母子家庭で育った悠大だが、少し前に母が病床に伏してしまい、妹と2人で生活をしなくてはならないのだ。
母の病気の治療費は100万を越える。
小学生の妹も養わねばいけないのに100万という大金は、とてつもない重みとなって悠大にのしかかっていた。
(このことは誰にも、ちよにも言ってない……)
故に悠大は、平均年収1000万を越える中級探索者にならねばいけない。
探索者の8割は下級探索者。その年収は僅か100数十万程度。
中級探索者にならねば、探索者一筋で生きるのは厳しい。大学や普通の高校に行くお金ですら今は払えない悠大には、探索者になるしか道がなかった。
学校の方針としては、卒業までに中級探索者資格の取得を目標としているが、現在ちよと悠大は圧倒的魔力の低さから、1年一学期だと言うのにもう心配されている。
例年の1年一学期より5倍は成長が遅いらしい。
まだ全体が低いため、そこまでの差はないが……
このままだと留年、或いは退学まで一直線だ。
悠大は、密かに焦っていた。
「俺は……強くならなきゃいけないんだ……!」
一般的な公務員や高収入の仕事に就こうと思えば、大学を出ることは必須。
それでは遅く、探索者として成功するしか無い。
悠大は意を決して、ゴブリンの蔓延る2階層へと歩を進めた。
「ちよ……お前も、諦めるなよ」
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