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アルベルトの想い
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死を覚悟してクリスティーナは目を閉じる。しかし、一向に竜精霊の攻撃はやってこない。クリスティーナは恐る恐る目を開けると――
「――ッ!?」
目の前には両手で竜精霊の噛み付きを受け止めているアルベルトの姿が映る。竜精霊の牙を素手で掴むその両手からは血が流れ出していた。
「ど、どうして……?」
アルベルトはこの国の王子だ。それも王位継承権第1位。彼は真っ先に安全な場所に避難されるべき存在だ。
しかし、彼は傷を負いながらもクリスティーナを助けた。そのことにクリスティーナは疑問を持った。
「どうしてって、それは俺が君のことが好きに決まっているじゃないか!」
竜精霊のこともあり、クリスティーナには視線を向けない。しかし、しっかりとクリスティーナに向けて告白の言葉を伝える。そして、その勢いのまま――
「俺は昔、何も出来ない奴だった! 臆病で兄弟の中でも一番弱かった!」
アルベルトの告白は続く。
「もう諦めようかとも思った! けど、その時、ある女の子の言葉によって俺は救われたんだ!」
アルベルトの言葉にクリスティーナは目を見開く。何故ならクリスティーナでも、その言葉の続きががわかったからだ。
「『自分に自信がないのに周りが認めるはずがないじゃない。まずは自分を信じることが大切でしょ?』。君にとっては何気ない言葉だったかもしれない。けど、俺にとっては重要な意味を持ったんだ!」
その言葉は昔、ある少年に向けての言葉であった。幼いクリスティーナはその時、自分が思ったことをそのまま言葉にしたのだ。まさかその少年がこの国の王子などと夢にも思うまい。
「あの時から君に認められるような人間になろうと俺は一所懸命に努力した! その結果、多くの人に認められるような人間になった! でも、それでは意味がない。最後は君に認められなければ意味がないんだ!」
そう言って、アルベルトは竜精霊のあごを足で蹴り飛ばす。流石の竜精霊であっても身体強化がなされたアルベルトの蹴りは効いたらしく、大きく後ろにのけぞった。
「……これが俺が君のことが好きな理由だ。この戦いが終わったらもう一度だけ答えを聞かせてくれないか?」
アルベルトの真剣な言葉にクリスティーナは無言で何度も頷く。それを見たアルベルトは笑みをこぼし、右手を竜精霊に構える。そして詠唱する。
すると、アルベルトの手に一筋の剣が握られる。
(あれが精霊武装……)
精霊と契約した者のみが手にできる武器。それをクリスティーナは初めて目にする。普通の武器とは違う独特な魅力を放つ剣に、危険な状況なのにクリスティーナは目を奪われてしまった。
「……我が精霊武装、〈聖なる騎士の剣〉は代々、王族が大切なものを守るために受け継がれる精霊武装だ。これで俺は大切なものを守る――」
アルベルトは竜精霊に対して構えを取る。しかし、その表情は先程の決闘の時とは違い、余裕がない。
いくら代々伝わる精霊であろうと竜精霊よりかは格が低いのであろう。恐らくアルベルトは命がけでクリスティーナを守ろうとしている。雰囲気でクリスティーナは理解できる。
「待って! それでは、あなたが――!」
「答えも聞いていないのに死ぬわけがないだろう。援護が来るまでの時間稼ぎだ」
竜精霊もアルベルトの蹴りのダメージが収まってきたのか、アルベルトに殺気を放ち始める。アルベルトもその殺気を感じ取り、額に汗をかき始める。本当に死ぬかもしれないと。
(クリスティーナだけでも助けないと……)
「それじゃあ、行ってくる」
「やっぱり待って! せめて一緒に逃げて!」
「駄目だ! それでは二人ともやられる! ここは俺が――」
「――やれやれ、仲がいいことで」
二人が言い争っていると突然、呆れたような声が聞こえる。
「「ガイア!」」
二人はその少年の名を呼ぶ。そして互いに知っているの? と不思議そうに向き合う。
「全く、いくら身体強化をしているからといって無茶しやがって……クリスティーナ、アルの手を治してやれ」
全く緊張感を感じさせない口調でガイアは話す。それも竜精霊の前で、だ。
「俺はさっさとアイツを始末してくる」
「えっ、何を言っているの!? あなたも逃げないと!」
いくらガイアが学園一の実力を持っているとはいえ、相手はあの竜精霊だ。流石のガイアであっても勝機があるとはクリスティーナは思えなかった。
しかし、ガイアはスッと立ち上がり――
「俺があんなトカゲ野郎に負けるわけがないだろう」
「ト、トカゲ野郎って……」
あまりの言いようにクリスティーナは言葉を失う。
そのまま竜精霊の方に向かって行くガイアを止めようとするが、アルベルトに止められてしまう。
「どうして止めるの! このままじゃガイアが――」
「――大丈夫だ。本気のアイツを止められる奴はそうそういない。それどころか本気すら出さないかもな」
「――ッ!?」
目の前には両手で竜精霊の噛み付きを受け止めているアルベルトの姿が映る。竜精霊の牙を素手で掴むその両手からは血が流れ出していた。
「ど、どうして……?」
アルベルトはこの国の王子だ。それも王位継承権第1位。彼は真っ先に安全な場所に避難されるべき存在だ。
しかし、彼は傷を負いながらもクリスティーナを助けた。そのことにクリスティーナは疑問を持った。
「どうしてって、それは俺が君のことが好きに決まっているじゃないか!」
竜精霊のこともあり、クリスティーナには視線を向けない。しかし、しっかりとクリスティーナに向けて告白の言葉を伝える。そして、その勢いのまま――
「俺は昔、何も出来ない奴だった! 臆病で兄弟の中でも一番弱かった!」
アルベルトの告白は続く。
「もう諦めようかとも思った! けど、その時、ある女の子の言葉によって俺は救われたんだ!」
アルベルトの言葉にクリスティーナは目を見開く。何故ならクリスティーナでも、その言葉の続きががわかったからだ。
「『自分に自信がないのに周りが認めるはずがないじゃない。まずは自分を信じることが大切でしょ?』。君にとっては何気ない言葉だったかもしれない。けど、俺にとっては重要な意味を持ったんだ!」
その言葉は昔、ある少年に向けての言葉であった。幼いクリスティーナはその時、自分が思ったことをそのまま言葉にしたのだ。まさかその少年がこの国の王子などと夢にも思うまい。
「あの時から君に認められるような人間になろうと俺は一所懸命に努力した! その結果、多くの人に認められるような人間になった! でも、それでは意味がない。最後は君に認められなければ意味がないんだ!」
そう言って、アルベルトは竜精霊のあごを足で蹴り飛ばす。流石の竜精霊であっても身体強化がなされたアルベルトの蹴りは効いたらしく、大きく後ろにのけぞった。
「……これが俺が君のことが好きな理由だ。この戦いが終わったらもう一度だけ答えを聞かせてくれないか?」
アルベルトの真剣な言葉にクリスティーナは無言で何度も頷く。それを見たアルベルトは笑みをこぼし、右手を竜精霊に構える。そして詠唱する。
すると、アルベルトの手に一筋の剣が握られる。
(あれが精霊武装……)
精霊と契約した者のみが手にできる武器。それをクリスティーナは初めて目にする。普通の武器とは違う独特な魅力を放つ剣に、危険な状況なのにクリスティーナは目を奪われてしまった。
「……我が精霊武装、〈聖なる騎士の剣〉は代々、王族が大切なものを守るために受け継がれる精霊武装だ。これで俺は大切なものを守る――」
アルベルトは竜精霊に対して構えを取る。しかし、その表情は先程の決闘の時とは違い、余裕がない。
いくら代々伝わる精霊であろうと竜精霊よりかは格が低いのであろう。恐らくアルベルトは命がけでクリスティーナを守ろうとしている。雰囲気でクリスティーナは理解できる。
「待って! それでは、あなたが――!」
「答えも聞いていないのに死ぬわけがないだろう。援護が来るまでの時間稼ぎだ」
竜精霊もアルベルトの蹴りのダメージが収まってきたのか、アルベルトに殺気を放ち始める。アルベルトもその殺気を感じ取り、額に汗をかき始める。本当に死ぬかもしれないと。
(クリスティーナだけでも助けないと……)
「それじゃあ、行ってくる」
「やっぱり待って! せめて一緒に逃げて!」
「駄目だ! それでは二人ともやられる! ここは俺が――」
「――やれやれ、仲がいいことで」
二人が言い争っていると突然、呆れたような声が聞こえる。
「「ガイア!」」
二人はその少年の名を呼ぶ。そして互いに知っているの? と不思議そうに向き合う。
「全く、いくら身体強化をしているからといって無茶しやがって……クリスティーナ、アルの手を治してやれ」
全く緊張感を感じさせない口調でガイアは話す。それも竜精霊の前で、だ。
「俺はさっさとアイツを始末してくる」
「えっ、何を言っているの!? あなたも逃げないと!」
いくらガイアが学園一の実力を持っているとはいえ、相手はあの竜精霊だ。流石のガイアであっても勝機があるとはクリスティーナは思えなかった。
しかし、ガイアはスッと立ち上がり――
「俺があんなトカゲ野郎に負けるわけがないだろう」
「ト、トカゲ野郎って……」
あまりの言いようにクリスティーナは言葉を失う。
そのまま竜精霊の方に向かって行くガイアを止めようとするが、アルベルトに止められてしまう。
「どうして止めるの! このままじゃガイアが――」
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