上 下
9 / 11

アルベルトの想い

しおりを挟む
 死を覚悟してクリスティーナは目を閉じる。しかし、一向に竜精霊の攻撃はやってこない。クリスティーナは恐る恐る目を開けると――

 「――ッ!?」

 目の前には両手で竜精霊の噛み付きを受け止めているアルベルトの姿が映る。竜精霊の牙を素手で掴むその両手からは血が流れ出していた。

 「ど、どうして……?」

 アルベルトはこの国の王子だ。それも王位継承権第1位。彼は真っ先に安全な場所に避難されるべき存在だ。
 しかし、彼は傷を負いながらもクリスティーナを助けた。そのことにクリスティーナは疑問を持った。

 「どうしてって、それは俺が君のことが好きに決まっているじゃないか!」

 竜精霊のこともあり、クリスティーナには視線を向けない。しかし、しっかりとクリスティーナに向けて告白の言葉を伝える。そして、その勢いのまま――

 「俺は昔、何も出来ない奴だった! 臆病で兄弟の中でも一番弱かった!」

 アルベルトの告白は続く。

 「もう諦めようかとも思った! けど、その時、ある女の子の言葉によって俺は救われたんだ!」

 アルベルトの言葉にクリスティーナは目を見開く。何故ならクリスティーナでも、その言葉の続きががわかったからだ。

 「『自分に自信がないのに周りが認めるはずがないじゃない。まずは自分を信じることが大切でしょ?』。君にとっては何気ない言葉だったかもしれない。けど、俺にとっては重要な意味を持ったんだ!」

 その言葉は昔、ある少年に向けての言葉であった。幼いクリスティーナはその時、自分が思ったことをそのまま言葉にしたのだ。まさかその少年がこの国の王子などと夢にも思うまい。

 「あの時から君に認められるような人間になろうと俺は一所懸命に努力した! その結果、多くの人に認められるような人間になった! でも、それでは意味がない。最後は君に認められなければ意味がないんだ!」

 そう言って、アルベルトは竜精霊のあごを足で蹴り飛ばす。流石の竜精霊であっても身体強化がなされたアルベルトの蹴りは効いたらしく、大きく後ろにのけぞった。

 「……これが俺が君のことが好きな理由だ。この戦いが終わったらもう一度だけ答えを聞かせてくれないか?」

 アルベルトの真剣な言葉にクリスティーナは無言で何度も頷く。それを見たアルベルトは笑みをこぼし、右手を竜精霊に構える。そして詠唱する。

 すると、アルベルトの手に一筋の剣が握られる。

 (あれが精霊武装……)

 精霊と契約した者のみが手にできる武器。それをクリスティーナは初めて目にする。普通の武器とは違う独特な魅力を放つ剣に、危険な状況なのにクリスティーナは目を奪われてしまった。

 「……我が精霊武装、〈聖なる騎士の剣ホーリーナイト〉は代々、王族が大切なものを守るために受け継がれる精霊武装だ。これで俺は大切なものを守る――」

 アルベルトは竜精霊に対して構えを取る。しかし、その表情は先程の決闘の時とは違い、余裕がない。
 いくら代々伝わる精霊であろうと竜精霊よりかは格が低いのであろう。恐らくアルベルトは命がけでクリスティーナを守ろうとしている。雰囲気でクリスティーナは理解できる。

 「待って! それでは、あなたが――!」

 「答えも聞いていないのに死ぬわけがないだろう。援護が来るまでの時間稼ぎだ」

 竜精霊もアルベルトの蹴りのダメージが収まってきたのか、アルベルトに殺気を放ち始める。アルベルトもその殺気を感じ取り、額に汗をかき始める。本当に死ぬかもしれないと。

 (クリスティーナだけでも助けないと……)

 「それじゃあ、行ってくる」

 「やっぱり待って! せめて一緒に逃げて!」

 「駄目だ! それでは二人ともやられる! ここは俺が――」

 「――やれやれ、仲がいいことで」

 二人が言い争っていると突然、呆れたような声が聞こえる。

 「「ガイア!」」

 二人はその少年の名を呼ぶ。そして互いに知っているの? と不思議そうに向き合う。

 「全く、いくら身体強化をしているからといって無茶しやがって……クリスティーナ、アルの手を治してやれ」

 全く緊張感を感じさせない口調でガイアは話す。それも竜精霊の前で、だ。

 「俺はさっさとアイツを始末してくる」

 「えっ、何を言っているの!? あなたも逃げないと!」

 いくらガイアが学園一の実力を持っているとはいえ、相手はあの竜精霊だ。流石のガイアであっても勝機があるとはクリスティーナは思えなかった。

 しかし、ガイアはスッと立ち上がり――

 「俺があんなに負けるわけがないだろう」

 「ト、トカゲ野郎って……」

 あまりの言いようにクリスティーナは言葉を失う。

 そのまま竜精霊の方に向かって行くガイアを止めようとするが、アルベルトに止められてしまう。

 「どうして止めるの! このままじゃガイアが――」

 「――大丈夫だ。のアイツを止められる奴はそうそういない。それどころか本気すら出さないかもな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました

平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。 王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。 ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。 しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。 ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...