ラムネ瓶の中

あの夏

 寒い冬。
冷たい海の中。
僕はヒリヒリと日焼けのように痛かった肌の感覚が無くなっていくのを、感じていた。周りを泳いでいる数匹のクラゲは、大きな泡のように見えた。そう、これはまるで炭酸水だ。いや、甘いような死の感覚を合わせると、あの時のラムネの様だった。真っ直ぐと、不自然に沈み続けるこの身体。優しい愛の死が僕を包み込んでいた。嗚呼、あの夏、一度だけ母さんに買ってもらったラムネの味は今でも覚えてる。なれない炭酸で喉を痛めた。懐かしい。あの時の母さんはなぜこの僕にラムネをかってくれたのだろう。あの時、母さんは僕を愛してくれていたのか。母さんの箱庭の中の僕は害虫でしかないのに。だから、母さんはいつも自分の身体に防虫剤をふりかけていたのでしょう？周りの害虫が寄ってこないように。自分の目に映らないように。
   醜いほど綺麗な月が僕を覗き込んでわらっている。僕は硬い硬い殻を破らないと外には出られない。身動きがとれない。まるでラムネ瓶のビー玉のようだ。誰か、この瓶を割ってくれ。そうしないと、僕は、きっと。