上 下
11 / 51
野々下 灯枇

地毛と天然とアテネちゃん

しおりを挟む
 孤独な保育園生活を送る灯枇あけびだったが、彼女なりに奮闘を重ねた部分もあった。

 ヒヲス保育園では鬼ごっこや隠れんぼなど、ある程度人数が集まって遊ぶ必要がある時は、人差し指を掲げて「〇〇する奴この指と~まれ!」と募集する風潮があった。

 ただしこれをやるのは専ら男の子達で、時にはそれに参加する女の子も居ない事は無かったが、それは元々親しいから出来る事で、組も違う灯枇あけびが人差し指にとまろうと、天高く突き出そうと、その結果は分かりきっていた。

 他には、保育園の遊具類は基本早い者勝ちだったので、遊び時間の開始と共に倉庫まで走って一番乗りすると、おままごとには欠かせない地面に敷くマット類を確保して、おままごとをしようとやって来た女の子達に入れて貰うという手があった。しかしそれもあまりいい顔はされないものだし、常におままごとをやるとは限らず、次第に虚しくなって灯枇あけびは止めた。

 また、一度A・B・C組の教室内に持ち回りで、手作り感あふれる大規模な室内遊具セットが保育園に出現したことがあった。普段は他の組の教室には入らないように言われていたが、この時は遊具があるからOKで、保育士に頼めば早い者勝ちで、セットの中にある浴衣を着せて貰う事が出来た。

 そこでたまたまC組に遊具があった頃、運良く灯枇あけびが着せて貰っていると、後からやって来たC組の女の子が泣き出して、自分が着たいのにと我儘を言った。保育士はその子が可哀想になり、灯枇あけび灯枇あけびでこのまま着続けると恨まれて恐ろしいことになると思い慌てて脱がせて貰って、奇妙な罪悪感を覚えながらC組の教室から退散した。

 この頃になると灯枇あけびは薄々気が付いていた。ヒヲス保育園では例え理が無くとも、泣けば保育士はそちらの味方に付いて、泣かなかった方が折れる羽目になることを。それでむしゃくしゃして相手を叩いたら完全な負けで、仕返しはヒヲス保育園において絶対的な悪だった。



 そんな灯枇あけびのどこが良かったのか、たまに話し掛けて一緒に遊んでくれる年下のアテネちゃんが居た。アテネちゃんも後々入って来た途中からの転入児で、灯枇あけびと同じB組だった。送り迎えに来るその母親と同じ、珍しい髪色をしていた。

「それ、染めとるだろう。いかんとばい」

 のちに美少女揃いの4町内の女子達と登下校することで、4町内のハーレム野郎として名を馳せることとなるC組の男の子は、ある日何故かそんなことを言って、年下のアテネちゃんを責めた。灯枇あけびはそれが不思議でしょうが無く、アテネちゃんを気の毒に思った。

――変なの。ママと同じ髪の色なんだから、染めてる訳無いじゃんね


 それからもアテネちゃんは、灯枇あけびのヒヲス保育園での心の支えであり続けたが、彼女は同じB組ではあっても、1個年下のパンダ組で、ずっと一緒に居られる訳じゃ無く、それに同じB組でパンダ組のシナモンちゃんと仲良くなっていった。しかし灯枇あけびは、もちろん寂しく後引く哀しさはあったものの、ルミ程の衝撃や悲しみは感じなかった。

 むしろ年下のアテネちゃんにとっては、その方が良いだろう。しかしこれは灯枇あけびの被害妄想なのか定かでは無いが、これまた転入児のシナモンちゃんは、どうにも灯枇あけびに対してはいけ好かない女の子だった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
⭐︎登録お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐︎登録して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

あさはんのゆげ

深水千世
児童書・童話
【映画化】私を笑顔にするのも泣かせるのも『あさはん』と彼でした。 7月2日公開オムニバス映画『全員、片想い』の中の一遍『あさはんのゆげ』原案作品。 千葉雄大さん・清水富美加さんW主演、監督・脚本は山岸聖太さん。 彼は夏時雨の日にやって来た。 猫と画材と糠床を抱え、かつて暮らした群馬県の祖母の家に。 食べることがないとわかっていても朝食を用意する彼。 彼が救いたかったものは。この家に戻ってきた理由は。少女の心の行方は。 彼と過ごしたひと夏の日々が輝きだす。 FMヨコハマ『アナタの恋、映画化します。』受賞作品。 エブリスタにて公開していた作品です。

ずっと、ずっと、いつまでも

JEDI_tkms1984
児童書・童話
レン ゴールデンレトリバーの男の子 ママとパパといっしょにくらしている ある日、ママが言った 「もうすぐレンに妹ができるのよ」 レンはとてもよろこんだ だけど……

今日の夜。学校で

倉木元貴
児童書・童話
主人公・如月大輔は、隣の席になった羽山愛のことが気になっていた。ある日、いつも1人で本を読んでいる彼女に、何の本を読んでいるのか尋ねると「人体の本」と言われる。そんな彼女に夏休みが始まる前日の学校で「体育館裏に来て」と言われ、向かうと、今度は「倉庫横に」と言われる。倉庫横に向かうと「今日の夜。学校で」と誘われ、大輔は親に嘘をついて約束通り夜に学校に向かう。 如月大輔と羽山愛の学校探検が今始まる

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

意味が分かると○○話

ゆーゆ
児童書・童話
すぐに読めちゃうショートショートストーリーズ! 意味が分かると、怖い話や、奇妙な話、時には感動ものまで?! 気軽に読んでみてね!

山姥(やまんば)

野松 彦秋
児童書・童話
小学校5年生の仲良し3人組の、テッカ(佐上哲也)、カッチ(野田克彦)、ナオケン(犬塚直哉)。 実は3人とも、同じクラスの女委員長の松本いずみに片思いをしている。 小学校の宿泊研修を楽しみにしていた4人。ある日、宿泊研修の目的地が3枚の御札の昔話が生まれた山である事が分かる。 しかも、10年前自分達の学校の先輩がその山で失踪していた事実がわかる。 行方不明者3名のうち、一人だけ帰って来た先輩がいるという事を知り、興味本位でその人に会いに行く事を思いつく3人。 3人の意中の女の子、委員長松本いずみもその計画に興味を持ち、4人はその先輩に会いに行く事にする。 それが、恐怖の夏休みの始まりであった。 山姥が実在し、4人に危険が迫る。 4人は、信頼する大人達に助けを求めるが、その結果大事な人を失う事に、状況はどんどん悪くなる。 山姥の執拗な追跡に、彼らは生き残る事が出来るのか!

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

処理中です...